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旧民法 証拠編・人事編

証拠編

 

 

1部 証拠

 

総則

 

1 有的又は無的の事実より利益を得んか為め裁判上にて之を主張する者は其事実を証する責あり
 相手方は亦自己に対して証せられたる事実の反対を証し或は其事実の効力を滅却せしむる事実として主張するものを証する責あり
2 自己の主張の全部又は一分を法律に従ひて証せす又は判事か証拠を査定する権の自由なる場合に於て判事に此主張の心証を起さしめさりし原告若くは被告は其証せさりし点に付き請求又は抗弁に於て敗訴す
3 当事者の一方は或る事実の証拠か将来己れの為めに利益あるときは其利益と証拠喪失の危険とを疏明して訴訟の起らさる前と雖も其事実の証拠を挙くることを裁判上主として請求することを得
4 下に定めたる規則は物権、人権及ひ人の身分に関する証拠に共通のものとす但特別の規定を妨けす
5 証拠は左の諸件より成る
   1 判事の考覈
  第2 直接証拠
  第3 間接証拠 
 
1章 判事の考覈
 
6 判事は左の諸件に依り主張せられたる事実の確実を得たるときは自己の考覈に依りて争を決することを得        第1 当事者又は其代人の申述の聴取、係争物竝に証書外の書類の調査及ひ法律の解釈
  第2 臨検
  第3 鑑定 

1節 当事者申述の聴取、係争物竝に証書外の書類の調査及ひ法律の解釈

7 当事者の自白ある場合の外当事者又は其代人の申述及ひ説明より請求若くは抗弁の証せられさること又は尚ほ早きことの顕はるるに於ては判事は其請求若くは抗弁を棄却し又は他日本案の判決を為す可き旨を言渡す
 右判事の心証か係争物及ひ証書外の書類の調査より生するときも亦同し
8 受けたる損害若くは失ひたる利益其他原因に争なく供給す可き価額に付き為す可き評価のみに争の存する場合に於て判事は当事者又は其代人の陳述を聴き此評価に必要なる元素を得たるときは自ら其評価を為すことを得
9 事実に争なく法律の点のみに争の存するときは判事は当事者又は其代人の陳述を聴き法律の規定を其精神と明文とに依りて解釈し且条理と公道との普通原則に依りて之を補完し自己の心証を取る 
 
2節 臨検
 
10 境界、地役、占有、財産の損害及ひ不動産工事の執行に関する争其他此に類似の争に付ては勿論裁判所に移送することを得さる動産の形状を証するに関するときと雖も判事は主張せられたる事実を直接に知ることを以て訴訟事件を明かならしむるに有益なりと思考するときは或は職権を以て或は当事者の申立に因りて係争物又は争を決定す可き元素の存在する場所に臨検することを得 
 
3節 鑑定
 
11 法律に於て鑑定に依る可き旨を定めたる場合の外判事は争の判決に付き特別の知識を要するときは何時にても或は職権を以て或は当事者の申立に因りて自己の考覈を助けしむる為め鑑定人の報告を為す可き旨を命することを得
 判事は鑑定人総員一致の説と雖も之に従ふ義務なし
 
2章 直接証拠 
 
12条 左の諸件に於ては人の証言より生する直接の証拠ありとす
  第1 私書
  第2 口頭自白
  第3 公正証書
  第4 証人の陳述 

1節 私書

13 私書の証拠力は其私書の対抗を受くる当事者の之に署名し又は捺印したると否とに従ひて軽重あり 

1款 私署証書 

14 私署証書は之を以て対抗せらるる者に不利なる事実の陳述又は追認を記載し且其署名及ひ印章又は其一あるときは署名者、捺印者の裁判外の自白即ち証言を成すものとす
 右同一の条件を有する書状は私署証書と同一の証拠力を有す 
15 自己の利益に於て私署証書を有する者か或る者を其署名者なりと主張し又は思考する場合に於ては争の生する前と雖も其者に対し手跡、署名及ひ印章の追認を請求することを得
 署名者なりと主張せられたる者は其手跡、署名及ひ印章の真正なること又は其一の真正なることを明確に追認し又は否認することを得るのみ
 裁判所より本条の規定の口諭を受けたる者否認を為ささるときは裁判所は其否認せさるものに付ては之を追認したりと認定することを得
16 印章に関しては其印章を提示せられたる者は其印章の自己の印章に相違なきことを追認するも押捺は自身又は自己の許諾にて之を為したるを否認することを得但総ての方法を以て其証拠を供することを要す
 此追認証書を与ふる前に右の異議を留めさりしときは其後に至り右の抗弁を為すことを得す
 又其署名又は印章を追認したるときは其署名又は印章の獲られし手段たる強暴、錯誤又は詐欺を最早主張することを得す但強暴か既に止み又は錯誤若くは詐欺を既に発見し且此事に付き何等の異議をも留めすして追認を為したるときに限る
 異議を留めたるときは追認証書に之を記す可し
17 署名者なりと主張せられたる者の相続人、承継人又は代人に対して追認の請求ありたるときは被告は或は自己の代表する者の署名若くは印章を知らさる旨或は其使用の不確実なる旨を陳述するに止まることを得
 右の相続人、承継人又は代人は印章の不正当なる押捺又は承諾の瑕疵より生する無効の方法を申立つる権利を失はす但此事に関し異議を留むることを怠りたるときと雖も亦同し
18 被告は異議を留めすして署名又は印章を追認したりと雖も後に捺印白紙の濫用又は署名若くは印章の偽造ありたることを証する権利を失はす
 然れとも右の追認ありたることを知り其証書に依り善意にて約定したる第三者に証書無効の方法として捺印白紙の濫用を以て対抗することを得す
19 一人又は数人の証人か私署証書に加署し又は加印したるときは其証人を手跡験真に召喚す
20 手跡、印章又は署名の験真の請求に関する方式竝に期間及ひ被告又は其代人の出席せさるに因り此等の者に於て印章又は署名を追認したりと為すことを得へき場合は民事訴訟法に於て之を定む
 署名者なりと主張せられたる者の明確に否認し又は其相続人若くは承継人の追認を為ささる場合に於ける手跡験真手続の規則に付ても亦同し
21 双務契約を証する私署証書は反対の利益を有する当事者間に正本二通を作り且之に署名又は捺印することを要す又各正本には二通を作りたる旨を附記することを要す
 然れとも当事者は一通の証書を作ることを得但其証書中指定したる第三者に之を寄託することを合意したるときに限る
右の場合に於て第三者は各当事者の求に応して其証書を示ささる可からす但当事者双方の承諾なくして之を交付することを得す
22 証書の調製及ひ其数の附記又は証書の寄託は当事者か合意の組成を繋らしめたる条件と看做す
 然れとも前条に従ひて証書の調製あらさりし契約の全部又は一分を履行したる当事者は最早条件の不履行を申立つることを得す
23 片務契約を証する私署証書に金銭其他の定量物を供与し弁済し又は返還する諾約を包有する場合に於て債務者か証書の本文を自書せさるときは債務者は其署名若くは捺印の外尚ほ金額若くは数量の文字に捺印することを要す但数人の債務者あるときは其中の一人此捺印を為すを以て足れりとす
24 二通の正本及ひ前条の方式は商事に付ては之を要せす
25 前数条の方式に従ひ調製したる私署証書にして其対抗を受くる者か追認し又は裁判上にて其者か追認したりと為したるものは其主文及ひ之と直接の関係を有し且之を補完する文言に付ては其者に対して完全なる証拠とす
 此他の文言は書面に因る証拠端緒のみに之を用ゆることを得
 第38条に記載したる自白不可分なる原則は証書の各部分に之を適用す
26 証書か第18条に規定したる如く捺印白紙の濫用又は偽造の攻撃を受けたるときは其証拠力は刑事裁判所に被告の送致あるに因りて停止せられ其裁判所の判決の確定と為るまて民事の判決を中止す
 嫌疑ある人の死亡其他の原因に由りて刑事審問の開かれさりしときは民事裁判所は刑事不受理の理由に付き裁判あるまて本案の判決を中止す
 又刑事審問中なるときは民事裁判所は当事者の要求に因り又は職権を以て其判決を中止することを得
 
2款 署名、捺印せさる証書
 
27 商人の帳簿は総ての人の為め其商人に対して証拠を為す然れとも其帳簿を援用する者は此より生する自白を分つことを得す
 此他右帳簿の証拠力は商法に於て之を規定す
28 非商人の帳簿及ひ覚書は其者の為め証拠を為さす
 右の帳簿及ひ覚書は其者に対し下の区別に従ひて証拠を為す
29 債権者の書面は左の場合に於ては債務者の為め其債権者に対して証拠を為す
  第1 債務者の弁済其他の免責を明かに掲くるとき但債権者に於て債務者に交付する為め準備せる受取証書たることを証するときは此限に在らす
  第2 債務者の証書又は従来の受取証書に免責を書込み且其書類か債務者の手に存するとき
30 債務者の書面に其義務を掲け且之を以て債権者の証書の用に供するものたることを記載するときは其書面は債務者に対して証拠を為す
31 前2条の場合に於て抹殺したる書面は之を斟酌せす但其抹殺か詐害又は錯誤に出てたることの証あるときは此限に在らす
32 非商人は裁判上にて帳簿及ひ覚書を差出たす義務なし然れとも任意にて之を差出したるときは争に関するものを抄録したる後に非されは之を取戻すことを得す但抄録を為すには其者の出席の上又は之を合式に召喚したるときに限る
 
2節 口頭自白

33 口頭自白は一方の当事者か己れに不利なる権利上の結果を生すること有る可き事実に付き為すものなり其自白は裁判上のもの有り裁判外のもの有り 

1款 裁判上の自白 

34 裁判上の自白は自発のもの有り又は民事訴訟法に規定したる本人訊問に因りて為すもの有り
35 自白は其自白に繋る権利を処分する能力を有する者に非されは有効に之を為すことを得す但法律上自白の証拠を禁したる事実に非さるときに限る
 代理人の為したる自白は其管理行為に関する外特別の委任に依りたるときに非されは有効ならす但裁判上の代人の自白と其陳述取消の方式及ひ条件とに関する民事訴訟法の規定を妨けす
36 前条に従ひて為したる自白を相手方の受諾し又は之を裁判所に於て認めたるときは其自白は之を為したる者に対して完全の証拠を為す
 然れとも其自白は事実の錯誤の為めに之を言消すことを得
37 自白は法律の錯誤の為め之を言消すことを得す
 然れとも相手方の権利を直接又は間接に追認したる者は其権利の原因及ひ存続を争ふ権能を失はす
38 複雑なる自白を援用せんと欲する者は陳述せられたる数箇の事実に関し其自白を分つことを得す但此等の事実か相牽連したるときに限る
 然れとも主たる事実を変更する事実の主張は通常の証拠方法を以て之を駁撃することを得
39 裁判上の自白の効力は裁判所の管轄違か公の秩序に関せさるものたるときは其管轄違に因りて無効と為らす
 反対の場合に於ては自白は裁判外のものとしてのみ有効なり
40 一方の当事者か訴訟事件の或る事実の存在に付き陳述す可きの求を受けて其事実を争はさるに因り之を追認したりと看做す場合は民事訴訟法に於て之を規定す
41 一方の当事者か廃疾其他の原因に由りて語ることを得すと雖も書面又は容態を以て裁判所に答ふることを得るに於ては裁判上の自白の規則を之に適用す

2款 裁判外の自白

42 裁判外の自白は相手方又は其代人の面前に於て口頭にて又は此等の者に送付したる信書若くは書類にて之を為したるに非されは其効を有せす
 此求の場合の外口頭の自白を受け及ひ証する資格を有する官庁に於て更に其自白を為ささりしときは人証を許す場合に非されは証人を以て之を証することを得す
43 裁判上の自白の有効なる為め要する能力、其証拠力、其言消及ひ其不可分に関する前数条の規定は裁判外の自白に之を適用す
 然れとも判事は確実にして明白なる自白に非されは之を採用することを得す
44 上の規定は義務の全部又は一分の履行を法律上にて黙示の自白と看做す可き場合を妨けす
45 裁判外の自白は有効に之を言消したりと雖も相手方の利益に於て時効の中断を生す然れとも自白の日以後に経過す可き時効は言消の日より再ひ進行す 

3節 公正証書 

46 公正証書は公吏か当事者より証することを託せられたる事実に付ての証言なり
 又官庁の代人として事を行ふ官吏の調製したる証書は公正なり
 証書は公吏か場所、証書の性質及ひ其証書に関係する人に付き管轄を有し且法律に定めたる方式に従ひて之を作りたるに非されは公正ならす
 公証人其他当事者の嘱託に応す可き公吏の管轄及ひ其証書の方式は特別法を以て之を定む
47 前条に従ひて作りたる証書は偽造の申立あるまては公吏自身にて又は其面前にて為したる行為及ひ申述に付き其吏員の陳述の証拠を為す
 此証書は之に記載したる日附に付き右同一の証拠を為す
 公吏の名にて作り且其署名及ひ印章を具へたる証書は偽造の申立あるまては其吏員より出てたるものと推定す
 偽造申立手続は民事訴訟法に於て之を規定す
48 公正証書の証拠力は偽造の申立に因りて之を停止す其執行力に付ても亦同し
 主文と直接又は間接の関係ある文言に関しては第二十五条の規定を適用す
49条 証書に公正証書として有効なる為め上に定めたる条件の一を欠くこと有るも出捐を為す総ての当事者か現実に之に署名し又は捺印したるときは其証書は第21条及ひ第23条に定めたる条件を履行せすと雖も私署証書として有効なり 

4節 反対証書 

50 当事者は秘密に存し置く可き反対証書を以て公正証書又は私署証書の効力の全部又は一分を変更し又は滅却することを得然れとも其反対証書は公正証書たるときと雖も署名者及ひ其相続人に対するに非されは効力を有せす
 然れとも当事者の債権者及ひ特定承継人か当事者と約定するに当り反対証書あるを知りたることを証するに於ては之を以て其債権者及ひ承継人に対抗することを得
51 不動産権利に関する反対証書か或は登記に因り或は其附記に因りて公に為されたるときは其反対証書は通常の効力を取得す総て遡及の効力を有せす
52 孰れの場合に於ても一方の当事者の総ての承継人は他の当事者及ひ其相続人に反対証書を以て対抗することを得 

5節 追認証書

53 追認証書は当事者の一方か己れに不利なる公正又は私署の原証書の成立を追認する証書なり
 右の証書は下の二箇の場合を除き原告をして原証書を差出たす義務を免かれしめす又其証書中に原証書より更に多く又は更に少き事項を記し又は之と異なりたる事項を記するものは其効なし但追認証書中に之を原証書に代用す可き旨を記載したるときは此限に在らす
54 左の二箇の場合に於ては追認証書は原証書滅失の証あるとき之に代はるものとす
  第1 追認証書に原証書の事項を再掲したる旨を記載するとき
  第2 追認証書の日附より二十个年を経過し且之を援用する者か其証書のみを既に権利の行使に用ゐたるとき
55 前条の場合の外原告か原証書を差出たすことを得さるときは追認証書は其利益に於ては書面に因る証拠端緒として有効なり
 総ての場合に於て追認証書は時効を中断す 

6節 証書の謄本 

56 裁判所又は当事者より正本の差出を求むるに於ては証書の謄本は之を援用する者をして其正本を差出たす義務を免かれしめす但其者か正本の滅失を証したるときは此限に在らす
 然れとも公正の正本又は裁判上追認ありたる私署の正本か原本として公吏の許に蔵められたる場合に於て裁判所に其正本を差出たすことは裁判所の命令に依り民事訴訟法及ひ公吏の規則に従ひて之を為す
57 正本の滅失したるとき其謄本は左の四箇の場合に於ては正本と同一の証拠力を有す
  第1 公吏の作りし公正証書の正式謄本たるとき
  第2 公正証書の謄本又は裁判上追認あり且原本として公吏の許に蔵めたる私署証書の謄本を当事者の要求に因り其相手方の面前にて其公吏の作りたるとき
  第3 当事者出席の上又は合式に之を召喚したる上にて公吏か裁判所の命に依りて其謄本を作りたるとき
  第4 右三箇の場合の外適法に正本を預りたる公吏の作りし謄本か異議を受けすして其日附より二十个年を経過し且当事者間に於て主張せられたる権利に関し裁判上又は裁判外にて既に援用せられたるとき謄本には左の諸件を附記することを要す
 右第1の場合に於ては其謄本は正式謄本たること
 第2の場合に於ては当事者の面前にて作りたること
 第3の場合に於ては裁判所の命に依りて作りたること
 総ての場合に於て其謄本を正本と校合したる旨又は其謄本の正本に符合する旨を之に附記することを要す
58 前条に記載したる四箇の場合の外は公吏の作りたる証書の謄本は書面に因る証拠端緒の用を為すのみ
59 公吏の作りたる謄本の復写は人証を許す可き場合に限り単純なる参考書の用を為すのみ
然れとも公正証書の謄本を登記の公簿に謄写したるときは其謄写は書面に因る証拠端緒なり
 裁判上追認ありたる私署証書の正本の右に同しき謄写は亦書面に因る証拠端緒の効力を有す
 謄写か其日附より二十个年を経過し且異議を受くること無く既に行使せられたるときは其謄写は第五十七条第四号に従ひて完全の証拠とす 

7節 証人の陳述 

60 物権又は人権を創設し、移転し、変更し又は消滅せしむる性質ある総ての所為に付ては其所為より各当事者又は其一方の為めに生する利益か当時五十円の価額を超過するときは公正証書又は私署証書を作ることを要す
 人証は右の価額を超過するに於ては法律上明示若くは黙示にて例外と為したるときに非されは裁判所之を受理せす
61 双務契約に於ける証書の必要は権利の最高なる価額に依る
62 請求又は抗弁の目的か金銭に非さる場合に於て相手方か争の価額五拾円を超過する旨を陳述して人証に異議を申立つるときは裁判所は訴訟の元素に従ひ又は鑑定に従ひて予め仮の評価を為す
63 書面を作りたる場合に於ては書面に反する事項若くは書面外の事項を証する為め又は書面の意義を変更す可き様其調製の際若くは其前後に申述したるものを証する為めには縦令五拾円より少なき利益に関するも人証を許さす
 此禁止は弁済、免除、更改其他の義務消滅の原因を証する為め又は書面を以て証したる物権の消滅又は変更を証する為め上に定めたる制限内に於ける人証を妨けす
 総ての場合に於て主張せられたる事実の日附及ひ場所又は履行の為め口頭にて定めたる時期及ひ場所の脱漏は人証を以て之を補足することを得但此事より生する利益を主たる利益に加へて価額五拾円を超過せさるときに限る
64 争の利益か五拾円を超過する場合に於ては原告又は被告は縦令其以下の数額に請求又は抗弁を減するも人証を許さす
 五拾円を超過せさる請求又は抗弁か此数額を超過したる価額の残余なるとき亦同し
65 前条に規定したる二箇の場合に於て証人訊問に因り五拾円を超過したる利益なることを発見したるときは人証を許したる裁判所は之を取消すことを要す
 此他証人訊問に因り法律上之を許ささる事情を発見したる場合に於ても亦同し
66 上の規定は填補利息、過怠約款又は契約に従ひて返還を受く可き果実の計算を加ふるか為めに五拾円の額を超過する場合に於て原告又は被告か証人を以て其主たる債権を証する為め此従たる債権を抛棄し得る妨と為らす
 右の超過か遅延利息又は要約せさる損害賠償又は請求後に返還を受く可き果実のみより生するときは全部に付き人証を許す
67 書面に依り全く証せられすして各別に人証の許さる可き数箇の請求を為すことを得へき者は其原因の如何に拘はらす一箇の訴状に其数箇の請求を併合することを要す但其請求か総て満期のものにして同一裁判所の管轄に属するものたるときに限る
 右の手続を為ささるに於ては最早其脱漏したる請求に付き人証を許さす
 右の規定は同一の請求に対し数箇の抗弁を以て対抗せんと主張する者に之を適用す
68 前条に記載したる如く併合したる数箇の請求又は抗弁か五拾円の価額を超過するときは人証を許さす但此請求又は抗弁か相異なる原因より生するときは此限に在ら
69 左の場合に於ては争の価額の如何に拘はらす人証を許す
  第1 書面に因る証拠端緒の存するとき
   証拠端緒とは之を以て対抗せらるる人又は其人を代表したる者より出てたる総ての書面にして主張したる事柄に付き事実たるの感を起さしむるものを謂ふ主張したる事柄の書面に因る証拠端緒あるときは書面外の事項又は書面に反する事項に付き人証を許す
  第2 原告又は被告か不可抗力に因り又は自己の過失若くは懈怠に帰す可からさる意外の事に因りて其証書を失ひたることを証するとき
  第3 主張したる事柄の有りたる当時利害関係人か書証を得る能はさりしとき
70 前条第3号は殊に左の場合に之を適用す
  第1 財産取得編第220条及ひ第221条第1項に規定したる急迫寄託
  第2 事変、不期の危険又は急迫なる必要の場合に於て負担したる義務
  第3 合意外の原因を有する義務但此場合に於て不当の利得、不正の損害又は法律の規定より生したりと主張する義務か書面を以て証す可き性質のものたる権利行為を推量せしむるときは予め其証拠を供することを要す
71 法律か人証を許す場合の外人証を拒むに利益を有する当事者か人証に依りて証拠を挙くることを承諾するときは裁判所は人証を拒絶し又は之を許可することを得
72 判事は証人の証拠に因りて拘束せられす其心証に従ひて判決す 

 第8節 世評 

73 法律上特に世評に因る証拠を許す場合の外或る事実か顕著なるとき法律か其規定を此事実に適用す可きことを定めたる各箇の場合に於ては此証を用ゆることを得
 世評に因る証拠に於ては証人は事実に付き直接に自ら知らさるも伝聞に因り又は公然顕著なるに因りて知りたる所のものを陳述することを得 
 
  第3章 間接証拠
 
74 間接証拠なる推定は法律か直接証拠なき場合に於て知れたる事実より知れさる事実に自ら推及し又は裁判官の明識と思慮とに委ぬる結果なり
 右第1の推定を法律上の推定と謂ひ第2の推定を事実の推定と謂ふ 

1節 法律上の推定 

75条 法律上の推定には其証拠力と其原因とに従ひて左の区別あり
 第1 完全にして公益に関するもの
  第2 完全にして私益に関するもの
  第3 軽易なるもの 

1款 公益に関する完全なる法律上の推定 

76 公益に関する完全なる法律上の推定は法律の明示して定めたる場合及ひ方法に従ふに非されは反対の証拠を許さす此推定は之を左に掲く
  第1 既判力
  第2 取得又は免責の時効
77 既判力は判決主文に包含するものに存す
78 既判力は真正と推定せらる
 然れとも確定と為らさる判決は民事訴訟法に定めたる方式及ひ期間に於て之を攻撃することを得
79 判決の確定と為りたるとき同一の争を再ひ訴ふるに於ては其争は下の区別に従ひ既判力に依りて之を斥く
80 判決か全部又は一分に付き公の秩序に関するときは既判力に因る不受理の理由は裁判所の職権を以て之を補足することを要す
 此他の場合に於ては利害関係人より其不受理の理由を以て対抗することを要す
81 既判力に因る不受理の理由を以て新請求又は新答弁に対抗することを得るには其請求又は答弁か旧請求又は旧答弁に比較して左の諸件あることを要す
  第1 権利又は事実に関し争の目的の同一なること
  第2 主張の原因の同一なること
  第3 原告、被告の権利上の資格の同一なること
82 新請求又は新答弁の目的か数量に付てのみ旧請求又は旧答弁の目的と異なりたるときは新請求又は新答弁の目的は旧請求又は旧答弁に包含したるものと看做す但旧請求又は旧答弁を裁判せし裁判所か新請求又は新答弁の数量を正当とするに於ては之を許与する権力を有せしときに限る
83 旧争か合意又は遺言の鎖除、廃罷又は解除を目的としたるときは其争の際存在したるも当事者の知りて申立てさりし他の同性質の原因は当事者之を抛棄したりと推定せられ更に之を新争の原因として用ゆることを得す
 方式の瑕疵ある証書を其瑕疵の為め無効とする旧争中に申立てさりし他の方式の瑕疵に付ても亦同し
 本条の適用に於て鎖除の訴の為めには承諾の各種の瑕疵及ひ各種の無能力を同性質の原因と看做し又解除の訴の為めには合意不履行の各種の場合を同性質の原因と看做す
84 当事者か或は自身にて同一の資格を以て既に旧訴訟に出てたるとき或は旧訴訟に於て其前主若くは代理人に因りて代表せられたるとき或は利害関係人の結合か暗に相互代理たるときは当事者の権利上の資格は同一なりとす
85 刑事裁判所か犯罪の所為の為めに要求せし民事上の賠償に付き判決したる場合の外尚ほ重罪、軽罪又は違警罪の判決は犯罪に附著する民事上の利益に付き既判力を有す但犯罪所為の真実、其犯罪の性質及ひ被告人の罪責に付ての裁判に関するものに限る
 
2款 私益に関する完全なる法律上の推定 
 
86 法律上の推定は左の場合に於ては私益に関する完全のものたり
  第1 法律か人の身分に関する或る資格を付与し又は拒絶するとき
  第2 法律か或る所為を其規定に背きたるものと推定して取消すとき
  第3 法律か制規の公示なきに因り第三者に知れさるものと推定して或る権利の行使を拒絶するとき
 此法律上の推定は法律の明示して定めたる場合及ひ方法に従ふに非されは反対の証拠を許さす
 然れとも和解を許す場合に於ては此推定は口頭自白を以て何時にても之を覆へすことを得 

3款 軽易なる法律上の推定 

87 上の法律上の推定に非さるものは軽易なる法律上の推定なり此推定に付ては法律か反対の証拠を明許せさるときと雖も総て之を許す
 右反対の証拠は前2章に規定したる条件を以てするに非されは之を挙くることを得す
 又軽易なる法律上の推定は次条の場合に於ては事実の推定を以て之を駁撃することを得 

2節 事実の推定 

88 法律か裁判所に其裁判の元素を訴訟の事情に付き採取することを許す特別なる場合の外尚ほ裁判所は人証を許す可き場合に於ては何等の直接の証拠をも挙けさるときと雖も事情より生する心証に従ひて争を決することを得 

2部 時効 

1章 時効の性質及ひ適用 

89 時効は時の効力と法律に定めたる其他の条件とを以てする取得又は免責の法律上の推定なり但動産の瞬間時効に関する第144条以下の規定を妨けす
90 正当なる取得又は免責の推定は完全にして公の秩序に関するものとす此推定は第96条及ひ第161条に規定したる如く法律の定めたる場合及ひ方法に従ふに非されは反対の証拠を許さす
91 取得時効の効力は占有の有益に始まりたる日に遡る
 免責時効の効力は債権者か其権利を第125条以下に記載したる区別に従ひて行ふことを得へかりし日に遡る
92 或る訴権の行使の為め法律に定めたる期間は其訴権の性質に因りて取得時効又は免責時効の一般の規則に従ふ但法律か明示又は黙示にて例外を設けたる場合は此限に在らす
93 時効は総ての人より之を援用することを得
 又時効は総ての人に対して進行す但法律に依り時効停止の利益を受くる人に対しては此限に在らす
94 総て融通物は時効に罹ることを得但法律上之に異なる規定を設けたるものは此限に在らす
 不融通物及ひ譲渡すことを得さる物は時効に罹ることを得す
 公有の財産は動産と雖も亦同し
95 自己の財産に付き又は他人に対して行ふことを得る法律上の権能は幾許の時期間之を行はさるも為めに喪失せす但法律、合意又は遺言に於て之に異なる定を設けたる場合は此限に在らす
96 判事は職権を以て時効より生する請求又は抗弁の方法を補足することを得す時効は其条件の成就したるか為め利益を受くる者より之を援用することを要す
 時効を援用する当時併せて正当の取得又は免責なきことを追認する者は時効を抛棄したりと看做す
97 時効を援用するに利益を有する当事者の総ての承継人は或は原告と為り或は被告と為り其当事者の権に基きて時効を援用することを得
 債権者は財産編第339条に従ひて右と同一の権利を有す
98 時効は訴訟中何時にても之を援用することを得又控訴に於ても始めて之を援用することを得然れとも上告に於ては始めて之を援用することを得す
99 年又は月に依りて成就す可き時効は暦に従ひて之を算す
 日に依りて成就す可き時効は午前零時より午後十二時まてを一日と為して之を算す
 時効の進行の始まりたる日又は其中断若くは停止の後再ひ進行の始まりたる日は之を算せす
 最後の日は全く経過することを要す 

  第2章 時効の抛棄

100 時効は予め之を抛棄することを得す但第120条第2項に記する如く占有者か将来に向ひて其占有の容仮を認むる権利に妨なし
 成就したる時効は之を抛棄することを得又其進行中と雖も既に経過したる時期の利益は之を抛棄することを得
 此場合に於ては第118条以下に記載せる相手方の権利を追認したる場合に於けると同しく時効は中断す
101 抛棄は黙示たることを得ると雖も明かに事情より顕はるることを要す
102 成就したる時効を有効に抛棄するには取得したりと推定せらるる権利を無償にて譲渡し又は消滅したりと推定せらるる義務を無償にて負担する能力あることを要す
103 債権者は其権利を詐害して債務者の為したる時効の抛棄に対しては財産編第340条以下に定めたる条件及ひ方法に従ひ自己の名を以て之を攻撃することを得 

  第3章 時効の中断 

104 経過したる時期の利益か下に記したる原因の一に由りて消滅するときは時効は中断す
 中断したる時効は中断の原因の止みし時より更に進行す
105 時効の中断は自然のもの有り法定のもの有り
 自然の中断は取得時効に関してのみ生す
 法定の中断は取得及ひ免責の時効に共通なり
106 動産不動産又は包括動産の占有者か真の所有者又は第三者の所為に因りて一个年以上其占有を奪はれたるときは自然の中断あり
 占有を取戻したるときは時効は更に進行す
 若し不可抗力に因りて占有を奪はれたるときは自然の中断なし
107 自然の中断は各利害関係人の為めに其効を生す
108 占有者か或る時間任意にて其占有を止めしときは其占有不継続の効力は第139条に於て之を規定す
109 法定の中断は左の諸件より生す
  第1 裁判上の請求
  第2 勧解上の召喚又は任意出席
  第3 執行文提示又は催告
  第4 差押
  第5 任意の追認
 右の手続又は追認の行為か時効の為め害を受くる者の権利に明かに関係することを要す
110 法定の中断は中断の所為を行ひたる者及ひ其承継人の為めに非されは其効を生せす
111 本訴と附帯訴と反訴とを問はす裁判上の請求は時効を中断す但其請求か方式に於て無効たるとき又は管轄違の裁判所に之を為したるときも亦同し
 然れとも右但書の場合に於て中断は初の請求を棄却せし判決ありたる時より二个月内に更に合式の訴を提起せさるに於ては之を不成立と看做す
112条 中断は左の場合に於ても亦之を不成立と看做す
  第1 請求か其基本に於て棄却せられたるとき
  第2 原告か取下を為したるとき
  第3 訴訟手続か民事訴訟法に定めたる時間休止して無効と為りたるとき
113 裁判上の請求より生する中断は訴訟の提起より其判決の確定と為るまて継続す
114 勧解上の召喚又は任意出席に因る時効の中断は主たる請求は勿論其反対の請求よりも生す
 召喚の無効は方式の瑕疵に因るも管轄違に因るも中断を妨けす但初の召喚の無効と為りたるより一个月内に更に合式の召喚を為すことを要す
 合式の召喚の上勧解不調の場合及ひ被告の闕席の場合に於て中断は一个月内に裁判上の請求を為ささるときは之を不成立と看做す
115 執行文提示より生する中断は一个年内に差押を為ささるときは之を不成立と看做す
 右の中断は方式の瑕疵に因りて其提示の無効なるときと雖も尚ほ成立す但催告より生する中断の為め下に定めたる条件を履行することを要す
116 義務履行の催告は義務の目的、原因及ひ債務者を明かに指示し且六个月内に裁判上又は勧解上の請求を為したるときに非されは時効を中断せす
117 差押より生する中断は其差押の手続か合式に終結まて継続したるに非されは其効力を存続せす
 仮差押は裁判所の定めたる期間に裁判上の請求を為したるに非されは時効を中断せす
 時効の利益を受くる者に対して差押を為ささるときは其差押は此者に告知したる後に非されは之に対して中断の効力を有せす
118 任意の追認より生する時効の中断は裁判上より又は口頭たると書面たるとを問はす裁判外の行為より生することを得
 裁判上の追認は自発なること有り又は判事の訊問よる生すること有り
119 追認は明示又は黙示なることを得
 占有者か占有物に関する果実又は賠償の要求に承服するとき又は之に反して占有者か物に付き為したる必要若くは有益の費用の為め賠償を要求するときは殊に取得時効に対する黙示の追認ありとす
 債務者か利息又は債務の弁済の請求に承服するとき又は之に反して債務者か提供を為し若くは恩恵期限の請求を為すときは殊に免責時効に対する黙示の追認ありとす
120 真の所有者の権利を追認したる占有者は其所有者及ひ其承継人に対し新時効を再ひ始むる権利を失はす然れとも占有者は最早其以前の善意の利益を援用することを得す
 若し其占有者か容仮の占有者と為りたるときは将来に向ひ何人に対しても時効の利益を失ふ但財産編第185条第2項及ひ第3項の場合の適用を妨けす
121 追認に因りて中断したる免責時効は即時更に進行す然れとも其時効は最初短期のものたりしときと雖も将来に向ひては長期時効の期間に従ふ
122 時効を中断する追認は自己の財産を管理する能力又は時効に罹ること有る可き財産を他人の為めに管理する権力を有する者に於て之を為したるときは有効なり
 然れとも婦、無能力者又は委任者の利益に於ける不動産の取得時効を中断する為め夫、後見人又は代理人の為したる追認は不動産の請求に承服する一般又は特別の権力あるに非されは有効ならす
123 時効を中断する追認の所為に付き争あるときは通常の証拠方法を以て之を証することを得
124 保証、連帯及ひ不可分の場合に於て各利害関係人に対する追認其他の方法に因る時効中断の効力は債権担保編第27条、第61条、第81条及ひ第89条に於て之を規定す 

4章 時効の停止 

125 権利の行使か権利上又は恩恵上の確定若くは不確定の期間に服し又は其発生か停止条件に繋るときは其期間の満了又は条件の成就の時に非されは時効は進行を始めす
126 時効は物権又は人権にして其成立、広狭又は行使か相続に繋るものに対しては其相続後に非されは進行を始めす127 遺言又は前主の合意に対し相続人に属する鎖除訴権又は抗弁の時効は其遺言又は合意を相続人に対して援用し又は其相続人を害する権利行使の基礎として用ゐたる後に非されは進行を始めす
128 上の場合に於て時効は第三所持者に対して停止せす但所有権の取得時効又は抵当の消滅時効を中断せんと欲する利害関係人に於て自己の未定の権利の追認証書を得んと請求すること又は裁判上其権利を単に追認せしむることを妨けす
129 時効か其進行中に停止せらるるときは既に経過したる時間は其時効の更に進行を始むる時に之を通算す
130 時効は法律に定めたる人の利益に於けるに非されは停止せす
131 期間五个年以下の時効は成年者に対する如く未成年者及ひ禁治産者に対して進行す但後見人か此等の者の権利を行ふことを怠り又は正当の原因なくして此権利を覚知せさる場合に於ては此等の者より其後見人に対する求償権を妨けす
五个年を超ゆる時効に関しては其期間は成年に達したる未成年者又は精神の回復したる禁治産者をして常に其権利を行ふ猶予を得せしむる為め最後の一个年停止す
132 時効は婦に対し第三者の利益に於て進行す但夫か婦の為めに管理する財産に関し其夫の方に懈怠ある場合に於ては婦より夫に対する求償権を妨けす
然れとも法律に規定したる場合に於ては時効は婦の為め最後の一个年停止す
133 前2条の規定は無能力者自身にて為したる行為の鎖除訴権の時効停止に関し財産編第545条及ひ第546条に定めたるものを妨けす
134 配偶者の一人より他の一人に対して行ふ可き権利に関しては婚姻中と雖も時効は進行す
 然れとも其時効は最後の一个年停止す又一个年以下の時効に関しては其最後の半期間停止す
 第144条の場合に於ては動産回復の期間は三个月とす
135 時効は財産の管理人と其管理を受くる者との間に於て其保存することを任せられたる権利に付ては管理人の為めに停止す
 時効は管理か止みし以後に非されは更に進行せす又第144条の場合に於ける動産の時効に関しては三个月を以てするに非されは成就せす
136 上に定めさる場合に於て時効の期間の満了する時に当り有権者か交通の塞かりたるに因り又は地方の裁判事務の停止せられたるに因りて其権利の効用を致さしめ又は時効を中断する為め手続を為すこと能はさりし時は有権者其妨碍の止む後直ちに請求を為すに於ては其失権を免かるることを得
 右の規定は陸海軍人か戦乱の時に於て服役の為め其権利を行ふことを妨けられたる場合に於ては其利益の為め之を適用す137 物権又は人権の不可分より生する時効の停止は財産編第291条、第446条及ひ債権担保編第89条第2項に於て之を規定す 

5章 不動産の取得時効 

138 不動産の取得時効に付ては所有者の名義にて占有し其占有は継続して中断なく且平穏、公然にして下に定めたる継続期間あることを要す
 財産編第183条及ひ第185条に定めたる如き強暴、隠密又は容仮の占有は時効を生せす
139 占有者か時効に因りて取得せんとする物に付き或る長き時間所有者の行為を為すことを任意にて止めしときは其占有は不継続にして時効を生せす
 占有者か再ひ所有者の行為を為すときは其以前の占有の時間は占有者の為めに之を算せす
140 占有か上に定めたる条件の外財産編第181条に記載したる如き正権原に基因し且財産編第182条に従ひて善意なるときは占有者は不動産の所在地と時効の為め害を受くる者の住所又は居所との間の距離を区別せす十五个年を以て時効を取得す
 占有者か正権原を証することを得す又は之を証するも財産編第187条に規定したる如く其悪意か証せらるるときは取得時効の期間は三十个年とす
141 性質上登記を為す可き正権原に基因したる時効は其証書に依り登記を為したる後に非されは之を算せす
142 方式上無効たり又は裁判上取消されたる権原は時効の為めに有益ならす
143 前主の占有を其相続人及ひ包括若くは特定の承継人の占有に併合し又は継続することは財産編第192条に於て之を規定す 

6章 動産の取得時効 

144 正権原且善意にて有体動産物の占有を取得する者は即時に時効の利益を得但第134条及ひ第135条に記載したるものを妨けす
 此場合に於て反対か証せられさるときは占有者は正権原且善意にて占有するものとの推定を受く
145 動産物の占有者か正権原を有し且善意なる場合に於ても其物か所有者の盗取せられたるもの又は遺失したるものなるときは其所有者は盗難又は遺失の時より二个年間は占有者に対して其物の回復を請求することを得但占有者か其物を有償にて受けたるときは其譲渡人に対する求償を妨けす
 背信に因りて隠匿し又は詐欺を以て得たる物には本条を適用せすして前条の規定に従ふ
146 盗取せられ又は遺失したる物を競売又は公の市場に於て又は此類の物の商人若くは古物商人より善意にて買受けたる者あるときは所有者は其買受代価を弁償するに非されは回復を為すことを得す
 此場合に於ては右の代価に付き所有者は売主に対し又売主は譲渡人に対して求償権を有し終に盗取者又は拾得者に遡る
147 無記名債権証書を盗取せられ又は遺失したる場合に於て其証書回復の期間及ひ条件は特別の規則を以て之を定む148 上の場合に於て回復者か占有の無権原たり又は悪意たることを証するときは時効は三十个年を経過するに非されは成就せす
149 上の規定は用方に因りて不動産と為りたる動産か其附著したる不動産より分離せられたる場合に於ては其動産に之を適用す
 上の規定は財産編第12条に従ひ用方に因る動産に之を適用せす但其物か土地より分離したるときは此限に在らす
 又上の規定は記名債権にも包括動産にも之を適用せす但此等の物に関する時効の期間は第138条以下に記載したる区別に従ひ不動産に関するものと同一なり 

7章 免責時効 

150 義務の免責時効は債権者か其権利を行ふことを得へき時より三十个年間之を行はさるに因りて成就す但法律上別段短き期間を定め又は債権を時効に罹らさるものと定めたるときは此限に在らす
151 債務の元本か年賦にて弁済す可きものたるときは利息を包含すると否とを問はす時効は各年賦の要求期に達したる時より各別に之を算す
152 債権か無期又は終身の年金権なるときと雖も其時効は証書の日附より三十个年を以て成就す
 然れとも右の日附より二十八个年の後に至り債権者は債務者に対し時効を中断する為め双方の費用を以て其権利の追認証書を得んと要求することを得
 若し債務者右の要求を拒絶し債権者裁判上自己の権利を追認せしむる必要あるときは其費用は全く債務者の負担たり
153条 動産質又は不動産質の返還を得る為めの対人訴権は適法なる方法に因りて債務の消滅したる後に非されは時効に罹らす 

第8章 特別の時効 

154 人の身分に関する訴権は法律か其行使を特別の期間に繋らしむる場合に非されは時効に罹らす
155 相続人又は包括権原の受遺者若くは受贈者の分限をして効用を致さしむる為めの遺産請求の訴権は相続人又は包括権原の受贈者若くは受遺者の権原にて占有する者に対しては相続の時より三十个年を経過するに非されは時効に罹らす
156 免責時効は左に掲くる諸件の弁済の訴権に対しては五个年とす
  第1 明確なる金額の填補又は遅延の利息
  第2 無期又は終身の年金権の年金
  第3 養料又は恩給の一期の支払金
  第4 借家賃又は借地賃
  第5 果実又は日用品の毎期の給与額
  第6 教師、番頭、手代、使用人、乳母其他の雇人の謝金又は給料にして一个年毎に定められたるもの此他一般に一个年毎に又は更に短き時期を以て定めたる金額又は有価物に係る債務に付ても亦同し但其弁済の方法如何に拘はらす且下に規定したる場合は此限に在らす
157条 時効は左の訴権に対しては三个年とす
 第1 医師、産婆、薬剤者の治術、世話及ひ調剤に関する其訴権
  第2 前条第6号に指定したる教師、使用人其他の者の謝金又は給料か一个年より短く一个月より長き時期を以て定められたる場合に於ては其訴権
  第3 技師、工匠、測量師、製図師の経画、意見及ひ工事に関する訴権
  第4 不動産に関する築造、地均其他の工作に付ての請負人の訴権
158 公証人、弁護士、執達吏其他の公吏か職務に関して受く可きものに付ての其訴権に対する時効は二个年とす
 此場合に於て時効は右各人の債権を生せしめたる行為又は訴訟の終了後に非されは進行を始めす
 然れとも終了せさる事件に関しては右各人は五个年余に遡る行為の為めに謝金を要求することを得す
 此規定は右各人か其職務の為めに為したる立替金及ひ支出金に之を適用す
159 時効は左の訴権に対しては一个年とす
   第1 非商人に為したる供給に関する日用品、衣服其他動産物の卸売商人又は小売商人の訴権但商人又は工業人に為したる供給と雖も其者の商業又は工業に関せさる場合に於ては亦同し
  第2 右の区別を以て注文者の材料又は動産物に付き仕事を為す居職の職工又は製造人の訴権
  第3 生徒又は習業者の教育、衣食及ひ止宿の代料に関する校長、塾主、師匠又は親方の訴権
160 時効は左の訴権に対しては六个月とす
  第1 第156条第6号及ひ第157条第2号に指定したる教師、使用人其他の者の謝金又は給料か一个月又は更に短き時期を以て定められたる場合に於ては其訴権
  第2 旅店又は料理店の主人より供給したる宿泊料、飲食料及ひ消費物に関する其訴権
  第3 日雇、月雇の職工又は労力者の給料及ひ其仕事に際し此等の者の為したる些少の供給に関する其訴権
161 前5条に規定したる時効は現実に弁済せさりしことを自白したる債務者之を援用することを得す
162 裁判所書記、弁護士は裁判の時より公証人は証書調製の時より執達吏は其職務執行の時より三个年の後は其職務の事件に関して交付せられたる書類に付き責任を免かれ其書類返還の証を提示する義務を免除せらる
163 本章に規定したる時効は当事者の間に明確なる計算書、数額を記載したる債務の追認書又は債務者に対する判決書あるときは之を適用することを得す此場合に於ては時効は三十个年とす 
附則
164 本法実施の当時に於て進行中なる時効は上に定めたる条件、禁止、中断及ひ停止に従ふ
 其期間に関しては旧時効か新時効より一層長き期間を要する場合に於ては占有者又は債務者は本法実施の時より算して旧時効の経過す可き残期か新時効の期間より短きときは旧時効を利することを得
 新時効より一層短き期間の旧時効に関しては其期間は本法に定めたるものに等しき期間に達する様之を延長す可し 

人事編

1章 私権の享有及ひ行使

1

 凡そ人は私権を享有し法律に定めたる無能力者に非さる限りは自ら其私権を行使することを得

2

 胎内の子と雖も其利益を保護するに付ては既に生まれたる者と看做す

3

 私権の行使に関する成年は満二十年とす但法律に特別の規定あるときは此限に在らす

4

 外国人は法律又は条約に禁止あるものを除く外私権を享有す

5

 法人は公私を問はす法律の認許するに非されは成立することを得す又法律の規定に従ふに非されは私権を享有することを得す

6

 法律は外国法人の成立を認許せす但条約又は特許あるときは此限に在らす

 成立の認許を得たる外国法人は日本に成立する同種の者と同一の私権を享有す但条約中又は特許中に其権利を制限したるときは此限に在らす

2章 国民分限

1節 国民分限の取得

7

 日本人の子は外国に於て生まれたるときと雖も日本人とす

 父母分限を異にするときは父の分限を以て子の分限を定む

 父の知れさるときは子は母の分限に従ふ

 父母共に知れさるときは日本に於て生まれたる子は日本人とす若し其出生地の知れさるときは現に日本国内に在る者は日本人とす

8

 左の場合中の一に在る子は日本人の分限を選択することを得

  第1 父が外国人たるも母の日本人たるとき

  第2 外国人の子たるも日本に生まれたるとき

  第3 日本人の分限を失ひたる者の子にして其分限喪失の後に生まれたる者なるとき

  第4 帰化人の子にして成年者なるとき

9

 日本人の分限を選択せんと欲する子は本国法律に従ひて成年に至りし時より一个年内に其意思を申述し且其申述より一个年内に住所を日本に定む可し

 成年の後に至るて外国人の認知したる私出子は認知より又帰化人の子は帰化より一个年内に右の申述を為すことを得

10

 日本人と婚姻する外国の女は日本人の分限を取得し婚姻解消の後と雖も其分限を保有す

11

 外国人は帰化に因りて日本人の分限を取得することを得其条件及ひ方式は特別法を以て之を規定す

 帰化人の婦及ひ未成年の子は日本に住居を定めたるときは日本人の分限を取得す

2節 国民分限の喪失及ひ回復

12

 日本人は左の場合に於て其分限を失ふ

  第1 任意に外国人の分限を取得したるとき

  第2 日本政府の允許なくして外国政府の官職を受け又は外国の軍隊に入りたるとき

13

 前条の場合に於て日本人の分限を失ひたる者其分限を回復せんと欲するときは日本政府の允許を得たる上帰国して其意思を申述し且一个年内に住所を日本に定

むるときは其分限を回復す

14

 日本人の分限を失ひたる者の婦及ひ未成年の子は引続き日本に住居するに非されは日本人の分限を失ふ但婦は第15条第2項の規定に従ひ又未成年の子は第9

1項の規定に従ひ其分限を回復することを得

15

 外国人と婚姻する日本の女は日本人の分限を失ふ

 然れとも婚姻解消の後日本に住居し又は復帰し且日本に住所を定むることを申述するときは其分限を回復す

3節 国民分限変更の方式及ひ効力

16

 国民分限の変更に関する申述は日本に在りては住居地の身分取扱吏に外国に在りては日本公使館又は日本領事館に之を為す可し

 此申述は部理代理人を以て之を為すことを得

17

 国民分限の変更は将来に非されは其効力を生せす

18

 国民分限は出生の時を以て之を定む然れとも懐胎より出生まての間父又は母の分限に変更ありたるときは子は日本に住居する場合に限り日本人の分限を保有す

3章 親属及ひ姻属

19

 親属とは血統の相聯結する者の関係を謂ふ

 六親等の外は親属の関係あるも民法上の効力を生せす

20

 親属の遠近は世数を以て之を定め一世を以て一親等とす

 親等の連続するを親系と為す彼より此に直下する者の親系を直系と謂ひ其直下せすして同始祖に出つる者の親系を傍系と謂ふ

 直系に於て自己の出つる所の親族を尊属親と謂ひ自己より出つる所の親族を卑属親と謂ふ

21

 直系に於ては親族の世数を算して親等を定む

 傍系に於ては親族の一人より同始祖に遡り又其始祖より他の一人に下たる其間の世数を算して親等を定む

22

 養子縁組は養子と養父母及ひ其親族との間に親属に同しき関係を生す但養子とは男女を総称す

23

 嫡母、継父又は継母と其配偶者の子との関係は親子に準す

24

 姻属とは婚姻に因りて夫婦の一方と其配偶者の親族との間に生する関係を謂ふ

 然れとも婦の夫家に於ける又入夫の婦家に於ける尊属親との関係は親属に準す

25

 夫婦の一方の親族は其親系及ひ親等に於て配偶者の姻族とす

 姻属の関係は婚姻無効の判決又は離婚に因りて止む又生存配偶者其家を去るに因りて止む

26

 直系の親族は相互に養料を給する義務を負担す

 嫡母、継父又は継母と其配偶者の子との間及ひ婦又は入夫と夫家又は婦家の尊属親との間も亦同し

27

 兄弟姉妹の間には疾病其他本人の責に帰せさる事故に因りて自ら生活する能はさる場合に限り相互に養料を給する義務あり

28

 養料の義務を負担す可き者の順位は左の如し

  第1 第26条に掲けたる者

  第2 兄弟姉妹

 直系の親族の間は其親等の最も近き者養料の義務を負担す

29

 養料は之を受く可き者の必需と之を給す可き者の資産とに応して其額を定む

4章 婚姻

1節 婚姻を為すに必要なる条件

30

 男は満十七年女は満十五年に至らされは婚姻を為すことを得す

31

 配偶者ある者は重子て婚姻を為すことを得す

32

 夫の失踪に原因する離婚の場合を除く外女は前婚解消の後六个月内に再婚を為すことを得す

 此制禁は其分娩したる日より止む

33

 姦通の原因に由りて離婚の裁判を言渡されたる曲者は相姦者と婚姻を為すことを得す

34

 直系に於ては尊属親と卑属親との間婚姻を禁す

35

 傍系に於ては兄弟姉妹及ひ伯叔父姑甥姪ノ間婚姻を禁す

36

 直系の姻族の間は其関係の止みたる後と雖も婚姻を禁す

37

 養子と養父母又は其尊属親との間及ひ養父母又は其尊属親と養子の配偶者又は其卑属親との間は離縁の後と雖も婚姻を禁す

38

 子は父母の許諾を受くるに非されは婚姻を為すことを得す

 父母の一方か死亡し又は其意思を表する能はさるときは他の一方の許諾を以て足る

 継父又は継母ある場合に於て其配偶者たる母又は父の死亡し又は其意思を表する能はさるときは継父又は継母の許諾を受く可し其許諾に付ては第9章第3節の規

定を適用す

39

 父母共に死亡し又は其意思を表する能はさるときは其家の祖父母の許諾を受く可し

 祖父母の一方か死亡し又は其意思を表する能はさるときは他の一方の許諾を以て足る

40

 父母、祖父母悉ク死亡し又は其意思を表する能はさるときは満二十年に至らさる者に限り後見人の許諾を受く可し

41

 父母の知れさる子は二十年未満に限り後見人の許諾を受く可し

42

 育児院に在りて父母の知れさる子の婚姻は二十年未満に限り院長の許諾を受く可し

2節 婚姻の儀式

43

 婚姻の儀式は当事者の一方の住所又は居所の地に於て之を行ふ可し

 双方は婚姻の儀式を行ふ前に其地の身分取扱吏に婚姻を為さんとする申出を為すことを要す但此申出は代理人を以て之を為すことを得

44

 双方は前条の申出を為す時に於て左の書類を差出たす可し

  第1 出生証書

  第2 前婚の解消を証する証書

  第3 婚姻に必要なる許諾書又は其許諾を得る能はさる事由を証する書類

45

 双方又は一方か出生証書を呈示する能はさるときは出生地、住所又は居所の区裁判所の授付したる保証書を以て出生証書に代用することを得

 保証書は男女を問はす又親族と否とを問はす証人二人か左の諸件に付き区裁判所に為したる申述を記載す

  第1 本人の氏名、職業、住所及ひ居所並に其父母分明なるときは其氏名、職業、住所及ひ居所

  第2 本人の出生の地及ひ年月日

  第3 本人の出生証書を呈示する能はさる原因及ひ証人の其事実を聞知したる縁由

46

 身分取扱吏は婚姻の儀式を行ふ障碍と為る可き法律上の原因あることを知りたるときは其儀式を行ふことを差止む可し

 此場合に於ては身分取扱吏は理由を記したる差止書を授付す可し

 当事者此差止を不当なりと思料するときは区裁判所に抗告して其取消を求むることを得

 裁判所は休暇事件と同しく之を取扱ふ可し

47

 婚姻は証人二人の立会を得て慣習に従ひ其儀式を行ふに因りて成る

 当事者の承諾は此儀式を行ふに因りて成立す

48

 婚姻の儀式は其申出の日より三日後三十日内に之を行ふことを要す

49

 婚姻の儀式を行ひたるときは双方より十日内に身分取扱吏に其届出を為す可し但此届出は代理人を以て之を為すことを得

 

3節 日本人外国に於て為し及ひ外国人日本に於て為す婚姻

50

 外国に於て日本人の間又は日本人と外国人との間に婚姻を為すときは其国の規則に従ひて儀式を行ふことを得但本章第1節に定めたる条件に違背せさることを要

51

 外国に於て日本人の間に日本の規則に従ひて婚姻を為すときは其国に在る日本公使館又は日本領事館に婚姻の申出を為すことを要す

 婚姻の儀式を行ひたるときは第49条の規定に従ひて其届出を為す可し

52

 日本に於て外国人か婚姻を為さんとするときは其能力は本国の法律に従ふ但第31条乃至第37条の条件に違背せさることを要す

 外国人は婚姻の申出を為す時に於て婚姻を為すに障碍なきことを証する本国相当官署の認証書を差出たす可し

4節 婚姻成立の証拠

53

 婚姻成立の証拠は婚姻証書を以て之を挙く可し但第291条に規定するものは此限に在らす

54

 婚姻証書を増減し毀棄し隠匿し又は片紙に記載したる場合に於て刑事又は民事の訴訟に因りて婚姻の成立を認めたる判決は之を婚姻証書に代用することを得

5節 婚姻の不成立及ひ無効

55

 人違、喪心又は強暴に因りて双方又は一方の承諾の全く欠缺したる婚姻は不成立とす

 第34条乃至第37条の規定に違ひて為したる婚姻も亦不成立とす

 婚姻の不成立は何人に限らす何時にても之を申立つることを得

56

 第30条、第31条及ひ第33条の規定に違ひて婚姻を為したるときは双方、尊属親又は現実の利益を有する者より何時にても其無効を請求することを得

 右同一の場合に於て検事は夫婦の生存中に限り職権を以て婚姻の無効を請求することを得

57

 不適齢に付き無効を請求する権利は左の場合に於て消滅す

  第1 適齢ならさりし者か適齢に至れる後明示にて婚姻を認諾し又は三个月を過きたるとき

  第2 無効の請求後と雖も婦か適齢ならすして懐胎したるとき

  第3 夫か適齢ならすして婦の懐胎したるとき但婦の姦通を証するときは格別なりとす

58

 重婚に原因する婚姻無効の請求ありたる場合に於て後婚の双方か前婚の不成立、無効又は離婚を主張するときは先つ其裁判を為す可し

 前婚の配偶者か失踪したるときは其失踪中は重婚の無効訴権を行ふことを得す

59

 左の場合に於ては婚姻は無効とす

  第1 身分取扱吏に婚姻の申出を為さす又は其差止を受けたるに拘はらす儀式を行ひたるとき

  第2 身分取扱吏の管轄違なるとき

  第3 第48条の規定に違ひて儀式を行ひたるとき

  第4 証人二人の立会なくして儀式を行ひたるとき

 此無効は第56条に掲けたる者より之を請求することを得但婚姻儀式後一个年を過きたるときは無効訴権を行ふことを得す

60

 第38条乃至第42条に定めたる許諾なくして婚姻を為したるときは其許諾を与ふ可き者又は之を受く可き者より其無効を請求することを得

 許諾ありたる場合と雖も其許諾か強暴に原因したるときも亦同し

61

 前条の場合に於て婚姻の許諾を与ふ可き者か婚姻を認諾せすして死亡し又は其意思を表する能はさるときは法律に定めたる順位に従ひて其許諾を与ふ可き者は

無効訴権を行ふことを得

62

 第60条に掲けたる無効訴権は左の場合に於て消滅す

  第1 婚姻の許諾を与ふ可き者か認諾を為し又は婚姻ありたることを知りし後三个月を過きたるとき

  第2 三个月内と雖も許諾を受く可き者か婚姻上の成年に至り又は死亡したるとき

63

 強暴に因りて承諾に瑕疵ある婚姻の無効は強暴を受けたる者に限り之を請求することを得

64

 前条の場合に於て配偶者強暴を免かれたる後明示にて認諾し又は三个月間引続き同居したるときは婚姻の無効を請求することを得す其同居せさる場合に於ても無

効訴権は一个年を以て消滅す

65

 裁判所は婚姻の不成立又は無効の訴訟中夫婦の一方の請求に因り又は職権を以て婦又は夫に住家を去る可きを命することを得

66

 無効の言渡ありたる婚姻は子に付ては其出生の婚姻前後なるを問はす法律上の効力を生す

6節 婚姻の効力

67

 婚姻は其儀式を行ひたる日より効力を生す但夫婦財産契約に付ては婚姻の届出後に非されは第三者に対して婚姻の効力を援用することを得す

68

 婦は夫の許可を得るに非されは贈与を為し之を受諾し不動産を譲渡し之を担保に供し借財を為し債権を譲渡し之を質入し元本を領収し保証を約し及ひ身体に羈絆を

受くる約束を為すことを得す又和解を為し仲裁を受け及ひ訴訟を起すことを得す

69

 夫の許可は特定又は総括なることを得但総括の許可は証書を以て之を与ふることを要す

 夫は夫婦財産契約に依りて与へたる総括の許可と雖も之を廃罷することを得

70

 左の場合に於ては婦は夫の許可を得ること要せす

  第1 夫か失踪の推定を受けたるとき

  第2 夫か禁治産又は准禁治産を受けたるとき

  第3 夫か瘋癲の為め病院又は監置に在るとき

71

 夫は婦に与へたる許可に因りて義務を負担せす

72

 夫の許可を得すして婦の為したる行為は之を鎖除することを得

 此鎖除は夫婦の各自及ひ婦の承継人に非されは之を請求することを得す

73

 夫に属する鎖除訴権は其鎖除し得へき行為を知りたる日より五个年の時効に因り又は婚姻の解消に因りて消滅す

 婦及ひ其承継人に属する鎖除訴権は婚姻解消の日より五个年の時効に因りて消滅す

 財産編第544条以下の規定は本条の鎖除訴権に之を適用す

7節 罰則

74

 婚姻申出の時に必要の書類を差出たさしめさる身分取扱吏は弐円以上弐拾円以下の過料に処す

 

75

 婚姻の不成立又は無効たる可き法律上の原因あるを知りて其儀式を行ふことを差止めさる身分取扱吏は三円以上三拾円以下の罰金に処す

76

 第32条の制禁に違背して再婚を為したる婦は弐円以上弐拾円以下の罰金に処す其情を知りて婚姻を為したる夫及ひ婚姻の儀式を行ふことを差止めさる身分取扱吏

も亦同し

77

 夫婦の一方にして婚姻の無効を致したる原因を知り之を他の一方に隠秘したる者は三円以上三拾円以下の罰金に処す

5章 離婚

1節 協議の離婚

78

 夫婦は下に定めたる条件及ひ方式に従ひ協議を以て離婚を為すことを得

79

 離婚せんとする夫婦は婚姻許諾の為め第4章第1節に定めたる規則に従ひ各其父母、祖父母又ハ後見人の許諾を受くることを要す

80

 夫婦は離婚協議書に左の書類を添へて身分取扱吏に届出つ可し

  第1 婚姻証書

  第2 離婚の許諾を与ふ可き者の許諾書若し其者死亡し又は意思を表する能はさるときは死亡証書又は其事由を証する書類

2節 特定原因の離婚

1款 離婚及ひ不受理の原因

81

 離婚は左の原因あるに非されは之を請求することを得す

  第1 姦通但夫の姦通は刑に処せられたる場合に限る

  第2 同居に堪へさる暴虐、脅迫及ひ重大の侮辱

  第3 重罪に因れる処刑

  第4 窃盗、詐欺取財又は猥褻の罪に因れる重禁錮一年以上の処刑

  第5 悪意の遺棄

  第6 失踪の宣言

  第7 婦又は入夫より其家の尊属親に対し又は尊属親より婦又は入夫に対する暴虐、脅迫及ひ重大の侮辱

82

 離婚の請求を為す一方に対して離婚の原因存するときは他の一方も反訴を以て離婚を請求することを得

 然れとも前条第3号及ひ第4号に記載する重罪又は軽罪の刑に処せられたる一方は他の一方の処刑を原因として離婚を請求することを得す

2款 仮処分

83

 離婚の訴訟中子の監護は原告又は被告たるを問はす夫に属す但入夫及ひ婿養子に付ては婦に属す

 然れとも裁判所は夫、婦、親族又は検事の請求に因り子の利益を慮りて其監護を他の一方又は第三者に命することを得

84

 離婚の訴訟中婦は原告又は被告たるを問はす裁判所の許可を得て住家を去ることを得此場合に於ては自己の衣服其他の日用物品を持去り且必要あるときは養料

を請求することを得

 裁判所は夫の意見を聴きて婦の移居す可き家屋を指示することを要す若し婦か正当の理由なくして其家屋を去るときは夫は養料を拒むことを得

85

 入夫及ひ婿養子に付ては裁判所は離婚の訴訟中夫をして住家を去らしむることを得此場合に於ては前条第1項の規定を適用す

86

 裁判所は住家を去る婦又は夫の請求に因り其財産を保存する為めに必要なる処分を命することを得

3款 離婚の訴

87

 離婚を請求する訴権は夫婦のみに属す

88

 離婚の原因は通常の証拠方法を以て之を証す可し但し自白のみを以て之を証することを得す又卑属親を除く外親族、姻族又は雇人に関する忌避の規定を適用せす

3節 離婚の効力

89

 離婚は其届出又は裁判確定の後に非されは効力を生せす

90

 離婚の後子の監護は夫に属す但入夫及ひ婿養子に付ては婦に属す

 然れとも裁判所は夫、婦、親族又は検事の請求に因り子の利益を慮りて之を他の一方又は第三者の監護に付することを得

6章 親子

1節 親子の分限の証拠

91

 婚姻中に懐胎したる子は夫の子とす

 婚姻の儀式より百八十日後又は夫の死亡若くは離婚より三百日内に生まれたる子は婚姻中に懐胎したるものと推定す

92

 嫡出子は出生証書を以て之を証す

93

 出生証書を呈示する能はさるときは親子の分限は嫡出子たる身分の占有を以て之を証することを得但第291条の規定の適用を妨けす

94

 身分の占有とは夫婦と其婚姻に因りて生まれたりと主張する者との間其者の出生の時より親子の分限を証するに足る可き事実の湊合するを謂ふ其事実の著明なる

もの左の如し

  第1 子なりと主張する者か常に其父なりとする者の氏を称したること

  第2 子なりと主張する者か常に其父なりとする者より嫡出子の如く取扱はれ其養育、教育を受けたること

  第3 子なりと主張する者か常に親族及ひ世上に於て嫡出子と認められたること

95

 庶子は父の届出に基く出生証書を以て之を証す但身分の占有に関する規定を適用す

96

 父の知れさる子は私生子とす

97

 私生子は出生証書を以て之を証す但身分の占有に関する規定を適用す

98

 私生子は父を認知するに因りて庶子と為る

99

 庶子の出生届及ひ認知は父自ら身分取扱吏に之を為すことを要す未成年者と雖も自ら之を為すことを得

2節 否認訴権

100

 否認訴権は夫のみに属す但子の出生後に非されは之を行ふことを得す

101

 夫か民事上の禁治産を受けたるときは後見人又は後見監督人は親族会の許可を得て否認訴権を行ふことを得

102

 夫か子の出生の場所に在るときは出生より三个月の期間内に限り否認訴権を行ふことを得但夫か婦と住家を異にし又は婦か子の出生を夫に隠祕したるときは此期

間は子の出生を知りたる日より起算す

 若し夫か遠隔の地に在るときは訴権の期間を四个月とし子の出生を知りたる日より起算す

3

 庶子及ひ私生子の嫡出子と為る権

103

 庶子は父母の婚姻に因りて嫡出子と為る

 私生子は父母の婚姻の後父の認知したるに因りて嫡出子と為る

104

 死亡したる子と雖も前条の規定に依り嫡出子と為る此場合に於ては其効力は子の生みたる子を利す

105

 父母の婚姻の時まてに父子の分限確定したる者は婚姻の日より又婚姻の後に確定したる者は確定の日より嫡出子の権利を有す

7章 養子縁組

1節 養子縁組に必要なる条件

106

 何人と雖も養子と為る可き者より年長にして成年なるに非されは養子を為すことを得す

 遺言を為す能力ある者は遺言養子を為すことを得

107

 家督相続を為す可き男子ある者は養子を為すことを得す

108

 後見人は管理の計算を為ささる前に被後見人を養子と為すことを得す但遺言養子と為すは此限に在らす

109

 戸主に非さる者は養子を為すことを得す但推定家督相続人にして戸主の許諾を得たる者は此限に在らす

110

 配偶者ある者は其配偶者の承諾を得るに非されは養子を為すことを得す但配偶者か其意思を表する能はさるときは此限に在らす

 配偶者ある者は其配偶者と一致するに非されは養子と為ることを得す

111

 家督相続に因りて戸主と為りたる者は他人の養子と為ることを得す

 又推定家督相続人は他人の養子と為ることを得す

 然れとも分家より本家を承継する必要あるときは本条の規定を適用せす

112

 外国人は日本人の養子と為ることを得す

2節 養子縁組の儀式

113

 養子縁組は当事者の承諾に因りて成る

 此承諾は証人二人の立会を得て慣習に従ひ縁組の儀式を行ふに因りて成立す

 縁組の儀式を行ふに付ては第43条、第46条及ひ第48条の規定を適用す

114

 当事者は身分取扱吏に縁組の申出を為す時に於て左の書類を差出たす可し

  第1 養子を為す者及ひ養子と為る者の出生証書又は之に代用する保証書

  第2 家督相続を為す可き男子なきことを証する身分取扱吏の認証書又は推定家督相続人廃除の証書

  第3 配偶者の承諾書又承諾を得る能はさる事由を証する書類

  第4 後見管理の計算を為したる証明書

  第5 縁組に必要なる許諾書又は許諾を得る能はさる事由を証する書類

115

 満十五年に至らさる子の縁組は父母之を承諾することを得

 父母の一方か死亡し又は其意思を表する能はさるときは他の一方に於て縁組を承諾することを得

 父母共にに死亡し又は其意思を表する能はさるときは其家の祖父母若し其一方か死亡し又は其意思を表する能はさるときは他の一方に於て縁組を承諾することを

116

 満十五年に至りたる者は父母の許諾を受けて縁組を承諾することを得

 父母の一方か死亡し又は其意思を表する能はさるときは他の一方の許諾を以て足る

 父母共に死亡し又は其意思を表する能はさるときは其家の祖父母の許諾を受く可し若し祖父母の一方か死亡し又は其意思を表する能はさるときは他の一方の許諾

を以て足る

117

 父母、祖父母悉く死亡し又は其意思を表する能はさるときは二十年未満の者に限り前2条に定めたる年齢の区別に従ひて後見人之を承諾し又は其許諾を与ふ

118

 私生子の養子縁組に付ては母之を承諾し又は其許諾を与ふ

 父母の知れさる子に付ては前条の規定を適用す

119

 前数条の場合に於て継父又は継母あるときは第38条第3項の規定を適用す

120

 育児院に在りて父母の知れさる子の縁組は二十年未満に限り第115条及ひ第116条に定めたる年齢の区別に従ひて院長之を承諾し又は其許諾を与ふることを得

121

 婿養子縁組に付ては婚姻の申出を為す時に於て当事者は婿養子縁組を為すの意思を身分取扱吏に申出つ可し

 此縁組に必要なる条件の欠缺するときは身分取扱吏は婚姻の儀式を差止むることを得

 此縁組は婚姻の儀式を行ふに因りて成る

122

 遺言養子縁組は遺言書を以て之を為す

 此遺言は養子を為す者の死亡の日に家督相続を為す可き卑属親あるときは其効を失ふ

123

 遺言養子を為す者の死亡したるときは第115条以下の規定に従ひて縁組の受諾を為す可し

124

 縁組の儀式を行ひ又は縁組の受諾を為したるときは当事者より十日内に身分取扱吏に届出つ可し但此届出は代理人を以て之を為すことを得

125

 第50条乃至第52条の規定は之を縁組に適用す但本章第1節に定めたる条件に違背せさることを要す

3節 養子縁組の証拠

126

 縁組は縁組証書を以て之を証す但第291条の規定の適用を妨けす

 第54条の規定は縁組に之を適用す

4節 養子縁組の不成立及ひ無効

127

 縁組は人違、喪心又は強暴に因りて承諾の全く欠缺したるときは不成立とす

128

 縁組は本章第1節に定めたる条件の一に違背したるときは無効とす

 此無効は第130条の場合を除く外当事者其他現実の利益を有する者及ひ検事より何時にても之を請求することを得

129

 縁組は左の場合に於て無効とす

  第1 縁組の申出を為さす又は身分取扱吏の差止を受けたるに拘はらす儀式を行ひたるとき

  第2 証人二人の立会なくして儀式を行ひたるとき

  第3 第48条の規定に違ひて儀式を行ひたるとき

  第4 縁組の申出を受けたる身分取扱吏の管轄違なるとき

 此無効は儀式後一个年内に限り前条に掲けたる者より之を請求することを得

130

 第108条又は第109条但書の規定に違ひたる縁組の無効は被後見人又は養家の戸主に非されは之を請求することを得す

 被後見人か成年に至り又は戸主か縁組を知りたる後縁組を認諾し又は三个月を過きたるときは其訴権を失ふ

131

 強暴の為め承諾に瑕疵ある縁組の無効は強暴を受けたる者に限り之を請求することを得但強暴を免かれたる後縁組を認諾し又は三个月を過きたるときは其訴権を

失ふ

132

 第116条乃至第120条に定めたる許諾なくして為したる縁組の無効は許諾を与ふ可き者又は許諾を受く可き者に非されは之を請求することを得す

 第60条第2項、第61条及ひ第62条の規定は此無効訴権に之を適用す

133

 婿養子縁組に付ては当事者は縁組又は婚姻の無効言渡を原因として婚姻又は縁組の無効を請求することを得但無効言渡の後三个月を過きたるときは其訴権を失

5節 養子縁組の効力

134

 養子は縁組の日より養家に於て嫡出子の権利及ひ義務を有す

135

 養子は特別に職業を営むに因りて取得したる利益及ひ其齎帯し又は相続、贈与若くは遺贈に因りて取得したる財産の所有権を有す但未成年中の財産管理は第9

の規定に従ひて養父母に属す

6節 罰則

136

 縁組申出の時に必要の書類を差出たさしめさる身分取扱吏は二円以上二十円以下の過料に処す

 縁組の不成立又は無効たる可き法律上の原因あることを知りて其儀式を行ふを差止めさる身分取扱吏は三円以上三十円以下の罰金に処す

8章 養子の離縁

1節 協議の離縁

137

 養子を為したる者及ひ養子と為りたる者は協議を以て離縁を為すことを得

 然れとも十五年未満にて養子と為りたる者の離縁は満十五年に至らさる間に限り養子を為したる者と縁組承諾の権を有する者との協議を以て之を為す

138

 離縁を為さんとする養子は縁組許諾の為め定めたる規則に従ひ其父母、祖父母又は後見人の許諾を受くることを要す

139

 当事者は離縁協議書に左の書類を添へて身分取扱吏に届出つ可し

  第1 縁組証書

  第2 離縁の為めに必要なる許諾書又は許諾を得る能はさる事由を証する書類

2節 特定原因の離縁

140

 離縁は左の原因あるに非されは之を請求することを得す

  第1 養子より養家の尊属親に対し又は養家の尊属親より養子に対する暴虐、脅迫、遺棄又は重大の侮辱

  第2 重罪に因れる処刑

  第3 窃盗又は詐欺取財の罪に因れる重禁錮一年以上の処刑

  第4 浪費

 第82条及ひ第88条の規定は離縁に之を適用す

141

 離縁を請求する訴権は養子を為したる者及ひ養子と為りたる者のみに属す

 養子を為したる者又は養子と為りたる者か死亡したるときは離縁の訴権は消滅す但訴訟中に死亡したる場合に於ては現実の利益を有する者其訴訟を続行すること

を得

142

 養子を為したる者か禁治産中に在るときは後見人又は後見監督人は親族会の許可を得て離縁を請求することを得

 養子と為りたる者か禁治産中に在るときは実家の父母、祖父母又は戸主より離縁を請求することを得

143

 養子の満十五年に至らさる間は縁組承諾の権を有する者より離縁を請求することを得

144

 養子か養父母と同居するときは裁判所は離縁の訴訟中養子をして住家を去らしむることを得

 此場合に於ては養子は衣服其他の日用物品を持去り且必要あるときは養料を請求することを得

 裁判所は養子の請求に因りて其財産を保存する為めに必要なる処分を命することを得

145

 離縁は養子の家督相続後之を為すことを得す

3節 離縁の効力

146

 離縁は其届出又は裁判確定の後に非されは効力を生せす

147

 離縁と為りたる養子は自己の過失の有無に拘はらす其所有財産に限り之を請求することを得但養家の為めに消費したるものは此限に在らす

148

 婿養子縁組に付ては当事者は離縁を原因として離婚を請求し又離婚を原因として離縁を請求することを得但離婚又離縁より三个月を過きたるときは其訴権を失ふ

9章 親権

1節 子の身上に対する権

149

 親権は父之を行ふ

 父死亡し又は親権を行ふ能はさるときは母之を行ふ

 父又は母其家を去りたるときは親権を行ふことを得す

150

 未成年の子は親権を行ふ父又は母の許可を受くるに非されは父母の住家又は其指定したる住家を去ることを得す

 子か許可を受けすして其住家を去りたるときは父又は母は区裁判所に申請して帰家せしむることを得

151

 父又は母は子を懲戒する権を有す但過度の懲戒を加ふることを得す

152

 子の行状に付き重大なる不満意の事由あるときは父又は母は区裁判所に申請して其子を感化場又は懲戒場に入るることを得

 入場の日数は六个月を超過せさる期間内に於て之を定む可し但父又は母は裁判所に申請して更に其日数を増減することを得

 右申請に付ては総て裁判上の書面及ひ手続を用ゆることを得す

 裁判所は検事の意見を聴きて決定を為す可し父、母及ひ子は其決定に対して抗告を為すことを得

2節 子の財産の管理

153

 父は未成年なる子の総ての行為に付て之を代表し自己の財産に於ける如く其財産を管理す

154

 父の管理に於ては第194条に記載したる行為は尚ほ之を管理行為と看做す

155

 子は特別に職業を営むに因りて取得したる利益及ひ相続、贈与又は遺贈に因りて取得したる財産の所有権を有す

156

 父は管理の止みたるときは子に其財産を引渡す可し但収益は子の養育教育の費用及ひ管理の費用に供したるものと看做す

157

 本節の規定は母か子の財産を管理する場合に之を適用す

 然れとも母は管理を辞することを得

3節 嫡母、継父及ひ継母に特別なる規則

158

 嫡母、継父又は継母の親権を行ふ場合に於ては相談人を付することを得

 此相談人は配偶者証書若くは遺言書を以て之を定め又は親族会其議決を以て之を定む

159

 相談人は後見監督人と同一の権限及ひ義務を有す

160

 配偶者か相談人を定めさる場合に於て親族会を招集せさるとき又は配偶者若くは親族会の定めたる相談人に相談せさるときは区裁判所は検事の請求に因り嫡母、

継父又は継母に対して親権行使の禁止を宣告することを得

10章 後見

総則

161

 後見は未成年者の父又は母にして生存する者の死亡に因りて開始す

 父母共に生存し又は其一方の生存するも親権を行ふ能はさるとき又は母か子の財産の管理を辞するときも亦同し

162

 一家に未成年者数人あるも後見人は一人たる可し

163

 後見人は親族会の免除を得さる限りは後見を承諾す可し若し後見人之を承諾せす又は其任務を怠るときは利害関係人又は検事の請求に因りて区裁判所は代務者

を命することを得

 後見人は代務者の管理の費用を負担し且其管理に付き責に任す

 

1節 後見人

164

 親権を行ふ父又は母は其生前に於て親族、姻族又は他人の中より後見人たる可き者を指定する権を有す

165

 後見人の指定は遺言書若くは証書を以て之を為し又は区裁判所に口述して之を為す可し此口述に付ては調書を作ることを要す

166

 父又は母か後見人を指定せさりしときは其家の祖父後見人と為る但未成年の家族に付ては成年の戸主後見人と為る

167

 遺言後見人も祖父若くは戸主たる後見人も有らさるとき又は此等の後見人か免除せられ除斥せられ罷黜せられ若くは死亡したるときは親族会に於て後見人を選定

168

 未成年者を有する人の死亡したるとき又は未成年者を有する父若しくは母の婚姻其他の事故に因りて他家に入りたるときは区裁判所は未成年者の親族若くは利害

関係人の請求に因り後見人を設定する為め親族会を招集す可し

2節 後見監督人

169

 後見には一人の後見監督人を付することを得

 後見監督人は後見人を定むると同一の手続に従ひて之を指定し又は親族会に於て之を選定す

 本章第4節及ひ第5節の規定は後見監督人に之を適用す

170

 後見監督人を置かさる場合に於て監督を要すること有るときは親族会に於て会員一人を選定し臨時に後見監督人の任務を行はしむ

3節 親族会

171

 親族会は未成年者の最近親族三人以上を以て之を設く但親族三人に満たさるときは未成年者に縁故ある者を以て之を補足す

 本家及ひ分家の戸主は親族会に列することを得

172

 親族会は親族、後見人、後見監督人、保佐人又は利害関係人の求めに因りて集会す

173

 戸主成年なるときは家族の為め親族会を設くることを要せす

174

 養子の親族会には実家の親族も其会員たることを得

175

 会員は自己の利害に関係ある会議に列することを得す

176

 親族会を設くる能はさるときは区裁判所其事を行ふ

177

 未成年者の親族会の外親族会を組成する必要あるときも亦本節の規定を適用す

4節 後見の免除

178

 左に掲くる者は当然後見人たることを免除せらる

  第1 現役に服する軍人、軍属

  第2 被後見人住居の市又は郡の外に於て公務に従事する人

179

 後見免除の求めは親族会之を決す後見人解任を求めたるときも亦同し

5節 後見人及ひ親族会員の欠格、除斥及ひ罷黜

180

 左に掲くる者は後見人たることを得す又親族会員たることを得す

  第1 未成年者

  第2 民事上禁治産者及ひ准禁治産者

  第3 未成年者の身分又は財産に対して訴訟を為す人及ひ其人の尊属親、卑属親、配偶者

181

 左に掲くる者は後見及ひ親族会より除斥せらる可し現に任務に従事する者は之を罷黜す

  第1 甚しき不行跡なる人

  第2 後見管埋に不能又は不正実を顕はせる後見人

  第3 任務を免黜せられたる裁判上の保佐人

  第4 公権剥奪、公権停止及ひ刑事上禁治産を受けたる人

  第5 復権を得さる破産者及ひ家資分散者

182

 後見人及ひ親族会員の除斥又は罷黜は親族会に於て之を為す

6節 後見人の管理

183

 後見人後見の開始を知るときは直ちに任務に就くことを要す

 親族会に於て後見人を選定し其後見人在席するときは直ちに任務に就き若し在席せさるときは通知を得たる日より任務に就くことを要す

184

 後見人は未成年者を監護し其教育を担任す

 尊属後見人及ひ戸主後見人を除く外後見人若し未成年者の在来の住居又は教育方法を変更せんとするときは親族会に協議す可し

185

 後見人は父母の如く未成年者を懲戒することを得

 未成年者の行状に付き重大なる不満意の事由あるときは後見人は親族会の許可を得たる上第152条の規定に従ひて未成年者に対する処分を為すことを得

 後見人か其権を濫用し又は其義務を怠るときは未成年者及ひ其親族は親族会に之を申告することを得

186

 後見人は未成年者の総ての行為に付て之を代表し善良なる管理者の如く其財産を管理し管理の失当又は過失より生する損害賠償の責に任す

187

 後見人は当然其任務に就く可き日より十日内に後見監督人の立会を得て未成年者の財産を調査す可し

 財産目録の調製は二个月内に之を終了することを要す但親族会は状況に従ひて延期を許すことを得

188

 後見人か未成年者の債務者又は債権者なるときは目録の調製前其旨を公証人又は親族会に明言することを要す

 後見人か債権の存立を知りて之を明言せさりしときは其債権を喪失す又債務の存立を知りて之を明言せさりしときは区裁判所は其後見人を罷黜することを得但罷黜

の場合に於ては三十円以下の過料に処することを得

189

 目録調製を終了せさる間は後見人は要急闕く可からさる管理行為のみを為すことを得

190

 後見人は任務執行の初に於て親族会に協議し未成年者の養育の需用、教育の程度と其資産とに従ひ毎年費す可き金額及ひ財産管理に係る費用を定む

 親族会は相当の給料を与ふる一人又は数人の管理者を後見人の自己の責任を以て使用するを許すことを得

191

 後見人は未成年者の元本及ひ収益の剰額を毎次に官の貯金預所又は確実なる銀行に預く可し其預けさりし金額に付ては法律上の利息を弁済す可し

 後見人か未成年者の財産の利用方法を変更せんとするときは親族会の許可を受くることを要す

192

 尊属後見人及ひ戸主後見人を除く外後見人は一个年内の管理の状況を親族会に報告す可し

193

 後見人は未成年者の財産に付ては管理の権を有するに止まり此権外の行為は法律に定めたる条件に依るに非されは之を為すことを得す

194

 左に掲くる行為に関しては後見人は親族会の許可を得ることを要す

  第1 元本を利用し又は借財を為すこと

  第2 不動産及ひ重要なる動産を謀渡し之に物権を設定し又は之を取得すること

  第3 動産、不動産に係る訴訟又は和解、仲裁に関すること

  第4 相続、遺贈若くは贈与を受諾し又は抛棄すること

  第5 新築、改築、増築又は大修繕を為すこと

  第6 財産編第119条に定めたる期間を超ゆる賃貸を為すこと

195

 後見人は未成年者の財産を譲受くることを得す又未成年者に対する権利を譲受くることを得す

196

 後見人は親族会の許可を得るに非されは未成年者の不動産を賃借することを得す

197

 後見人の其権内に於て為したる行為は未成年者を羈束す

7節 後見監督人の任務

198

 後見監督人は後見人の管理を監視することに任す

 後見監督人は後見人を欠くときと雖も後見の任務を行ふことを得す此場合に於ては直ちに後任の後見人を定むる手続を為すことを要す

199

 未成年者と後見人との間に利益相反するときは後見監督人は未成年者を代表す

200

 必要なる場合に於ては後見監督人は保存行為を為すことを得

201

 法律上後見監督人の立会ふ可き行為にして其立会なくして為したるものは無効とす

8節 後見の終了

202

 後見の任務は後見人の一身に止まり其相続人に移転せす然れとも相続人か成年者なるときは後任の後見人の任務に就くまて管理を継続す可し

203

 未成年者か成年に達し又は自治産に至るに因りて後見の止むときは後見人は其計算を完了するまて管理を継続す

204

 仮に管理を為す者は必要なる行為のみを為すことを得

9節 後見の計算

205

 後見人は管理の終了するときは其計算を為す可し

206

 後見の決算は後見監督人の立会にて未成年者の成年に達したる者又は其自治産に至りたる者に対して之を為す

 後見か後見人の身上に係りて終了するときは決算は後任の後見人に対して之を為し親族会の許可に付す但第108条の場合に於ては決算は後見監督人に対して之を

為す

 後見か未成年者の死亡に因りて終了するときは決算は其相続人に対して之を為す

 後見の決算に係る費用は未成年者の負担に属す

207

 後見の決算は管理終了の日より三个月内に之を為す可し但親族会は当事者の求めに因りて延期を許すことを得

208

 後見人と未成年者の成年に達したる者との合意にして後見の決算前に為したるものは総て無効とす

209

 後見の費用は予算の定額を超ゆると雖も後見人其有益たることを証するときは未成年者の負担に属す

210

 後見人より未成年者に返済す可き金額は決算完結の日より当然利息を生す

 未成年者より後見人に返済す可き金額は決算完結の後後見人の催告に因りて利息を生す

211

 後見の計算に係る未成年者の訴権は五个年の時効に因りて消滅す後見人其他仮に後見管理を為したる人の未成年者に対する訴権も亦同し

 未成年者と後見監督人又は親族会員との間の後見に係る訴権に付ても亦前項の規定を適用す

 此期間は未成年者の成年に達し又は死亡したる日より起算し第208条の場合に於て後見の計算に係る訴権に付ては合意無効の裁判言渡の日より起算す

212

 後見監督人及ひ仮に後見管理を為したる人は代理契約の原則に従ひて過失の責に任す

11章 自治産

213

 未成年者は婚姻を為すに因りて当然自治産の権を得

214

 親権を行ふ父又は母は満十五年に達したる未成年の子に自治産を許すことを得

 此自治産は身分取扱吏に届出つ可し

215

 後見に服する未成年者の満十七年に達したるときは親族会は其未成年者に自治産を許すことを得

 此自治産は後見人より身分取扱吏に届出つ可し

216

 自治産の未成年者は之を保佐に付す

 親権を行ひたる父又は母は当然保佐人と為る

 親権を行ふ父又は母は其生前に第165条の規定に従ひて保佐人を指定することを得若し之を指定せさりしときは其家の祖父保佐人と為り家族に付ては成年の戸主

保佐人と為る

 夫は当然未成年の婦の保佐人と為る

 此他の場合に於ては親族会に於て保佐人を選定す

217

 後見人に関して定めたる免除、欠格、除斥及ひ罷黜の規則は之を保佐人に適用す

218

 自治産の未成年者は保佐人の立会あるに非されは元本を領収することを得す

219

 第194条に掲けたる行為に付ては自治産の未成年者は保佐人の立会あるに非されは之を為すことを得す

220

 父母を除く外保佐人は後見人と同しく過失の責に任す

221

 自治産を許されたる未成年者か不行跡又は財産管理の失当に因りて自治産者たるに適せさるときは親族会は其自治産を廃止することを得

 親権を行ひたる父又は母は自治産を廃止することを得若し此等の者あらさるときは親族会員又は保佐人は此廃止を親族会に求むることを得

 未成年者は自治産廃止の日より親権又は後見に服し成年に達するまて復た自治産者と為ることを得す

12章 禁治産

1節 民事上禁治産

222

 心神喪失の常況に在る者は時時本心に復すること有るも其治産を禁することを得

223

 禁治産は配偶者、四親等内の親族、戸主及ひ検事より之を区裁判所に請求することを得

 禁治産を請求する権利を有する一人の申立に因りて言渡したる裁判は総ての人に対して既判力を有す

224

 禁治産者は之を後見に付す

 配偶者は当然相互に後見人と為る若し配偶者あらさるときは其家の父後見人と為り父あらさるときは親権を行ふことを得へき母後見人と為る

 父又は母は第165条に定めたる方式に従ひて後見人を指定することを得若し指定せさりしときは第166条の規定を適用す

 法律上の後見人も遺言後見人も有らす又は此等の後見人か免除せられ除斥せられ若くは罷黜せられたるときは第10章に定めたる方式に従ひ親族会に於て後見人

を選定す

225

 配偶者、尊属親、卑属親及ひ戸主を除く外何人たりとも十个年以上禁治産者の後見を担任することを要せす

226

 未成年者の後見に係る規定は禁治産者の後見に之を適用す

227

 疾病の性質と資産の状況とに従ひて禁治産者を自宅に療養せしめ又は之を病院に入らしむるは親族会の決議に依る但瘋癲病院に入らしめ又は自宅に監置する手

続は特別法を以て之を定む

228

 法律上の後見人は第192条に定めたる管理状況の報告を為すことを要せす

229

 禁治産者の財産を以て其子孫の教育、婚姻又は営業の資に供せんとするときは親族会の許可を得ることを要す

230

 禁治産者は禁治産の裁判言渡の日より無能力者とす

 裁判言渡後に為したる禁治産者の行為は之を鎖除することを得

 禁治産の裁判言渡前に為したる禁治産者の行為に対しても其行為の当時に於て喪心の明確なるときは鎖除訴権を行ふことを得

 

231

 禁治産の原因止みたるときは本人、配偶者、親族、姻族、戸主、後見人又は検事の請求に因りて其禁を解く可し

 禁治産者は解禁の裁判言渡後に非されは其権利を回復することを得す

2節 准禁治産

232

 心神耗弱者、聾唖者、盲者及ひ浪費者は准禁治産者と為して之を保佐に付することを得

 准禁治産の言渡は配偶者、三親等内の親族及ひ戸主の請求に因り区裁判所之を為す

 保佐人に付ては第224条及ひ第225条の規定を適用す

233

 第217条乃至第220条の規定は之を准禁治産に適用す

 裁判所は状況に従ひ保佐人の立会あるに非されは管理行為をも為すことを得さる旨を言渡すことを得

234

 准禁治産者か保佐人の立会なくして為したる行為に付ては第230条の規定を適用す

235

 准禁治産の原因止みたるときは本人、配偶者、親族、姻族、戸主、保佐人又は検事の請求に因りて其禁を解く可し

3節 刑事上禁治産

236

 刑事上禁治産を受けたる者は其財産を管理することを得す又遺言を以てする外は其財産を処分することを得す

237

 刑事上禁治産者には後見人を付して其財産を管理せしむ此後見人の指定及ひ管理の方法に付ては民事上禁治産者の後見に係る規定を適用す

 第229条の場合に於ては禁治産者の同意を得るを以て足る

4節 瘋癲者の財産の仮管理

238

 禁治産を受けさる瘋癲者あるときは配偶者、親族、戸主及ひ検事は区裁判所の許可を得て特別法に定むる手続に従ひ之を瘋癲病院に入れ又は自宅に監置すること

を得

 此場合に於ては裁判所は直ちに仮管理人を指定す

239

 瘋癲病院に入り又は自宅に監置せられたる者は入院中又は監置中其財産を管理し及ひ処分することを得す

240

 仮管理人は瘋癲者の総ての行為に付て之を代表し禁治産者の後見人と同視せらる但必要なる行為に非されは之を為すことを得す

241

 瘋癲者の入院中又は監置中に行為を為したる証拠あるときは其行為を鎖除することを得但相手方か瘋癲者の本心にて行為を為したることを証するときは此限に在ら

242

 瘋癲者の無能力は区裁判所か仮管理を解くに因りて止む

13章 戸主及ひ家族

243

 戸主とは一家の長を謂ひ家族とは戸主の配偶者及ひ其家に在る親族、姻族を謂ふ

 戸主及ひ家族は其家の氏を称す

244

 戸主は家族に対して養育及ひ普通教育の費用を負担す但家族か自ら其費用を弁することを得るとき又は戸主の許諾を受けすして他所に在るときは此限に在らす

245

 家族は特別に職業を営むに因りて取得したる利益及ひ其齎帯し又は遺産相続、贈与若くは遺贈に因りて取得したる財産の所有権を有す

 然れとも家族か其家の為め消費したる財産に付ては戸主に対して償還を求むることを得す

246

 家族は婚姻又は養子縁組を為さんとするときは年齢に拘はらす戸主の許諾を受く可し

247

 他家に入りて夫、婦又は養子と為りたる者は婚姻の無効、養子縁組の無効、離婚又は離縁の場合に於ては実家に復帰す

 然れとも此者か婚姻又は養子縁組に付き実家戸主の許諾を受けさりしときは戸主は復帰の事由を知りたる日より一个月内に身分取扱吏に申立て復帰を拒むことを

248

 他家に入りて夫又は婦と為りたる者は其配偶者の死亡したるときと雖も婚家より更に他の家に入ることを得す

 然れとも婚家及ひ実家の戸主の許諾を受けて実家に復帰することを得

249

 実家に復帰す可き者又は復帰せんとする者か復帰する能はさるときは一家を新立す

 

250

 推定家督相続人に非さる家族たる男子か戸主の許諾を受けすして婚姻を為したるときは一家を新立す

251

 家督相続に因りて戸主と為りたる者は其家を廃することを得す但分家より本家を承継し其他正当の事由あるときは区裁判所の許可を得て廃家することを得

252

 戸主か国民分限を喪失したるときは廃家したるものとし推定家督相続人は一家を新立し前戸主の家族は新戸主の家に入る

253

 戸主か婚姻其他の原因に由りて適法に廃家し他家に入りたるときは其家族も亦従て其家に入る

254

 卑属親を有する者か婚姻若くは養子縁組の無効又は離婚若くは離縁に因りて婚家又は縁家を去るときは卑属親は仍ほ其家に属す

255

 父母の知れさる子は一家を新立す

256

 他家に入りて夫、婦又は養子と為りたる者は配偶者又は養子を為したる者と協議の上両家の戸主の許諾を受けて実家に在る卑属親を自家に引取ることを得

 婚姻若くは養子縁組の無効又は離婚若くは離縁に因りて婚家又は縁家を去りたる者は配偶者又は養子を為せし者と協譲の上両家の戸主の許諾を受けて其家に在

る卑属親を自家に引取ることを得

257

 戸主か家族に対して婚姻其他の事件に付き許諾を与ふ可き場合に於て未成年なるとき又は其意思を表する能はさるときは戸主に対して親権を行ふ者又は後見人之

を代表す

258

 入夫婚姻の場合に於ては婚姻中入夫は戸主を代表して其権を行ふ

259

 戸主失踪の宣言ありたる後其家督相続の占有を得たる者は其占有中戸主の権を行ふ

260

 単身戸主失踪の宣言ありて其亡失若くは最後音信の日より三十个年に至るも家督相続の占有者なきときは絶家す

261

 戸主死亡して家督相続人なきときは絶家し其家族は一家を新立す

14章 住所

262

 民法上の住所は本籍他に在るものとす

263

 戸主は本籍を移す地の身分取扱吏に申述して住所を変更することを得

 未成年者又は民事上禁治産者たる戸主の住所は親族会の許可を得て後見人之を変更することを得

264

 家族か独立して一家を成すときは本籍を定むる地の身分取扱吏に其意思を申述して住所を設定することを得

 一家新立の未成年者に付ては後見人住所を設定す可し

265

 外国人始めて日本に住所を定むるときは其意思並に本国、氏名及ひ出生年月日を其地の身分取扱吏に申述し家族あるときは其氏名及ひ出生年月日をも申述す可

266

 本籍地か生計の主要たる地と異なるときは主要地を以て住所と為す

267

 左の場合に於ては居所を以て住所に代用す

  第1 住所の知れさるとき

  第2 日本に住所を定めさる外国人に関するとき

268

 何人と雖も或る行為又は事務の為めに仮住所を選定することを得但此選定は書面を以てすることを要す

15章 失踪

1節 失踪の推定

269

 住所及ひ居所より亡失し又は音信絶えて生死分明ならさる人は之を失踪者と推定す

 此推定の裁判は本人の住所の区裁判所之を為す

270

 失踪の推定を受けたる者か総理代理人を定置きたるときは其代理人は失踪の推定中本人の財産を管理す但必要あるときは裁判所は現実の利益を有する関係人、

推定相続人又は検事の請求に因りて代理人の解任を言渡し又は其後任を指定することを得

271

 失踪の推定を受けたる者か総理代理人を定置かさりしときは裁判所は前条に掲けたる者の請求に因りて管理人を指定す

 此管理人には成る可く推定相続人を指定することを要す

272

 代理人又は管理人は管理行為を為す権限のみを有す他の行為に付ては必要の場合に限り裁判所の許可を得て之を為すことを得

 代理人又は管理人は本人の利益に関係ある目録調製、計算及ひ清算に付て本人を代表す

273

 管理人は失踪者の動産及ひ証書の目録を調製す可し又不動産の形状を確定せしむる為め鑑定人の選定を裁判所に請求することを得鑑定人の報告書は裁判所の

認可に付することを要す此等の手続の費用は本人の財産を以て之を支弁す

 関係人、推定相続人又は検事の請求あるときは本条の規定を代理人に適用することを得

274

 代理人又は管理人は推定相続人を除く外其請求に因りて裁判所の定めたる給料を受く裁判所は管理及ひ財産返還の担保として保証人其他相当の担保を立てしむ

ることを得

275

 代理人又は管理人は失踪者の子孫の教育、婚姻又は営業の為め資財を与ふるに付ては区裁判所の許可を受くることを要す

2節 失踪の宣言

276

 失踪者か代理人を定置かさりしときは五个年又代理人を定置きたるときは任期の長短を問はす七个年に至るも其生死の音信を得さるに於ては失踪者の死亡に因り

て発生する権利を其財産上に有する者は失踪者の住所の区裁判所に失踪の宣言を請求することを得

277

 右請求を許す可きものなるときは裁判所は失踪者の住所及ひ其最後の居所の地に於て証人訊問を為す可きことを命す可し此証人訊問に付ては民事訴訟法に定め

たる忌避の規則を適用せす

278

 証人訊問を命する決定は裁判所の掲示板に掲示し且官報又は公報に掲載して之を公示す可し

279

 失踪宣言の裁判は証人訊問を命したる決定より一个年の後に非されは之を宣告することを得す

 此裁判は前条の手続に従ひて之を公示す可し

3節 失踪宣言の効力

280

 失踪宣言の裁判ありたるときは失踪者の遺言書は関係人、推定相続人又は検事の請求に因りて之を開封す可し

 失踪者の亡失又は最後音信の日に於ける推定相続人其他失踪者の死亡に因りて発生する権利を其財産上に有する者は直ちに其財産を占有することを得

281

 失踪者に属する財産の占有に付ては総て相続に関する規定を適用す

 此占有を得たる者は第三者に対しては財産の所有者とす

 然れとも占有者は推定相続人を除く外財産返還の担保として裁判所か相当と認むる保証人其他の担保を立つ可し其保証人の義務又は担保は十五个年の後止む

282

 失踪者の現出し又は音信ありたるときは失踪宣言の効力は即時に止む

 失踪者は其財産を現状の儘にて取回し又占有者の処分に因りて不当に利得したるものを取戻すことを得

283

 果実に付ては失踪者か其亡失又は最後音信の日より十个年内に現出するときは其五分の一を取戻すことを得十个年後は其全部を失ふ

284

 失踪者の相続順位に在る者は他の者か財産占有を得たる日より三十个年間其財産の返還を請求することを得

 此場合に於ても果実は前条の規定に従ひて之を取戻すことを得

4節 失踪の推定及ひ宣言に関する通則

285

 失踪して生存の確実ならさる人に帰す可き権利を請求する者は其人か権利の発生せし日に生存したるを証することを要す此挙証を為ささる間は其請求を受理せす

286

 失踪して生存の確実ならさる人に帰す可き相続は次順位の者に属す

 失踪者に帰す可き財産を相続する者は財産目録を調製す可し

287

 前2条の規定は失踪者又は其相続人及ひ承継人に属する相続の請求其他の権利を行ふを妨くること無し此等の権利は普通の時効に因るに非されは消滅せす

5節 不在者に関する規則

288

 生存の確実なる人か住所若くは居所を去りて其財産を管理する者あらさるとき又は裁判所か未た失踪を推定せさるも本人の不在の為め其財産の放置せらるるとき

又は失踪の推定中若くは宣言後に失踪者の生存の確実と為りたるときは区裁判所は利害関係人又は検事の請求に因りて必要の保存処分を命することを得

16章 身分に関する証書

289

 出生、婚姻、養子縁組、死亡其他各人の身分に関する事件は身分取扱吏の主管する帳簿に之を記載す可し

290

 帳簿ニ記載シタル証書ハ公正証書ノ証拠力ヲ有ス但違法ノ記載ハ効力ナシ

 合式の謄本は証書と同一の効力を有す

291

 帳簿ノ設備ナク若クハ中絶シタルトキ又ハ其全部若クハ一分ノ毀損シ亡滅シタルトキ又ハ其記載上甚シキ違式、錯誤若クハ脱漏アリテ信用ヲ置ク可カラサルトキ又ハ身

分取扱吏ノ詐欺若クハ過失ニ因リテ証書ヲ作ラサリシトキハ証人又ハ私ノ書類ヲ以テ先ツ其事実ヲ証シ且身分上ノ事件ヲ証スルコトヲ得

292

 証書の訂正は裁判を以てするに非されは之を為すことを得す

293

 帳簿の調製、証書の記載、届出の手続其他の事項は特別法を以て之を規定す

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