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旧民法(明治23年民法) 目次・財産編

目次

 
財産編

総則 財産及ひ物の区別

1部 物権

1章 所有権

2章 用益権、使用権及ひ住居権

3章 賃借権、永借権及ひ地上権

4章 占有

5章 地役

2部 人権及ひ義務

総則

1章 義務の原因

2章 義務の効力

3章 義務の消滅

財産取得編

総則 

1章 先占

2章 添附

3章 売買

4章 交換

5章 和解

6章 会社

7章 射倖契約

8章 消費貸借及ひ無期年金権

9章 使用貸借

10章 寄託及ひ保管

11章 代理

12章 雇傭及ひ仕事請負の契約

13章 相続

14章 贈与及ひ遺贈

15章 夫婦財産契約

債権担保編

総則

1部 対人担保

1章 保証

2章 債務者間及ひ債権者間の連帯

3章 任意の不可分

2部 物上担保

1章 留置権

2章 動産質

3章 不動産質

4章 先取特権

5章 抵当

証拠編

1部 証拠

1章 判事の考覈

2章 直接証拠

   第3章 間接証拠

2部 時効

1章 時効の性質及ひ適用

   第2章 時効の抛棄

   第3章 時効の中断

4章 時効の停止

5章 不動産の取得時効

6章 動産の取得時効

7章 免責時効

8章 特別の時効

人事編

1章 私権の享有及ひ行使

2章 国民分限

3章 親属及ひ姻属

4章 婚姻

5章 離婚

6章 親子

7章 養子縁組

8章 養子の離縁

9章 親権

10章 後見

11章 自治産

12章 禁治産

13章 戸主及ひ家族

14章 住所

15章 失踪

16章 身分に関する証書
 
財産編

総則 財産及ひ物の区別

 

1

 財産は各人又は公私の法人の資産を組成する権利なり

 此権利に二種あり物権及ひ人権是なり

2

 物権は直ちに物の上に行はれ且総ての人に対抗することを得へきものにして主たる有り従たる有り

 主たる物権は之を左に掲く

  第1 完全又は虧缺の所有権

  第2 用益権、使用権及ひ住居権

  第3 賃借権、永借権及ひ地上権

  第4 占有権

 従たる物権は之を左に掲く

  第1 地役権

  第2 留置権

  第3 動産質権

  第4 不動産質権

  第5 先取特権

  第6 抵当権

 右地役権は所有権の従たる物権にして留置権以下は人権の担保を為す従たる物権なり

3

 人権即ち債権は定まりたる人に対し法律の認むる原因に由りて其負担する作為又は不作為の義務を尽さしむる為め行はるるものにして亦主たる有り従たる有り

 従たる人権は債権の担保を為す保証及ひ連帯の如し

4

 著述者の著書の発行、技術者の技術物の製出又は発明者の発明の施用に付ての権利は特別法を以て之を規定す

5

 権利は物権と人権とを問はす目的物の種種の区別に従ひて其様を変す此区別は物の性質、人の意思又は法律の規定より生す即ち下に掲くる如し

6

 物に有体なる有り無体なる有り

 有体物とは人の感官に触るるものを謂ふ即ち地所、建物、動物、器具の如し

 無体物とは智能のみを以て理会するものを謂ふ即ち左の如し

  第1 物権及ひ人権

  第2 著述者、技術者及ひ発明者の権利

  第3 解散したる会社又は清算中なる共通に属する財産及ひ債務の包括

7

 物は其性質に因り又は所有者の用方に因り遷移することを得ると否とに従ひて動産たり不動産たり此他法律の規定に因りて動産たり不動産たる物あり

8

 性質に因る不動産は左の如し

 第1 耕地、宅地其他土地の部分

 第2 池沼、溜井、溝渠、堀割、泉源

 第3 土手、棧橋其他此類の工作物

 第4 土地に定著したる浴場、水車、風車又は水力、蒸気の機械

 第5 樹林、竹木其他の植物但第12条に記載したるものは此限に在らす

 第6 果実及ひ収穫物の未た土地より離れさるもの但第12条に記載したるものは此限に在らす

 第7 鉱物、坑石、泥炭及ひ肥料土の未た土地より離れさるもの

 第8 建物及ひ其外部の戸扉但第12条に記載したるものは此限に在らす

 第9 墻、籬、柵

 第10 水の出入又は瓦斯、温気の引入の為め土地又は建物に附著したる筒管

 第11 土地又は建物に附著したる電気機器

 此他総て性質に因りて移動す可きものと雖も建物に必要なる附属物

9

 動産の所有者か其土地又は建物の利用、便益若くは粧飾の為めに永遠又は不定の時間其土地又は建物に備附けたる動産は性質の何たるを問はす用方に因る不動産たり即ち左の如し但反対の証拠あるときは此限に在らす

 第1 土地の耕作、利用又は肥料の為めに備へたる獣畜

 第2 耕作用に備へたる器具、種子、藁草及ひ肥料

 第3 養蚕場に備へたる蚕種

 第4 樹木の支持に備へたる棚架及ひ杭柱

 第5 土地に生する物品の化製に備へたる器具

 第6 工業場に備へたる機械及ひ器具

 第7 不動産の常用に備へたる小舟但其水流か公有に係り又は他人に属するときも亦同し

 第8 園庭に装置したる石燈篭、水鉢及ひ岩石

 第9 建物に備へたる畳、建具其他の補足物及ひ毀損するに非されは取離すことを得さる扁額、玻黎鏡、彫刻物其他各種の粧飾物

 第10 修繕中の建物より取離して再ひ之に用ゆ可き材料

10条 法律の規定に因る不動産は左の如し

 第1 上に列記したる不動産の上に存する物権

 第2 不動産の上に存する物権を取得せんとし又は取回せんとする人権

 第3 建築師の材料を以て建物を築造せしむる債権

 第4 動産債権にして法律か不動産と為し又は各人か法律の規定に依りて不動産と為したるもの

11

 自力又は他力に因りて遷移することを得る物は性質に因る動産たり但第8条及ひ第9条に記載したるものは此限に在らす

12

 仮に土地に定著せしめたる物は用方に因る動産たり即ち左の如し

 第1 建築の足場及ひ支柱

 第2 建築を為すの間其用に備へたる小屋

 第3 植木師及ひ園丁か売る為めに培養し又は保存したる草木

 第4 取毀つ為めに譲渡したる建物其他の工作物又は収去する為めに譲渡したる樹木及ひ収穫物

13条 法律の規定に因る動産は左の如し

 第1 上に指定したる動産の上に存する物権

 第2 有体動産を取得し又は取回せんとする債権但不動産を以て其担保に充つるときも亦同し

 第3 所為を成就せしめ又は権利の行使を止めしむる債権縦令其権利か不動産たるときも亦同し

 第4 法人たる会社存立の間社員か其会社に対して有する権利縦令不動産か会社に属するときも亦同し

 第5 著述者、技術者及ひ発明者の権利

14

 解散したる会社又は清算中なる共通に属する財産の一分に付て有する権利の動産たり不動産たる性質は分割に於て各利害関係人の受くる財産の性質に因りて定まる

 当事者の一方の選択に任する動産又は不動産を目的とする択一債権の性質も亦其弁済に付き選択したる物の性質に因りて定まる

15

 物は他に附属せすして完全なる効用を為すと否とに従ひて主たる有り従たる有り

 用方に因る不動産は性質に因る不動産の従なり地役は要役地の従なり債権の担保は債権の従なり

 

16条 物は左の如く之を視ることを得

  第1 特定物即ち某家、某田、某獣の如き殊別なる物

  第2 定量物即ち金幾円、米幾石、布幾反の如き数量尺度を以て算ふる物

  第3 聚合物即ち群畜、書庫の書籍、店舗の商品の如き増減し得へき多少類似なる物

  第4 包括財産即ち相続の総動産若くは総不動産又は相続の全部若くは一分の如き資産の全部又は一分を組成する物

17

 物は其性質に因り一回の使用にて消費すると否とに従ひて消費物たり不消費物たり

18

 物は当事者の意思又は法律の規定に因り同種の物を以て代ふることを得ると否とに従ひて代替物たり不代替物たり

 定量物及ひ一回の使用にて消費する物は概して之を当事者の意思に因る代替物と看做す

19

 物は其性質、当事者の意思又は法律の規定に因り形体上又は智能上分割することを得ると否とに従ひて可分物たり不可分物たり

 或る地役及ひ或る作為又は不作為の義務は性質に因る不可分物なり

 物の一分の供与を以て合意の目的たる便益を与ふること能はさるときは其物は当事者の意思に因る不可分物なり

 抵当及ひ債権の物上担保は法律の規定に因る不可分物なり

20

 物は所有に属するもの有り所有に属せさるもの有り

 所有に属する物とは公私の資産の部分を為すものを謂ふ

 所有に属せさる物とは無主又は公共のものを謂ふ

21

 公の法人に属する物に公有及ひ私有の二種あり  

22

 公の法人に属し国用に供したる物は公有の部分を為す即ち左の如し

  第1 国領の海及ひ海浜但海浜は春分、秋分最高潮の到る処を以て限と為す

  第2 道路、舟若くは筏の通す可き川又は堀割及ひ其床地

  第3 城砦、塁壁其他陸海防禦の工作物

  第4 軍用の工廠、船艦、兵器、機械其他の物品

  第5 官庁の建物  

23

 公の法人か各人と同一の名義にて所有する物にして金銭に見積ることを得る収入を生す可きものは其私有の部分を為す即ち国、府県、市町村有の海潟、樹林、牧場の如し

 所有者なき不動産及ひ相続人なくして死亡したる者の遺産は当然国に属す 

24

 無主物とは何人にも属せすと雖も所有権の目的と為ることを得るものを謂ふ即ち遺棄の物品、山野の鳥獣、河海の魚介の如し  

25

 公共物とは何人の所有にも属することを得すして総ての人の使用することを得るものを謂ふ即ち空気、光線、流水、大洋の如し 

26

 物は私の所有権又は債権の目的と為ることを得ると否とに従ひて融通物たり不融通物たり

 公の秩序の為め法律に於て処分を禁したる物及ひ公有の財産は不融通物なり

27

 物は譲渡すことを得るもの有り譲渡すことを得さるもの有り

 所有権より支分したる使用権又は住居権、要役地より分離せるものと看做したる地役及ひ政府の与へたる開坑の特許其他の特権は概して融通物なりと雖も譲渡すことを得さるものなり

 28

 物は法律に定めたる条件を具備する占有に附著せる取得の推定を受くると否とに従ひて時効に罹ることを得るもの有り時効に罹ることを得さるもの有り

29

 物は其所有者の債権者か強制売却を請求することを得ると否とに従ひて差押ふることを得るもの有り差押ふることを得さるもの有り

不融通物、譲渡すことを得さる物其他法律の規定又は人の処分にて差押を禁したる物は差押ふることを得さるものなり即ち無償にて設定したる終身年金権の如し

 

1部 物権

 

1章 所有権

 

30

 所有権とは自由に物の使用、収益及ひ処分を為す権利を謂ふ

 此権利は法律又は合意又は遺言を以てするに非されは之を制限することを得す 

31

 不動産の所有者は適法に認め及ひ宣言したる公益に因由し且公用徴収法に従ひて定めたる償金の払渡を予め受くるに非されは其所有権の譲渡を強要せらるること無し

 動産の公用徴収は毎回定むる特別法に依るに非されは之を行ふことを得す

 国又は官庁に属する先買権及ひ徴発令を以て定めたる物の徴発又は凶災の時に行ふ物の徴求に付ては本条の例を用ゐす

32

 所有者は償金を得るに於ては公益工事の便利の為め所有物の一時の占拠を強要せらるること有り  

33

 物料の採掘、道路の劃線、樹木の採伐、水其他の物の収取に付き一般又は一地方の公益の為め設けたる地役は行政法を以て之を規定す 

34

 土地の所有者は其地上に一切の築造、栽植を為し又は之を廃することを得

 又其地下に一切の開鑿及ひ採掘を為すことを得

 右孰れの場合に於ても公益の為め行政法を以て定めたる規則及ひ制限に従ふことを要す

 此他相隣地の利益の為め所有権の行使に付したる制限及ひ条件は地役の章に於て之を規定す 

35

 鉱物の所有権及ひ其試掘若くは開坑は特別法を以て之を規定す 

36

 所有者其物の占有を妨けられ又は奪はれたるときは所持者に対し本権訴権を行ふことを得但動産及ひ不動産の時効に関し証拠編に記載したるものは此限に在らす

 又所有者は第199条乃至第212条に定めたる規則に従ひ占有に関する訴権を行ふことを得 

37

 数人一物を共有するときは持分の均不均に拘はらす各共有者其物の全部を使用することを得但其用方に従ひ且他の共有者の使用を妨けさることを要す

 各共有者の持分は之を相均しきものと推定す但反対の証拠あるときは此限に在らす

 天然又は法定の果実及ひ産出物は各共有者の権利の限度に応し定期に於て之を分割す

 各共有者は其物の保存に必要なる管理其他の行為を為すことを得

 各共有者は其持分に応して諸般の負担に任す

 右規定は使用、収益又は管理を格別に定むる合意を妨けす 

38

 処分権に付ては各共有者は他の共有者の承諾あるに非されは其物の形様を変することを得す又自己の持分外に物権を付することを得す

 共有者の一人其持分を譲渡したるときは譲受人は他の共有者に対し譲渡人に代はり其地位を有す 

39

 各共有者は如何なる合意あるも常に共有物の分割を請求することを得

 然れとも共有者は五个年を超えさる定期の時間分割せさるを約することを得

 此合意は何時にても之を更新することを得但其時間は亦五个年を超ゆることを得す

 右規定は数箇の所有地に共通なる通路、井戸、籬壁、溝渠の互有より生する共有権に之を適用せす 

40

 数人にて一家屋を区分し各其一部分を所有するときは相互の権利及ひ義務は左の如く之を規定す

 各所有者は離隔せる所有物の如くに自己の持分を処分することを得

 諸般の租税及ひ建物並に其附属物の共用の部分に係る大小修繕は各自の持分の価格に応して之を負担す

 各自は己れに属する部分に係る費用を一人にて負担す 

41

 所有権は当事者の間に於けるも第三者に対するも本編及ひ財産取得編に記載したる原因及ひ方法に依り之を取得し保存し及ひ転付す

 主たる物の処分は従たる物の処分を帯ふ但反対の証拠あるときは此限に在らす  

42

 所有権は左の諸件に因りて消滅す

  第1 任意又は強要の譲渡

  第2 他人の物に自己の物の添附

  第3 法律に依りて宣告したる没収

  第4 取得の解除、鎖除又は廃罷

  第5 物を処分する能力ある所有者の任意の遺棄

  第6 物の全部の毀滅  

43

 動産及ひ不動産の所有権の取得及ひ消滅に関する時効の性質及ひ効力に付ては証拠編の規定に従ふ  

 

2章 用益権、使用権及ひ住居権

 

1節 用益権

 

44

 用益権とは所有権の他人に属する物に付き其用方に従ひ其元質本体を変すること無く有期にて使用及ひ収益を為すの権利を謂ふ

 

1款 用益権の設定

 

45

 用益権は法律又は人意に因りて設定するものとす

 法律に因る用益権の設定は別に定むる法律の規定に従ふ

 人意に因る用益権の設定は所有権の取得及ひ移転に関する規則に従ふ

 又用益権は有償又は無償にて譲渡したる財産の上に之を留存して設定することを得

 時効を以て用益権の取得を証する条件は時効を以て完全の所有権の取得を証する条件に同し 

46

 用益権は動産と不動産と有体物と無体物とを問はす一切の融通物の上に之を設定することを得

 又用益権は他の用益権の上、終身年金権の上又は包括権原にて資産の上に之を設定することを得  

47

 用益権は始時若くは終時を定め又は期限を定めすして之を設定することを得

 又用益権は其始時又は終時を未必条件の成就に繋けて之を設定することを得

 右孰れの場合に於ても其期間は用益者の終身を超ゆることを得す  

48

 用益権は一人又は数人の終身を期して之を設定することを得数人の終身を期して設定したるときは数人同時に又は順次に之を行ふ

 右孰れの場合に於ても用益権は其権利発開の時既に出生し又は胎内に在る者の為めにするに非されは之を設定することを得す 

 

2款 用益者の権利

 

49

 用益者は其権利の発開したるとき若し始時の定あらは其期限の到来したるときは次款に定めたる不動産形状書、動産目録を作り及ひ保証 を立つる義務を履行したる後其用益権の存する物の占有を要求することを得

 用益者は用益物を其現状にて受取る可し修繕又は恰好を求むることを得す但権利発開の後設定者若くは其相続人の過失に因り又は発開の前と雖も其悪意に因りて用益物を毀損したるときは此限に在らす  

50

 用益者か収益を始むることを得るより以後に虚有者の収取したる果実は用益者に属す縦令用益者か自ら其収益を遅延したるも亦同し但其 果実の収取及ひ保存の費用を虚有者に償還することを要す

 用益者は収益を始むる時根枝に由りて土地に附著する果実を其成熟に至り収取する権利を有す但耕耘、種子、栽培の費用を虚有者に償還 することを要せす  

51

 用益者は其権利の継続間用益物より生する天然及ひ法定の一切の果実に付き所有者に同しき権利を有す 

52

 天然の果実は自然に生したると栽培に因りて得たるとを問はす土地より之を離したる時直ちに用益者に属す縦令事変又は盗奪に因りて離 れたるも亦同し

 然れとも果実か其成熟前に土地より離れ且用益権か通常の収取季節前に消滅したるときは其利益は虚有者に帰す 

53

 獣畜の子は其産出の時より用益者に属す乳汁、肥料及ひ剪毛季節に剪取したる羊毛も亦同し  

54

 法定の果実は其払渡時期の如何を問はす収益を始むることを得る時より用益権の消滅するまて用益者日割を以て之を取得す

 法定の果実は用益物に付き第三者より金銭を以て払ふ可き納額即ち土地、建物の借賃、借入金の利息、会社の配当金、年金権の年金、 石坑の借料の類なり  

55

 用益物中に金穀其他日用品の如き消費するに非されは使用し及ひ収益することを得さる動産あるときは用益者は之を消費し又は譲渡すこと を得但用益権消滅の時同数量、同品質の物を返還し又は収益を始むる以前に評価を為したるに於ては其代価を返還することを要す

 右規定は用益権を設定したる商業資産を組成する商品と其他の代替物とに之を適用す  

56

 住居用の器具其他使用に因りて毀損す可き用益物に付ては用益者は其用方に従ひて之を使用し且用益権消滅の時其現状にて之を返還することを得但用益者の過失又は懈怠に因りて重大の毀損を致したるときは此限に在らす

 又賃貸することを得へき性質の用益物に非されは用益者は自己の責任を以て之を賃貸することを得す 

57

 終身年金権の用益者は年金権者と同しく其年金を収取するの権利を有す但反対の条件あるときは此限に在らす

 既に設定したる用益権に付き更に用益権を得たる者は原用益者に属する一切の権利を行ふ  

58

 種類及ひ員数のみを以て定めたる畜群の用益者は保存を要せさる部分を毎年処分することを得但其子を以て全数を保持することを要す  

59

 用益者は大小木の樹林及ひ竹林に付ては従来の所有者の慣習及ひ採伐方に従ひ定期の採伐を為して収益す

 採伐方の未た確に定まらさるときは用益者は近傍の重もなる所有者又は国、府県、市町村に属する樹林の慣習に従ふ但採伐する一个月前 に虚有者に予告することを要す  

60

 従来の所有者の定期採伐を為ささりし保存木及ひ大樹木に付ては用益者は其樹木の定期産出物のみを得る権利を有す

 然れとも用益権の存する建物の大修繕を要するときは用益者は枯れ又は倒れたる大樹木を之に用ゆることを得若し生木を要するときは虚有者立会にて其必要を証せし後之を採伐することを得 

61

 用益者は用益樹木を支持するに必要なる棚架、支柱又は杭杙に用ゆる竹木を何時にても其用益地の樹林及ひ竹林より採取することを得  

62

 用益者は用益樹木を植続き又は植増す為め其用益地の苗床より苗木を採取することを得

 又用益者は其苗床の苗木を定期に売ることを得但従来此用方あるとき又は其生殖か用益地の需用に余るときに限る

 右孰れの場合に於ても用益者は苗芽又は種子を以て苗床を保持することを要す 

63

 用益地に既に採掘を始め且特別法に従ふを要せさる石類、石灰類其他の物の石坑あるときは用益者は従来の所有者の如く其収益を為す

 右石坑を未た採掘せす又は其採掘を廃止したるときは用益者は其用益物中の建物、牆壁其他の部分の大小修繕に必要なる材料のみを採取することを得但其土地を損傷せす且第60条に記載したる如く予め其必要を証することを要す

 又用益者は前2項の区別に従ひ其用益地の泥炭及ひ肥料土に付き収益することを得  

64

 用益者は用益不動産に於て第三者の発見したる埋蔵物に付き権利を有せす  

65

 用益者は用益地に於て狩猟及ひ捕漁を為す権利を有す  

66

 用益者は用益不動産に属する一切の地役権を行ふ若し不使用に因りて之を消滅せしめたるときは虚有者に対して其責に任す 

67

 用益者は虚有者及ひ第三者に対し直接に其収益権に関する占有及ひ本権の物上訴権を行ふことを得

 又用益者は用益不動産の働方又は受方の地役に付き自己の権利の範囲内に於て占有に係ると本権に係るとを問はす要請又は拒却の訴権を行ふことを得

 右孰れの場合に於ても第98条の規定を適用す 

68

 用益者は有償又は無償にて其用益権を譲渡し賃貸し又は用益に付することを得且用益物か抵当と為る可きものなるときは其権利を抵当と 為すことを得

 如何なる場合に於ても用益者の付与したる権利は其用益権と同しき期間、制限及ひ条件に従ふ但賃貸借の期間及ひ其更新に付ては第119条乃至第122条の規定を適用す 

69

 用益者は用益権消滅の時猶ほ土地に附著して其収取せさりし果実及ひ産出物の為め償金を求むる権利を有せす

 又用益物に改良を加へて価格を増したるときと雖も其改良の為め虚有者に対して償金を求むることを得す

 用益者は自己の設けたる建物、樹木、粧飾物其他の附加物を収去することを得但其用益物を旧状に復することを要す 

70

 用益権消滅の時用益者又は其相続人か前条に従ひて収去することを得へき建物及ひ樹木等を売らんとするときは虚有者は鑑定人の評価したる現時の代価を以て先買することを得

 用益者は虚有者に右先買権を行ふや否やを述ふ可きの催告を為し其後十日内に虚有者か先買の陳述を為さす又は之を拒絶したるときに非されは其収去に著手することを得す

 虚有者か先買の陳述を為したりと雖も鑑定の後裁判所の処決の確定したる時より一个月内に其代金を弁済せさるときは先買権を失ふ但損あるときは賠償の責に任す

 用益者又は其相続人は代金の弁済を受くるまて建物を占有することを得

 

3款 用益者の義務

 

71

 用益者は用益物の占有を始むる前に虚有者と立会ひ又は合式に之を召喚し完全精確に動産の目録、不動産の形状書を作ることを要す 

72

 当事者か双方出会し共に能力あるとき又は有効に代理せられたるときは目録及ひ形状書は私署を以て之を作ることを得反対の場合に於ては公吏之を作る 

73

 目録に記したる代替物の評価は売買に同しき効力を有す但反対の明言あるときは此限に在らす不代替物の評価は売買に同しき効力を有することを目録に明示するに非されは其効力を有せす

 有償にて用益権を設定したるときは目録及ひ評価の費用は用益者、虚有者各其半額を負担し無償の場合に於ては用益者之を負担す 

74

 用益権設定の時用益者の目録又は形状書を作る義務を免除したりと雖も虚有者は常に用益者と立会ひ又は合式に之を召喚し自費を以て目録又は形状書を作ることを得但此事に付き虚有者は十一日以上収益を妨くることを得す

 第72条及ひ第73条第1項は右の場合に之を適用す 

75

 用益者は目録又は形状書を作る義務を履行せすして収益を始めたるときは完好なる形状にて不動産を受取りたりとの推定を受く但反対の証拠あるときは此限に在らす

 動産に付ては虚有者は通常の証拠は勿論世評を以て其実体及ひ価格を証することを得 

76

 用益者は用益権消滅の時負担す可き返還及ひ償金の為め保証人を立て又は他の相応なる担保を供するに非されは収益を始むることを得す 

77

 担保の性質に付き当事者の間に議協はさるときは裁判所は顕然資力ある第三者の引受を認許し又は供託所若くは当事者の認諾する第三者に金銭若くは有価物を

寄託するを認許し又は質若くは抵当を認許することを得 

78

 担保す可き金額に付ては裁判所は用益権の直接に存する金額未満に其金額を定むることを得す又動産の評価か売買に同しき効力を有するときは其評価の全額未満に之を定むることを得す又評価か売買に同しき効力を有せさるときは其評価の半額未満に之を定むることを得す

 然れとも右の末の場合に於て若し用益者か評価せし動産に係る権利を用益権の継続間に譲渡し又は賃貸したるときは虚有者は常に評価の全額に対して担保を要求することを得

 不動産の担保金額の多寡は裁判所之を定む 

79

 担保の設定証書には前条に定めたる金額に対する保証人又は用益者の一身の引受を併記す 

80

 用益者か動産又は不動産に対して相応なる担保を供する能はす且当事者の間に別段の合意なきときは左の如く処弁す

 日用品其他の代替物は之を競売し其代金は虚有者、用益者連名にて用益権の直接に存する金銭と共に供託所に供託し又は之を国債券に換へ用益者は其利息を収取す

 此他の動産は虚有者之を占有す

 不動産は之を第三者に賃貸し又は虚有者か賃借の名義にて之を保存し用益者は保持費用及ひ第89条に記載したる負担を扣除して貸賃を収取す 

81

 用益者か担保の一分に非されは供する能はさるときは引渡を受く可き用益物に付き其担保の限度に応して選択を為す 

82

 用益者の保証人を立つる義務は設定の権原又は其後の合意を以て之を免除することを得但用益者の無資力と為りたるときは此免除は其効を失ふ若し用益者か既に収益を始めたるときは其用益物を虚有者に返還し且前2条に従ひて処弁す 

83

 贈与物に付き贈与者か自己の利益の為め留存したる用益権に付ては保証人を立つる義務なし 

84

 用益者か収益を始めたるときは善良なる管理人の如く用益物の保存に注意することを要す

 用益者は其過失又は懈怠より生する用益物の滅失又は毀損の責に任す但虚有者の権利を保護する為め用益者に対して第104条に許可したる処置を為すことを妨け  

85

 用益物の全部又は一分か火災にて滅失したるときは用益者に過失ありと推定す但反対の証拠あるときは此限に在らす 

86

 用益者は動産及ひ不動産の小修繕を負担し其求償権を有せす

 大修繕は用益者の過失に因り又は小修繕を為ささるに因りて必要と為りたるときに非されは用益者之を負担せす

 屋根若くは重もなる牆壁の修繕又は重もなる梁柱若くは基礎の変更を建物の大修繕とす

 石垣、土手及ひ牆壁の改造も亦之を大修繕と看做す 

87

 過失又は懈怠の場合の外用益者は虚有者を立会はしめ鑑定人をして大修繕の必要を証せしめたる後虚有者其大修繕を為すことを拒みたるときは自ら之を為すことを得

 用益権消滅の時虚有者は右修繕より生したる現時の増価額を用益者に弁償する責に任す

 若し虚有者か大修繕を為すときは用益者を立会はしめ鑑定人をして其必要及ひ費用を証せしめ用益者は毎年其費用の利息を虚有者に弁償す  

88

 前条の規定は建物か朽敗の為め崩頽し又は事変に因りて破壊したる場合にも之を適用す但第106条に定めたる如く此等の事に因りて用益権の消滅を致すときは此に在らす 

89

 用益物に賦課せらるる毎年通常の租税及ひ公課は其一般に係るものと一地方に係るものとを問はす用益者之を負担し其求償権を有せす

 用益権の継続間用益物に賦課せらるること有る可き非常の公課又は租税に付ては虚有者は其元本を払ひ用益者は此時間毎年の利息を弁償す

 非常の公課又は租税と看做すものは左の如し

  第1 強要の借入

  第2 増税又は新税但其臨時又は非常の性質か法令に明示あるとき又は明に事情より生するときに限る 

90

 用益者又は虚有者か通常又は非常の租税を納めさるときは不動産は完全の所有権に於て之を差押へ且売却し其代金を怠納租税に充つ若し残額あらは其元本は虚有者に属し其収益は用益者に属す  

91

 虚有者か用益権設定の前に火災に対して建物を保険に付したるときは用益者は毎年保険料の利息を払ふの責に任す但火災の場合に於て得たる償金は虚有者に属し其収益は用益者に属す

 虚有者か用益権の継続間に完全の所有権を保険に付したるときは用益者は保険料の利息を負担せす其償金に関しては虚有者か自己の払ひたる保険料の金額を扣除したる残余に付き収益す又虚有者か其虚有権のみを保険に付したるときは用益者は償金に付き権利を有せす

 海上の危険に対し保険に付したる船舶に付き用益権を設定したるときも亦右の規定を適用す  

92

 用益者は自己及ひ虚有者の利益の為め自費を以て保険を約することを得此場合に於ては用益者は償金の額内より自己の払ひたる保険料を扣除し其残額に付て収益す

 又用益者は用益権の価格のみに付き建物を保険に付したるときは一人にて保険料を負担し災害ありしときは其償金を取得す凍、雹其他天然の事変に対し用益者か収穫物又は産出物を保険に付したるときも亦同し 

93

 遺言にて包括財産の用益権を得たる者は其得益の割合に応して相続の債務の利息を負担す

 此他相続の負担たる養料又は終身年金権の年金も亦同上の割合に応して之を負担す 

94

 特定財産の用益者は其用益財産か抵当又は先取特権を負担するときと雖も設定者の債務の弁済を分担せす

 用益者か所持者として訴追を受けたるときは債務者に対する求償権を有す但用益権の設定者又は其相続人に対する追奪担保の訴権を妨けす 

95

 虚有者か元本を負担し用益者か其利息を負担す可き諸般の場合に於ては左の方法の一に依りて処弁す

  第1 虚有者か元本を払ひ用益者か其毎年の利息を払ふ

  第2 用益者か元本を立替へ虚有者か用益権消滅の時之を用益者に償還す

  第3 要求を受く可き金額に満つるまて用益物の一分を売却す 

96

 用益権の継続間用益不動産に第三者か虚有者の権利を害す可き侵奪又は作業を為すときは用益者は其事実を虚有者に告発することを要す若し此告発を為ささるときは為めに生したる総ての損害及ひ第三者の取得する時効又は占有権に付き其責に任す  

97

 虚有者か原告又は被告として用益物の完全の所有権に係る訴訟を為すときは用益者を其訴訟に召喚することを要す

 用益者は右訴訟費用の利息及ひ収益のみに関する訴訟費用を負担す然れとも用益権の設定証書を以て用益者に追奪担保を為したるときは用益者は総ての訴訟費用を負担せす

 如何なる場合に於ても用益者は虚有権のみに関する訴訟費用を分担せす  

98

 訴訟に参加す可くして之に参加せしめられさりし虚有者又は用益者は其判決の害を受くること無し然れとも事務管理の規則に従ひて其利を受くることを得

 

4款 用益権の消滅

 

99

 用益権は第42条に記載したる所有権消滅の原因と同一の原因に由りて消滅する外尚ほ左の原因に由りて消滅す

  第1 用益者の死亡

  第2 用益権を設定したる期間の経過

  第3 用益者の明示したる用益権の抛棄

  第4 三十个年間継続したる不使用

  第5 用益権の廃罷  

100

 数人の終身を期して同時に且不分にて用益権を設定したるときは死亡者の持分は生存者を利す其用益権は最後の死亡者の死亡に因るに非されは消滅せす  

101

 法人の為めに設定したる用益権は三十个年の期間を以て消滅す但三十个年より短き期間を以て設定したるときは此限に在らす 

102

 用益者は用益権の抛棄を以て其抛棄前に履行せさりし義務を免かるることを得す

 又其抛棄は用益者の権に基き物の上に権利を取得したる第三者を害することを得す  

103

 不使用は未成年者にも其他の人にして之に対し時効の経過することを得さる者にも之を以て対抗することを得す

 免責時効に関する此他の規則は不使用に之を適用す 

104

 用益者か用益物に重大の毀損を加ふるとき又は保持の欠缺若くは収益の濫妄に因りて用益物の保存を危ふするときは裁判所は用益権消滅の他の原因の一を生するまて用益者の費用を以て用益物を保管に付し又は此時間虚有者より毎年用益者に払ふ可き金額若くは果実の部分を定め虚有者の為め用益権の廃罷を宣告することを得

 裁判所は右と同時に其年の果実及ひ産出物の分割を定む

 将来に於て用益者に払ふ可き金額又は果実の価額は用益者日割を以て之を取得す

 

105

 用益権の廃罷は其廃罷前に用益者の加へたる損害の賠償を妨けす  

106

 事変又は朽敗に因りて用益権の存する建物の全部か毀滅したるときは用益者は土地に付ても材料に付ても収益することを得す但建物か用益権の存する土地の従たるときは此限に在らす 

107

 用益物か公用徴収を受けたるときは用益者は其償金に付き収益す此場合に於て用益者は其収益する元本に対して相応なる担保を供することを要す但此場合を予見して特に其義務を免除したるときは此限に在らす

 第90条乃至第92条に規定したる場合に於ても亦同し  

108

 池沼の用益権は水の乾涸して旧状に復する見込なきときは消滅す

 又土地の用益権は水の浸没して旧状に復する見込なきときは消滅す 

109

 第104条に掲けたる場合を除く外用益権消滅の時猶ほ土地に附著する果実及ひ産出物は虚有者に属す其栽培又は作業の費用は之を償還することを要せす但不動産賃借人か果実に付き既に得たる権利を妨けす 

 

2節 使用権及ひ住居権

 

110

 使用権は使用者及ひ其家族の需用の程度に限るの用益権なり

 住居権は建物の使用権なり

 使用権及ひ住居権は用益権と同一の方法に因りて成立し及ひ同一の原因に由りて消滅す  

111

 使用権及ひ住居権の程度を定むる為め使用者の家族と看做す可き者は使用者と共に住居する配偶者卑属親尊属親及ひ使用者又は此等の親族の随身雇人なり  

112

 設定の権原又は其後の合意を以て土地の使用権を行ふの方法を定めす又は住居権を行ふ可き建物を定めさるときは当事者立会の上裁判所其意見を聴きて之を定  

113

 使用権及ひ住居権は之を譲渡し又は賃貸することを得す  

114

 使用権又は住居権を有する者は用益者と同しく動産の目録及ひ不動産の形状書を作り且保証人を立つる責に任す

 又用益者と同一の注意を為し及ひ自己の過失に付ては之と同一の責に任す

 又其収益の割合に応し用益者と同しく修繕費用、租税、公課及ひ訴訟費用を分担す 

 

3章 賃借権、永借権及ひ地上権

 

1節 賃借権

 

115

 動産及ひ不動産の賃貸借は賃借人より賃貸人に金銭其他の有価物を定期に払ふ約にて賃借人に或る時間賃借物の使用及ひ収益を為す権利を与ふ但後の第二款及ひ第三款に定めたる如く合意に因り又は法律の効力に因りて当事者の負担する相互の義務を妨けす  

116

 国、府県、市町村及ひ公設所に属する財産の賃貸借は行政法を以て之を規定す

 

第一款 賃借権の設定

 

117

 賃借権は賃貸借契約を以て之を設定す

 賃借権を遺贈したる場合に於ては相続人は遺言書に記載したる項目及ひ条件に従ひて受遺者と賃貸借契約を取結ふことを要す

 賃借権を予約したる場合に於ても諾約者は要約者と賃貸借契約を取結ふことを要す  

118

 賃貸借契約は有償且双務の契約の一般の規則に従ふ但後に掲けたる変例を妨けす  

119

 法律上又は裁判上の管理人は其管理する物を賃貸することを得然れとも管理人か期間に付き特別の委任を受けすして賃貸するときは左の期間を超ゆることを得す

  第1 獣畜其他の動産に付ては一个年

  第2 居宅、店舗其他の建物に付ては三个年

  第3 耕地、池沼其他土地の部分に付ては五个年

  第4 牧場、樹林に付ては十个年 

120

 管理人は前条に記載したる賃貸物の区別に従ひ現期間の満了に先たつ一个月、三个月、六个月又は一个年内に非されは同一の期間を以て賃貸借を更新することを得す

 然れとも右の時期に先たち為したる更新は新期間の始まりし後尚ほ管理人の委任の止まさりしときは無効ならす 

121

 管理人は金銭外の有価物を貸賃と為して賃貸することを得す

 然れとも耕地に付ては其産出物を貸賃と為して賃貸することを得  

122

 前3条の規定は代理人に之を適用す但代理委任の書面を以て其権限を伸縮したるときは此限に在らす 

123

 自己の財産を管理することを得る婦及ひ自治産の未成年者も亦管理人と同一の条件に従ふに非されは其財産を賃貸することを得す 

124

 賃借人は前数条に反したる賃貸借又は其更新の無効又は短縮を請求することを得す

 然れとも所有者其権利を自在にすることを得るに至りたるときは賃借人は所有者の認諾するや否やの意思を第119条に区別したる賃借物の性質に従ひ五日、八日、十五日又は三十日の期間に述ふることを常に要求することを得

 所有者か其意思を述ふることを拒むときは賃借人は起初又は更新に於て定めたる如く賃借期間を維持せんと述ふることを得  

125

 所有者の為したる不動産の賃貸借か三十个年を超ゆるときは其賃貸借は永貸借と為り此種の賃貸借の為め後の第二節に定めたる規則に従ふ 

 

2款 賃借人の権利

 

126

 賃借人は賃借物に付き用益者と同一の利益を収むる権利を有す但其賃貸借設定の契約及ひ法律の規定より生する権利の増減は此限に在らす 

127

 賃借人は其収益を始むる為めに定めたる時期に於て賃借物の占有を賃貸人に要求することを得然れとも其目録又は形状書を作り及ひ保証人を立つる責に任せす

但契約に因りて其責に任するときは此限に在らす 

128

 賃借人は物の引渡前に其用方に従ひて一切の修繕を整ふることを賃貸人に要求することを得

 此他賃貸人は賃貸借の期間大小修繕を為す責に任す但左の二項に掲けたる修繕及ひ賃借人又は其雇人の過失若くは懈怠に因りて必要と為りたる修繕は賃借人之を負担す

 賃貸人は賃貸借の期間畳、建具、塗彩及ひ壁紙の保持を負担せす

 又井戸、用水溜、汚物溜又は水道管の疏浚及ひ普通に賃借人の為す可き修繕を負担せす

 本条の規定に反対の慣習あるときは其慣習に従ふことを妨けす  

129

 建物に必要と為りたる大修繕は賃借人より之を要求せさるも又此か為め賃借人に多少の不便を生せしむ可きも賃貸人之を為すことを得

 然れとも賃借人は右修繕の一个月より長く継続するときは借賃の減少を要求することを得又時間の如何を問はす右修繕の為め其賃借物中住居す可き全部又は商業若くは工業に極めて必要なる部分を失ふ可きときは賃借人は賃貸借の解除を請求することを得  

130

 賃借人か第三者より収益の権利に妨害又は争論を受け其原因賃借人の責に帰す可からさるとき賃借人より合式に告知を受けたる賃貸人は其訴訟に参加して賃借人を担保し又は損害を賠償することを要す  

131

 妨害か戦争、旱魃、洪水、暴風、火災の如き不可抗力又は官の処分より生し此か為め毎年の収益の三分一以上損失を致したるときは賃借人は其割合に応して借賃の減少を要求することを得但地方の慣習之に異なるときは其慣習に従ふことを妨けす

 又右の妨害か引続き三个年に及ふときは賃借人は賃貸借の解除を請求することを得建物の一分の焼失其他の毀滅の場合に於て所有者か一个年内に之を再造せさるときも亦同し 

132

 土地又は建物を以て主たる目的物と為したる賃貸借に於て其現在の坪数か契約の坪数より少なく又は多きときは土地又は建物の売狽疔於けると同一の条件に従ひて借賃の増減又は契約の鎖除を為すことを得  

133

 賃借人は賃貸人の明許を要せすして賃借地に適宜に建物を築造し又は樹木を栽植することを得但現在の建物又は樹木に何等の変更をも加ふることを得す

 賃借人は旧状に復することを得へきときは其築造したる建物又は栽植したる樹木を賃貸借の終に収去することを得但第144条を以て賃貸人に与へたる権能を妨けす 

134

 賃借人は賃貸借の期間を超えさるに於ては其賃借権を無償若くは有償にて譲渡し又は其賃借物を転貸することを得但反対の慣習又は合意あるときは此限に在らす

 賃借人は譲渡の場合に於ては贈与者又は売主の権利を有し転貸の場合に於ては賃貸人の権利を有す

 右孰れの場合に於ても賃借人は賃貸人に対して其義務を免かるることを得す但賃貸人か転借人と更改を為したるときは此限に在らす

 果実又は産出物の一分を以て借賃と為し金銭を以て之に代ふることを許ささるときは賃借権の譲渡又は転貸は賃貸人の承諾あるに非されは之を為すことを得す  

135

 不動産の賃借人は其権利を抵当と為すことを得但譲渡又は転貸を為すことを得へき場合に限る 

136

 賃借人は其権利を保存する為め賃貸人及ひ第三者に対して第67条に記載したる訴権を行ふことを得

 

3款 賃借人の義務

 

137

 賃貸人其権利を保存する為め賃貸物の目録又は形状書を作らんと欲するときは賃借人は何時にても賃貸人か己れと立会ひて之を作るを許諾することを要す但其書類の費用を分担せす

 賃借人も亦賃貸人を召喚し立会の上自費にて右目録又は形状書を作ることを得

 形状書を作らさりしときは賃借人は修繕完好の形状にて賃借物を受取りたりとの推定を受く但反対の証拠あるときは此限に在らす

 目録なきときは動産の実体及ひ形状の証拠は賃貸人の責に帰し通常の方法に従ひて之を為す 

138

 金銭を以て借賃と為したるときは賃借人は合意したる時期に之を払ひ合意なきときは毎月末に之を払ふことを要す但地方の慣習之に異なるときは此限に在らす

 果実を以て借賃と為したるときは収穫後に非されは之を要求することを得す 

139

 賃借人借賃を払はす其他賃貸借の特別なる項目又は条件を履行せさるときは賃貸人は賃借人に対して其履行を強要し又は損害あるときは其賠償を得て賃貸借の解除を請求することを得 

140

 賃借人は賃借物に直接に賦課せらるる通常及ひ非常の租税其他の公課を負担せす若し租税法に依りて賃借人より徴収すること有るときは其借賃より之を扣除し又は賃貸人より賃借人に之を償還す但反対の合意あるときは此限に在らす

 然れとも賃借人の築造したる建物に賦課せられ又は賃借不動産に於て賃借人の営む商業若くは工業に賦課せらるる租税其他の公課は賃借人之を負担す 

141条 賃借人は明示と黙示とを問はす合意を以て定めたる用方に従ふに非されは賃借物を使用することを得す其合意なきときは契約の時の用方又は賃借物の性質に相応して毀損せさる用方に従ふに非されは之を使用することを得す 

142

 賃借人は賃借物の看守及ひ保存に付き用益者と同一の義務を負担す

 第三者か賃借物に侵奪又は作業を為すときは賃借人は第96条に記載したる如く用益者と同一の責に任す  

143

 賃貸借の終に於て賃借人か賃借物を返還せさるときは賃貸人は其選択を以て対人訴権又は物上訴権にて之を訴追することを得  

144

 賃貸人は賃貸借の終に於て第133条に依りて賃借人の収去するを得へき建物及ひ樹木を先買することを得此場合に於ては第70条の規定を適用す

 

4款 賃借権の消滅

 

145

 賃借権は左の諸件に因りて当然消滅す

  第1 賃借物の全部の滅失

  第2 賃借物の全部の公用徴収

  第3 賃貸人に対する追奪又は賃貸物に存する賃貸人の権利の取消但其追奪及ひ取消は賃貸借契約以前の原因に由り裁判所に於て之を宣告せしときに限る

  第4 明示若くは黙示にて定めたる期間の満了又は要約したる解除条件の成就

  第5 初より期間を定めさるときは解約申入の告知の後法律上の期間の満了

 右の外賃貸借は条件の不履行其他法律に定めたる原因の為め当事者の一方の請求に因り裁判所にて宣告したる取消に因りて終了す 

146

 意外又は不可抗の原因に由りて賃借物の一分の滅失せしときは賃借人は第131条に記載したる条件に従ひて賃貸借の解除を要求し又は賃貸借を維持して借賃の減少を要求することを得

 公用の為め賃借物の一分か徴収せられたるときは賃借人は常に借賃の減少を要求することを得  

147

 期間の定ある賃貸借の終りし後賃借人仍ほ収益し賃貸人之を知りて故障を為ささるときは新賃貸借暗に成立し前賃貸借と同一の負担及ひ条件に従ふ

 然れとも前賃貸借を担保したる抵当は消滅し保証人は義務を免かる

 新賃貸借は下の数条に記載したる如く解約申入に因りて終了す  

148

 家具の附きたる建物の全部又は一分の賃貸借にして其期間を明示せす其借賃を一年、一月又は一日を以て定めたるものは一年、一月又は一日の間賃貸借を為したりと推定す但前条に記載したる黙示の更新を妨けす

 動産のみを以て目的と為したる賃貸借に付ても亦同し 

149

 家具の附かさる建物の賃貸借は期間を定めさるとき又は之を定めたるも黙示の更新ありたるときは何時にても当事者の一方の解約申入に因りて終了す

 解約申入より返却まての時間は左の如し

  第1 建物の全部に付ては二个月但賃借人の造作を附したるときは三个月

  第2 建物の一分に付ては一个月但賃借人の造作を附したるときは二个月  

150

 家具の附きたる建物の賃貸借に付き黙示の更新ありたるときは解約申入より返却まての時間は左の如し

  第1 前賃貸借の期間を三个月又は其以上に定めたるときは一个月

  第2 三个月未満の賃貸借に付ては原期間の三分一

  第3 日日の賃貸借に付ては二十四時

 右規定は黙示の更新後の動産の賃貸借に付ても亦之を適用す

 賃貸せし建物に備へたる動産又は用方に因る不動産と看做す可き動産の賃貸借は其建物の賃貸借の終了するに非されは終了せす  

151

 土地の賃貸借にして期間を定めさるもの又は期間を定めたるも黙示の更新ありたるものは耕地に付ては主たる収穫季節より六个月前又不耕地其他牧場、樹林に付ては返却せしむ可き時期より一个年前に解約申入を為すに因りて終了す  

152

 解約申入及ひ返却の時期に関する前数条の規定は其時期に付き地方の慣習なきときに非されは之を適用せす  

153

 如何なる場合に於ても賃借人の権利の存する一切の収穫物を収去する前に賃貸借の終了せしときは賃貸人又は新賃借人は前賃借人の之を収去するに委ぬることを要す

 又賃借人は土地の収穫物を収去したる部分に於て賃貸借の終了前に急要の作業を為すことを賃貸人又は新賃借人に許すことを要す但賃借人此か為め妨害を受く可きときは此限に在らす  

154

 賃貸人か賃貸物を譲渡さんとし又は自己の為め若くは他の特別なる原因の為め之を取戻さんとするときは期間の満了前と雖も賃借権を解除することを得る権能を留保したる場合又賃借人か賃貸借の無用と為る可き未定事故を慮かりて同一の権能を留保したる場合に於ては前数条に定めたる時期に於て各自予め解約申入を為すことを要す

 

2節 永借権及ひ地上権

 

1款 永借権

 

155

 永貸借とは期間三十个年を超ゆる不動産の賃貸借を謂ふ

 永貸借は五十个年を超ゆることを得す此期間を超ゆる貸借は之を五十个年に短縮す

 永貸借は常に之を更新することを得然れとも其更新の時より五十个年を超ゆることを得す

 当事者か永貸借契約なることを明示し其期間を定めさるときは其貸借は四十个年にして終了す

 本法実施以前に期間を定めて為したる不動産の賃貸借は五十个年を超ゆるものと雖も其全期間有効なり

 本法実施以前に期間を定めすして為したる荒蕪地又は未耕地の賃貸借及ひ永小作と称する賃貸借の終了の時期及ひ条件は日後特別法を以て之を規定す  

156

 永貸借は永貸借契約を以てするに非されは之を設定することを得す其遺贈又は予約に付ては第117条の規定に従ふ  

157

 当事者相互の権利及ひ義務は永貸借の設定契約を以て之を定む

 特別の合意なきときは下の規定に従ふ外通常賃貸借の規則に従ふ  

158

 永借人は永借地の形質を変することを得但永久の毀損を生せしめさることを要す

 永借人は常に沼沢を乾涸することを得又永借地の作業に益す可きときは其土地を通過する水流を変転することを得  

159

 永借人は原野を開墾することを得然れとも所有者の承諾あるに非されは定期採伐に供したる小木林の樹木を堀取ることを得す又定期採伐に供せさる樹木にして既に二十个年を過き且其成長の年期か貸借の期間を超ゆ可きものを採伐することを得す  

160

 永借人は如何なる場合に於ても所有者の承諾あるに非されは主たる建物を取除くことを得す従たる建物と雖も其存立の時期か貸借の期間を超ゆ可きものは亦同し  

161

 前2条に従ひ永借人か建物又は樹木を取除きたるときは其物料及ひ材木は所有者に属す  

162

 永借人は地底に鉱物在るとき開坑の特許を得たる者より所有者に払へる償金に付き何等の権利をも有せす然れとも此特許を得たる者の地上に加へたる損害の為め賠償を受くる権利を有す  

163

 永借地に既に採掘を始め且特別法に従ふを要せさる石類、石灰類其他の物の石坑あるときは永借人は其収益を継続す

 右石坑を未た採掘せす又は其採掘を廃止したるときは永借人は永借地の改良の為め石其他の物料を採取することを得 

164

 永貸人は永貸借契約の当時の現状にて永貸物を引渡すものとす

 永貸人は貸借の期間大小修繕を負担せす 

165条 意外の事又は不可抗力に因りて貸借の期間に起りたる毀損は借賃減少の理由と為らす但第169条に定めたる解除の権利を妨け    す  

166

 永貸人に対し永借物に賦課せらるる通常又は非常の租税其他の公課は永借人之を永貸人に弁済す 

167

 数人か一箇の契約を以て一箇の不動産を永借したるときは借賃を払ふ義務は各永借人又は其相続人に在ては連帯にして且不可分なり  

168

 永借人か第166条の弁済を為さす又は三个年間引続き借賃の払入を為ささるときは永貸人は永貸借の解除を請求することを得

 又永借人か他の債権者の訴追に因りて破産又は無資力の宣告を受けたるときは永貸人は弁済の如何なる不足に拘はらす解除を請求することを得但其債権者か借賃を延滞なく払入るることを担保するときは此限に在らす 

169

 永借人は意外の事又は不可抗力に因りて三个年間引続き全く不動産の収益を得る能はす又は其一分の毀損に因りて将来の収益か借賃の年額を超ゆ可き見込なきときは永貸借の解除を請求することを得  

170

 永借人か永借地に加へたる改良及ひ栽植したる樹木は永貸借の満期又は其解除に当り賠償なくして之を残置くものとす

 建物に付ては通常賃貸借に関する第144条の規定を適用す

 

2款 地上権

 

171

 地上権とは他人の所有に属する土地の上に於て建物又は竹木を完全の所有権を以て占有する権利を謂ふ 

172

 地上権設定の時其土地に建物又は樹木の既に存すると否とを問はす設定行為の基本、方式及ひ公示は不動産譲渡の一般の規則に従ふ 

173

 地上権者か譲受けたる建物又は樹木の存する土地の面積に応して土地の所有者に定期の納額を払ふ可きときは其権利及ひ義務は其払ふ可き納額に付ては通常賃貸借に関する規則に従ひ其継続する期間に付ては第176条の規定に従ふ

 右納額に付ては新に建物を築造し又は樹木を栽植する為め土地を賃借したるときも亦同し  

174

 既に存せる建物又は樹木に於ける地上権の設定に際し従として之に属す可き周辺の地面を明示せさるときは左に掲くる規定に従ふ

 建物に付ては地上権者は其建坪の全面積に同しき地面を得るの権利を有す此配置は鑑定人をして土地及ひ建物の周囲の形状と建物の各部の用方とを斟酌せしめて之を為す

 樹木に付ては地上権者は其最長大なる外部の枝の蔭蔽す可き地面を得る権利を有す  

175

 地上権設定後に築造したる建物又は栽植したる樹木に付ては地上権者は此種の作業の為め法律を以て相隣者の為めに規定したる距離及ひ条件を遵守す可し縦令其隣人か地上権の設定者なるも亦同し

 又地上権者は働方又は受方にて其他の地役の規則に従ふ  

176

 既に存せる建物又は地上権者の築造す可き建物に付き設定権原を以て地上権の継続期間を定めさるときは此建物存立の時期間其権利を設定したるものと推定す

但其大修繕は土地の所有者の承諾あるに非されは之を為すことを得す

 既に存せる樹木又は地上権者の栽植す可き樹木に付ては其地上権は樹木を採伐する時期まて又は其有用なる最長大に至る可き時期まて之を設定したりと推定す

 此他地上権は通常賃借権と同一の原因に由りて消滅す但所有者の為す解約申入は此限に在らす

 地上権者は一个年前に予告を為し又は未た払期限の至らさる納額の一个年分を払ふときは常に解約申入を為すことを得  

177

 建物又は樹木の契約前より存すると否とを問はす地上権者之を売らんとするときは土地の所有者に先買権を行ふや否やを述ふ可きの催告を一个月前に為すことを要す

 右先買権に付ては此他尚ほ第70条の規定に従ふ  

178

 本法実施の時に存する地上権は左の規定に従ふ

 期限を立てて設定したる地上権は其期限に至り当然消滅す

 期限を立てすして設定したる地上権は第176条に従ひて建物存立の時期間継続す

 右両様の地上権は共に前条に規定したる先狽槇に服す  

 

4章 占有

 

1節 占有の種類及ひ占有することを得へき物

 

179

 占有に法定、自然及ひ容仮の三種あり 

180

 法定の占有とは占有者か自己の為めに有するの意思を以てする有体物の所持又は権利の行使を謂ふ

 権利は物権と人権とを問はす法定の占有を受くることを得其種種の効力は場合に従ひ下に之を定む 

181

 法定の占有か占有の権利を授付す可き性質ある権利行為に基くときは譲渡人に授付の分限なきを以て其効力を生する能はさるときと雖も其占有は正権原の占有な

 占有か侵奪に因りて成りたるときは其占有は無権原の占有なり  

182

 正権原の占有は権原創設の当時に於て占有者か其権原の瑕疵を知らさりしときは之を善意の占有とし此に反するときは悪意の占有とす

 法律の錯誤は善意に付ての利益を受くる為めに之を申立つることを許さす但第194条の規定を妨けす

 善意たることは権原の瑕疵を覚知したるときは止む  

183

 強暴又は隠密の占有は之を瑕疵の占有とす

 占有か暴行又は脅迫に因りて成り又は保持せられたるときは其占有は強暴の占有なり

 占有か公然且外見の所為に因りて当事者に容易に見はれさるときは其占有は隠密の占有なり

 右占有か平穏と為り又は公然と為りたるときは其瑕疵は消滅す 

184

 自然の占有とは占有者か自己の権利を主張する意なくして有体物を所持するを謂ふ

 公有物に付ては各人は自然の占有の外占有を為すことを得す 

185

 容仮の占有とは占有者か他人の為めに其他人の名を以てする物の所持又は権利の行使を謂ふ

 容仮の占有者か自己の為めに占有を始めたるときは其占有の容仮は止みて法定と為る

 然れとも占有の権原の性質より生する容仮は左に掲くる場合に非されは止ます

  第1 占有を為さしめたる人に告知したる裁判上又は裁判外の行為か其人の権利に対し明確の異議を含めるとき

  第2 占有を為さしめたる人又は第三者に出てたる権原の転換にして其占有に新原因を付するとき 

186

 占有者は常に自己の為めに占有するものとの推定を受く但占有の権原又は事情に因りて容仮の証拠あるときは此限に在らす  

187

 正権原の証拠ある占有は之を善意の占有なりと推定す但反対の証拠あるときは此限に在らす  

188

 強暴の証拠なき占有は之を平穏の占有と推定す

 占有の公然は之を推定せす必す之を証することを要す

 前後二箇の時期に於て証拠ありたる占有は其中間継続したりとの推定を受く但其占有の中断又は停止の証拠あるときは此限に在らす  

 

2節 占有の取得

 

189

 法定の占有は或る物の所有権又は或る権利を自己の有と為す意思を以て其物を握取する所為に因り又は其権利を実行するに因りて之を取得す 

190

 物の所持又は権利の行使は之を第三者の所為に委ぬることを得但占有するの意思は占有に付き利益を得んと主張する其人に存することを要す

 然れとも無能力者及ひ法人は其代人の意思及ひ所為に因りて占有の利益を受くることを得  

191

 物の握取は簡易の引渡又は占有の改定を以て之に代ふることを得

 初め容仮の権原を以て占有したる物を其占有者に爾後自己の物と看做すことを得せしむる新権原に依りて之を保存せしめたるときは簡易の引渡ありたりとす

 初め物を自己に属すとして占有したる者か爾後他人の名を以て其他人の為め占有を継続することを承諾したるときは占有の改定ありたりとす

 権利の行使に付ては初め他人の名を以て行使せる者か爾後自己の為めに行使するにも亦当事者の意思のみにて足る又初め自己の為め行使せる者か爾後他人の為めに行使するに付ても亦同し  

192

 占有は前主に於て存したる占有の性質及ひ瑕疵を以て相続人其他包括権原の承継人に移転す

 物又は権利の特定権原の取得者は其利益に従ひ或は自己の占有のみを申立て或は自己の占有に譲渡人の占有を併せて申立つることを得

 

3節 占有の効力

 

193

 法定の占有者は反対の証拠あるに非されは其行使せる権利を適法に有するものとの推定を受く其権利に関する本権の訴に付ては常に被告たるものとす 

194

 正権原且善意の占有者は天然の果実及ひ産出物に付ては自身又は代人を以て土地より離したる時に於て之を取得し法定の果実に付ては用益者に関し規定したる如く日割を以て之を取得す

 占有者か正権原を有せすして事実又は法律の錯誤に因りて悪意なきときは其消費したる果実に付き利益を得さりし証拠を挙くるに於ては之を返還する責に任せす

 占有者か其占有せし物又は権利の自己に属せさることを覚知したるときは将来に向ひて果実返還の責を生す又訴訟に於て確定に敗訴したるときは其出訴の時より此責を生す  

195

 悪意の占有者は回復の請求を受けたる物又は権利は勿論現物にて仍ほ占有する果実及ひ産出物を返還し且其既に消費し又は過失に因りて損傷し又は収取を怠りたる果実及ひ産出物の代価を償還する責に任す

 回復者は果実の通常の負担たる費用を占有者に償還することを要す

 強暴又は隠密の占有者は其権原の正当なることを自ら信せしときと雖も果実に関しては常に之を悪意の占有者と看做す  

196

 占有者は善意なると悪意なるとを問はす物の保存の為め又は物の増価の為め費したる金額を回復者より償還せしむることを得

 右孰れの占有者も其分限のみにては奢靡の為め費したる金額の償還を求むることを得す  

197

 前2条の場合に於て善意の占有者は回復者の言渡されたる保存又は増価の為めの費用の全償を得るまて物の上に留置権を有す

 悪意の占有者は保存のみの費用に付き留置権を有す 

198

 物か毀損を受け又は価格を減し其責を占有者に帰す可きときは悪意の占有者に在ては如何なる場合に於ても所有者に賠償を為し善意の占有者に在ては其毀損又は減価に因り己れを利したる場合に於て其利したる限度に応し賠償を為すことを要す  

199

 占有者は占有を保持し又は回収する為め下の区別に従ひて占有に関する訴権を有す

 占有訴権は保持訴権、新工告発訴権、急害告発訴権及ひ回収訴権の四種なり 

200

 保持訴権は不動産と包括動産と特定動産とを問はす其占有に関し他人より反対の主張を含める事実上又は権利上の妨害を受くる占有者に属す

 此訴権は妨害を止ましめ又は賠償を得るを以て其目的とす 

201

 新工告発訴権は占有の妨害と為る可き隣地の新工事を廃止せしめ又は変更せしむる為め不動産の占有者に属す  

202

 急害告発訴権は或は建物、樹木其他の物の傾倒に因り或は土手、水溜、水樋の破潰に因り或は火、燃焼物、爆発物の必要の予防を為ささる使用に因りて隣地より生する損害を懼る可き至当の事由ある不動産の占有者に属す

 此訴権は右危険に対する予防の処分を命令せしめ又は未定の損害に対する賠償の保証人を立てしむるを以て其目的とす 

203

 保持訴権及ひ新工告発訴権は平穏且公然なる法定の占有者のみに属す但不動産又は包括動産に付ては其占有の満一个年以来継続したることを要す  

204

 回収訴権は暴行、脅迫又は詐術を以て不動産若くは包括動産若くは特定動産の全部又は一分の占有を奪はれたる占有者に属す但其占有か被告に対して此等の瑕疵の一をも帯ひさることを要す

 此訴権は侵奪の占有を特定権原にて承継したる者に対して之を行ふことを得す但其者か侵奪の不法の所為に関与したるときは此限に在らす  

205

 回収訴権及ひ急害告発訴権は法定の占有者及ひ容仮の占有者に属す縦令其占有か未た一个年に満たさるも亦同し  

206

 保持及ひ回収の訴は妨害又は侵奪を受けたるより一个年内に非されは之を受理せす

 新工告発の訴は其工事の竣成せさる間は之を受理す但工事に付き占有者か妨害を受けたるときは其工事竣成の前後に拘はらす妨害より一个年内に於て保持訴権のみを行ふことを得

 急害告発の訴は危険の存する間は之を受理す 

207

 占有の訴は本権の訴と併行することを得す

 判事は当事者の権利の基本より出てたる理由にして其権利を予決す可きものに基きて占有の訴を裁判することを得す

 又判事は本権の訴か既に審理中に在るも占有の訴の判決を猶予することを得す 

208

 占有の訴を起したる後当事者の一方か其裁判所又は他の裁判所に本権の訴を起したるときは占有の訴の確定判決に至るまて本権の訴の訴訟手続を中止することを要す

 本権の訴の被告か第210条に定めたる如く其訴訟中に占有の訴の原告と為りたるときも亦同し  

209

 本権の訴の原告は訴を取下くると雖も其訴以前の事実の為めに更に占有の訴を起すことを得す然れとも既に起したる占有の訴に付ては原告たると被告たるとを問はす之を継続することを得

 本権の訴に於て確定に敗訴したる者は占有の訴を起すことを得す  

210

 本権又は占有の訴の被告は其訴訟中反訴にて占有の訴の原告と為ることを得  

211

 判事は占有の訴を正当なりと認むるときは場合に従ひ妨害の絶止、侵奪物の返還、新工事の廃止若くは変更又は急害の予防処分を命令す可く若し損害あらは同時に其賠償を言渡す可し

 又判事は急害告発の訴に付ては其将来未定の損害額を断定し之に対する保証人を立つ可きことを被告に命令することを得 

212

 占有の訴に於て敗訴したる原告は仍ほ本権の訴を起すことを得

 占有の訴に於て敗訴したる被告も亦仍ほ本権の訴を起すことを得但既に受けたる言渡を履行せし後に限る若し言渡の金額か未定なるときは其言渡を履行するに相応なる金額を裁判所書記課に供託す可し 

 

4節 占有の喪失

 

213

 占有は左の諸件に因りて喪失す

  第1 自己又は他人の為めに占有する意思の絶止

  第2 物の所持又は権利の行使の任意の抛棄又は法律上強要せられたる抛棄

  第3 不法と否とを問はす他人の占有の握取但其占有か保持訴権又は回収訴権の行使を受くること無くして一个年より長く継続したるときに限る

  第4 占有の目的たる物の全部の毀滅又は其権利の消滅  

 

5章 地役

 

総則

 

214

 地役とは或る不動産の便益の為め他の所有者に属する不動産の上に設けたる負担を謂ふ

 地役は法律又は人為を以て之を設定す  

 

1節 法律を以て設定したる地役

 

1款 隣地の立入又は通行の権利

 

215

 凡そ所有者は土地の分界に於て又は自己の土地に工事を為し得る余地なき距離に於て牆壁若くは建物を築造し又は修繕する為め隣地に立入るを求むることを得 

216

 築造又は修繕の工事は収穫を害す可き季節に於ても隣地の所有者又は占有者の一時不在の場合に於ても之を為すことを得す但急要又は極めて必要の場合は此限に在らす

 如何なる場合に於ても隣人の承諾あるに非されは右工事の為め其住家に立入ることを得す縦令其修繕を要する建物か隣人の住家に連接するも亦同し  

217条 立入を許諾せる隣人は工事の性質及ひ時期を酌量して其受けたる妨害に相応する償金を求むることを得  

218

 或る土地か他の土地に囲繞せられて袋地と為り公路に通する能はさるときは囲繞地は公路に至る通路を其袋地に供することを要す但下に記載したる如く二様の償金を払はしむることを得

 土地か堀割若くは河海に由るに非されは他に通する能はさるとき又は崖岸ありて公路と著しき高低を為すときは之を袋地と看做すことを得  

219

 袋地の利用又は其住居人の需用の為め定期又は不断に車両を用ゆることを要するときは通路の幅は其用に相応することを要す

 通行の必要又は其方法及ひ条件に付き当事者の議協はさるときは裁判所は成る可く袋地の需用及ひ通行の便利と承役地の損害とを斟酌することを要す  

220

 通路の開設及ひ保持の工事は袋地の負担に属す

 承役地の建物又は樹木を取除き又は変更せしむるの必要あるときは一回限の償金を其所有者に弁償す

 此他承役地の使用又は耕作を減し及ひ永く其地の価格を減するに付ての償金は毎年之を弁償す  

221

 袋地たることの止みたるときは通行の権利及ひ毎年の償金の義務は従ひて消滅す

 要役地の所有者は未た払期限の至らさる償金の六个月分を払ひて常に通行の権利を抛棄し及ひ之に対する義務を免かるることを得  

222

 当事者は通行より生する永久の損害の賠償又は毎年の償金の買戻を随意に元本にて定むることを得

 孰れの場合に於ても袋地の止みしときは右元本は之を全く返還するものとす但反対の合意あるときは此限に在らす  

223

 土地の一分の譲渡又は共有者間の分割に因りて袋地の生したるときは譲渡人又は分割者は償金を受くること無くして通路を供するの義務を負担す此義務は公路の創設に因りて袋地たることの止みしときは消滅す

 

第二款 水の疏通、使用及ひ引入

 

224

 低地の所有者は人工に由らすして自然に高地より流下する雨水及ひ泉水を承くる義務あり

 人工を以て水の疏通路を創設し又は変更せしと雖も其工事か三十个年前に在るか又は年月を知る可からさるときは亦同し 

225

 土手其他水を湛ふる工作物の破潰に因り又は水樋、堀割の阻塞に因り高地の水量を増して衝撃を致し又は方向を変せんとするときは低地の所有者は第202条及ひ211条に従ひて急害の告発を為し且高地の所有者の費用を以て其修繕を為すことを得

 事変に因り低地に於て水流の阻塞したるときは高地の所有者は平常の疏通に復する為め自費を以て必要の工事を為す権利を有す然れとも其義務を負担せす  

226

 所有者は雨水の直ちに隣地に落つる如き屋根其他の工作物を設くることを得す  

227

 泉源の所有者は随意に之を使用し且自然に隣地に流る可き余水を隣人に与へさることを得但次条及ひ第276条の規定其他鉱泉の利用、収益に関する行政法の規定を妨けす  

228

 泉源の水か一町村又は一部落の住民の家用に必要なるときは所有者は其水の不用の部分を流下せしむる責に任す

 又町村は自費を以て水の聚合及ひ引入に必要なる工事を泉源の土地に施すことを得但其工事の為め償金を払ひ且其土地に永久の損害を生せしめさることを要す

 此他町村は水の使用の為め償金を払ふことを要す但三十个年間無償にて使用を為したるときは此限に在らす  

229

 溝渠、水流、堀割又は池沼の沿岸者にして其床地を所有する者は家用及ひ農工業用に其水を使用することを得然れとも其水路及ひ幅員を変することを得す

 同上の流水の通過する土地の所有者は右と同一の需用の為め其地内に於て水路を変転することを得然れとも其水の出口に於ては之を自然の水路に復することを要す

 右孰れの場合に於ても沿岸者は地方の規則に従ひて捕漁の権利を有す

 沿岸者は対岸者に損害を及ほす可きときは己れの方に於て水除を築くことを得す  

230

 前条に定めたる二箇の場合に於て其水を利用す可き沿岸者又は低地の所有者より争を起したるときは裁判所は地方の慣習と衛生の需用と農工業の利益とを斟酌して之を決す  

231

 右流水に関する取締は地方庁に属す地方庁は其流水の疏通、保持及ひ魚類の保育に付き必要の処分を令することを得  

232

 一般又は一地方の公有又は私有に属する水の使用及ひ取締は行政法を以て之を規定す  

233

 自己の土地外に在る天然又は人工の水を用ゆる権利を有する所有者は家用又は農工業用の為め償金を払ひ其水の通過を中間の土地に要求することを得  

234

 低地の所有者は浸水地を乾かすに因り出水の疏通の為め及ひ家用又は農工業用の余水の排泄の為め公路、公流又は下水道に至るまて其通路を供する責に任す

 家用又は農工業用の為めに変質したる水の通過は地下に於けるに非されは之を要求することを得す  

235

 水の通路は成る可く承役地の損害少なき場所に之を設くることを要す

 如何なる場合に於ても建物の下を経又は住家に連接したる庭園を経て水の通過を要求することを得す  

236

 水の通路に必要なる工作物の築造及ひ保持は其工作物に付き利益を得る所有者の費用にて之を為す  

237

 承役地の所有者は其土地に存する堀割を要役地に出入する水の全部又は一分の通路に供することを要求するを得但従来其堀割を通過する水か要役地に供したる水を変するの性質ならさるときに限る

 又承役地の所有者は其土地に要役地の所有者の為したる工作物を右と同一の条件に従ひて水の通過の為め使用せんと請求することを得

 右孰れの場合に於ても他人の為したる工作物を使用する使用する者は自己の利益の割合に応して其築造及ひ保持の費用を分担す  

238

 第229条第1項に従ひ流水を使用する権利を有する所有者は堰を設けて水を高むるの要用あるときは償金を払ひて其堰を対岸に支持せしむることを得

 同一の権利を有する対岸地の所有者は前条に記載したる如く費用を分担して右の堰を使用することを得  

 

3款 経界

 

239

 凡そ相隣者は地方の慣習に従ひ樹石杭杙の如き標示物を以て其連接したる所有地の界限を定めんと互に強要することを得  

240

 経界訴権は建物に付き及ひ土屏、垣柵等の囲障ある土地に付ては行はれす公路又は公流にて隔てたる土地に付ても亦同し  

241

 経界訴権は協議上又は裁判上にて界限の定まらさる間は時効に罹ること無し

 経界の訴に付き被告か原告の土地の全部又は一分に対し取得時効又は一个年以上の占有を申立つるときは原告は先つ回復又は回収の訴を為すことを要す  

242

 経界は界限の確定せさるとき又は争論あるときは所有権の証書に記載したる坪数及ひ界限に従ひて之を為す其証書なきときは之に代ふるに足る他の証拠又は書類に依りて之を為す

 所有権に付き争論あるときは先つ其裁判を受くることを要す  

243

 当事者か協議を以て界限を定めたるときは其証書を作ることを要す此証書は坪数及ひ界限に付き確定権原の効を有す

 当事者の議協はさるときは判決を以て坪数及ひ界限を定め其判決書に図面を添ふ此図面には界標を指示し且各界標の距離及ひ其近傍の移動なき目標と各界標との距離を記載す  

244

 樹石杭杙の代価其設置の費用及ひ証書並に訴訟の費用は相隣者平分して之を負担す然れとも判決に因りて不当と為りたる争論のみに関する訴訟費用は敗訴者之を負担す

 測量費用は当事者其土地の広狭に応して之を分担す  

 

4款 囲障

 

245

 凡そ所有者は適宜の材料を用ゐ適宜の高さに於て自己の不動産に囲障を設くることを得但其不動産か法律又は人為にて隣人の立入又は通行の地役に服するときは其地役を行ふ権能を妨くることを得す  

246

 二箇の住家又は農工業用建物の間に在る中庭又は園圃の土地か各箇の所有者に分属するときは各自其隣人に分界囲障の分担を強要することを得

 当事者の議協はさるときは其囲障は板屏又は竹垣の類に非されは之を要求することを得す

 其高さは分界線の平面より少なくとも六尺たる可し  

247

 囲障の設置、保持及ひ修繕の費用は相隣者平分して之を負担す

 相隣者の一人は前条に定めたる材料より良好なる他の材料を用ゐ又は高さを増して囲障を築造することを得但築造費用の差額を払ひ且保持及ひ修繕の費用の全額を負担す  

248

 相隣者の一人か他の一人を囲障分担の遅滞に付せすして之を築造し又は修繕したるときは其人に対して費用の分担を要求することを得す  

 

5款 互有

 

249

 前款に定めたる義務に因り又は任意且協議に因り共担の費用を以て土地の分界線上に築造したる囲障は其性質の如何を問はす敷地と共に相隣者の互有に属す

 性質の如何を問はす相隣者の建物の隔壁及ひ溝渠、生籬、柴垣にして共担の費用を以て土地の分界線上に設けたるものも亦同し  

250

 凡そ土地の囲障又は建物の隔壁にして分界線上に在るものは其性質の如何を問はす共担の費用を以て設けたるものとして之を互有と推定す但或は証書に因り或は証人に因り或は三十个年の時効に因り或は下に示したる非互有の目標に因りて反対の証拠あるときは此限に在らす  

251

 相隣者の一人の専属権を定むる直接の証拠又は時効の存せさるときは非互有を推定す可き目標となる可きものは左の如し

  第1 土造、石造、煉瓦造の牆壁に付ては屋根の傾斜面又は小簷、窓孔其他の工作物又は粧飾物か一方のみに存すること

  第2 板屏、竹垣に付ては其支柱か一方のみに存すること

  第3 溝渠に付ては掘浚の泥土か一方のみに存すること

  第4 生籬、柴垣に付ては一方の土地のみ四面を囲まれたること

 此四箇の場合に於て専属権は右目標の存する一方又は土地の全く囲まれたる一方の相隣者に属す  

252

 高さの不同なる二箇の建物を隔つる牆壁に付ては其牆壁か低き建物を踰ゆる部分には互有の推定を適用せす

 又牆壁か一箇の建物のみを支持するときは右の推定は如何なる部分にも之を適用せす  

253

 二箇の土地を分界する一箇の囲障其他の工作物に互有の目標と非互有の目標との併存するときは裁判所は事情に従ひて其所有権の共通なるか専属なるかを査定  

254

 互有界の保持及ひ修繕は互有者平分して之を負担す但其一人の所為より毀損の生したるときは此限に在らす

 然れとも第246条に定めたる義務上の囲障に非さるときは互有者の各自は互有権を抛棄して保持及ひ修繕の負担を免かるることを得但自己の建物を支持する牆壁の保持及ひ修繕に関するとき又は自己の所為に因りて必要と為りたる修繕の費用を払ふ可きときは此限に在らす  

255

 相隣者は互有界を其性質及ひ用方に従ひて使用することを得但其堅牢を傷はさることを要す

 相隣者は互有の牆壁に其厚さ四分の三に至るまて梁棟を穿入して建物を支持し又は之に煖爐を嵌入し若くは烟突、水管、瓦斯管其他家用、工業用の為め筒管を通することを得但其牆壁の性質及ひ厚さか此に耐ふるときに限る然れとも互有者は其牆壁に窓孔を鑿ち又室内用の為め些少の凹穴をも鑿つことを得す

 互有者は互有の牆壁の高さを増すことを得但其牆壁の堅牢此に耐ふるとき又は自費にて工事を加へ若くは改築を為して堅牢ならしむるときに限る此場合に於て其高さを増したる部分は互有に非す

 互有者は互有の溝渠に雨水又は家用、工業用の水を注下することを得

 互有者は互有の生籬を剪伐したる樹枝を平分し又其生籬に存する高木の伐除を要求することを得  

256

 相隣者の一人か石又は煉瓦にて土地の囲障又は建物の牆壁を分界線に接し又は此より一尺に満たさる距離に於て築造したるときは他の一人は現時の相場にて材料代及ひ手間賃の半額を償ひて常に其互有権の譲渡を要求することを得前条第3項に従ひて増築したる牆壁に付ても亦同し

 互有権の譲渡を要求する相隣者は囲障、牆壁の敷地及ひ之と分界線との間の地面に付き地上権のみを要求することを得此地上権に付ては鑑定人の評定したる定期の納額を建物の存立間払ふ責に任す

 本条に依り牆壁の互有権を取得したる者は前条の規定に従ひて之を使用することを得然れとも人為上の観望の地役として其牆壁に設けたる窓孔を塞かしむることを得す

 石造、煉瓦造に非さる囲障、隔壁及ひ籬柵、溝渠、土手に付ては共担の費用を以てせる設定又は協議上の譲渡に因るに非されは互有権を生せす  

257

 所有者は石造、煉瓦造に非さる建物を築造するときは其建物と土地の分界線との間には其地方の慣習にて定まりたる尺度の距離を存することを要す

 此距離を存せすして築造するときは一方の相隣者は築造の間は第201条に従ひて新工告発の占有訴権を行ふことを得

 右築造竣成の後一方の相隣者か建物を築造せんとし其工事の為め自己の地上に於て分界線より慣習の尺度を超ゆる距離を要するに因り建物を其尺度外に退けたるときは其余分に退けたる地面に応し前築造者に対して償金を要求することを得 

 

6款 他人の所有地に対する観望及ひ明取窓

 

258

 二箇の土地の分界線より少なくとも三尺の距離あるに非されは建物に窓又は縁側を設けて他人の所有地を直線に観望することを得す

 此距離は窓又は縁側の突出したる部分より直角線にて分界線に至るまてを測算す  

259

 右距離の制限を遵守するに不便なるときは目隠を以て窓を蔽ふことを要す但其目隠は分界線上に突出することを得す

 目隠を設くる能はさるときは明取窓に非されは之を設くることを得す此明取窓は其下部より床板まて少なくとも六尺と為し格子を附著し其格子目は一寸以内たることを要す

 此場合に於て尚ほ隣地の所有者は目隠か一尺以上分界線を踰ゆるを許して之を設けしむることを得  

260

 観望又は明取窓に関する前2条の規定は建物と対向する隣地の建物に窓孔なきときは之を適用せす 

 

7款 或る工作物に要する距離

 

261

 自己の土地に井戸、用水溜、下水溜又は糞尿坑を穿たんとする所有者は分界線より少なくとも六尺の距離を存することを要す但土砂の崩壊又は水液の滲漏を防くに必要なる工事を為す可し

 乾燥して覆葢ある地窖に付ては右距離を三尺に減す

 水路に供したる石樋又は溝渠に付ては右距離は少なくとも其深さの半に同しきことを要す然れとも三尺を踰ゆることを要せす

 右溝渠は分界線の方の崖を斜に削下し又は石垣若くは木柵を以て之を支持す可し  

262

 高さ三間に踰ゆる竹木は分界線より六尺に満たさる距離内に之を栽植し又は保持することを得す

 高さ三間に満たす一間に踰ゆる竹木に付ては二尺の距離を存することを要す

 此他矮小の竹木は直ちに之を分界線に接著せしむることを得

 右孰れの場合に於ても相隣者は竹木の所有者に対し分界線を踰えたる枝の剪除を要求することを得又自己の土地を侵せる根を自ら截去することを得

 前条及ひ本条の規定は二箇の土地の分界か互有なるときと雖も之を適用す  

263

 右に異なりたる慣習あるときは前2条の規定に依らすして其慣習を遵守す  

264

 危険を含み衛生を害し又は不都合を生する営業に付き近隣の利益の為めに要する条件は行政法を以て之を規定す

 

前諸款に共通なる規則

 

265

 本節の規定は国、府県、市町村の私有及ひ公有の財産に付き働方及ひ受方にて之を適用す

 然れとも公有財産は水の疏通及ひ互有の要求権に服せす 

 

2節 人為を以て設定したる地役

 

1款 地役の性質及ひ種類

 

266

 相隣者は其不動産の利益又は負担にて諸種の地役を設定することを得但其地役か公の秩序に反せさることを要す  

267

 地役は不動産の所有権か何人に移転するも働方又は受方に於て其不動産に従として附著す

 働方の地役は要役地より分離して之を譲渡し賃貸し又は抵当と為すことを得す又地役の上に地役を設定することを得す  

268

 地役は不動産か数人の共有に属するときは其一人自己の持分に付き要役地に地役を失はしめ又承役地に之を免かれしむることを得さるに因りて之を不可分とす

 又土地の分割又は其一分の譲渡の場合に於て地役は不可分にて承役地の各部分を累はし又は要役地の各部分を利す但其地役か承役地の一部分に対するに非されは有益に行はれす又は要役地の一部分の為めに非されは便益を得せしめさる場合は此限に在らす  

269

 要役地の所有者は自己に属すと主張する地役に付き占有に係ると本権に係るとを問はす要請訴権を行ふことを得

 又承役地なりとの主張を受けたる不動産の所有者は其争ふ地役の行使を拒み又は之を止ましむる為め占有に係ると本権に係るとを問はす拒却訴権を行ふことを得  

270

 前3条の規定は法律を以て設定したる地役に之を適用す  

271

 地役の種類は之を左に掲く

  第1 継続又は不継続の地役

  第2 表見又は不表見の地役

  第3 有的又は無的の地役  

272

 地役か場所の位置のみに因り人の所為を要せすして間断なく要役地に便を与へ承役地に累を為すときは継続地役なり

 地役か要役地の便益の為め時時人の所為を要するときは不継続地役なり  

273

 地役か外見の工作又は形跡に因りて顕露するときは表見地役にして之に反するときは不表見地役なり  

274

 地役は左の場合に於ては有的地役なり

  第1 不動産の所有者か他人の不動産より或る便益を取ることを得るとき

  第2 不動産の所有者か相隣便益の為め法律の普通に制禁する或る工作を自己の不動産に為すことを得るとき

 地役は左の場合に於ては無的地役なり

  第1 不動産の所有者か普通に所有者に許さる可き所為を隣人か自己の不動産に為すを禁することを得るとき

  第2 不動産の所有者か普通法に従ひ自己の不動産に於て相隣便益の為めに為す可く又は許す可き所為を為さす又は許ささることを得るとき

 

2款 地役の設定

 

275

 地役は合意又は遺言を以て之を設定することを得

 右孰れの場合に於ても当事者の間に於けると第三者に対するとを問はす地役の有効なる為めには不動産物権の譲渡に関する通常規則を遵守す可し  

276

 不動産所有権に関し時効より生する正当なる取得推定は継続且表見の地役にのみ之を適用す

 隣地より引く水の取得に関する時効の期間は其時効を援用する所有者か自己の土地又は承役地に於て其便益の為め水を聚合し及ひ引入する外見の工作物を作りたる当時より起算す  

277

 初め一人の所有に属したる二箇の土地か不分の時既に継続且表見の地役の成立す可き位置を成し其分離の時此形状を変更せす又は之を変更することを要約せさりしときは所有者の用方に因り此種の地役を設定したるものと看做す  

278

 不継続地役及ひ不表見地役は第275条に記載したる二箇の権原の一に依るに非されは之を設定することを得す  

279

 要役権を有すと主張する所有者は承役地の所有者より出て又は其前所有者の一人より出てたる地役追認の証書を差出すことを得るときは前に掲けたる方法の一に因れる地役設定の直接の証拠を挙くることを要せす

 

3款 地役の効力

 

280

 適法に取得したる地役権は其性質に従ひて行使に必要なる従たる権利及ひ権能を帯ふ

 右の外合意又は遺言を以て設定したる地役に付ては其合意又は遺言の解釈に関する一般の規則に従ふ又時効に基きたる地役に付ては実際占有の広狭を量り所有者の用方に因りて生したる地役に付ては設定者の意思を推定して其権利の広狭を定む  

281

 通行の地役、継続若くは不継続なる取水の地役、牧畜又は物料採取の地役に付き設定権原又は其後の合意に於て行使の時日、場所、方法又は収取の数量を定めさりしときは当事者の一方は常に他の一方と立会の上其定方を裁判所に請求することを得

 此定方に付ては裁判所は双方の需用を斟酌し且地役権行使の従来の実蹟を照査す可し  

282

 取水の地役に服する不動産の所有者は自己の所為に因りて水の欠乏を生せしめたるときに非されは其責に任せす

 二箇の不動産の需用の為めに水の不足するときは先つ家用に次に農業用に次に工業用に之を供す右は総て其不動産の重要の度に割合ふ可し

 数箇の要役地あるときは各要役地は家用の為め相共に水を使用す農工業用に付ては取水の先後は地役権取得の先後に従ふ  

283

 地役権を有する者は承役地の所有者の承諾あるに非されは正しく定置きたる行使の時日、場所又は方法を変更することを得す但承役地の所有者か如何なる損害をも受けさるときは此限に在らす

 又承役地の所有者か右変更に付き正当なる利益を得且要役地の所有者か如何なる損害をも受けさるときは承役地の所有者は其変更を要求することを得  

284

 地役を設定する為め或る工作物を必要とするときは其費用は要役地の所有者の負担に属す但承役地の所有者の負担に属す可きことを要約したるときは此限に在ら  

285

 地役の行使に関する工作物の保持及ひ修繕は亦要役地の所有者の負担に属す但修繕か承役地の所有者の過失に因りて必要と為りたるときは此限に在らす

 又承役地の所有者か保持及ひ修繕を負担す可きを合意することを得此場合に於て承役地の所有者は地役の存する不動産の部分を要役地の所有者に遺棄するときは常に右の負担を免かるることを得  

286

 承役地の所有者は地役の行使に如何なる妨碍をも為さす又其便益に如何なる減少をも生せさるに於ては其所有権に固有なる適法の権能を行ふことを得

 又承役地の所有者は地役の行使の為め其不動産に設けたる工作物を使用することを得但其所有者か工作物より収むる便益及ひ其使用に因り増加す可き費用に応して其建設又は保持の費用を分担す

 

4款 地役の消滅

 

287

 地役は左の諸件に因りて消滅す

  第1 地役を設定したる期間の満了

  第2 設定の権原又は設定者の権利の解除、鎖除又は廃罷

  第3 承役地の公用徴収

  第4 抛棄

  第5 混同

  第6 三十个年間の不使用

 第三者か地役あることを知らすして承役地を占有し其占有に不動産所有権の取得に関する時効に必要なる条件を具備するときは地役は消滅したりとの推定を受く  

288

 地役の抛棄は之を明示することを要す然れとも継続地役の行使の為め承役地に設けたる工作物の毀壊又は其使用の廃止に付き要役地の所有者か異議を留めすし

て明示の承諾を与へたるときは其地役を抛棄したりと看做す

 抛棄は抛棄者か自己の不動産権利を譲渡すの能力を有するときに非されは其効なし  

289

 地役は要役地及ひ承役地を一人の所有に併合したるときは混同に因りて消滅す

 然れとも其併合の行為を裁判上にて解除し鎖除し又は廃罷したるときは其地役を曾て消滅せさりしものと看做す

 右不動産を再ひ分離したるときは継続且表見の地役は第277条の規定に従ひて再生す

 290

 地役は要役地の所有者か任意たると否とを問はす其地役権を行ふ無くして三十个年を経過したるときは不使用に因りて消滅す

 右期間は不継続地役に付ては最後の使用の行為より之を起算し継続地役に付ては地役の自然の作用に対する形体上の妨碍の起れる当時より之を起算す

 右妨碍か承役地に起発したる事変より生するときは要役地の所有者は自費にて旧状に復することを得又其妨碍か承役地の所有者の所為より生するときは其費用を以て復旧す  

291

 要役地か数人の共有に属するときは其一人の権利の行使に因りて他の人の権利を保存す

 此他免責時効の停止又は中断に関する規則は地役の不使用に之を適用す  

292

 地役権の行使の時日、場所及ひ方法に関する利益は不使用又は時効の結果に因りて減殺を受くること有り  

 

2部 人権及ひ義務

 

総則

 

293条 人権即ち債権は常に義務と対当す

 義務は一人又は数人をして他の定まりたる一人又は数人に対して或る物を与へ又は或る事を為し若くは為ささることに服従せしむる人定法又は自然法の羈絆なり

 義務を負ふ者は之を債務者と名つけ義務に因りて利益を得る者は之を債権者と名つく

294条 人定法の義務は其履行に付き法律の許せる諸般の方法に依りて債務者を強要することを得るものなり

 自然の義務に対しては訴権を生せす

 

1章 義務の原因

 

総則

295条 義務は左の諸件より生す

  第1 合意

  第2 不当の利得

  第3 不正の損害

  第4 法律の規定

1節 合意

296条 合意とは物権と人権とを問はす或る権利を創設し若くは移転し又は之を変更し若くは消滅せしむるを目的とする二人又は数人の意思の合致を謂ふ

 合意か人権の創設を主たる目的とするときは之を契約と名つく

 

1款 合意の種類

 

297条 合意には双務のもの有り片務のもの有り

 当事者相互に義務を負担するときは其合意は双務のものなり

 当事者の一方のみか他の一方に対して義務を負担するときは其合意は片務のものなり

298条 合意には有償のもの有り無償のもの有り

 各当事者か出捐を為して相互に利益を得又は第三者をして之を得せしむるときは其合意は有償のものなり

 当事者の一方のみか何等の利益をも給せすして他の一方より利益を受くるときは其合意は無償のものなり

299条 合意には諾成のもの有り要物のもの有り

 合意か当事者の承諾のみを以て成立するときは其合意は諾成のものなり

 合意か当事者の承諾の外尚ほ目的物の引渡を要するときは其合意は要物のものなり

300条 合意には要式のもの有り不要式のもの有り

 公正証書を以て承諾を与ふ可き合意は要式のものなり

 此他の場合に於ける合意は不要式のものなり

301条 合意には実定のもの有り射倖のもの有り

 合意の成立及ひ効力か合意の当初より確実なるときは其合意は実定のものなり

 合意の成立又は其効力の全部若くは一分か偶然の事に繋るときは其合意は射倖のものなり

302条 合意には主たるもの有り従たるもの有り

 合意の成立か他の合意の成立に関係なきときは其合意は主たるものなり

 反対の場合に於ては其合意は従たるものなり

 主たる合意の無効は従たる合意の無効を惹起す但従たる合意か主たる合意の無効の場合に於て之に代はるを目的とするものなるときは此限に在らす

 従たる合意の無効は主たる合意の無効を惹起せす但当事者か其二箇の合意を分離す可からさるものと看做したるときは此限に在らす

303条 合意には有名のもの有り無名のもの有り

 有名の合意は固有の名称ありて本法又は商法に於ける特別の規則の目的たるものなり特別の規則を設けさる総ての場合に於ては其合意は本部の規則に従ふ

 無名の合意は本部に掲けたる合意の一般の規則に従ふ又有名の合意に特別なる規則は其合意と最も類似する無名の合意に之を適用することを得

 

2款 合意の成立及ひ有効の条件

 

304条 凡そ合意の成立する為めには左の三箇の条件を具備するを必要とす

  第1 当事者又は代人の承諾

  第2 確定にして各人か処分権を有する目的

  第3 真実且合法の原因

 右の外尚ほ要式の合意は必要の方式を遵守し要物の合意は返還せらる可き物の引渡を為したるに非されは成立せす

305条 合意の成立に必要なる条件の外尚ほ其有効なる為めには左に掲くる二箇の条件を具備するを必要とす

  第1 承諾の瑕疵を成す可き錯誤又は強暴の無きこと

  第2 当事者の能力あること又は有効に代理せられたること

306条 承諾とは利害関係人として合意に加はる総当事者の意思の合致を謂ふ

 当事者中の一人か承諾せさるときは他の当事者か承諾したるも合意は成立せす但此に異なる意思の存せし証拠あるときは此限に在らす

307条 承諾は書面、口頭又は容態を以て之を与ふることを得但此末の場合に於ては他に同意を表するの手段なきこと且承諾する意思の確証あることを要す

 又承諾は事情に因りて黙示より成ることを得

308条 遠隔の地に於て取結ふ合意の言込は其受諾の為め明示又は黙示の期間なきときは受諾の報なきの間は之を言消すことを得但言消の報の達するに先たち受諾の報を発したるときは其受諾は有効にして其言消は無効なり

 右に反し明示又は黙示の期間あるときは其期間は言込を言消すことを得す但言消の報か言込又は期間指示の報に先たち又は同時に先方に達したるときは此限に在らす

 此指示期間に受諾を為ささるときは言込は期間満了のみにて消滅す

 受諾も亦之を言消すことを得但其報か受諾の報に先たち又は同時に言込人に達することを要す

 言込人か死亡し又は合意する能力を失ひたるも先方か未た此事実を知らさる間は其受諾は有効なり

 郵便、電信の錯誤は差出人の責に帰す但郵便、電信の官署に対する求償権あるときは之を行ふことを妨けす

309条 当事者の錯誤にて合意の性質、目的又は原因の著眼に相違ありしときは其錯誤は承諾を阻却す

 合意の縁由の錯誤は其錯誤のみにては無効の原因を成さす但当事者の一方の詐欺に関して定むるものは此限に在らす

 当事者の身上の錯誤は其身上に付ての著眼か決意の原因たりしときは其錯誤は承諾を阻却す

 身上の著眼か合意の附随の原因たるに過きさるときは其合意は身上の錯誤の為め単に取消すことを得へきものなり

310条 物上の錯誤か物の品質に存するときは其錯誤は承諾の瑕疵を成す但其品質に付ての著眼か当事者の決意を助成せさるときは此限に在らす

 之に反して物の品格に存する錯誤は承諾の瑕疵を成さす但当事者の意思か明示又は事情に因りて品格に著眼したることの明白なるときは此限に在らす物の時代、出処又は用方の如き思想上の品格に付ても亦同し

 合意の履行の時期又は場所に存する錯誤に付ては前項の規定に従ふ

 算数、氏名、証書の日附又は場所の錯誤に付ては第559条の規定に従ふ

311条 法律の錯誤か或は合意の性質、原因又は効力に存するとき或は物の資格又は人の分限に存して其資格若くは分限か決意を為さしめたるときは其錯誤は事実の錯誤の如く承諾を阻却し又は其瑕疵を成す

 然れとも裁判所は宥恕す可き情状あるに非されは右錯誤の為め合意の無効を認許することを得す

 法律の錯誤は責罰に対し時期より生する法律上の失権に対し又は行為の違式より生する無効に対し此他公の秩序に係る法律、規則の不知に対しても当事者を救護する為めに之を認許せす

312条 詐欺は承諾を阻却せす又其瑕疵を成さす但詐欺か錯誤を惹起し其錯誤のみを以て前3条に記載せる如く承諾を阻却し又は其瑕疵を成すときは此限に在らす

 此他の場合に於ては詐欺は之を行ひたる者に対する損害賠償の訴権のみを生す

 然れとも当事者の一方か詐欺を行ひ其詐欺か他の一方をして合意を為すことに決意せしめたるときは其一方は補償の名義にて合意の取消を求め且損害あるときは

其賠償を求むることを得但其合意の取消は善意なる第三者を害することを得す

313条 強暴は当事者の一方か抵抗することを得さる暴行、脅迫を受けたるに因り枉けて合意を為したるときは承諾を阻却す

 当事者の一方か不可抗力に出てたる急迫の災害を避くる為め熟慮するの暇なくして過度なる義務を約し又は無思慮なる譲渡を為したるときも亦同し

 暴行、脅迫又は災害か抵抗す可からさるに非さるも当事者又は第三者の身体、財産の為め切迫にして一層重大の害を避くる為め当事者をして合意を為すことに決意せしめたるときは強暴は承諾の瑕疵を成す

314条 強暴に因りて身体財産に危難の恐を受けたる第三者か当事者の配偶者又は直系の親属若くは姻属なるときは其強暴は常に之を当事者に加へたりと看做す

 此他の人に付ては親属なると姻属なると又は外人なるとを問はす裁判所は此等の者に対して加へたる強暴か当事者の承諾に及ほせし影響を其事情に従ひて査定す

315条 強暴は当事者の一方の所為に出てたると第三者の所為に出てたると又第三者か其一方に通謀せると否とを問はす上の区別に従ひて承諾を阻却し又は其瑕疵を成

316条 強暴を受けたる一方は合意を鎖除することを得る場合に於ても強暴を行ひたる者に対し損害賠償のみを請求して其合意を維持することを得

 強暴か合意の決意を為さしめたるに非すして単に不利なる条件を承諾せしめたるときは其合意は鎖除することを得す但賠償の要求を妨けす

317条 強暴の場合に於て裁判所は当事者の男女、年齢、強弱、智愚及ひ相互の身分を斟酌す可し

 然れとも卑属親の尊属親に対する尊敬のみに出てたる畏懼は合意を取消す理由と為らす

318条 錯誤、強暴、詐欺及ひ無能力は之を推定せす其申立人より之を証することを要す

 当事者の双方に属する鎖除訴権の方法は相互の非理に基くときと雖も互に毀滅せす但損害あるときは其賠償の相殺を妨けす

319条 前数条の場合に於ける鎖除訴権は無能力者又は瑕疵ある承諾を与へたる者のみに属す

 然れとも処刑の言渡より生する無能力は言渡を受けたる者と合意を為したる者より之を申立つることを得

320条 取消すことを得へき合意を第3章第7節に定めたる期間に攻撃せさるときは黙示にて之を認諾したるものと看做す

 此他黙示認諾の場合及ひ明示認諾の方式は右同節の規定に従ふ

321条 合意は未来に係り且成立の不確定なる物を目的とすることを得此場合に於て諾約者は其諾約の実施を妨碍し若くは減縮する何等の事をも為さす又其実施に便す可き何等の事をも放却し若くは怠らさることを要す

 然れとも相続にて受く可き財産を譲渡す合意は其相続を遺す可き人の承諾ありと雖も之を為すことを得す

322条 合意は不法又は不能の作為又は不作為を目的とするときは無効なり

 合意の目的たる第三者の作為又は不作為か合法又は可能なりと雖も若し諾約者か其第三者に対して威権を有せさるときは其諾約は之を不能の作為又は不作為を目的とせるものと看做す

 然れとも何人にても第三者の作為又は不作為に付き明示にて担保人と為ることを得此場合に於ては諾約者は保証人の義務に服す

 又何人にても第三者に代はりて諾約を為し若し其第三者か之を履行せさるに於ては過怠金を弁済す可き責に服することを得

 何人にても第三者の名を以て合意を為し第三者をして之を承認せしむ可きことのみを諾約したるときは其第三者の承認したる時より義務を免かる

323条 要約者か合意に付き金銭に見積ることを得へき正当の利益を有せさるときは其合意は原因なき為め無効なり

 第三者の利益の為めに要約を為し且之に過怠約款を加へさるときは其要約は之を要約者に於て金銭に見積ることを得へき利益を有せさるものと看做す

 然れとも第三者の利益に於ける要約は要約者か自己の為め為したる要約の従たり又は諾約者に為したる贈与の従たる条件なるときは有効なり

 右二箇の場合に於て従たる条件の履行を得さるときは要約者は単に合意の解除訴権又は過怠約款の履行訴権を行ふことを得

324条 主たり又は従たる要約は常に要約者の相続人の利益の為めに之を為すことを得

 主たり又は従たる諾約は諾約者の相続人の負担として之を為すことを得

325  前2条の場合に於て第三者又は相続人の利益の為めに為したる要約は享益者の之を承諾せさる間は要約者は自己の利益の為めに之を廃罷し又は之を他人に移転することを得

326条 合意の証書に原因を明示したると否とを問はす其原因の不成立、虚妄又は不法なることの証拠は被告より之を為す可きものとす若し原因の明示なきときは被告は先つ原告をして其原因を陳述せしむる為めに之に催告することを得但其原因に付き争ふことを妨けす

 

3款 合意の効力

 

1則 当事者間及ひ其承継人間の合意の効力

 

327条 適法に為したる合意は当事者の間に於て法律に同しき効力を有す

 此合意は当事者の双方か承諾するに非されは之を廃罷することを得す但法律か一方の意思を以て廃罷することを許せる場合は此限に在らす

328条 当事者は合意を以て普通法の規定に依らさることを得又其効力を増減することを得但公の秩序及ひ善良の風俗に触るることを得す

329条 合意は当事者の明示及ひ黙示の効力のみならす尚ほ合意の性質に従ひて条理若くは慣習より生し又は法律の規定より生する効力を有す

330条 合意は善意を以て之を履行することを要す

331条 特定物を授与する合意は引渡を要せすして直ちに其所有権を移転す但合意に附帯すること有る可き停止条件に関し下に規定するものを妨けす

332条 代替物を授与する合意は諾約者をして其物の所有権を約束したる性質、品格及ひ分量を以て要約者に移転する義務を負はしむ此場合に於て所有権は物の引渡に因り又は当事者立会にて為したる其指定に因りて移転す

333条 前2条の場合に於ては約束したる時日及ひ場所に於て諾約者の注意及ひ費用にて物の引渡を為すことを要す

 引取の費用は要約者之を負担す

 証書の費用は有償行為に付ては当事者双方之を負担し無償行為に付ては享益者之を負担す

 不動産の引渡は証書の交付及ひ場所の明渡を以て之を為す但簡易の引渡及ひ占有の改定に関し第191条に規定したるものを妨けす

 債権の引渡は証書の交付を以て之を為す

 引渡の期限の定まらさりしときは即時に引渡を要求することを得

 引渡の場所の定まらさりしときは特定物に付ては合意の当時其物の存在せし場所、代替物に付ては其物の指定を為したる場所其他の場合に在ては諾約者の住所に於て引渡を為す

334条 諾約者は特定物の引渡を為すまて善良なる管理人たるの注意を以て其物を保存することを要す懈怠又は悪意あるときは損害賠償の責に任す

 無償にて譲渡したる物の保存に付ては諾約者は自己の物に加ふると同一の注意を加ふるのみの責に任す

 此他諾約者か右と同一の注意のみを負担する場合は其各事項に於て之を規定す  

335

 授与する合意か特定物を目的とするときは意外の事又は不可抗力に出てたる其物の滅失又は毀損は諾約者か危険を負担したる場合及ひ停止条件に関する規定を除く外要約者の損に帰し其物の増加は要約者の益に帰す

 然れとも諾約者か物の引渡の遅滞に付せられたるときは其滅失又は毀損は諾約者の負担に帰す但縦令引渡を為したるも滅失又は毀損を免る可からさりし場合は此限に在らす  

336

 左の場合に於ては諾約者其他の債務者は遅滞に付せられたるものとす

  第1 期限の到来後に裁判所に請求を為し又は合式に催告書を送達し若くは執行文を示したるとき

  第2 期限の到来のみに因りて遅滞に付することを法律又は合意を以て定めたる場合に於て其期限の到来したるとき

  第3 諾約者か或る時期に後れたる履行は要約者に無用なることを知りて其時期を経過せしめたるとき  

337

 作為又は不作為の義務を定むる合意の効力は第382条の規定に従ふ  

338

 合意は当事者の相続人其他一般の承継人を利し又は之を害す但法律又は合意に於て格別の定を為したる場合は此限に在らす  

339

 債権者は其債務者に属する権利を申立て及ひ其訴権を行ふことを得

 債権者は此事の為め或は差押の方法に依り或は債務者の原告又は被告たる訴に参加することに依り或は民事訴訟法に従ひて得たる裁判上の代位を以て第三者に対する間接の訴に依る

 然れとも債権者は債務者に属する純然たる権能又は債務者の一身に専属する権利を行ふことを得す又法律又は合意の明文を以て差押を禁したる財産を差押ふることを得す  

340

 右に反し債権者は其債務者か第三者に対し承諾したる義務、抛棄又は譲渡に付き其損害を受く但債権者の権利を詐害する行為は此限に在らす

 債務者か其債権者を害することを知りて自己の財産を減し又は自己の債務を増したるときは之を詐害の行為とす  

341

 詐害の行為の廃罷は債務者と約束したる者及ひ転得者に対し次条の区別に従ひ債権者より廃罷訴権を以て之を請求す

 債務者か原告たると被告たるとを問はす詐害する意思を以て故さらに訴訟に失敗したるときは債権者は民事訴訟法に従ひ再審の方法に依りて訴ふることを得

 右孰れの場合に於ても債務者を訴訟に参加せしむることを要す

 債権者か詐害の行為の廃罷を得る能はさるときは被告に対して損害賠償を要求することを得  

342

 債権者は攻撃する行為の如何を問はす其債務者の詐害を証することを要す此他有償の行為に付ては債務者と約束し又は之と訴訟したる者の通謀を証することを要

 譲渡に対する廃罷訴権は有償又は無償の転得者か最初の取得者と約束するに当り債権者に加へたる詐害を知りたるときに非されは其転得者に対して之を行ふことを得す  

343

 廃罷は詐害行為に先たち権利を取得したる債権者に非されは之を請求することを得す然れとも廃罷を得たるときは総債権者を利す但各債権者の間に於て適法の先取原因の存するときは此限に在らす  

344

 廃罷訴権は詐害行為の有りたる時より三十个年にして時効に罹り消滅す若し債権者か詐害を覚知したるときは其覚知の時より二个年にして消滅す

 右の時効は再審申立の訴権に之を適用す 

 

2則 第三者に対する合意の効力

 

345

 合意は当事者及ひ其承継人の間に非されは効力を有せすと雖も法律に定めたる場合に於てし且其条件に従ふときは第三者に対して効力を生す  

346

 所有者か一箇の有体動産を二箇の合意を以て各別に二人に与へたるときは其二人中現に占有する者は証書の日附は後なりとも其所有者たり但其者か自己の合意を為す当時に於て前の合意を知らす且前の合意を為したる者の財産を管理する責任なきことを要す

 此規則は無記名証券に之を適用す  

347

 記名証券の譲受人は債務者に其譲受を合式に告知し又は債務者か公正証書若くは私署証書を以て之を承諾したる後に非されは自己の権利を以て譲渡人の承継人及ひ債務者に対抗することを得す

 債務者は譲渡を承諾したるときは譲渡人に対する抗弁を以て新債権者に対抗することを得す又譲渡に付ての告知のみにては債務者をして其告知後に生する抗弁のみを失はしむ

 右の行為の一を為すまては債務者の弁済、免責の合意、譲渡人の債権者より為したる払渡差押又は合式に告知し若くは承諾を得たる新譲渡は総て善意にて之を為したるものとの推定を受け且之を以て懈怠なる譲受人に対抗することを得

 当事者の悪意は其自白に因るに非されは之を証することを得す然れとも譲渡人と通謀したる詐害ありしときは其通謀は通常の証拠方法を以て之を証することを得

 裏書を以てする商証券の譲渡に特別なる規則は商法を以て之を規定す  

348

 左に掲くる諸件は財産所在地の区裁判所に備へたる登記簿に之を登記す

  第1 不動産所有権其他の不動産物権の譲渡

  第2 右の権利の変更又は抛棄

  第3 差押へたる不動産の競落

  第4 公用徴収を宣言したる判決又は行政上の命令  

349

 登記は当事者の請願に因り其費用を以て之を為す

 請願者には其求に因りて登記の認証書を交付す

 何人にても登記簿の抄本を要求することを得

 登記に関する方式は特別法を以て之を規定す  

350

 第348条に掲けたる行為、判決又は命令の効力に因りて取得し変更し又は取回したる物権は其登記を為すまては仍ほ名義上の所有者と此物権に付き約束したる者

又は其所有者より此物権と相容れさる権利を取得したる者に対抗することを得す但其者の善意にして且其行為の登記を要するものなるときは之を為したるときに限る

 悪意及ひ通謀に付ては第347条の規定に従ひて之を証することを得  

351

 法律、裁判又は合意に因りて前取得者の為め登記を為す義務ある者か之を為さすして後に取得者と為りたるときは善意たりと雖も自己又は其相続人若くは一般の承継人より登記なきことを申立てて前取得者に対抗することを得す  

352

 登記を経たる譲渡の解除、鎖除又は廃罷を為さんとする訴権か善意の転得者に対して行ふことを得さる場合に在ては原告は爾後自己に対抗することを得へき登記を防止する為め其攻撃する行為の登記に予め訴状の抜抄を附記す

 右の訴権を総ての転得者に対して行ふことを得へき場合に在ては其攻撃する行為の登記に訴状を附記せさる間は裁判所に於て其訴訟を受理せす

 行為取消の判決は仮執行たりとも其執行以前に訴状の附記の末尾に之を記載することを要す縦令執行なきも亦其判決の確定と為りたる時より一个月内に之を記載することを要す此に違ひたるときは其判決を得たる者を五十円以下の過料に処す裁判所は請求を却下し又は其手続の失効を宣告したるときは其判決の確定に至りて訴状の附記を抹消せしむる為め職権を以て予め其抹消を命す

 原告か取下を為したるときは当事者の請願に因りて訴状の附記を抹消す  

353

 登記を経たる行為の協議上の解除、鎖除又は廃罷は総て之を任意の譲戻と看做し第348条乃至第351条の規定に従ひて登記を為すことを要す

 右登記は登記官吏其職権を以て取消と為りたる行為の登記に之を附記す  

354

 登記及ひ附記は総て利害の関係を有する者より其抹消又は改正を請求することを得

 右請求及ひ其判決は第352条に規定したる如く其争ふ行為の登記に之を附記することを要す此に違ふ者の責罰も亦同条の規定に従ふ

 能力を有し又は合式に代理せられ若くは保佐せられたる当事者は協議にて抹消又は改正を承諾することを得

 裁判上にて合式に命し又は協議にて承諾したる抹消又は改正は登記を為したる権利者を此事に付き異議を述へしむる為めに召喚し又は其承服を得たるに非されは之に対抗することを得す  

355

 登記官吏は前数条に掲けたる登記、附記、抹消若くは改正又は登記認証書に於ける脱漏又は訛誤に付き請願者又は利害関係人に対して其責に任す

 

4款 合意の解釈

 

356

 合意の解釈に付ては裁判所は当事者の用ゐたる語辞の字義に拘はらんより寧ろ当事者の共通の意思を推尋することを要す  

357

 一箇の語辞か各地に於て意義を異にするときは当事者双方の住所を有する地に於て慣用する意義に従ひ若し同一の地に住所を有せさるときは合意を為したる地に於て慣用する意義に従ふ

 一箇の語辞に本来二様の意義あるときは其合意の性質及ひ目的に最も適する意義に従ふ  

358

 合意の各項目は合意の全体と最も善く一致する意義に従ひて相互に之を解釈す

 一箇の項目に二様の意義ありて其一か項目を有効ならしむるときは其意義に従ふ  

359

 合意の語辞か如何に広泛なるも其語辞は当事者の合意を為すに付き期望したる目的のみを包含せるものと推定す

 当事者か合意の自然若くは法律上の効力の一を明言し又は特別の場合に於ける其適用を明言したるも慣習若くは法律に因りて生する他の効力又は適当に受く可き他の適用を阻却せんと欲したるものと推定せす  

360

 総ての場合に於て当事者の意思に疑あるときは其合意の解釈は諾約者の利と為る可き意義に従ふ

 双務の合意に於ては此規定は各項目に付き各別に之を適用す

 

2節 不当の利得

 

361

 何人にても有意と無意と又錯誤と故意とを問はす正当の原因なくして他人の財産に付き利を得たる者は其不当の利得の取戻を受く

 此規定は下の区別に従ひ主として左の諸件に之を適用す

  第1 他人の事務の管理

  第2 負担なくして弁済したる物及ひ虚妄若くは不法の原因の為め又は成就せす若くは消滅したる原因の為めに供与したる物の領受

  第3 遺贈其他遺言の負担を付したる相続の受諾

  第4 他人の物の添附より又は他人の労力より生する所有物の増加

  第5 他人の物の占有者か不法に収取したる果実、産出物其他の利益及ひ之に反して占有者か其占有物に加へたる改良但第194条乃至第198条に規定したる区別に従ふ  

362

 不在者其他の人の財産に患害ありと見ゆるとき合意上、法律上又は裁判上の委任なく好意を以て其事務を管理する者は本主の財産より収めたる利益を返還し且其管理の際自己の名にて取得したる権利及ひ訴権を本主に移転する責あり

 右管理者は本主又は其相続人か自ら管理を為し得るに至るまて其管理を継続する責あり

 又右管理者は過失又は懈怠に因りて本主に加へたる損害の責に任す但管理者か其管理に任するに至れる事情を酌量することを要す  

363

 本主は管理者か管理の為めに出したる必要又は有益なる諸費用を賠償し及ひ管理者か其管理の為めに自身に負担したる義務を免かれしめ又は其担保を為すことを要す

 若し本主の意思に反し管理を為したるときは管理者は出訴の日に於て存在する費用又は約務の有益の限度に非されは賠償を受くることを得す  

364

 債権者に非すして弁済を受けたる者は其善意と悪意と又弁済者の錯誤と故意とを問はす訴を受けたる日に於て現に己れを利したるものの取戻を受く  

365

 弁済を受けたる者か債権者なるも債務者に非さる者より之を受けたるときは弁済者か錯誤にて弁済を為したるときに非されは其取戻を許さす

 債権者か弁済を受けたる為めに善意にて債権証書を毀滅せしときも亦其取戻を許さす

 右二箇の場合に於て弁済者か事務管理の訴権に依り又は代位弁済の規則に依り真の債務者に対して有する求償権を妨けす  

366

 真の債務者より真の債権者に弁済を為したる場合に在ては債務者か其負担したる物に異なる性質の物又は自己に属せさる物を錯誤に因り弁済として与へたるときに非されは其取戻を許さす

 或は期限に先たちて弁済を為し或は弁済を実行す可き場所外に於て弁済を為し或は諾約したる物に異なる品質、品格若くは価格の物を以て弁済を為したるときも亦其取戻を許さす但当事者の一方の錯誤に出てたるときは其一方は為めに受けたる損失を他の一方の得たる利益の割合に応して賠償せしむることを妨けす  

367

 第361条第2号に掲けたる供与にして弁済の性質を有せさるものにも亦第364条の規定を適用す

 然れとも不法の原因の為め供与したる物又は有価物は其原因か之を供与したる者の方に於て不法なるときは其取戻を許さす  

368

 第361条第2号に掲けたる供与を悪意にて領受したる者は訴を受けたる日に於て其不当に己れを利したるものの外尚ほ左の物を返還す可し

  第1 元本を領受せし時よりの法律上の利息

  第2 収取を怠り又は消費したる特定物の果実及ひ産出物

  第3 自己の過失又は懈怠に因る物の価額の喪失又は減少の償金縦令其喪失又は減少か意外の事又は不可抗力に因るも其物か供与者の方に在るに於ては此損害を受けさる可かりしときは亦同し  

369

 不当に領受したる物か不動産にして且之を第三者に譲渡したるときは初の引渡人は其選択を以て或は第三所持者に対して其不動産の回復を訴へ或は領受者に対して其代金の取戻を訴ふることを得

 善意なる領受者に対しては単に不動産の譲渡代金を取戻し又は其代金に関する訴権を要求し悪意なる領受者に対しては其代金を評価にて取戻すことをも得

 

3節 不正の損害即ち犯罪及ひ准犯罪

 

370

 過失又は懈怠に因りて他人に損害を加へたる者は其賠償を為す責に任す

 此損害の所為か有意に出てたるときは其所為は民事の犯罪を成し無意に出てたるときは准犯罪を成す

 犯罪及ひ准犯罪の責任の広狭は合意の履行に於ける詐欺及ひ過失の責任に関する次章第二節の規定に従ふ  

371

 何人を問はす自己の所為又は懈怠より生する損害に付き責に任するのみならす尚ほ自己の威権の下に在る者の所為又は懈怠及ひ自己に属する物より生する損害に付き下の区別に従ひて其責に任す  

372

 父権を行ふ尊属親は己れと同居する未成年の卑属親の加へたる損害に付き其責に任す

 後見人は己れと同居する被後見人の加へたる損害に付き其責に任す

 瘋癲白痴者を看守する者は瘋癲白痴者の加へたる損害に付き其責に任す

 教師、師匠及ひ工場長は未成年の生徒、習業者及ひ職工か自己の監督の下に在る間に加へたる損害に付き其責に任す

 本条に指定したる責任者は損害の所為を防止する能はさりしことを証するときは其責に任せす  

373

 主人、親方又は工事、運送等の営業人若くは総ての委託者は其雇人、使用人、職工又は受任者か受任の職務を行ふ為め又は之を行ふに際して加へたる損害に付き其責に任す  

374

 動物の加へたる損害の責任は其所有者又は損害の当時之を使用せる者に帰す但其損害か意外の事又は不可抗力に出てたるときは此限に在らす  

375

 建物其他の工作物の所有者は此等の工作物の崩頽か修繕の欠缺又は築造の瑕疵に出てたるときは其崩頽に因りて加へたる損害の責に任す但此末の場合に於ては工事請負人に対する求償権を妨けす

 堤防の破潰に因り投錨若くは繋纜の粗忽に因り又は樹木、柱竿、目隠、看板、屋瓦其他堅牢を欠ける建物の部分の崩頽堕落に因りて加へたる損害に付ても亦同し  

376

 自治産なると否とを問はす未成年者は其有意又は粗忽にて加へたる不正の損害に付ては刑事上責任を免かる可きときと雖も民事上責任ありと宣告せらるること有り 

 又右未成年者は其雇人若くは使用人又は自己に属する物の加へたる損害に付き民事上其責に任せしめらるること有り但後見人に対する求償権を妨けす  

377

 前数条の場合に於て加害者に責任ありと認むるときは裁判所は之に対して主たる裁判を言渡し且民事担当人の附随の義務の広狭を定む但民事担当人は犯罪者に対して当然求償権を有す

 民事担当人は法律に特定したる場合に非されは犯罪者の言渡されたる罰金の責に任せす  

378

 本節に定めたる総ての場合に於て数人か同一の所為に付き責に任し各自の過失又は懈怠の部分を知る能はさるときは各自全部に付き義務を負担す但共謀の場合に於ては其義務は連帯なり  

379

 民事の犯罪又は准犯罪か刑事の犯罪を成すときは犯罪者に付ても民事担当人に付ても刑事訴訟法を以て定めたる民事訴訟の管轄及ひ時効に関する規則を適用す

 

4節 法律の規定

 

380

 或る義務は人の所為に拘はらす法律に依りて之を負担せしむ即ち左の如し

  第1 或る親族間又は或る姻族間の養料の義務

  第2 後見の義務

  第3 共有者間の義務

  第4 相隣者間の義務にして地役を成ささるもの

 此等の義務に特別なる規則は其各事項に於て之を掲く  

 

2章 義務の効力

 

総則

 

381

 義務の主たる効力は下の第1節第2節及ひ第3節に定めたる区別に従ひて其義務を直接に履行せしむる為め又不履行の場合に於ては附随として損害を賠償せしむる為めの訴権を債権者に与ふるに在り

 右の外義務の効力は第四節に定めたる義務の諸種の体様に従ひて其広狭を異にす

 

1節 直接履行の訴権

 

382

 義務の本旨に従ひて直接の履行を債権者より請求し且債務者の身体を拘束せすして履行せしむることを得る場合に於ては裁判所は其直接履行を命することを要す

 引渡す可き有体物にして債務者の財産中に在るものに付ては裁判所の威権を以て差押へ之を債権者に引渡す

 作為の義務に付ては裁判所は債務者の費用を以て第三者に之を為さしむることを債権者に許す

 不作為の義務に付ては其義務に背きて為したるものを債務者の費用を以て毀壊せしめ及ひ将来の為め適当の処分を為すことを債権者に許す

 此等の場合に於て損害ありたるときは其賠償を為さしむることを妨けす

 債務者に対する強制執行の方法は民事訴訟法を以て之を規定す

 

2節 損害賠償の訴権

 

383

 債務者か義務履行を拒絶したる場合に於て債権者強制執行を求めさるか又は義務の性質上強制執行を為すことを得さるときは債権者損害賠償を為さしむることを得債務者の責に帰す可き履行不能の場合に於ても亦同し

 又債権者は履行遅延のみの為め損害賠償を為さしむることを得

 法律を以て損害賠償の額を定めたる場合の外当事者之を定めさりしときは下の区別及ひ条件に従ひて裁判所之を定む  

384

 損害賠償は債務者か第336六条に依りて遅滞に付せられたる後に非されは之を負担せす

 然れとも不作為の義務に於ては債務者は常に当然遅滞に在り

 犯罪に因りて他人に属する金銭其他の有価物を返還する責に任する者も亦同し  

385

 損害賠償は債権者の受けたる損失の償金及ひ其失ひたる利得の填補を包含す

 然れとも債務者の悪意なく懈怠のみに出てたる不履行又は遅延に付ては損害賠償は当事者か合意の時に予見し又は予見するを得へかりし損失と利得の喪失とのみを包含す

 悪意の場合に於ては予見するを得さりし損害と雖も不履行より生する結果にして避く可からさるものたるときは債務者其賠償を負担す  

386

 損害賠償か主たる訴の目的たるときは裁判所は金銭にて其額を定む

 損害賠償の請求か直接履行の訴又は契約解除の訴の従たるときは裁判所は主たる請求を決すると同時に先つ数額不定の損害賠償を債務者に言渡し其計算は疏明を待ちて日後に之を為さしむることを得

 又裁判所は債務者に直接履行を命すると同時に其極度の期間を定め其遅延する日毎に又月毎に若干の償金を払ふ可きを言渡すことを得此場合に於ては債務者は直接履行を為さすして損害賠償の即時の計算を請求することを得  

387

 不履行又は遅延に関し当事者双方に非理あるときは裁判所は損害賠償を定むるに付き之を斟酌す  

388

 当事者は予め過怠約款を設け不履行又は遅延のみに付ての損害賠償を定むることを得  

389

 裁判所は過怠約款の数額を増すことを得す又不履行若くは遅延か債務者の過失のみに出てさるとき又は一分の履行ありたるときに非されは其数額を減することを得  

390

 双務契約に於て不履行に付ての過怠約款を要約したるときと雖も其債権者は解除の権利を失はす但明白に其権利を抛棄したるときは此限に在らす

 債権者は遅延のみに付ての過怠約款を要約したるときに非されは解除と過怠とを併せて要求することを得す  

391

 金銭を目的とする義務の遅延の損害賠償に付ては裁判所は法律上の利息の割合と異なる額に之を定むることを得す但法律の特例ある場合は此限に在らす

 当事者か損害賠償の数額を定むるときは合意上の利息の最上限以下たることを要す  

392

 債権者は右の損害賠償を請求する為めに何等の損失をも証する責に任せす又債務者は其請求を拒む為めに意外の事又は不可抗力を申立つることを得す  

393

 遅延利息を生せしむる為め債務者を遅滞に付するには裁判所に其利息を請求し又は債務者の特別の追認を得ることを要す但法律か当然此利息を生せしむる場合及ひ法律か催告其他の行為に因りて此利息を生せしむるを許せる場合は此限に在らす  

394

 要求するを得へき元本の利息は填補たると遅延たるとを問はす其一个年分の延滞せる毎に特別に合意し又は裁判所に請求し且其時より後に非されは此に利息を生せしむる為め元本に組入るることを得す

 然れとも建物又は土地の賃貸、無期又は終身の年金権の年金、返還を受く可き果実又は産出物の如き満期と為りたる入額は一个年未満の延滞たるときと雖も請求又は合意の時より其利息を生することを得

 債務者の免責の為め第三者の払ひたる元本の利息に付ても亦同し

 

3節 担保

 

395

 物権と人権とを問はす権利を譲渡したる者は譲渡以前の原因又は自己の責に帰す可き原因に基きたる追奪又は妨碍に対して其権利の完全なる行使及ひ自由なる収益を担保する責に任す

 担保に二箇の目的あり即ち第三者の主張に対し譲受人を保護すること及ひ防止する能はさりし妨碍若くは追奪に対し償金を払ふこと是なり  

396

 担保は有償の行為に付ては反対の要約なきときは当然存立し無償の行為に付ては之を諾約したるに非されは存立せす

 然れとも如何なる場合に於ても又如何なる要約の為めにも譲渡人は自ら譲受人に妨碍を加ふることを得す又第三者か譲渡人の授与したる権利に依りて譲受人に妨

碍を加へ又は追脱を為したるときは譲渡人は其担保の責に任す但権利の授与か無担保にて為したる譲渡の以前に在るときと雖も亦同し

 右担保の義務は譲渡人の相続人に移転す  

397

 買主又は賃借人の為めにする売主又は賃貸人の担保及ひ共同分割者の相互の担保に特別なる規則は其担保を生する契約及ひ行為の各事項に於て之を規定す  

398

 他人と共に又は他人の為めに義務を負担する者は保証、連帯及ひ不可分の事項に於て規定したる如く他人の免責の為めに為したる弁済に付き担保の求償権を有

 又債権者の一人か連帯又は不可分の義務の皆済を受けたるときは他の債権者は其一人の収めたる利益の分与に付き之に対して特別なる訴権を有せさるときは担保の訴権を有す  

399

 担保に付き権利を有する者は訴を受けたるとき民事訴訟法に従ひて担保人の訴訟参加を請求することを得  

400

 担保人を訴訟に参加せしめすして追奪を受け又は他人の債務を弁済したる者は主たる訴権を以て担保人に対し担保を請求することを得但担保人か前の請求を却下せしむるに有効なる方法を有せしことを証するときは此限に在らす

 

4節 義務の諸種の体様

 

401

 義務は左の場合に従ひて其体様を変す

  第1 義務の成立の単純、有期又は条件附なるとき

  第2 義務の目的の単一、選択又は任意なるとき

  第3 債権者又は債務者の単数又は複数なるとき

  第4 義務の性質又は其履行の可分又は不可分なるとき

 義務は其体様の変するに従ひて其効力も亦変す 

 

1款 成立の単純、有期又は条件附なる義務

 

402

 義務の成立か初より正確にして且即時に要求することを得へきときは其義務は単純なり  

403

 債権者か或る時期前又は時期は確定せさるも必す到来す可き或る事件の到来前に履行を求むることを得さるときは其義務は有期なり

 当事者の定めたる期限又は法律に依りて許与したる期限は之を権利上の期限とす

 債務者の為し得へき時又は欲する時に弁済す可しとの語辞あるときは裁判所は債権者の請求に因り事情に従ひ及ひ当事者の意思を推定して其履行の期間を定む

但当事者か無期の年金権を設定せんと欲したる場合は此限に在らす  

404

 債務者は期限の利益を抛棄して満期前に其義務を履行することを得但要約に因り又は事情に因りて当事者双方の利益又は債権者のみの利益の為めに期限を定めたる証拠あるときは此限に在らす

 債権者のみの利益の為めに期限を定めたる場合に於ては債権者も其期限を抛棄することを得

 当事者か錯誤に因りて満期前に弁済したる場合に於ては第366条の規定に従ふ  

405

 債務者は左の場合に於て債権者の請求に因り権利上の期限の利益を失ふ

  第1 債務者か破産し又は顕然無資力と為りたるとき

  第2 債務者か財産の多分を譲渡し又は其多分か他の債権者の差押を受けたるとき

  第3 債務者か其供したる特別の担保を毀滅し若くは減少し又は其予約したる担保を供せさるとき

  第4 債務者か填補利息を払はさるとき  

406

 権利上の期限の有無を問はす又執行力を有する証書ある場合と雖も債務者か不幸且善意にして債権者か猶予の為め確実の損害を受けさる可きときは裁判所は債務者に相応なる恩恵上の期限を許与することを得

 又裁判所は右の条件に従ひて債務の一分つつの履行を許すことを得

 右に反する要約は総て無効なり  

407

 恩恵上の期限を得たる債務者は第405条に定めたる場合の外尚ほ左の場合に於ても之を失ふ

  第1 債務者か逃亡し又は住所を去りて債権者に其居所を隠秘するとき

  第2 債務者か一个年以上の禁錮の刑を受けたるとき

  第3 債務者か言渡を受けたる条件の一を行はさるとき

  第4 債務者か法律上の相殺を為し得へき場合に於て自ら其債権者の債権者と為りたるとき

 恩恵上の期限は裁判所に於て更に之を延ふることを得す  

408

 当事者又は法律か義務の発生又は消滅を未来且不確定の事件の有無に繋らしむるときは其義務は条件附なり此条件は第一の場合に於ては停止にして第二の場合に於ては解除なり

 物権も亦主たると従たるとを問はす之を停止又は解除の条件に繋らしむるを得  

409

 停止の条件の成就するときは合意の日に遡りて其効を生す

 解除の条件の成就するときは当事者をして合意前の各自の地位に復せしむ  

410

 停止又は解除の条件か成就せさる間は当事者の各自は条件を帯ひたる権利を其儘に第三者に授与することを得

 然れとも其条件を第347条以下に定めたる方法に従ひて公示したるに非されは当事者の一方又は其承継人は之を以て他の一方の承継人に対抗することを得す  

411

 解除条件を帯ひたる権利を有する者の善意に出て且法律に従ひて為したる管理の行為は第三者の利益の為めに之を保持す

 解除条件を帯ひたる権利を有する当事者の一方と第三者とに対して言渡されたる判決は他の一方又は其承継人之を援用することを得

 然れとも右判決は他の一方の当事者又は其承継人を異議申述の為めに訴訟に召喚せさりしときは之を以て其当事者又は承継人に対抗することを得す但其判決か管理の行為のみに関するときは此限に在らす  

412

 条件の成就したるときは物又は金銭を引渡し又は返還す可き当事者は其成就せさる間に収取し又は満期と為れる果実若くは利息を交付することを要す但当事者間に反対の意思ある証拠か事情より生するときは此限に在らす  

413

 合意の主たる目的を不能又は不法の条件に繋らしめたるときは其合意は無効なり

 当事者の一方か或は禁止の所為を行ひ又は本分の責務を尽ささるに因りて自己に利を得或は禁止の所為を行はす又は本分の責務を尽すに因りて自己に害を受く可きときは其条件は不法なり

 不能又は不法の条件か合意の従たる効力のみに関するときは其約款のみ成立せす  

414

 条件か偶成なるとき又は其全部若くは一分か要約者の随意なるとき諾約者か其成就を妨けたるに於ては其条件は之を成就したるものと看做す  

415

 条件か全く当事者の一方の随意なるときは他の一方は其成否を決す可き或る期間を定めんと裁判所に請求することを得  

416

 有的条件の為め当事者又は裁判所か或る期限を定めたる場合に於て事件か到来せすして此期限を経過したるときは其条件は之を成就せさるものと看做す条件の成否の為め期限を定めたると否とを問はす事件の到来せさることの確実と為りたるときも亦同し

 無的条件の為め或る期限を定めたる場合に於て事件か到来せすして此期限を経過したるときは其条件は之を成就したるものと看做す又其期限を定めたると否とを問はす事件の到来せさることの確実と為りたるときも亦同し

 右孰れの場合に於ても裁判所は当事者の定めたる期限を延ふることを得す  

417

 当事者の一方又は双方か条件の成就又は不成就の前に死亡したるときは合意の効力は其相続人に対し働方又は受方にて存在す但条件か其性質に因り又は当事者の意思に因りて要約者又は諾約者の一身のみに附著したるときは此限に在らす  

418

 条件か如何様に成就す可きか又は如何なる時に成就し又は成就せすと看做さる可きかを知ることは当事者の明示又は黙示の意思に従ひて之を決す其条件の一分の成就より生す可き効力に付ても亦同し  

419

 諾約したる物か諾約者の過失なくして停止条件の成就前に其価額の全部又は其過半の喪失したるときは合意は之を成立せすと看做し且孰れの方より何等の要求をも為すことを得す

 之に反し解除条件を以て諾約したるときは右同一の喪失は要約者の権利確定して其負担に帰し且何等の返還をも要求することを得す

 前2項の場合に於て喪失か価額の半を超えさるときは条件の成就は合意の効力を生す  

420

 一分の喪失か当事者の一方の責に帰す可きときは他の一方は自己の選択を以て或は損失の償金と共に合意の履行を請求し或は損害の賠償と共に合意の解除を請求することを得

 又全部喪失の場合に於ては損害の賠償を請求することを得  

421

 凡そ双務契約には義務を履行し又は履行の言込を為せる当事者の一方の利益の為め他の一方の義務不履行の場合に於て常に解除条件を包含す

 此場合に於て解除は当然行はれす損害を受けたる一方より之を請求することを要す然れとも裁判所は第406条に従ひ他の一方に恩恵上の期限を許与することを得  

422

 当事者は前条の解除を行はさる旨を明約することを得

 又当事者は履行の遅滞に付せられたる一方に対して解除の当然行はる可き旨を明約することを得然れとも遅滞に付せられたる一方は他の一方か其解除を申立つる

に非されは自己より之を申立つることを得す  

423

 不履行の為めに損害を受けたる当事者は黙示の解除の場合に於て未た之を裁判上にて請求せさる間又は明示の解除の場合に於て未た之を援用する旨を述へさる間は其解除を抛棄することを得  

424

 裁判上にて解除を請求し又は援用する当事者は其受けたる損害の賠償を求むることを得  

425

 当事者は其権利か停止条件に繋り又は其訴権か権利上若くは恩恵上の期限の為めに阻止を受くると雖も其間に於て本法及ひ民事訴訟法の規定に従ひて自己の権利の保存処分を為すことを得  

426

 売買契約に於て特に慣用する随意の停止又は解除の条件に付ては財産取得編第29条乃至第32条の規定に従ふ

 

2款 目的の単一、選択又は任意の義務

 

427

 義務か一箇若くは数箇の特定物又は定量物或は物の聚合、財産の包括を目的とするときは其義務は単一なり

 又義務か同時又は順次に数箇の各別なる供与を目的とする場合と雖も唯一又は牽連の合意を以て其供与を負担したるときは尚ほ其義務は之を単一なりと看做す

 右孰れの場合に於ても債務者は負担したる総ての物を供与するに非されは其義務を免かるることを得す  

428

 義務か数箇の各別なる目的を有するも債務者か其中の幾箇の供与を為すに因りて義務を免かる可きときは其義務は選択なり

 供与す可き物の選択は債務者に属す但其選択を債権者に許与したるときは此限に在らす

 然れとも債務者は選択にて負担したる数箇の物の各の一分を受くることを債権者に強ひ又債権者は其各の一分を与ふることを債務者に強ふることを得す  

429

 選択を有する当事者の孰れたるを問はす二箇の物の一か意外の事又は不可抗力に因りて滅失したるときは義務は単一と為りて其残る所の物に存す

 二箇の物か共に全部滅失したるときは義務は消滅す

 二箇の物の一か意外の事又は不可抗力に因りて其価の半額より多き部分を喪失したるときは其物は債務者の選択の目的たることを得す  

430

 債務者か実物の提供を為し又は債権者か合式の請求を為して一旦有効に行ふたる選択は当事者の一方の承諾あるに非されは之を言消すことを得す  

431

 選択か債務者に属する場合に於て二箇の物の一か其過失に因りて滅失したるときは義務は残る所の物に存し債務者は滅失したる物の価金を与へて其義務を免かるることを得す

 二箇の物か債務者の過失に因りて順次に滅失したるときは債務者は後に滅失したる物の価金を負担す

 又二箇の物か同時に滅失して債務者か其二箇又は一箇に対し過失ありたるときは選択は債権者に移転し之をして一箇の物の価金を得せしむ  

432

 同上の場合に於て二箇の物の一か債権者の過失に因りて滅失したるときは債務者は義務を免かる但債務者は自己の選択を以て残る所の物を与へて滅失したる物の償金を要求することを得

 二箇の物か共に債権者の過失に因りて滅失したるときは債務者は自己の選択を以て一箇の物の償金を要求することを得

 二箇の物か一は債権者の過失に因り一は意外の事又は不可抗力に因りて同時に滅失したるときは債務者は義務を免かれ債権者に対して償金を要求することを得  

433

 合意を以て債権者に選択を与へたる場合に於て二箇の物の一か債務者の過失に因りて滅失したるときは債権者は残る所の物を要求し又は滅失したる物の価金を要求することを得

 二箇の物か共に債務者の過失に因りて滅失したるときは債権者は自己の選択を以て一箇の物の価金を要求することを得二箇の物か一は債務者の過失に因り一は意外の事又は不可抗力に因りて同時に滅失したるときも亦同し  

434

 同上の場合に於て二箇の物の一か債権者の過失に因りて滅失したるときは債務者は義務を免かる

 二箇の物か共に債権者の過失に因りて同時に滅失したるときは選択は債務者に移転し之をして一箇の物の価金を得せしむ

 二箇の物か一は債権者の過失に因り一は意外の事又は不可抗力に因りて同時に滅失したるときは債務者は義務を免かれ債権者に対して償金を要求することを得  

435

 前数条の規定に従ひて選択の義務か一箇の物に帰著したるとき又は其権利を有する当事者か選択を為したるときは其義務は停止条件の義務に関し第409条に規定したる如く既往に遡りて効を生す  

436

 債務者か一定の物を主として負担するも他の物を与へて義務を免かるるの権能を有するときは其義務は任意なり

 主として負担する物を与ふるの義務は任意にて負担する物を弁済するに於ては解除す可しとの条件に繋るものと看做す

 主として負担する物か意外の事又は不可抗力に因りて滅失したるときは債務者は義務を免かる

 主として負担する物か債務者の過失に因りて滅失したるときは債務者は其価金の償還及ひ損害の賠償に任す然れとも債務者は任意にて負担する物を与へて義務を免かるるの権能を有す

 二箇の物の一か債権者の過失に因りて滅失したるときは債務者は其免責を申立て又は残る所の物を与へて滅失したる物の価金を要求することを得

 二箇の物か共に債権者の過失に因りて滅失したるときは債務者は義務を免かれ且自己の選択を以て一箇の物の価金を要求することを得

 二箇の物か一は意外の事又は不可抗力に因り一は債権者の過失に因りて同時に滅失し其過失か任意にて負担したる物の上に存するとき又は其過失か孰れの物の上に存したるかを知り得さるときは債務者は義務を免かれ且任意にて負担したる物の価金を要求することを得

 

3款 債権者及ひ債務者の単数又は複数なる義務

 

437

 債権者及ひ債務者か各一人なるときは其義務は単数なり

 債権者又は債務者か数人なるときは其義務は複数なり

 複数の義務には連合のもの有り連帯のもの有り全部のもの有り不可分のもの有り  

438

 連合の義務に於ては次款に定むる如く各債権者又は各債務者は自己の部分外に履行を求むることを得す又訴追を受くること無し

 連帯の義務に於ては各債権者又は各債務者は自己の名を以て自己の部分の為めにすると他人の名を以て他人の部分の為めにするとを問はす全部に付き履行を求むることを得又訴追を受くること有り但担保訴権に因れる相互の求償権を妨けす

 全部の義務は債権担保編第73条に於て之を規定す

 

4款 性質又は履行の可分又は不可分なる義務

 

439

 単数の義務は債権者と債務者との間に在りては不可分たる如く之を履行することを要す但第406条を以て一分の弁済を許すことに付き裁判所に与へたる権能を妨け  

440

 連合の義務に於ては債権者の各自か履行を求め又は債務者の各自か訴追を受く可き実地の部分は合意又は事情に従ひて之を定む

 前項の規定に従ふを得さるときは其各自の部分は平分にて之を計算す但債権の利益又は債務の負担に於て各自か其実地の部分に復する相互の求償権を妨けす  

441

 複数の義務は左の場合に於て債権者の間にも債務者の間にも不可分なり

  第1 負担する目的の性質に因りて一分の履行か形体上及ひ智能上不能なるとき

  第2 義務か性質に因りて可分なるも当事者の明示の意思又は其期望したる目途其他事情より顕はるる意思か一分の履行を許ささるとき  

442

 義務は其性質に因りて可分なるも左の場合に於ては尚ほ当事者の意思に因り受方のみにて不可分なり

  第1 債務者の一人の処分権内に在る特定物の引渡に関するとき

  第2 債務者の一人か債務の設定権原に因りて独り履行に任したるとき

 右第1の場合に於て数人の債権者あるときは其一人の債務者は此数債権者に対して同時に義務を免かるる為め其数債権者の訴訟参加を要求することを得  

443

 不可分は債権担保編に規定する如く性質に因りて可分なる債務の履行の担保の為め連帯に併合し又は併合せすして債務者の負担又は債権者の利益に於て之を要約することを得 

444

 債権者の一人か不可分債務の履行を受けたるときは他の債権者の権利の限度に応して之に其利益を分与することを要す

 又債務者の一人か義務の履行を為したるときは義務の原因に従ひ又は従来相互の関係に従ひて他の債務者の分担す可き部分に付き之に対して担保の求償権を有  

445

 債権者の一人は要約したる如く弁済を受くるに非されは他の債権者の権利を減少し又は消滅せしむることを得す

 債権者の一人か総債務者若くは其一人の免責を主旨とする更改、免除其他の合意を為したるも又は債務者か其一人の債権者に対して適法なる相殺の原因を有するも他の債権者は尚ほ債務の全部の履行を請求することを得然れとも他の債権者は此一人の債権者か其権利を失はさりしならは第501条第4項、第515条第2項、第521条第3項第4項の規定に従ひ其一人の債権者に分与す可き利益に付き其訴追を受けたる債務者に対して計算を為す  

446

 債権者の一人の為したる付遅滞其他の保存の行為は他の債権者を利す

 又債権者の一人の利益の為めに時効を停止する適法の原因あるときは他の債権者の利益の為め之を停止す  

447

 債務者の一人は他の債務者の負担を加重することを得す又債務者の一人に対する付遅滞は之を以て他の債務者に対抗することを得す

 然れとも債務者の一人に対抗することを得へき時効の中断又は停止の原因は之を以て他の債務者に対抗することを得但債権者訴追を受けたる債務者に対し時効に因り義務を免かれたる債務者の債務の部分に付き計算を為す  

448

 債務者の一人の過失に因りて不可分の義務を履行することを得さるときは損害賠償又は過怠約款は過失者のみ之を負担す可分義務の全部の履行を保する為め過怠約款を設けたるときと雖も亦同し  

449

 第441条の場合に於て不可分義務の履行の為め訴を受けたる債務者は他の債務者を訴訟に参加せしめ共に裁判を受くる為め及ひ之

 に対する自己の求償に付き裁判を受くる為め期間を請求することを得  

 

3章 義務の消滅

 

450

 義務は左の諸件に因りて消滅す

  第1 弁済

  第2 更改

  第3 合意上の免除

  第4 相殺

  第5 混同

  第6 履行の不能

  第7 鎖除

  第8 廃罷

  第9 解除

 此他義務は免責時効の条件の具備するときは之を消滅したるものと看做す

 

1節 弁済

 

451

 弁済は義務の本旨に従ふの履行なり

 弁済は下の第1款及ひ第4款に記載したる区別に従ひて単純なる有り代位なる有り

 数箇の債務ありて只一箇の弁済を為すときは第2款に従ひて債務の一箇又は数箇に付き弁済の充当を為す

 債権者か弁済を受くること能はす又は欲せさるときは債務者は第3款に記載したる如く提供及ひ供託の方法を以て自ら義務を免かるることを得

 債務者か債権者に対して自己の財産を委棄することを得る場合は民事訴訟法を以て之を規定す

 

1款 単純の弁済

 

452

 弁済は債務者又は共同債務者の一人より有効に之為す外尚ほ保証人又は抵当財産を所持する第三者の如き附随の義務者より有効に之を為すことを得

 又弁済は利害の関係なき第三者より或は債務者の名を以て或は自己の名を以て之を為すことを得  

453

 利害の関係を有すると否とを問はす第三者の為したる弁済の有効なる為めには債権者の承諾を必要とせす但作為の義務に関し債権者か特に債務者の一身に著眼したるときは此限に在らす

 又債務者の承諾も之を必要とせす但利害の関係を有せさる第三者の弁済に付ては債務者又は債権者の承諾あることを要す  

454

 弁済したる第三者は法律又は合意に依り債権者の権利に代位したる場合の外其権に基き下の区別に従ひ債務者に対し求償権を有す

 第三者か委任を受けたるときは其権限の範囲内に於て弁済したる全額の為め求償権を有す

 事務管理にて弁済を為したるときは弁済の日に於て債務者に得せしめたる有益の限度に従ひ求償権を有す

 債務者の意に反して弁済を為したるときは求償の日に於て債務者の為め存在する有益の限度に非されは求償権を有せす  

455

 義務か定量物の所有権の移転を目的とするときは其物の所有者にして且之を譲渡すの能力ある者に非されは引渡其他の方法を以て弁済を為すことを得す

 他人の物を引渡したるときは当事者各自に其弁済の無効を主張することを得

 譲渡すの能力なき所有者か物を引渡したるときは其所有者のみ弁済の無効を請求することを得

 右孰れの場合に於ても債務者は更に有効なる弁済を為すに非されは引渡したる物を取戻すことを得す

 債権者か弁済として受けたる動産物を善意にて消費し又は譲渡したるときは債務者は其取戻を為すことを得す

 又債権者は他人の物を以てせる弁済を認諾することを得但真の所有者より回復を訴へたるときは債務者に対する担保の訴権を妨けす  

456

 弁済は債権者又は其代人に之を為すことを要す弁済領受の分限を有せさる者に為したる弁済と雖も債権者か之を認諾し又は之に因りて利得したるときは有効なり  

457

 真の債権者に非さるも債権を占有せる者に為したる弁済は債務者の善意に出てたるときは有効なり

 表見なる相続人其他の包括承継人、記名債権の表見なる譲受人及ひ無記名証券の占有者は之を債権の占有者と看做す  

458

 領受の能力なき債権者又は債権占有者に為したる弁済は其債権者又は債権占有者の請求に因りて之を取消すことを得但其利得したる部分に付ては此限に在らす  

459

 民事訴訟法に従ひ正当に為したる払渡差押の後債務者か自己の債権者に弁済を為したるときは差押債権者は其受けたる損害の限度に於て更に弁済す可きを債務者に強要することを得但弁済を受けたる債権者に対する債務者の求償権を妨けす  

460

 債権者は己れに対して負担したる物より他の物を弁済として受取るの責に任せす他の物の価格か高きときと雖も亦同し

 債務者は其負担したる物より他の物を与ふる責に任せす請求を受けたる物の価格か低きときと雖も亦同し

 代替物を目的とせる債務に於ては債務者は最良品を与へ債権者は最悪品を受取る責に任せす  

461

 双方一致にて物を金銭に、金銭を物に又は或る物を他の物に代へて弁済し若くは弁済することを諾約したるときは原義務を更改したりと看做し其行為は場合に因りて売買又は交換の規則に従ふ  

462

 特定物の債務者は引渡を為す可き時の現状にて其物を引渡すに因りて義務を免かる但条件附の義務の危険に関する第419条の規定を妨けす

 債務者の費用にて物を保存し若くは改良し又は其過失若くは懈怠に因りて之を毀損したるときは償金は上の第1章第2節第3節に従ひて当事者互に之を負担す  

463

 金銭を目的とせる債務に於ては債務者は其選択を以て金若くは銀の国貨又は強制通用の紙幣を与へて義務を免かる

 債務者は法律に依り貨幣の名価又は其純分の割合に変更を生するも諾約したる数額より多く又は少なく負担せす

 本条の規則に違背する合意は無効なり但第465条第2項の規定を妨けす  

464

 右に反し弁済期に於て諸種の貨幣の為替相場より生す可き相互の高低の差は債務者の選択する法律上の貨幣を以てする平均価額の弁済に因りて当事者の間に之を填補する合意を為すことを得  

465

 金貨又は銀貨を以て負担の金額を指定したるときは債務者は独り為替相場の損益を受け法律上の他の貨幣を以て義務を免かるることを得

 金貨又は銀貨を以て負担の金額を弁済す可きことの要約ありたるときも亦同し

 外国の貨幣を以て弁済を為す可きことを合意したるときは債務者は右の規定に従ひ自己の選択する法律上の貨幣を以て其外国の貨幣の価額を弁済して義務を免かるることを得  

466

 銅貨及ひ補助銀貨は特別法に定めたる数額より多く弁済として之を与ふることを得す但反対の合意あるときは此限に在らす  

467

 金銭の貸借に特別なる規則は財産取得編第185条に之を定む  

468

 弁済の場所の定なきときは弁済は債務者の住所に於て之を為す但後に掲くる或る契約の場合及ひ第333条に掲けたる規定は此限に在らす

 自己の住所に於て弁済の有る可き当事者か詐欺なくして転住したるときは弁済は其新住所に於て之を為す但其当事者は為替相場の差額及ひ人の往復若くは物の運送の補足費用を一方の当事者に払ふことを要す

 弁済の其他の費用は債務者之を負担す  

469

 弁済の期日か一般の休日なるときは弁済は其翌日に非されは之を要求することを得す

 

2款 弁済の充当

 

470

 一人の債権者に対して一様の性質なる数箇の債務を有する債務者か総債務を全消することを得さる弁済を為すときは債務者は弁済の時に於て其孰れの債務に充当せんとする意を述へ且此充当を受取証書に記入せしむることを得

 然れとも債務者は債権者の承諾を得るに非されは債権者の利益の為め定めたる期限の至らさる債務に充当を為し又費用及ひ利息に先たちて元本に充当を為し又一分つつ数箇の債務に充当を為すことを得す  

471

 債務者か有効なる充当を為ささるときは債権者は受取証書に於て自由に弁済の充当を為すことを得但財産取得編第129条の会社契約に関する規定を妨けす

 債務者か異議なく又は異議を留めすして受取証書を受取りたるときは債務者は自己の錯誤又は債権者の欺瞞ありたるに非されは充当を非難することを得す  

472

 債務者及ひ債権者か有効に充当を為ささるときは当然左の如く充当す

  第1 期限の至りたる債務を先にし期限の至らさる債務を後にす

  第2 費用及ひ利息を先にし元本を後にす

  第3 総債務か期限に至り又は至らさるときは債務者の為め最も弁済の利益ある債務を先にす

  第4 債務者か弁済の先後に付き利益を有せさるときは期限の最も先に至りたる又は至る可き債務を先にす

  第5 総債務か何れの点に於ても相同しきときは充当は各債務の額に応して之を為す  

473

 弁済充当の規定は交互計算上の振込に之を適用せす此振込は振込人の貸方に之を記入す 

 

3款 弁済の提供及ひ供託

 

474

 債権者か弁済を受くるを欲せす又は之を受くる能はさるときは債務者は左の区別に従ひ提供及ひ供託を為して義務を免かるることを得

  第1 債務か金銭を目的とするときは提供は貨幣を提示して之を為すことを要す

  第2 債務か特定物を目的とし其存在する場所に於て引渡さる可きときは債務者は其物の引取の為め債権者に催告を為す

  第3 特定物を債権者の住所其他の場所に於て引渡す可くして其運送か多費、困難又は危険なるときは債務者は合意に従ひて引渡を即時に実行する準備を為したることを提供中に述ふ定量物に関しても亦同し

  第4 債権者の立会又は参同を要する作為の義務に関しては債務者か義務履行の準備を為したることを述ふるを以て足る  

475

 提供は前条の外上に定めたる弁済に必要なる条件を具備し且特別法に定むる方式に従ふに非されは有効ならす  

476

 時期を失せす且有効に為したる提供は法律を以て規定し若くは合意を以て要約したる失権、解除及ひ責罰を予防す

 此提供は付遅滞を防止し又既に付遅滞の存せるときは将来に向ひて其効力を止め且遅延利息を停む  

477

 債権者か提供を承諾せさるときは債務者は供託の日まてに債務に生したる填補利息と共に弁済の金額を供託所に供託することを得

 特定物又は定量物に付ては債務者は其物を供託す可き場所を指定すること及ひ其保管人を選任することを裁判所に請求す

 供託の方式及ひ条件は特別法を以て之を規定す  

478

 有効に属したる供託は債務者に義務を免かれしめ且債務者か意外の事に任したるときと雖も其物の危険を債権者に帰せしむ

 然れとも債権者か供託を受諾せす又は其供託か債務者の請求にて既判力を有する判決に因りて有効と宣告せられさる間は債務者は其供託物を引取ることを得但此場合に於ては義務は旧に依り存在す

 右の受諾又は判決ありたる後と雖も債務者は債権者の承諾を以て供託物を引取ることを得然れとも共同債務者及ひ保証人の義務解脱をも質権及ひ抵当権の消滅をも供託物に付き債権者の債権者か為したる払渡差押をも妨碍することを得す

 

4款 代位の弁済

 

479

 代位を以て第三者の為したる弁済は債権者に対して債務者に義務を免かれしめ且其債権及ひ之に附著せる担保と効力とを其第三者に移転す但場合に従ひて第三者の有する事務管理又は代理の訴権を妨けす

 代位は下の区別に従ひて債権者若くは債務者より之を許与し又は法律を以て之を付与す  

480

 債権者の許与したる代位は受取証書に之を明記するに非されは有効ならす但第三者か弁済に付き利害の関係を有するや否やを区別することを要せす又自己の名にて弁済するか債務者の名にて弁済するかを区別することを要せす  

481

 債務者は其債務の弁済に必要なる金額又は有価物を己れに貸与したる第三者をして債権者の承諾なく其権利に代位せしむることを得

 右の場合に於て借用証書には其金額又は有価物の用方を記載し受取証書には其出所を記載す

 公正証書又は私署証書に非されは他の第三者に対して右の行為の証拠とすることを許さす

 然れとも借用と弁済との間に不相当なる長き時間の経過したるときは裁判所は代位を不成立と宣告することを得  

482

 代位は左の者の利益の為め当然成立す

  第1 他人と共に又は他人の為めに義務を負担したるに因り其義務を弁済するに付き利害の関係を有する者及ひ先取特権又は抵当権を負担する財産の第三所持者として他人の義務を弁済するに付き利害の関係を有する者

  第2 或は抵当訴権を予防する為め或は不動産の差押又は契約解除の請求を止むる為め他の債権者に弁済したる債権者

  第3 自己の財産を以て相続の債務の全部又は一分を弁済したる善意なる表見の相続人  

483

 前3条に依りて代位したる者は債権の効力又は担保として債権者に属せし総ての対人及ひ物上の権利及ひ訴権を行ふことを得但左に掲くる場合を例外とす

  第1 当事者か代位者に移転せし権利及ひ訴権を制限したるときは其制限に従ふ

  第2 保証人は債務を弁済し債権担保編第36条の規定に従ひたるときに非されは第三所持者に対して代位せす

  第3 第三所持者か債務を弁済したるときは保証人に対して代位せす

  第4 一箇の債務の抵当と為りたる数箇の不動産か各別に数箇の第三所持者の手に存する場合に於て其一人か債務を弁済したるときは各不動産の価額の割合に応するに非されは他の第三所持者に対して代位の権を行ふことを得す

  第5 互に担保人たる共同債務者の一人か債務を弁済したるときは弁済者は他の債務者か分担す可き債務の限度に応するに非されは其各自に対して代位せす  

484

 代位者は自己の支払ひたる金額を超えて債権者の訴権を行ふことを得す  

485

 代位は原債権者を害せさることを要す

 数箇の債権を有する者は其一箇に係る代位弁済か他の債権の担保を減するときは之を拒むことを得  

486

 代位弁済か債務の一分のみに係るときは代位者は自己の弁済の割合に応して原債権者と共に其権利を行ふ

 然れとも原債権者は全部の弁済を受けさるときは独り契約の解除を行ふ但代位者に賠償することを要す  

487

 代位弁済に因りて全部の弁済を受けたる債権者は債権の証書及ひ質物を代位者に交付することを要す

 債権者か一分の弁済のみを受けたるときは要用に応して代位者に証書を示し且質物の保存に注意するを之に許すことを要す  

488

 弁済の有効、充当、提供及ひ供託に関する前3款の規定は代位弁済に之を適用す

 

2節 更改

 

489

 更改即ち旧義務の新義務に変更することは左の場合に於て成る

  第1 当事者か義務の新目的を以て旧目的に代ふる合意を為すとき

  第2 当事者か義務の目的を変せすして其原因を変する合意を為すとき

  第3 新債務者か旧債務者に替はるとき

  第4 新債権者か旧債権者に替はるとき  

490

 当事者か期限、条件又は担保の加減に因り又は履行の場所若くは負担物の数量、品質の変更に因りて単に義務の体様を変するときは之を更改と為さす

 商証券を以てする債務の弁済は其証券に債務の原因を指示したるときは更改を成さす従来の債務の追認は其証書に執行文あるときと雖も亦同し  

491

 債権者は其債権及ひ担保を有償にて処分する能力を有するに非されは更改を承諾することを得す

 右規定は合意上、法律上又は裁判上の管理人及ひ代理人に之を適用す  

492

 更改の意思は債権者に在ては之を推定せす明かに証書又は事情より見はるることを要す

 然れとも同一の当事者間に於て義務の更改ありたるか二箇の義務の共に存するかの疑あるときは第360条に依りて債務者の利益の為めに更改の意義に解釈す  

493

 旧義務か停止又は解除の条件附なりしときは更改は同一の条件に従ふものとの推定を受く

 又新義務か条件附なるときは更改は停止条件の成就したるとき又は解除条件の成就せさるときに非されは成らす

 右孰れの場合に於ても当事者か単盾疂る更改を為さんと欲したる証拠あるときは此限に在らす  

494

 旧義務か初より法律上成立せす又は法律の定むる原因に由りて消滅し若くは取消されたるときは更改は無効にして新義務は成立せす

 又新義務か其成立及ひ有効に要する法律上の条件を具備せさるときは旧義務は存在す

 右孰れの場合に於ても当事者か自然義務を法定義務に又は法定義務を自然義務に変せんと欲したる証拠あるときは此限に在らす  

495

 旧義務を更改する為め異議なく又は異議を留めすして有効に新義務を諾約したる債務者は其了知せる旧義務の無効の理由を以て債権者に対抗することを得す

 債務者か次条に従ひ旧債権者の嘱託に因り新債権者に対して義務を諾約したるときも亦同し  

496

 債務者の交替に因る更改は或は旧債務者より新債務者に為せる嘱託に因り或は旧債務者の承諾なくして新債務者の随意の干渉に因りて行はる

 嘱託は完全のもの有り不完全のもの有り

 第三者の随意の干渉は下に記載する如く除約又は補約を成す  

497

 債権者か明かに第一の債務者を免するの意思を表したるときに非されは嘱託は完全ならすして更改は行はれす此意思の無きときは嘱託は不完全にして債権者は第一第二の債務者を連帯にて訴追することを得

 第三者の随意干渉の場合に於て債権者か旧債務者を免したるときは除約に因る更改行はる之に反せる場合に於ては単一の補約成りて債権者は債務の全部に付き第二の債務者を得然れとも此債務者は連帯の義務に任せす  

498

 完全嘱託及ひ除約の場合に於て新債務者か債務を弁済することを得さるときは債権者は嘱託又は除約の当時に於て新債務者の既に無資力たりしことを知らさるに非されは旧債務者に対して担保の求償権を有せす但特別の合意を以て此担保を伸縮することを得  

499

 債権者の交替に因る更改は債務者と新旧債権者との承諾あるに非されは成らす  

500

 債権者か第503条に定むる如く其債権の物上担保を留保して或は他人を恵む為め或は他人に対する債務を免かるる為め其人に嘱託して自己の債務者より弁済を受けしむるときは其受嘱託人は債権の譲渡に関する第347条の規定に従ふに非されは第三者に対して其債権を主張することを得す  

501

 債権者と連帯債務者の一人又は不可分債務者の一人との間に為したる更改は他の債務者及ひ保証人をして其義務を免かれしむ

 然れとも債権者か右共同債務者及ひ保証人の新義務に同意することを更改の条件と為したる場合に於て共同債務者及ひ保証人の之を拒むときは更改は成立せす

 連帯債権者の一人と為したる更改は其債権者の部分に付てのみ債務者をして義務を免かれしむ性質に因る不可分債務の債権者の一人と更改を為したるときは他の債権者は全部に付き訴追の権利を有す但第445条に従ひ計算を為すことを要す  

502

 保証人と為したる更改は反対の意思ある証拠なきときは保証に付てのみ之を為したりとの推定を受け主たる債務者にも他の保証人にも義務を免かれしめす  

503

 旧債権の物上担保は新債権に移らす但債権者之を留保するときは此限に在らす

 此留保は共同債務者、保証人又は第三所持者の手に存する担保負担の財産にも之を行ふことを得

 此留保に付ては更改の相手方の承諾のみを必要とす

 右の場合に於て財産は旧債務の限度を超えて担保を負担せす

 

3節 合意上の免除

 

504

 債務の全部又は一分に付ての合意上の免除は有償又は無償にて之を為すことを得

 有償の免除は事情に従ひて代物弁済、更改、和解又は解除を成す又無償の免除は贈与を成す然れとも公式の特別規則に従ふことを要せす

 協諧契約を以て破産したる債務者に許与する一分の免除は商法を以て之を規定す  

505

 債務の免除は明示又は黙示より成り推定より成らす但法律に特定したる場合は此限に在らす  

506

 主たる債務者に為したる債務の免除は保証人をして其義務を免かれしむ

 連帯債務者の一人に為したる債務の免除は他の債務者をして其債務を免かれしむ但債権者か他の債務者に対して其権利を留保したる場合は此限に在らす此場合

に於ても免除を受けたる債務者の部分を控除することを要す

 不可分債務者の一人に為したる債務の免除に付ても亦同し然れとも性質に因る不可分債務の債権者か他の債務者に対して其権利を留保したるときは債権者は先つ全部に付き其権利を行ひ免除を受けたる債務者の部分を計算す

 

507

 保証人の一人に為したる主たる債務の免除は債務者及ひ他の保証人をして其債務を免かれしむ  

508

 債務の免除を受けたる債務者及ひ保証人は債権者より共通の免除を得る為め実際供与したる数額に付てのみ他の共同債務者及ひ共同保証人に対して求償権を有  

509

 共同債務者の一人に対して連帯のみ又は任意の不可分のみの免除ありたるときは其一人をして他の債務者の部分を免かれしめ且他の債務者をして其一人の部分を免かれしむ

 性質に因る不可分のみの免除に付ては債権者は債務者の各自に対して全部の要求を為す権利を失はす但免除を受けたる債務者の負担す可き債額を計算することを要す

 又債権者は免除を受けたる債務者に対し全部の要求を為すことを得但他の債務者の負担す可き債額を計算することを要す 

510

 債権者は左の場合に於ては債務者の一人に対して連帯のみ又は任意の不可分のみを免除したりとの推定を受く

  第1 債権者か担保の権利を留保せすして債務者の一人より其債務の部分なりと明言したる金額又は有価物を受取りたるとき

  第2 債権者か担保の権利を留保せすして債務者の一人に対し其債務の部分なりと称して裁判上の請求を為したるに其一人請求に承服し又は弁済を為す可き旨の言渡を受けたるとき

  第3 債権者か異議を留めすして十个年間引続き債務者の一人より其負担す可き利息又は年金の部分を受取りたるとき  

511

 保証人の一人に保証を免除したるときは主たる債務者は其債務を免かれす他の保証人は保証の免除を受けたる一人の部分に付き其義務を免かる然れとも保証人の間に連帯を為せる場合に於て債権者か第506条第2項に記載したる如く他の保証人に対して自己の権利を留保せさるときは他の保証人をして其義務を免かれしむ  

512

 債権者の質又は抵当の抛棄は其債権を減せす然れとも連帯債務者又は保証人は其抛棄に因りて此等の担保に代位することとを妨けられたるか為め債権担保編第45条及ひ第72条に依り債権者に対して自己の免責を請求することを得  

513

 共同債務者の一人か連帯若くは不可分のみの免除を得る為め又は保証人の一人か保証の免除を得る為め債権者に出捐を為したるも其債務を減せす且他の共同債務者又は共同保証人に対して求償権を有せす  

514

 特定物を引渡すのみ又は返還するのみの義務を免除するも債務者の利益に於て譲戻又は譲渡を惹起せす其所有者は回復の権利を失はす  

515

 連帯債権者の一人の為したる債務又は連帯のみの免除は単に其一人の部分に付き之を以て他の債権者に対抗することを得

 債務か性質に因る不可分なるときは債権者の一人の為したる免除は他の債権者を害することを得す他の債権者は第445条及ひ第506条の規定に従ひて全債権を行  

516

 債権者か債務者の義務を記載したる本証書を任意にて債務者に交付したるときは其証書に免除の旨を附記せすと雖も債権者は債務の免除を為したりとの推定を受く但債権者の反対の意思を証する権利を妨けす

 公正証書の正本又は判決書の正本の任意の交付は其書類に執行文を具備するも債務の免除を推定せしむるに足らす但裁判所か事情に従ひて其免除を推測することを妨けす

 債務者か右の書類を所持するときは反対の証拠あるまては債権者より任意の交付ありたりとの推定を受く  

517

 債権者か証書の全文又は債務者の署名其他緊要なる部分を有意にて毀滅し・破し又は抹殺したるときは前条の区別に従ひて任意の交付に準し債務の免除ありたりと推定す

 右毀滅、打破又は抹殺は其当時証書か債権者の占有に係りしときは反対の証拠あるまて債権者の所為又は其承諾に出てたりとの推定を受く  

518

 債務の免除は明示なると黙示なると又直接に証すると法律上推定するとを問はす反対の証拠あるまて有償にて之を為したりとの推定を受く

 然れとも授受する相対能力なき者の間に於ける免除は有償にて之を為したりとの直接の証拠を挙くることを要す

 

4節 相殺

 

519

 二人互に債権者たり債務者たるときは下の条件及ひ区別に従ひて法律上、任意上又は裁判上の相殺成立す

 相殺は二箇の債務をして其寡少なる債務の数額に満つるまて消滅せしむ  

520

 二箇の債務か主たるもの互に代替するを得へきもの明確なるもの及ひ要求するを得へきものにして且法律の規定又は当事者の明示若くは黙示の意思を以て其相殺を禁せさるときは当事者の不知にても法律上の相殺は当然行はる  

521

 主たる債務者は自己の債務と債権者か保証人に対して負担する債務との相殺を以て債権者に対抗することを得す然れとも訴追を受けたる保証人は債権者か主たる債務者又は自己に対して負担する債務の相殺を以て対抗することを得

 連帯債務者は債権者か其連帯債務者の他の一人に対し負担する債務に関しては其一人の債務の部分に付てに非されは相殺を以て対抗することを得す然れとも自己の権に基き相殺を以て対抗す可きときは全部に付き之を申立つることを得

 数人の連帯債権者あるとき債務者は債権者の一人か自己に対して負担する債務の相殺を以て訴追者に対抗することを得

 債務か債務者の間又は債権者の間に於て任意不可分なるときは相殺は受方又は働方の連帯に於けると同一の方法に従ふ又性質に因る不可分の債務なるときは第445条の規定に従ふ  

522

 当事者の一方か他の一方に対し地方市場の相場ある日用品の定期の供与を負担したるときは其供与は他の一方の負担する金銭と相殺することを得  

523

 債務の成立、其目的物の性質及ひ分量か確実なるときは其債務は善意にて争はるるときと雖も之を明確なりとす  

524

 裁判所の許与したる恩恵上の期限は相殺の妨を為さす債務者の要求に因り無償にて債権者の許与したる期限に付ても亦同し

 二箇の債務の一か解除条件附なるときと雖も相殺は行はる但其条件の成就したるときは相殺も亦解除す  

525

 二箇の債務か同一の場所に於て又は同一の貨幣を以て弁済す可きものに非さるときと雖も相殺は行はる但第一の場合に於ては運送費又は為替料を計算し第二の場合に於ては両替賃を計算することを要す  

526

 左の場合に於ては法律上の相殺は行はれす

  第1 債務の一か他人の財産を不正に取りたるを原因と為すとき

  第2 消費を許せる寄託物の返還に関するとき

  第3 債権の一か差押ふることを得さる有価物を目的とするとき

  第4 当事者の一方か予め相殺の利益を抛棄したるとき又は債権者と為るに当り期望したる目的か相殺の為め達することを得さるとき  

527

 債権の譲受人か其譲受を債務者に告知したるのみにては債務者は譲渡人に対して従来有せる法律上の相殺を以て譲受人に対抗するの権利を失はす

 債務者か譲渡人に対して既に得たる法律上の相殺の権利を留保せすして譲渡を受諾したるときは債務者は譲受人に対して其権利を申立つることを得す

 右二箇の場合に於て債務者か相殺を申立つることを得さりし金額又は有価物を譲渡人をして自己に償還せしむるの権利を妨けす  

528

 払渡差押を受けたる債務者は自己の債権者に対して差押後に取得したる債権の相殺を以て差押人に対抗することを得す

 又従来有せる相殺の原因に付ても払渡差押を受けたる債務者は民事訴訟法に掲けたる方式及ひ期間に従ひて其原因を述へたるに非されは之を以て差押人に対抗

することを得す

 右孰れの場合に於ても払渡差押を受けたる債務者は差押の金額又は有価物に付き自己の債権の弁済を得る為め差押人と共に配当に加入する権利を有す  

529

 相殺に因りて既に消滅したる債務を弁済したる者は不当利得の取戻訴権のみを行ふことを得但次条に記載する場合は此限に在らす  

530条 前3条に掲けたる場合に於て相殺に因り既に消滅したる債務を譲受人若くは差押人の利益の為め追認し又は自己の債権者に弁済したる者は自己の旧債権を担保したる保証、先取特権若くは抵当を申立つることを得す但既に行はれたる相殺を知らさる正当の原因ありしことを証するときは此限に在らす此場合に於て旧債権は其性質を以て担保と共に復旧す  

531

 任意上の相殺は法律か法律上の相殺を許ささる為め利益を受くる一方の当事者より之を以て対抗することを得総ての場合に於て各利害関係人の承諾あるときは相殺は之を合意上のものとす

 任意上の相殺は既往に遡るの効を有せす  

532

 裁判上の相殺は被告か原告に対して自己の利益の為め債権を追認せしめ又は清算せしむるを主旨とする反訴の方法に依りて之を求むることを得

 此場合に於て裁判所は或は先つ主たる訴を裁判し或は二箇の訴を併せて裁判することを得

 裁判上の相殺は之を以て対抗したる日に遡りて効を有す  

533

 当事者の一方か他の一方に対して法律上又は裁判上の相殺に服する数箇の債務を有するときは其債務を相殺する順序は第472条に掲けたる弁済の法律上の充当の規定に従ふ

 相殺か任意上又は合意上のものなるときは弁済の充当は第470条及ひ第471条の規定又は当事者の協議に従ふ 

 

第五節 混同

 

534

 一箇の義務の債権者たり及ひ債務者たるの分限か相続等にて一人に併合したるときは義務は混同に因りて消滅す

 右の混同か其以前の適法の原因に由りて解除、鎖除又は廃罷を受けたるときは義務は之を消滅せさりしものと看做す  

535

 債権者か連帯債務者の一人に相続し又は連帯債務者の一人か債権者に相続したるときは連帯債務は其一人の部分に付てのみ消滅す

 混同か連帯債権者の一人と債務者との間に行はれたるときも亦其混同は債務の一分に付てのみ成る  

536

 義務か性質に因る不可分なるときは債権者の一人と債務者の一人との間の混同は他の者の利害に於て其義務を全存せしむ然れとも其混同を得たる者は第445条に従ひて一分の償金を供し又は受取るに非されは全部に付き訴追することを得す又は訴追せらるること無し  

537

 二人の連帯債権者又は二人の連帯債務者の分限か一人に併合したるときは権利又は義務の消滅なし其身に就き併合の成りたる者は或は自己の名或は己れか相続したる者の名にて全部に付き訴追することを得又は訴追せらるること有り

 働方又は受方にて不可分なる義務に付ても亦同し  

538

 保証人か債権者に相続し又は債権者か保証人に相続したるときは保証は其附従のものと共に消滅す

 債務者か保証人に相続し又は保証人か債務者に相続したるときは債権者は主たる債務者、共同保証人若くは保証人の担保人に対し及ひ保証に附著したる質若くは抵当に付き其権利に変更を受くること無し

 

6節 履行の不能

 

539

 義務か特定物の引渡を目的としたる場合に於て其目的物か債務者の過失なく且付遅滞前に滅失し紛失し又は不融通物と為りたるときは其義務は履行の不能に因りて消滅す若し義務か定まりたる物の中の数箇を目的としたる場合に於て其一箇をも引渡すこと能はさるときは亦同し

 作為又は不作為の義務は其履行か右と同一の条件を以て不能と為りたるときは消滅す  

540

 債務者か意外の事又は不可抗力に因る危険及ひ災害を担任し若くは第336条及ひ第384条に従ひて遅滞に付せられたるときは其債務者は前条の原因に由るも其義務を免かれす  

541

 債務者は自己の申立つる意外の事又は不可抗力を証するの責に任す

 債務者か第335条第2項に依りて其義務を免かるる為め仮令其物か債権者の方に在るも亦滅失す可かりしことを申立つるときは其証拠を挙くることを要す  

542

 債務者か履行の不能に因りて義務を免かれたるときは其債務者は己れの受取る可き対価に付ては其履行の為め既に出捐したる限度に於てのみ権利を有す  

543

 物の全部又は一分の滅失の場合に於て其滅失より第三者に対して或る補償訴権の生するときは債権者は残余の物を要求し且此訴権を行ふことを得 

 

7節 鎖除

 

544

 無能力者又は錯誤に因りて承諾を与へたる人又は強暴若くは詐欺に因りて承諾を獲られたる人の約したる義務は五个年の間は其人又は其代人の請求に因り或は履行の訴に対し此等の者より為したる抗弁に因りて裁判上之を鎖除することを得 

545

 右時効の期間は強暴に付ては其強暴の止むまて錯誤に付ては其錯誤を覚知するまて詐欺に付ては其詐欺を発見するまて無能力に付ては其無能力の止むまて之を停止す

 然れとも瘋癲者又は喪心に因る禁治産者の合意に付ては右時効は其者か能力を復したる後其承諾したる行為の通知を受け又は其行為を了知したる時より進行す

 治産を禁せられたる処刑人に付ては鎖除の訴権及ひ抗弁は自他の為め其刑期満了後に非されは時効に罹らす

 此他免責時効の停止及ひ中断の通常の原因に関する規定は右時効に之を適用す 

546

 鎖除訴権を有せる人か前条の期間の満了前に死亡したるときは訴権は其相続人に移転す

 右の場合に於て期間か死亡者に対して未た進行を始めさりしときは相続人の訴権は其相続の時より時効に罹り既に進行を始めたるときは其残期を以て時効に罹る

但証拠編第129条に記載せる停止は此限に在らす  

547

 未成年者又は禁治産者の財産に関し後見人の為したる合意及ひ行為は無能力者の利益の為め法律の定めたる方式及ひ条件を遵守せさりしときは之を鎖除することを得

 未成年者自治産の未成年者及ひ准禁治産者の行為に付ては特別なる方式及ひ条件に依らさりしとき又禁治産者の行為に付ては何等の場合を問はす亦其行為を鎖除することを得

 右規定は有能力者の為めに許与せる鎖除の訴権を妨けす  

548

 未成年者一人にて特別なる方式又は条件の必要なき合意又は行為を承諾したるときは鎖除訴権は其未成年者の為め欠損あるときに非されは之を受理せす

 法律か保佐人の立会のみを要したるとき其立会なくして自治産の未成年者及ひ准禁治産者の為したる右と同一なる性質の行為に対し亦欠損に因るに非されは鎖除訴権を行ふことを得す

 欠損は行為の時に於て之を見積り其偶然の事件より生するものは之を算入せす  

549

 未成年者か成年なりと陳述したるのみにして成年たることを信せしむる為め自ら詐術を用ゐさるときは其無能力又は欠損に因る鎖除訴権を妨けす

 此他の無能力者の虚偽の陳述に付ても亦同し  

550

 商業又は工業を営むの許可を得たる自治産の未成年者は其営業に関する行為に付ては之を成年者と看做す

 然れとも其未成年者は普通法に従ふに非されは不動産を譲渡すことを得す  

551

 婦の行為は配偶者の相互の権利及ひ本分に関し法律に定めたる場合に非されは婦又は夫の請求に因りて之を鎖除することを得す  

552

 承諾の瑕疵に因りて行為の鎖除を得たる成年者は其行為に因りて既に受取りたる総ての物を返還する責に任す

 無能力者は鎖除を得たる行為に因りて仍ほ現に己れを利する物のみを返還する責に任す

 右返還を要求する訴権は通常の時効に因るに非されは消滅せす  

553

 不動産の譲渡か無能力、錯誤又は強暴の瑕疵に因る鎖除に服するときは第352条及ひ第353条の区別及ひ条件に従ひ第三取得者に対して其鎖除を為すことを得  

554

 鎖除訴権は第544条乃至第546条に定めたる時効に因りて消滅する外第545条に従ひて時効の進行を始めたる後利害関係人か鎖除することを得へき合意を明示又は黙示にて認諾したるときは之を行ふことを得す  

555

 明示の認諾は鎖除することを得へき合意の要旨及ひ其鎖除の原因を記し且鎖除訴権の抛棄を述へたる明白なる証書に因りて成る

 鎖除の数箇の原因あるときは明示の認諾は特に証書に記したる原因に付てのみ其効を生す  

556

 黙示の認諾は左の行為に因りて成る

  第1 合意の全部若くは一分の任意の履行

  第2 異議なき又は異議の留保なき強制の執行

  第3 更改

  第4 物上又は対人の担保の任意の供与

 黙示の認諾は債権者に在ては鎖除することを得へき合意の履行の請求に因り又は其合意を以て取得したる物の全部若くは一分の任意譲渡に因りて成る  

557

 認諾は鎖除訴権を有する者の特定の承継人の権利を害することを得す  

558

 初より無効なる行為は之を認諾することを得す但第565条に掲けたる規定を妨けす  

559

 算数、氏名、日附又は場所の錯誤の改正を目的とする訴権は時効に罹ること無し但此訴権の附属する権利の時効を妨けす

 

8節 廃罷

 

560

 債権者を詐害して約したる義務の廃罷及ひ廃罷訴権の時効は第340条乃至第344条の規定に従ふ

 贈与者及ひ其相続人の利益の為めに設けたる特別の廃罷は贈与に関する規定に従ふ

 

9節 解除

 

561

 義務は第409条、第421条及ひ第422条に従ひ明示にて要約したる解除又は裁判上得たる解除に因りて消滅す

 解除を請求す可きときは其解除訴権は通常の時効期間に従ふ但法律を以て其期間を短縮したる場合は此限に在らす  

 

4章 自然義務

 

562

 自然義務の履行は訴の方法に依りても相殺の抗弁に依りても之を要求することを得す其履行は債務者の任意なることを要し之を其良心に委す  

563

 債務者の任意の弁済は不当の弁済なりとして之を取戻すことを得す

 自然義務を弁済したる意思の証拠か事情より生するに於ては弁済の原因を明示することを要せす  

564

 自然義務は追認、更改又は質若くは抵当の供与の目的たることを得

 右諸種の場合に於て自然義務は通常の法定の効力を生す  

565

 自然義務は法定の承諾を阻却する錯誤の為め目的の指定の欠缺若くは不足の為め又は必要なる公式の欠缺の為め初より無効なる合意に因りて生することを得

 然れとも公式の欠缺の為め無効なる贈与に関しては贈与者自ら自然義務の履行又は追認を為すことを得す其相続人又は承継人のみ之を為すことを得

 前項の規定は方式上無効なる遺言を為せる者の相続人に之を適用す  

566

 原因の欠缺又は不法の原因の為め無効なる合意は自然義務を生することを得す公の秩序の為め合意の目的とすることを禁したる物を目的と為す合意に付ても亦同  

567

 第三者の所為の諾約及ひ第三者の利益に於ける要約に関し第322条及ひ第323条に定めたる無効は諾約者の自然債務の生することを妨けす  

568

 債務者か不当の利得、不正の損害又は法律の規定に因りて法定義務を負担すること有る可き場合の外債務者は此権原にて自然義務を負担したりと有効に自ら追認することを得  

569

 自然義務は法定義務の鎖除、廃罷又は解除か裁判上にて宣告せられたる後と雖も存立することを得法定義務か此他の消滅方法に因りて消滅したる後に於ても亦同し  

570

 免責又は取得の時効の利益を援用したる者既判力の利益を受くる者又は其他の推定若くは証拠を申立つることを得へき者は尚ほ自然義務を負担したりと自ら追認することを得  

571

 自然債権の法定の譲渡は協諧契約を以て破産者に免除したる金額に付き其債権者の之を為したる場合のみ有効なり  

572

 当事者は自然義務の任意の履行又は認定あらさる前と雖も仲裁契約を以て其自然義務の成立又は広狭を仲裁人の決定に委ぬることを得此場合に於ては自然義務を宣言したる其決定は法定の義務を生す

 


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