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旧民法 財産取得編

財産取得編

 

総則

 

1

 物上及ひ対人の権 利は財産編に規定したる原因に由る外尚ほ本編の規定に従ひ之を取得することを得

 

1章 先占

 

2  先占は無主の動産物を 己れの所有と為す意思を以て最先の占有を為すに因りて其所有権を取得する方法なり

3条 狩猟、捕漁の権利の行使及ひ漂流物、遺失物の取得は特別法を以て之を規定す

 戦時に於ける海陸 の掠奪物に付ても亦同し

4条 遺棄物を先占したりと主張する者は原所有者の任意の遺棄を証する責に任す

5条 他人に属する物の中に於て偶然に発見したる埋蔵物は所有者の知れさるときは其一半を発見者に付与す

 埋蔵物か埋れ又は 隠れたる所の物の所有者の権利は次章の規定に従ふ

6条 埋蔵物の原所有者は発見後三个年間に非されは前条の付与に反して自己の権利を主張することを得 す

 此期間は原所有者 か埋蔵物の埋れ又は隠れたる所の物の所有者たるに於ては其発見を知りたる後一个年間に之を短縮す

 然れとも埋蔵物の 占有者か悪意なるときは通常の時効を適用す

 

2章 添附

 

7条 動産と不動産とを問はす或る物の所有者は其物に附従として合したる物を下の区別に従ひて取得す

 

1節 不動産上の添附

 

8条 建築其他の工作及ひ植物は総て其附著せる土地又は建物の所有者か自費にて之を築造し又は栽植し たりとの推定を受く但反対の証拠あるときは此限に在らす

 右建築其他の工作 物の所有権は土地又は建物の所有者に属す但権原又は時効に因りて第三者の得たる権利を妨けす

 植物に関する場合 は第十条の規定に従ふ

9条 土地又は建物の所有者か他人に属する材料を以て建築其他の工作を為したるときは其工作物を毀壊 して材料を返還する強要を受けす又材料の本主に其取去を強

要することを得す

 然れとも右の所有 者は財産編第385条の規定に従ひて材 料の本主に償金を払ふの責に任す

10条 他人に属する草木の栽植に付ては其栽植を為したる土地の所有者又は占有者は一个年内に其草木を 抜取り且之を返還する強要を受く尚ほ損害あるときは之を賠

償す

 右草木の所有者か 其返還を欲せす又は栽植の時より一个年を経過したるときは其所有者は償金を受第11条 他人の土地又は建物の善意の占有者にして其土地又は建物に自己の材料又は草木を以て築造又は栽植 を為したる者は所有者より不動産回復の請求を受くるに当

り其工作物又は草木 を取払ふ責に任せす所有者は其選択を以て占有者に材料及ひ手間賃を払ひ又は不動産の増価額を払ふ

 築造又は栽植を為 したる者か悪意の占有者たりしときは所有者はえ作物及ひ草木を除去して場所を旧状に復せしめ且損害あるときは之を賠償せしむることを得又所

有者は前項の規定に 従ひ占有者に償金を払ひて右の工作物及ひ草木を保存することを得

12条 舟筏の通す可きと否とを問はす河川の寄洲、中洲、干潟の所有権又は水路の変換に因り生する浸没 地及ひ旧川床の所有権の帰属は別に之を定む但海の干潟に付

ては財産編第23条の規定に従ふ

13条 私有池の魚又は鳩舎の鳩か計策を以て誘引せられ又は停留せられたるに非すして他の池又は鳩舎に 移りたるとき其所有者か自己の所有を証して一週日間に之を

要求せされは其魚又 は鳩は現在の土地の所有者に属す

 群を為して他に移 転したる密蜂に付ては一週日間之を追求することを得

 飼馴されたるも逃 け易き野栖の禽獣に付ては善意にて之を停留したる者に対し一个月間其回復を為すことを得

 

第二節 動産上の添附

 

14条 各別の所有者に属する数箇の動産物か所有者の意に非すして第三者に因りて附合せられ其各物共に 著しき毀損又は減価を受けすして容易に分たる可きときは所有者の各自は其分離を請求することを得但損害あるときは附合を為したる者之を賠償す

 附合の為めにせる 物の変様は之を毀損と看做す

15条 二箇の物か分つ可からさるか又は之を分つか為め著しき毀損、 減価を為し若くは過分の費用、時日を要するときは孰れの所有者も分離を請求することを得すして其物は 附合の儘にて主たる物の所有者に帰属す但此所有者は従たる物の所有者に損害を加へて己れを利したる限度に応し賠償を負担す

 或る物の便益、粧 飾又は補完の為めに附合せられたる物は之を従たる物と看做す主従の区別に付き疑あるときは価格の低き物を以て従たる物とす

 此他の場合に於け る物の主従の区別は之を裁判所の査定に委す

16条 附合か主たる物の所有者の過失又は詐欺に因りて成り前条の規定に従ひて其分離を為す可からさる ときは従たる物の所有者の受く可き賠償は財産編第370条及ひ第385条に依りて其額を定む

 従たる物の所有者 か附合を為したるときは主たる物の所有者の利益の限度に応してのみ其損失の賠償を受く

17条 不都合なしには物を分離することを得さる右同一の場合に於て其性質、品質又は価格に因るも主従 の区別を為し難きときは其物は平等の権利にて各所有者之を共有す但過失又は悪意ある者より賠償を受くることを妨けす

18条 前数条の規定は各別の所有者に属する流動物、固形物又は金属の混和にも亦之を適用す

 然れとも分離する ことを得さる物か其性質及ひ品質の同しきに因りて共有と為る可きときは各自の権利は己れより出てたる物の数量の割合に応す

19条 附合又は混和か所有者の一人の所為より生する場合に於ては他の所有者は専属の所有権をも共有権 をも承諾する責に任せす添附を為したる者に対して同品質の

物又は其代価を要求 することを得

20条 或人か他人の物料を以て新なる用方の物を作りたるときは物料の所有者は手間賃を払ふて其物の所 有権を要求することを得

 然れとも手間賃か 著しく物料の価額を超ゆるときは新なる物の所有権は製作者に属す但製作者は物料の所有者に賠償することを要す

 製作者か物料の幾 分を供したるときは其物料の価額は優先権を定むる為め之を手間賃に合算す所有者の承諾なくして物料を用ゐたるときは其所有者は常に自己の優先権を抛棄して 同品質、同数量の物又は其代価を要求することを得

21条 附合、混和又は製作か所有者の明示又は黙示の承諾を以て成るときは所有権は合意に従ひて之を定 む若し疑あるに於ては分離か容易なりと雖も其分離を要求することを得す且優先権及ひ共有権に関する前数条の規定を適用す

22条 前数条に定めさる動産物添附の場合に於ては裁判所は前数条の規定の援引す可きは之を援引し且条 理に基きて所有権及ひ賠償の論点を審定す

23条 第5条に従ひて発見者に属せさる埋蔵物の部分は添附に因りて其埋蔵物の埋れ又は隠れたる所の動産又は不動産の所有者に属す

 右動産又は不動産 の所有者自身にて意外に発見したる埋蔵物は一半は先占に因り一半は添附に因りて全部其所有者に属す

 所有者の所為又は 其指図を受け若くは受けさる第三者の所為にて特に捜索を為すに因りて発見したる埋蔵物は添附を以て全部所有者に属す

 原所有者の回復に 対し埋蔵物の発見者の為め第6条を以て定めたる時効は 右の場合に之を適用す

 

3章 売買

 

1節 売買の通則

 

1款 売買の性質及ひ成立

24条 売買は当事者の一方か物の所有権又は其支分権を移転し又は移転する義務を負担し他の一方又は第 三者か其定まりたる代金の弁済を負担する契約なり

 売買契約は下の規 定に従ふ外有償且双務なる契約の一般の規則に従ふ

25条 売買は当事者の承諾のみを以て完全に成立す

 然れとも当事者は 売買の成立を各自の証拠に供する公正証書又は私署証書の調製の条件に繋らしむることを得

26条 売渡又は買受の一方のみの予約あるときは要約者か財産編第308条の条件及ひ区別に従ひて契約の取結を要求する時より諾約者は其予約に於て定めたる

代価及ひ条件を以て 契約を取結ふ義務を負担す

27条 諾約者か契約を取結ふことを拒むときは裁判所は売買か成立したりとの判決を為す不動産権の売買 に関するときは其判決を登記す

 売渡の予約を登記 したるときは右判決は登記に之を附記す其登記は売主の承継人に対し既往に遡りて効力を生す

28条 売渡及ひ買受の相互の予約あるときは当事者の一方は前条に従ひ他の一方に対して契約の取結を強 要することを得

 裁判所は此場合に 於て当事者の意思を解釈し売買の予約か即時の売買の効を有するものと判決し又期間の定あるときは其期間は履行のみに適用せらるるものと

判決することを得

29条 前4条に従ひ当事者の双方又は一方か日後売渡及ひ買受の契約を取結ふ義務又は単に証書を作る義務を負担したる場合に於て予約の担保として手附 を授受した

るときは契約を取結 ふこと又は証書を作ることを拒む一方は其与へたる手附を失ひ又は其受けたる手附を二倍にして還償す

30条 即時の売買に於ては手附は之を与へたる者の利益の為めにのみ解約の方法と為る但買主の与へたる 手附か金銭なるときは其地の慣習にて之に解約の性質を付す

る場合の外合意にて 此性質を明示することを要す

 契約の全部又は一 分の履行ありたるときは如何なる場合に於ても解約を為すことを得す

31条 試験にて為す売買は事情に随ひ買主の適意の停止条件又は拒絶の解除条件を帯ひて之を為したるも のと看做すことを得

 試味の慣習ある日 用品の売買は適意の停止条件を帯ひて之を為したるものと推定す

32条 前条に定めたる二箇の場合に於て買主か己れに属する権能の行使に付き期限を定めさるときは短き 期間に於て決答す可き催告を受く若し其決答を為さすして売渡物の引渡を受けたるときは買主は承諾したりとの推定を受け反対の場合に於ては拒絶したりとの推 定を受く

33条 売買の代価は全額を以てせさるも其目安を契約に定むることを要す

 又其代価は或は同 種類の商品の現時又は近日の市価に委子或は契約を以て指定したる第三者の評価に委ぬることを得

 右評価か錯誤に出 てたるか又は明かに公平に反するときは其評価に異議を為すことを得但其異議は損失を受けたりと主張する一方か評価を知りたる時直ちに之を

為すことを要す

 第三者と当事者の 一方との間に共謀の詐欺あるときは財産編第312条及ひ第544条の規定を適用す

 当事者は元本又は 無期若くは終身の年金権を以て代価を定むることを得然れとも第三者は元本を以てするに非されは之を定むることを得す但当事者か明示にて一層広き権限を第三 者に与へたるときは此限に在らす

34条 売買契約の費用は当事者双方平分して之を負担す但双方か別段の定を為したるときは此限に在らす

2款 売渡又は買受の無能力

35条 配偶者の間に於ては動産と不動産とを問はす売買の契約を禁す

 配偶者の一方か他 の一方に対して負担する真実且正当なる債務を消滅せしむるには相互に代物弁済を為すことを得

 右代物弁済は相当 の疏明を為せる後裁判所の認許を得たるに非されは配偶者の間に於て有効且完全ならす

 又此代物弁済か不 動産物権を目的とするときは其代物弁済は登記中に右認許を附記したるに非されは第三者に対して効力を有せす

36条 前条に基きたる鎖除の訴権は売渡又は認許なき代物弁済を為したる配偶者、其相続人又は承継人の みに属す但其訴権は財産編第544条以下の一般の規則 に従ふ

37条 法律上、裁判上若くは合意上の管理人は直接に自己の名を以てするも間介人に依るも売渡の任を受 けたる財産に付き協議上又は競売上の取得者と為ることを得す

 此制禁は競売を処 理し又は指揮することを法律に依りて任せられたる公吏に之を適用す

38  前条の規定に背きたる 売買の鎖除訴権は原所有者、其相続人及ひ承継人のみに属す

39条 判事、検事及ひ裁判所書記は争に係る物権又は人権にして其職務を行ふ裁判所の管轄に属す可きも のの取得者と為ることを得す

 此制禁は右同一の 条件を以て弁護士及ひ公証人に之を適用す

40条 前条より生する鎖除訴権は譲渡人、権利を争ふ相手方、其双方の相続人及ひ承縫人に非されは之を 行ふことを得す

 又権利を争ふ相手 方、其相続人又は承継人は譲受人に譲渡の現価と弁済の日よりの利息とを弁償して其権利の受戻を為すことを得

 右の規定は違背者 に対する懲戒の罰を妨けす

3款 売渡すことを得さる物

41条 売買か性質に因りて一般に融通することを得さる物又は特別法を以て各人に処分を禁したる物を目 的とするときは其売買は無効なり

 此売買の無効は抗 弁に依るも訴に依るも当事者各自に之を援用することを得

 当事者の一方か詐 欺を以て売買の制禁なることを隠祕したるときは損害賠償の責に任す

42条 他人の物の売買は当事者双方に於て無効なり

 然れとも売主は売 買の際其物の他人に属することを知らさるに非されは其無効を援用することを得す

43条 売買契約の当時に於て物か既に全部滅失したるときは其売買は無効なり但売主か此滅失を知りたる とき又は売主に之を知らさる過失あるときは善意の買主に対する損害賠償を妨けす

 物の一分の滅失の 場合に於て買主之を知らさりしときは買主は其選択を以て或は残余の部分か用方に不十分なることを証して売買を解除し或は割合を以て代価を減少して売買を保 持することを得但此二箇の場合に於て売主に過失あるときは其損害賠償を妨けす

 売買解除の請求は 買主か一分の滅失を知りたる時より六个月を過き又代価減少の請求は此時より二个年を過くれは之を受理せす

 

2節 売買契約の効力

 

1款 所有権の移転及ひ危険

 

44条 売買契約は売渡物の所有権の移転及ひ其物の危険に付ては財産編第331条、第332条、第335条及ひ第419条に定めたる如き普通法の規則に従ふ

45条 売買の目的か不動産なるときは其契約を以て売主の特定且善意の承継人に対抗するには財産編第348条以下の規定に従ひて登記を為すことを要す

 財産編第346条及ひ第347条は右同一の目的を以て有体動産及ひ債権の売買に之を適用す

 

2款 売主の義務

 

46条 売主は定量物の所有権を移転する義務の外尚ほ売渡物を引渡す義 務、引渡に至るまて其物を保存する義務及ひ妨碍、追奪に対して買主を担保する義務に任す

 

1則 引渡の義務

 

47条 売主は売渡物を其合意したる時期及ひ場所に於て現存の形状にて引渡す責に任す但其保存に付き懈 怠あるときは買主に対して賠償を負担す

 引渡の時期及ひ場 所に付き合意を為ささりしときは財産編第333条第6項及ひ第7項の規定に従ふ

 然れとも買主か代 金弁済に付き合意上の期間を得さりしときは売主は其弁済を受くるまて売渡物を留置することを得

 売主は代金弁済の 為め期間を許与したるときと雖も買主か売買後に破産し若くは無資力と為り又は売買前に係る無資力を隠祕したるときは尚ほ引渡を遅延すること

を得

48条 売主は契約に定めたる数量を過不足なく引渡すことを要す

 然れとも下の数条 に定めたる場合及ひ区別に従ひて売主又は買主は約したる数量より多く譲渡し又は取得する責に任す

49条 売渡物か特定不動産にして契約に其全面積を明言し且各坪の代価を指示したる場合に於て現実の面 積か指示の面積に不足あるときは売主は面積を担保せさる旨

を明言したるときと 雖も割合を以て代価減少の要求に服す

 現実の面積か指示 の面積に超過あるときは買主は割合を以て代価補足の要求に服す

50条 全面積を明言し唯一の代価を以て不動産を売渡し其面積の不足の場合に於て売主は悪意なるとき又 は善意なるも面積を担保したるとき又は不足の坪数か少なくとも二十分一なるときに非されは代価減少の要求に服せす

 面積を担保せす又 は面積は概算なりとの附記は悪意なる売主の責任を減せす

 超過の場合に於て は買主は其超過か二十分一に及へるときに非されは代価補足の要求に服せす

51条 建物の存すると否とを問はす数箇の土地を一箇の契約を以て其各箇の面積を指示し唯一の代価にて 売渡したる場合に於て其面積か一箇の土地に超過あり一箇の

土地に不足あるとき は其坪の箇数に従はす価額に従ひて相殺す

 此相殺の後猶ほ原 価二十分一の過不足あるときは割合を以て代価を増加し又は之を減少す

 此規定は一箇の土 地内に於て別異の性質ある各部分の面積を指示したる場合にも之を適用す

52条 買主は面積不足の為め代価減少に付き権利を有する場合に於て尚ほ損害の賠償を要求することを得 又買主は約したる面積か其用方に必要なることを証して契約の解除をも請求することを得但面積を担保せさる旨を明言したる売買は此限に在らす

 超過の場合に於て 買主は二十分一以上の代価補足を弁償することを要するときは単純に契約を解除することを得

53条 上の規則は目方、員数及ひ尺度を以て指示したる数量か買主に於て容易且即時に調査することを得 さる日用品及ひ動産物の売買に之を適用す

54条 前数条より生する代価改正、損害賠償又は契約解除の訴権は不動産に付ては一个年動産に付ては一 个月の期間に之を行ふことを要す

 右期間の経過は売 主に在ては契約の日より買主に在ては引渡の日より始まる

55条 動産又は不動産の売買に於て錯誤か其物の品質に存するときは財産編第310条の規定を適用す

 

2則 追奪担保の義務

 

56条 他人の物を売買したる場合に於て担保の事に付き何等の特別なる合意も有らさりしときは買主は未 た追奪の恐あるに至らさるときと雖も売買無効の判決を求むることを得又買主か契約の当時其物の売主に属せさることを知り売主か之を知らさりしときと雖も亦 同し

57条 買主か悪意なりしときは売買の無効及ひ追奪担保の効果は買主に其猶ほ負担する代金弁済の義務を 免かれしめ又は其既に弁済したる代金を取戻すことを許すに

在るのみ

 買主は買受物の価 格か減少したるときと雖も右取戻に於て代金の減少を受くること無し但価格の減少か自己の詐欺に出て又は自己の利益と為りたるときは此限に

在らす

 如何なる場合に於 ても買主か其弁済したる代金を取戻したるときは物の占有を売主に返還することを要す

58条 買主は契約の当時善意なりしときは右の外尚ほ左の諸件の弁償を受く

  第1 買主の支払ひたる契約費用の部分

  第2 買受物に付き買主か支払ひたる費用にして所有者より其弁償を受くることを得さるもの

  第3 買受物に生したる増価額但意外の事に因るも亦同し

  第4 所有者の請求後に収取し之に返還することを要する果実然れとも買主は果実に換へて之に対当する時 期間の売買代金の法律上の利息を受くることを欲するときは之を請求することを得

 又善意なる買主は 此他所有者の回復の訴に対する答弁の費用及ひ担保請求の費用等総ての損害賠償を普通法に従ひて請求することを得

59条 売主は契約の当時善意なりしときは財産編第385条に従ひて正当に予見することを得へかりし限度に非されは前条の第2号第3号及ひ末項に定めたる賠償を負担せす

60条 善意なる売主は契約後に売渡物の他人に属することを覚知したるときは買主より代金を提供すと雖 も其物の引渡の請求を受くるに当り売買の無効を申立て且抗弁の方法に依りて担保の定方の判決を求むることを得但買主か追奪の場合に於ける求償権を抛棄する 旨を明白に陳述したるときは此限に在らす

61条 右覚知か引渡後に在りたるときは売主は買主か即時に担保訴権を行ふや又は己れと立会ひ第58条に従ひて現時負担の賠償額を評定するやに付き買主を遅滞に付

することを得

 此末の場合に於て 売主は其受取りたる代金と共に右評価の金額を提供して供託したるときは縦令担保の請求あるも此他の責任を負担せす

 供託したる金額を 引取るの権利を財産編第478条に従ひて行使した る売主は再ひ本条の許与せる権能を援用することを得す

62条 他人の物の売主は日後其物の所有者と為りたるときは買主をして売買を認諾するや担保訴権を行ふ やの一を択ましむることを何時にても催告することを得

 右同一の権利は他 人の物の売主の相続人と為りたる真所有者に属す

63条 買受物の分割の部分か完全所有権又は虚有権にて第三者に属する場合に於て買主か此部分を取得す るを得さることを知れは初より其物を買はさる可き程に其性

質又は広狭に因りて 有益なることを証するときは全部追奪の為め定めたる如く損害の賠償を得て契約を解除することを得

 買主は契約の解除 を求めさるときは其受けたる直接且現時の損失の限度に於て賠償を要求することを得

64条 買受物の不分の部分か第三者に属するときは其部分の重要の如何に拘はらす買主は損害賠償を得て 契約を解除する権利を有す

 買主は契約の解除 を求めさるときは買受物の価格の減少したるときと雖も常に此に対当する買受代金と契約費用との部分を取戻し又其価格の増加したるときは其

損害の賠償を受く

65条 或は売渡したる土地に属するものとして契約に於て述へたる働方地役の追奪ありたるとき或は契約 に於て述へさる人為を以て設定したる受方地役に関し又は財産の一分に存する用益権、賃借権に関して第三者の要求ありたるときは第63条の規定を適用す財産の全部に存する用益権又は賃借権にして其経過す可き残余時期か建物に付ては一 个年土地に付ては二个年を超えさるものに関しても亦同し

 売買の財産の全部 に存する用益権又は賃借権の継続時期か建物に付ては一个年土地に付ては二个年を超ゆ可きときは買主は尚ほ自己に残存せる権利の不十分なるを証することを要 せすして前条に従ひ売買を解除することを得

66条 契約に於て述へたると否とを問はす売渡したる土地に先取特権又は抵当権の負担ありて買主か其代 金の弁済の前又は弁済の時其土地をして此負担を免かれしむ

る為めに必要なる方 式を履行せさるに因り売主の債権者の為めに所有権を取上けられたるときは買主は売主に対し第58条及ひ第59条の規定に従ひて担保の求償権

を有す

67条 差押へたる財産の競落人か追奪を受けたるときは被差押人に対して代金の返還を求むることを得若 し被差押人か無資力なるに於ては代金の配当を受けたる債権者に対して其代金の返還を求むることを得

 競落人は差押人か 差押の際に其財産の債務者に属せさることを知りたるに非されは之に対して損害賠償を要求することを得す又債務者か其財産に存する第三者の権利を詐欺を以て 隠祕したるに非されは之に対して損害賠償を要求することを得す

 競売条件書の調製 及ひ競落の処理に任したる公吏は其職分を欠きたる為め買主の錯誤を惹起したるに非されは損害賠償の責に任せす

68条 債権の売主は当然自己の債権の存立及ひ其有効の担保の責に任す

 又売主は明示にて 債務者の有資力の担保を諾約したるに非されは其担保の責に任せす

 有資力の担保に任 したる場合に於ても売主は債権か既に満期と為りたるときは譲渡の日に於ける有資力のみに付き且受取りたる代金の限度に従ひて其責に任す但一層広大なる担保 の明約と裏書を以て譲渡す商証券の特別規則とを妨けす

 未た満期と為らさ る債権の譲渡に於て譲渡人か他の特約なくして債務者の将来の有資力を担保したるときは其担保は満期より一个年又無期年金権に付ては其譲渡より十个年にて絶 止す

69条 物権と人権とを問はす争に係る権利の譲渡に於ては譲渡人は特別の合意なく且譲受人か争あること を知りたるときは其主張の虚構ならさることを担保するのみにして譲渡したる権利の真の成立を担保せす

 裁判上と裁判外と を問はす本権に関する明白の争の目的たる権利に付てのみ右の規定を適用す譲渡人は其主張の虚構なりし場合に於ては譲渡代金の返還の外譲受人か正当に期望し たる利益の賠償を負担す

70条 会社に於ける自己の権利を売渡したる者は其権利の存立及ひ其売買契約に示せる権利の広狭に付て のみ担保の責に任す

 会社の従前の営業 より生し既に清算済と為りたる売主の権利及ひ義務は買主に利害の関係を及ほすこと無し

 売主と会社との間 に於ける特別の計算に付ても亦同し

71条 上の場合に於て無担保にて売狽畊るとの契約を為したるときと雖も買主か追奪を受けたるに於ては 売主は代金を返還する責に任す但買主か売買の時に於て追奪の危険あることを了知したるときは売主は此返還を負担せす

 売主は買主の危険 負担にて売買するとの契約を為したることのみに因りて亦代金を返還する責を免かる

 然れとも如何なる 場合に於ても又如何なる約款に依るも売主は売買の前後を問はす第三者に授与したる権利より生する妨碍又は追奪の担保を免かるることを得す

72条 売主か担保の義務の全部又は一分を買主の悪意の故を以て免かれんと主張するときは売渡物に関す る行為か第三者の利益の為めに登記し有りと雖も其登記のみ

にては買主の悪意を 証するに足らす尚ほ売主は登記官吏の認証書に依り又は其他の方法を以て買主か売買の前に此行為を了知したる直接の証拠を供することを要

73条 財産編第399条及ひ第400条は担保の為めにする売主の召喚に付き及ひ追奪を受けたる買主か担保人を訴訟に参加せしめさる為めに 生する失権に付き之を適用す

 

3款 買主の義務

 

74条 買主は合意したる時期に於て代金を弁済することを要す又其時期に付き特別の合意なきときは引渡 の時に於て之を弁済することを要す

 引渡を日後に延ふ るの合意あるときは代金の弁済をも暗に日後に延ふるものと推定す

 売主か引渡の為め 恩恵期限を裁判所より得たるときは買主は代金弁済の為め同一の期間を享有す

 代金弁済の恩恵期 限は引渡の為め売主亦之を享有す

75

 代金弁済の場所を 合意せさるときは其弁済は有体動産に付ては引渡を為す場所不動産、債権、争に係る権利又は会社に於ける権利に付ては証書の交付を為す場

所に於て之を為す

 引渡の前又は後に 代金の弁済を要求することを得へきときは其弁済は買主の住所に於て之を為す

76

 買受物か果実其他 金銭に見積ることを得へき定期の利益を生するときは買主は引渡の時より当然代金の利息を負担す

 反対の場合に於て は利息は特別の合意又は弁済の催告に依るに非されは之を負担せす

 77

 買主か物上訴権に 因りて妨碍を受け又は妨碍を受くる恐ある正当の事由を有するときは売主か其妨碍若くは危険を止ましむるまて又は追奪ありたるに於ては代金を

返還する為めの保証 人を立つるまて買主は此訴権の軽重に従ひて代金の全部又は一分の弁済を拒むことを得

 此規定は買主か買 受物の他人に属するを直接に証することを得るときは売買無効の判決を求め及ひ担保の訴権を行ふことを妨けす

78

 買受けたる不動産 に付き抵当権又は先取特権の登記あるときは買主は滌除の方式を行ふたる後に非されは代金を弁済する責なし但法律上の期間に於て滌除を行

ふことを要す

79

 前2条の場合に於て売主は其先取特権及ひ第三者に対する解除の権利を保存する為めの公示を為ささりしと きは当事者双方の名を以て買主をして猶予なく代金を供

託せしむることを得 但其代金は当事者双方の承諾又は裁判所の判決に依り且諸手続の終了後に非されは之を引取ることを得す

80

 動産物の買主か代 金を弁済したると否とを問はす引渡を受くる権利を有する時に於て其引渡を受くることを拒みたるときは売主は財産編第474条乃至第478条に従ひ

て其売渡物の提供及 ひ供託を為すことを得

 然れとも日用品其 他速に敗損す可き物に付ては売主は買主の為め之を転売することを得るときは其転売を為すことを要す

 

3節 売買の解除及ひ鎖除

 

1款 義務の不履行に因る解除

 

81

 当事者の一方か上 に定めたる義務其他特に負担する義務の全部若くは一分の履行を欠きたるときは他の一方は財産編第421条乃至第424条に従ひ裁判上にて契

約の解除を請求し且 損害あれは其賠償を要求するとを得

 当事者か解除を明 約したるときは裁判所は恩恵期限を許与して其解除を延へしむることを得す然れとも此解除は履行を欠きたる当事者を遅滞に付したるも猶ほ履行

せさるときに非され は当然其効力を生せす

82

 買主か弁済其他の 義務を欠きたる為めの解除は買主の猶ほ代金の全部若くは一分の負担又は他の負担を明示したる売買証書に依り登記を為したるに非されは売

主より転得者に対し て之を請求することを得す但債権担保編第182条の規定を妨けす

83

 弁済期限の定ある 動産の売買に於て其引渡を実行したるときは弁済を欠きたる為めの売主の解除の権利は買主の他の債権者を害して之を行ふことを得す

 弁済期限の定なき 売狽疔付ては売主は引渡より八日内に売買を解除することを得然れとも善意なる第三者の既得の物権を害することを得す

 

2款 受戻権能の行使

 

84

 売主は売買証書に 明記したる受戻の約款に依り買主の弁済したる代金と費用の部分とを指定の期間に買主に返還するに於ては其売買を解除す可きことを要約する

を得

 右期間は不動産に 付ては五个年、動産に付ては二个年を超ゆることを得す此より長き時期の要約は当然之を此期限に短縮す

 一旦期間を定めた る以上は右制限内と雖も之を伸長することを得す

 然れとも其伸長は 之を再売買の予約と看做すことを得此場合に於ては第26条及ひ第27条の規定に従ふ

 売買後に於て為し 又は別証書を以て為したる受戻の要約に付ても亦同し

 売主は代金の半額 以上の弁済の為め期限を与へ且其期限か受戻の為め定めたる期間の半以上に及へるときは有効に受戻の権能を要約することを得す

85

 動産に付ては法律 の定めたる期間に其定めたる条件を以て為したる受戻権能の行使は買主か第三者に授与し又は第三者か買主の権に基きて取得したる物権を排

除して其不動産を売 主に復せしむ但賃借権にして残期の一个年を超えさるものは此限に在らす

 動産物に付ては受 戻の権能は善意にて其動産物上に物権を取得したる第三者に対して之を行ふことを得す

86

 売主の債権者は売 主に代はりて受戻の権能を行ふことを得

 然れとも買主は右 債権者か予め其債務者の無資力を証し且財産編第339条に従ひて受戻権 能の行使の為め裁判上にて売主に代位するを要求することを得

 買主は同一の場合 に於て鑑定人の評価したる買受物の現時の価額と第88条に従ひて売主より己れに返還す可き金額との差額に達するまて売主の債務を弁済して

債権者の訴を止むる ことを得

87

 売主か受戻の約款 にて売渡したる物を日後抵当とし又は之に其他の物権を負担せしめたるときは其権利の効力は売主又は其債権者の受戻権能を行ひたる後に非

されは生せす

 売主か受戻に服す る物の所有権を譲渡したるときは譲受人は自己の名を以て受戻を為すことを得然れとも譲渡前に売主か他人に対して承諾し且登記を経たる此他

の物権を妨碍するこ とを得す但其担保訴権を失ふこと無し

88

 売主か受戻の権能 を行はんとするときは指定の期間に売買代価及ひ契約費用の外尚ほ物の保存費用を買主に弁償することを要す

 買主か右金額を受 取ることを拒みたるときは売主は猶予なく之を供託することを要す

 売主は物の改良費 用をも弁償することを要す然れとも裁判所は此弁償に付ては売主に猶予を許すことを得

 買主は右金額の皆 済を受くるまて其物の上に留置権を有す

89

 不動産の共有者の 一人か其不分の部分を受戻約款にて売りたる場合に於て買主か他の共有者より促かされたる競売に因りて競落人と為りたるときは売主は前条に

掲けたる金額に競売 の代金を加へて其不動産の全部に対するに非されは受戻を為すことを得す又買主は之に故障を述ふることを得す

 買主か自ら競売を 促したるときは売主は其売渡したる部分に付てのみ受戻を為すことを得又買主は全部の受戻に故障を述ふることを得

90

 孰れより競売を促 かしたるを問はす買主に非さる共有者の一人又は外人の競落したる場合に於て売主は競売に召喚せられさりしときは其売渡したる部分に付てのみ

競落人に対して受戻 の権利を有し之に反するときは其権利を失ふ

91

 現物を以て分割し たるとき売主か其分割に召喚せられたるに於ては売主は孰れより分割を促かしたるを問はす他の所有者に帰したる部分に付き何等の要求をも為

すことを得すして 狽・に帰したる部分のみを受戻すことを得但買主の供与し又は受取りたる補足代金を売主買主の間互に計算することを妨けす

 売主か分割に召喚 せられさりしときは売主は選択を以て或は其分割を認諾し買主に対して前項に示したる権利を行ひ或は第88条に掲けたる金額を買主に弁償し共

有者に対して再分割 を促かすことを得

92

 不分物の共有者か 一箇の契約及ひ唯一の代価にて其物を受戻の約款を以て売渡したるときは買主は一分に付き受戻を受くる責なし

 又買主は売主の一 人より為す全部の受戻に故障を述ふることを得

 之に反して数人の 共有者か各別の契約を以て各自の部分を売渡したるときは各別に受戻を為すことを得但第89条及ひ第91条の規定は之を此場合に適用することを

93

 数人の買主か一箇 の契約又は各別の契約を以て一箇の財産を受戻の約款にて取得したるとき売主か買主の間に分割を為ささる前に受戻を為さんと欲するに於ては

売主は総買主に対し 又は一人若くは数人の買主に対して其各自の部分に付き受戻を為すことを得

 既に分割を為した るときは売主は各買主に対し分割又は競売に因りて其各自に帰したる部分のみに非されは受戻を為すことを得す

 

3款 隠れたる瑕疵に因る売買廃却訴権

 

94

 動産と不動産とを 問はす売渡物に売買の当時に於て不表見の瑕疵ありて買主之を知らす又修補することを得す且其瑕疵か物をして其性質上若くは合意上の用方に

不適当ならしめ又は 買主其瑕疵を知れは初より買受けさる可き程に物の使用を減せしむるときは買主は其売買の廃却を請求することを得

 此場合に於ては買 主は弁済代金と契約費用とを取戻し其代金の利息は請求の日に至るまての物の収益又は使用と之を相殺す

95

 買主か隠れたる瑕 疵の売買廃却訴権を行ふ可き程に重大なるを証すること能はす又は物を保有することを欲するときは買主は便益を失ふ割合に応して代価の減少

を請求することを得

96

 買主か売主に対し 売買の廃却又は代価の減少を得たるに拘はらす売主か初より其瑕疵を知りたるときは買主は尚ほ其受けたる損害又は失ひたる利益に付ての賠

償を要求することを 得

97

 隠れたる瑕疵を担 保せすとの要約は売主をして初より自ら了知し且詐欺を以て隠祕したる瑕疵に付ての責任を免かれしめす

98

 売買の当時に於て 物に瑕疵ありたること其瑕疵より買主に損害を生したること及ひ買主又は売主か其瑕疵を了知したることは人証、鑑定其他の法律上の証拠方法

を以て之を証す

99条 売買廃却、代価減少及ひ損害賠償の訴は左の期間に於て之を起すことを要す

  第1 不動産に付ては六个月

  第2 動産に付ては三个月

  第3 動物に付ては一个月

 右期間は引渡の時 より之を起算す

 然れとも此期間は 買主か瑕疵を知れる証拠ありたる日より其半に短縮す但其残期か此半を超ゆるときに限る

 買主か意外の事又 は不可抗力に因りて右期間に隠れたる瑕疵を覚知する能はさりしことを証するときは其期間の満了後に於ても訴を為すことを得此場合に於ては意

外の事又は不可抗力 の止みたる時より通常期間の三分一を以て新期間と為す

100

 隠れたる瑕疵に基 きたる代価減少の訴権は買主か買受物を無償又は有償にて譲渡したるも之を失はす但有償の譲渡の場合に於ては其瑕疵の為め買主か損失を

受けたるとき又は譲 受人より訴へられ若くは訴へらるるの恐あるときに限る

101

 売渡物か意外の事 又は不可抗力に因りて全部又は半以上滅失したるときは売買廃却訴権を行ふことを得す

 滅失部分の多少に 拘はらす代価減少の訴権は残存部分の割合に応して存立す

 如何なる場合に於 ても売主は隠れたる瑕疵より生する全部又は一分の滅失の責に任す

102

 合式の強制売却は 売買廃却訴権をも代価減少訴権をも生せす

103

 或る動物又は日用 品の隠れたる瑕疵に付ては特別法を以て其売買上の効果を定むるに至るまて本法の規定を適用す

 

4節 不分物の競売

 

104

 不分財産の分割を 為すに当り共有者の一人たりとも現物の分割を拒む者あるときは其財産の協議売却又は競売を為し各共有者の権利の限度に応して其代金を配

当す

105

 共有者か其一人若 くは第三者に協議売却を為し又は相互の間に競売を為すに付き一致を得る能はさるとき又は共有者中に失踪者若くは無能力者あるときは裁判所

又は裁判所の指定し たる公吏の前に於て不分物の競売を為す但民事訴訟法に定めたる競売方式に従ふことを要す

 共同競売人の各自 は常に競売に外人の参与を許すを要求することを得共有者の一人か失踪し又は無能力なるときは外人の参与は当然且必要なりとす

106

 共有者の一人か不 分物の全部を取得したるときは其競売又は協議売却は共有者間の分割の行為と看做され会社の分割に関し規定したる効力を生す

 第三者に競落又は 協議売却を為したるときは其売買は第三者と原共有者との間に於て本章に規定したる売買の効力を生す

 

4章 交換

 

107

 交換は当事者の一 方か或る物の所有権其他の権利を他の一方より取得し又は之をして諾約せしめ其対価として或る物の所有権其他の権利を他の一方に移転し又

は移転することを諾 約する契約なり

 相互の権利の価額 か均一ならさるときは金銭其他の物の補足を以て之を均一にす

 金銭の補足か交換 に供したる物の価額を超ゆるときは其契約は之を売買と看做す

108

 当事者は交換に供 し又は諾約したる物又は権利に対する妨碍及ひ追奪の担保を相互に負担す

 当事者の一方か他 の一方の諾約したる物又は権利を取得することを得さりしときは其選択を以て或は金銭の対価を要求することを得或は契約の解除を請求して自

己の供与したるもの を取戻すことを得但孰れの場合に於ても損害あれは其賠償を受く

 右解除の権利は取 戻に服する不動産に付き権利を取得したる第三者に対して之を行ふことを得す但財産編第352条第1項に従ひて請求の公示前に其第三者の権原

の登記ありたるとき に限る

109

 売買の規則は左の 例外を以て交換に之を適用す

 交換は配偶者の間 に之を為すことを許す但交換物の価額の差か間接の利益を成すときは贈与を禁制し又は之を制限する規則に従ふ

 当事者の一方又は 双方か指定の期間に於て任意に交換を解除することを要約したるときは第27条に依り売買の予約を以て第三者に対抗することを得る条件に従ふ

に非されは其解除を 以て第三者に対抗することを得す

 

第五章 和解

 

110

 和解は当事者か交 互の譲合又は出捐を為して既に生したる争を落著せしめ又は生すること有る可き争を予防する契約なり

 和解の成立、有 効、効力及ひ証拠は下の規定を除く外合意に関する一般の規則に従ふ

111

 和解は法律の錯誤 の為め之を鎖除することを得す但其錯誤か相手方の詐欺に起因するときは此限に在らす

112

 和解は偽造の書類 又は無効の行為に依り承諾したることを理由として之を鎖除することを得す但此等の申立を為すを得へき当事者に於て其書類の偽造を知らす又

は其行為を法律に於 て無効ならしむる所の事実を知をさりしときは此限に在らす

113

 定まりたる争に付 き為したる和解は新に発見したる証書に因りて当事者の一方か争の目的に付き何等の権利をも有せす又は他の一方か其目的に付き完全且争ふ

可からさる権利を有 することの顕はれたるときは事実の錯誤の為め亦之を鎖除することを得

 確定したる判決又 は攻撃するを得さる契約に因り既に争の落著したる場合に於て其判決又は契約を知らすして和解を為したるときも亦同し

 然れとも和解か従 前の原因より生すること有る可き総ての争を落著せしめ又は之を予防するを目的としたるときは当事者の一方の利益たる確定証書の発見は其和

解の鎖除を生せす但 其証書か相手方の所為に因りて控留せられたるときは此限に在らす

114

 有効の和解は当事 者の相互に追認したる権利又は利益にして既に生し又は予見したる争の目的たるものに付ては当事者間に在ては確定判決の権利と均しき認定

の効力を生す此場合 に於ては其権利又は利益は従前の原因に由りて保持したるものと看做す但当事者双方に更改を為す意思ありしときは此限に在らす

 之に反して相互に 供与し又は諾約したる権利又は利益の全部若くは一分にして争の目的たらさりしものに付ては和解は物権又は人権を生し之を移転し若くは之を消

滅せしむる有償合意 の規則に従ふ

 

6章 会社

 

1節 会社の性質及ひ設立

 

115

 会社は数人か各自 に配当す可き利益を収むる目的にて或る物を共通して利用する為め又は或る事業を成し若くは或る職業を営む為め各社員か定まりたる出資を為

し又は之を諾約する 契約なり

116

 商事会社に特別な る規則は商法を以て之を定む

117

 社員の出資は或は 動産又は不動産の所有権若くは収益権或は金銭又は技術、労力を以てすることを得

 出資は不均一なる ことを得

118

 民事会社は当事者 の意思に因りて之を法人と為すことを得

 此場合に於ては会 社に社名を付し且其契約は商事会社の公示の為め法律に規定したる方式に従ひて之を公示することを要す但社名を付し又は公示を為したるとき

は其会社を法人と為 す意思ありと推定す

119

 合意の一般の規則 殊に当事者の承諾、能力、合意の目的、原因及ひ証拠に関するものは会社に之を適用す

120

 会社は其目的の商 事に在らさるも資本を株式に分つときは商法の規定に従ふ

 

2節 社員の権利及ひ義務

 

121

 会社は契約の日よ り開始す但明示又は黙示にて他の期限を定め又は条件を附したるときは此限に在らす

 各社員は会社の開 始する時に於て其諾約したる出資を差入るることを要す之を差入れさるときは其社員は出資に生する果実及ひ利息を当然負担す且遅延の為め損

害を生したるときは 出資の金銭を以てするときと雖も其賠償を負担す

122

 技術又は労力の出 資を諾約したる社員か其諾約を欠きたるときは其社員は他の社員の選択に従ひ会社に対して或は其義務の履行を欠きたる当時より会社の受け

たる損害を賠償し或 は其労力を会社外に用ゐて得たる利益を分与する責に任す

123

 動産と不動産とを 問はす特定物の所有権を出資と為すことを諾約したる社員は会社に対し売主と同しく其物の妨碍、追奪又は面積、数量の不足及ひ隠れたる瑕疵に

付き担保の責に任す

 又社員か物の収益 権のみを出資と為すことを諾約したるときは賃貸人と同しく担保の責に任す

124

 会社契約を以て社 員中より一人又は数人の業務担当人を選任したるときは其各員は受任の権限を踰ゆることを得す

 権限の定まらさる 業務担当人は共同又は各別にて通常の管理行為を為すに止まる

 又業務担当人は会 社の目的中の重要なる行為に付ては共同にてのみ之を為すことを得但異議ある場合に於ては其行為を中止し総社員の過半数を以て之を決す

125

 会社契約を以て業 務担当人を選任せさる場合に於て総社員の一致にて之を選任せさる間は社員の各自は前条に規定したる行為を其条件に従ひて為す権を有す

126

 会社契約を以て業 務担当人に選任せられたる社員は正当の原因あるとき又は其承諾及ひ総社員の同意を得たるときに非されは委任の期限内に之を解任することを

得す

 会社設立以後の契 約を以て選任したる業務担当人は之を選任したると同一の方法を以て其承諾を要せすして之を解任することを得

127

 業務担当人を選任 したる方法の如何を問はす其中の一人又は数人の死亡、辞任又は解任ありて此等の事件の為めに会社の解散せさるときは総社員の過半数を以

て其補闕者を選任す

128

 右の外会社定款の 執行に関する総ての処分は亦社員の過半数を以て之を定む

 定款に反する行為 又は定款外の行為に付ては総社員の一致を得るを必要とす

 本条は定款又は法 律の之に反する規定を妨けす

129

 第三者か会社と業 務担当社員の一人とに対して同性質の債務を負担したるとき其第三者か二箇の債務を消滅せしむるに足らさる金銭又は有価物を此社員に弁済す

るに於ては其社員は 会社の債権額と自己の債権額との割合に応するに非されは自己の債権の弁済に之を充当することを得す但債務者の為したる充当を変更すること

を得す

 然れとも債務者か 正当の利益なくして社員の債権額の全部に充当したるときは社員は其弁済の額内より右の割合に応する部分を会社に分与する責に任す

 債務者又は社員か 有効なる充当を為ささるときは財産編第472条に従ひて法律上 の充当の規則を適用す

130

 業務担当人たると 否とを問はす社員にして会社の債務者より会社に対する債務の一分を受取りたる者は場合の如何に拘はらす会社に其利益を得せしむることを要

す但自己の持分とし て受取証書を与へたるときと雖も亦同し

131

 業務担当人たると 否とを問はす各社員は其過失又は懈怠に因りて会社に加へたる損害を賠償する責に任す

 此損害は社員か会 社営業の他の事件に付きて会社に得せしめたる利益と相殺することを得す但其事件の互に連絡したるときは此限に在らす

132

 会社契約を以て業 務担当人を選任せさるか為めに業務を取扱ふ社員は自己の業務に於けると同一の注意を加へさるときに非されは其過失の責に任せす

133

 各社員は会社資本 中に於て使用することを得る金額なきときは会社の所属物に関する必要及ひ保持の費用を自己の権利の割合に応して分担する責に任す

134

 業務担当人たると 否とを問はす各社員は会社をして自己の出資外に会社の為め有益に立替へたる金額を返還せしめ又は会社の利益の為め善意にて負担したる義

務を認諾せしめ又は 会社の営業の為め自己の財産に受けたる避くるを得さる損害を賠償せしむることを得

135

 会社営業の為め社 員の立替へたる金額は其使用の日より当然利息を生す

 之に反して各社員 は自己の営業の為め会社資本中より引出したる金額に付ては当然会社に対して其利息を負担し尚ほ損害あるときは賠償の責に任す

136

 社員は会社解散の 際に現在する資本に於ける各自の持分を会社契約又は其後の契約を以て随意に定むることを得但第138条に掲けたる二箇の場合は此限に在ら

137

 社員は其一人又は 数人の持分か利益及ひ損失に於て同一ならさるを合意することを得

 然れとも利益のみ を予見して右の持分を定めたるときは損失に付ても同一の定方を合意したりとの推定を受く

 如何なる場合に於 ても受けたる損失を控除し会社の貸方として残る所のものに非されは配当す可き利益と看做さす又右貸方を竭したる後借方として残る所のものに

非されは損失と看做 さす

 然れとも会社の存 立中に詐害なくして既に為したる利益又は損失の一分の配当は之を変更せす

138

 会社資本の全部又 は会社の得たる利益の全部を社員中の一人に帰す可き約款は無効なり

 技術又は労力を出 資と為したる社員に非さる社員に全く損失の負担を免かれしむ可き約款も亦同し

 会社契約に右の約 款を附記したるときは其約款は契約をして全く無効ならしむ又日後に右の約款を追加したるときは其約款は契約の存立を妨けすして会社の清算

は第141条に従ひて之を為す

139

 社員は自己の選任 せし又は選任す可き社員又は外人たる一人若くは数人の仲裁人をして会社解散の際各自の持分を定めしむることを会社契約又は其後の契約を

以て合意することを 得

 仲裁人の為したる 定方は仲裁人か仲裁の適法の方式又は仲裁契約を以て授けられたる条件を履行せさるか又は明かに公平を失したるときに非されは之を攻撃する

ことを得す

 右定方の無効の請 求は此に因りて害を受けたりと主張する社員に在ては其社員か定方の執行に加はりたるとき又は其定方を知りたるより三个月を経過したるときは

之を為すことを得す

140

 会社契約を以て持 分の定方を仲裁人に委任す可きことを定めたる場合に於て少なくとも社員の過半数か仲裁人を選任することに一致せさるときは裁判所に於て其選

任を為す

 選任せられたる仲 裁人か定方を為すことを欲せす又は之を為すこと能はさるに当り社員か其改選に付き一致せさるときも亦同し

141

 社員自身にて若く は仲裁人を以て持分の定方を為さす又は仲裁人の定方の無効と為りたるときは会社資本及ひ利益又は損失は社員の出資額の割合に応して之を

配当す

 社員の出資と為し たる技術又は労力の評価なきときは裁判所は各般の事情を斟酌して其出資の価額を定む

 技術又は労力と財 産とを出資と為したる社員は前項に定めたる価額の外尚ほ其財産の価額に従ひて計算したる持分の配当を受く

142

 各社員は自己の持 分に第三者を組合さしむることを得又其持分を質入し又は之を譲渡すことを得然れとも此等の行為は之を以て会社に対抗することを得す但会社

契約を以て社員に此 権利を認許したるときは此限に在らす此場合に於て会社か社員の譲渡さんと欲する持分を消却する為め先買権を留保したるときは自己の持分を

譲渡さんとする社員 は会社か其先買権を行ふか抛棄するかに付き之を遅滞に付することを要す

143

 業務担当人か会社 の名を以て又は会社の営業の為め有効に負担したる義務は会社か法人を成せるときは各社員の一身上の債権者に先たち会社資本を以て之を

担保す

 会社資本の不十分 なる場合又は訴追債権者に其資本を示ささる場合に於ては総社員は連帯して会社の義務を負担す会社か法人を成ささるときも亦同し

 右の場合に於て各 社員間の決算は第136条乃至第141条に規定したる貸方及ひ借方に於ける各自の持分に従ひて之を為す

 

3節 会社の解散

 

144条 会社は左の諸件に因りて当然解散す

  第1 会社契約を以て指定したる期間の満了又は解除条件の成就

  第2 会社の目的たる事業の成功又は其成功の不能

  第3 会社資本の全部又は半額以上の損失

  第4 社員の一人の技術、労力又は収益を以てする継続の出資を為すの不能

  第5 社員の一人の死亡、禁治産、破産又は顕然の無資力但第147条の規定を妨けす

145条 会社は左の諸件に因りて之を解散することを得

  第1 如何なる場合を問はす社員の一致の意思

  第2 会社に明示又は黙示の一定の期間なき場合に於て悪意に非す又不都合の時期に非すして解散の請求を 為すときは社員一人の意思

  第3 会社に一定の期間あるときと雖も社員の一人の義務不履行に基きたる解除の訴又は正当の理由に基き たる解散の請求

146

 社員は会社の期間 の満了前に明示又は黙示にて其期間を伸長することを得

 黙示の伸長は一定 の期間の満了後に於て社員の一人たも故障を為さすして会社営業の継続したる事実より生することを得此場合に於て会社は前条第2号に従ひ社

員の一人の意思を以 て之を解散することを得

147

 社員は第144条第5号に掲けたる原因に由りて会社を解散せす且闕員の持分を定め他の社員にて之を継続するを合意することを得

 又社員は死亡した る社員の相続人又は無能力と為りたる社員と共に会社を継続するを合意することを得

 前項の場合に於て は相続人又は無能力者の合式の代人の新なる承諾を要す

 

4節 会社の清算及ひ分割

 

148

 会社の解散したる ときは社員の各自又は其承継人より清算を請求することを得

 清算は分割前に之 を為すことを要す但社員の多数か全部又は一分の分割を先にすることを請求したるときは此限に在らす

 又会社の各債権者 は清算前に分割を為すことに付き故障を申立つることを得

149

 清算は左の諸件を 包含す

  第1 著手したる業務の成就

  第2 会社の債務の弁済及ひ其債権の取立

  第3 各社員と会社との間の特別なる計算

  第4 分割す可き貸方又は負担す可き借方に於ける各社員又は其代人の持分の指定

150

 会社契約に清算人 の選任及ひ其権限に関する約款なきときは清算は或は総社員之を為し或は社員の一致を以て委任したる一人若くは数人の社員之を為し或は社

員の一致を以て選任 したる第三者之を為す

 社員か清算人の選 任に付き一致せさるときは裁判所に於て之を選任す

151

 清算人は如何なる 場合を問はす速に毀損又は滅尽す可き物を譲渡すことを要す

 満期と為りたる債 務の弁済の為め必要なるときは此他の動産を譲渡すことを得

 不動産に付ては清 算人は社員の特別なる委任を受くるに非されは之を抵当とし又は譲渡すことを得す

 前項の譲渡は競売 競落に依るに非されは之を為すことを得す但協議上の譲渡を許したる場合は此限に在らす孰れの場合に於ても社員の過半数を以て決することを

要す

 清算人は社員の名 を以て原告又は被告として訴訟を為すことを得

 清算人か会社の債 務又は債権に付き承諾したる和解及ひ仲裁は第三者と通謀したる詐欺の為めに非されは之を攻撃することを得す

152

 清算に於ける総計 算は社員の認可を受くることを要す

 右の計算を認可す るには社員の過半数の議決を以て足れりとす

 此議決は総計算に 付き之を為し又は計算の或る部分に付き各別に之を為すことを得

 認可を得さる計算 にして仕直すことを得へきものなるときは清算人其費用を以て之を為す若し仕直すことを得さるときは清算人は代理の規則に従ひ其過失に因りて

加へたる損害の責に 任す

 清算人の受任した る権限に依り又は前条に従ひて為したる行為は善意なる第三者に対して之を取消すことを得す

153

 会社の清算後は不 分にて存する財産の分割は社員の各自又は其承継人より之を請求することを得但当事者か財産編第39条に従ひ不分にて存することを会社の解

散後に合意したると きは此限に在らす

154

 分割部分の定方又 は其配付に付き当事者の一致せさるときは財産共通の分割の為め別に定めたる規則に従ふ

155

 会社資本中の物に して分割に因り各社員に帰したるものに関する其社員の権利は会社解散の日に遡りて効力を有し又清算中他の社員より其物に付き第三者に授

与したる権利は之を 解除す

156

 分割者は分割に因 りて取得す可き権利の上に受くること有る可き妨碍及ひ追奪に付き其各自の部分に応して相互に担保を為す

 分割者の一人か無 資力なるときは其一人の負担したる賠償の部分は被担保人を併せて他の共同分割者の間に之を分つ

 

7章 射倖契約

 

総則

 

157

 射倖契約とは当事 者の双方若くは一方の損益に付き其効力か将来の不確定なる事件に繋る合意を謂ふ

158

 射倖契約には其性 質に因るもの有り当事者の意思に因るもの有り

 博戯、賭事、終身 年金権其他終身権利の設定、陸上、海上の保険及ひ冒険貸借は性質に因る射倖のものなり

 此他成立又は効力 を停止又は解除の偶成の条件に繋らしむる契約は当事者の意思に因る射倖のものなり

159

 陸上、海上の保険 及ひ冒険貸借は商法を以て之を規定す

 

1節 博戯及ひ賭事

 

160

 博戯は博戯者の勇 気、力量、巧技を発達す可き性質なる体躯運動を目的とするに非されは其義務履行の為め訴権を許さす

 賭事に基く訴権は 右の如き体躯運動を為す人の為め又は賭者の直接に関係する農工商業の進歩の為めに非されは亦之を許さす

 右の博戯又は賭事 に於て諾約したる金額又は有価物か事情に照して過度なりと見ゆるときは裁判所は之を減少することを得すして全く其請求を棄却することを要す

161

 前条の場合の外博 戯及ひ賭事は自然義務をも生せす且其債務の追認、更改又は保証は総て無効なり

 然れとも右博戯又 は賭事に因る有能力者の任意の弁済は之を取戻すことを許さす但勝者に於て詐欺又は欺瞞ありたるときは此限に在らす

162

 官許を得さる富講 は訴権なき博戯及ひ賭事と同視す

 商品又は公の証券 の投機の定期売狽疔付ても初より当事者か諾約したる金額又は有価物の引渡及ひ弁済を実行するに意なく単に相場昂低の差額を計算するのみ

を目的としたること を被告の証するときも亦同し

163

 前2条の場合に於て被告より無効の抗弁を申立てさるときは判事は職権を以て其無効を言渡すことを得但契 約又は請求に於て博戯、富講又は相場差額の賭事か債

務の原因たることを 明言せしときに限る

 

2節 終身年金権

 

1款 終身年金権の設定

 

164

 終身年金権は動産 若くは不動産なる元本の譲渡の報酬又は既往若くは将来の勤労の報酬として有償にて之を設定することを得

 又贈与又は遺贈を 以て無償にて之を設定することを得

 又終身年金権は有 償又は無償にて譲渡したる元本の上に留存して之を設定することを得

165

 終身年金権は対価 物の供与者に非さる人の利益の為め之を要約することを得

 此場合に於ては要 約者と諾約者との間に在ては有償契約の規則に従ひ要約者と得益者との間に在ては贈与の規則に従ふと雖も贈与の方式に従ふことを要せす

166

 終身年金権は債権 者若くは債務者の終身を期し又は第三者の終身を期して之を設定することを得

 此末の場合に於て 契約か有償なるときは其成立に付き第三者の承諾を必要とす然れとも此承諾前に弁済したる年金は之を取戻すことを得す

167

 終身年金権は同時 又は順次に数人の債権者の終身を期して之を設定することを得

 此場合に於ては財 産編第百条の用益権に関する規定を適用す

168

 有償の終身年金権 の契約は其設定の為め終身を期せられたる人か合意の当時に於て既に死亡したるときは当事者双方其死亡を知らすと雖も無効なり

 右の人か合意の当 時に於て既に罹れる疾病の為め六十日内に死亡したるときは其契約は当然之を解除す

169

 無償の終身年金権 は設定者に於て之を譲渡すことを得す且差押ふることを得さるものと定むることを得

 右約款は設定証書 に記入したるに非されは之を以て第三者に対抗することを得す

 養料として無償に て設定したる終身年金権は当然譲渡すことを得す且差押ふることを得さるものなり

 本条の規定は贈与 者の利益の為め贈与財産の上に留存したる終身年金権及ひ支払時期の至りたる年金に之を適用せす

170

 終身年金権の譲渡 及ひ差押の禁止は其一事のみを要約したるときと雖も二事共に在立す

 

2款 終身年金権の契約の効力

 

171

 債務者は年金権の 設定の為め終身を期せられたる人の生存中は其年金権の年金を支払ふことを要し且狽ッ゚を為すことを得す但其買戻に付き特別の合意あるときは

此限に在らす

172

 年金は毎月又は此 より長き時期に於て其支払を為す可きときと雖も債権者日割を以て之を取得す

 然れとも年金を前 払す可きときは債務者は既に支払時期の始まりたる全一期分を負担す

173

 債権者は解除の権 利を留保せさるときは年金支払の欠缺の為め契約の解除を請求することを得す只其債務者の財産中に於て年金を受くるに足る可き部分を差押

へ之を売却せしめ其 売却代金より生する利息を以て年金の支払に充つることを得但他の債権者の競取を拒むことを得す

 終身年金権を無償 にて設定し又は贈与若くは遺贈の元本の上に留存したるときも亦右と同一に処弁す

174

 終身年金権の債務 者は年金権の設定の為め終身を期せられたる人か支払の時期に生存せしことを債権者より生存認証書を以て証せさるときは其年金の支払を拒

むことを得

 此認証書は其人の 現住地の受持公証人又は身分取扱人之を交付す

 

3款 終身年金権の消滅

 

175

 有償の終身年金権 の債務者か年金支払の為め諾約したる担保を供せす又は供したる担保を減少するときは債権者は契約の解除を請求することを得但既に取得し

たる年金を返還する 責なし

 贈与又は遺贈の元 本の上に留存したる終身年金権の債権者も亦右と同一の権利を有す

 右の解除は年金権 の設定の為め終身を期せられたる人か確定判決前に死亡したるときは之を宣告せす

176

 普通法に於て許し たる鎖除及ひ廃罷の原因は終身年金権に之を適用す

 終身年金権は此他 尚ほ更改、合意上の免除、混同、時効及ひ要約したる受戻に因りて消滅す

 然れとも終身年金 権か第169条及ひ第170条に従ひ法律又は人為に依りて譲渡すことを得す又は差押ふることを得さるものなるときは其年金権は 時効に罹らす

 如何なる場合に於 ても年金は支払時期後五个年にして時効に罹る

177

 終身年金権は其設 定の為め終身を期せられたる人の死亡に因りて消滅す但第168条の規定を妨けす

 然れとも終身を期 せられたる人か債務者の責に帰す可き不正の原因に由りて死亡したる場合に於て其年金権を有償にて又は贈与若くは遺贈の負担として設定したり

しときは其契約又は 恵与は之を解除す且債務者は既に支払ひたる年金を取戻さすして其取得したる財産を返還することを要す

 右と同一の死亡の 場合に於て其年金権を直接に贈与し又は遺贈したりしときは年金の支払は裁判所か終身を期せられたる人の生命の継続期と推測する期間之を

継続せしむ

 

8章 消費貸借及ひ無期年金権

 

1節 消費貸借

 

178

 消費貸借は当事者 の一方か代替物の所有権を他の一方に移転し他の一方か或る時期後に同数量及ひ同品質の物を返還する義務を負担する契約なり

179

 当事者か返還の時 期を定めさりしときは裁判所は当事者の意思を推測し且事情を斟酌して之を定む

 返還の場所の定ま らさりしときは無利息の貸借に付ては貸主の住所又利息附の貸借に付ては借主の住所に於て其返還を為す

180

 不可抗力に因りて 借用物を返還すること能はさるときは借主は其物の不可抗力に罹りし日及ひ場所の相場に従ひて算定したる其物の価額を負担す

181

 貸主に属せさる物 の貸借は無効なり其貸借か利息附にして且借主か善意なりしときは貸主は借主に対して担保の責に任す

 然れとも此貸借は 左の場合に於ては有効なり

  第1 借主か善意にて借用物を消費したるとき

  第2 借主か時効に因り真所有者の回復の請求を排却したるとき

  第3 真所有者か貸借を認諾したるとき

182

 貸借物に借生の了 知せすして貸主の了知したる隠れたる瑕疵ありて借主為めに損害を受けたるときと雖も貸主は無利息の貸借に付ては其損害の責に任せす但貸

主に詐欺あり又は加 害の意思ありたるときは此限に在らす

 此貸借か利息附な るときは貸主の了知せさりし隠れたる瑕疵と雖も之を了知することを得へきときは其責に任す

 此他売買廃却訴権 に関する第94条乃至第101条の規定は之を消費貸借に適用することを得

183

 財産編第463条乃至第466条は正貨又は強制通用の紙幣にて為したる消費貸借に之を適用す

 然れとも貸主か財 産編第465条の許せる金貨若く は銀貨を以て指定したる価額の弁済を受け又は此等の正貨の一を以て弁済を受くることを要約するには同性質の

正貨又は他の正貸若 くは紙幣を以て対当の価額を実際に貸付することを要す

184

 貸借を金銀塊にて 為したるときは借主は他の商品の貸借の如く同一の性質、重量及ひ品格の金銀塊を返還することを要す

185

 金銭、日用品又は 商品の借主は使用の報酬として元本の外に利息の名目を以て借用物の割合に応する金額又は有価物の弁済を約することを得

186

 利息は要約したる に非されは借主に対して之を要求することを得す

 借主より利息を弁 済す可きの合意ありて其額の定なきときは其割合は法律上の利息に従ふ

 要約せられさる利 息を法律の制限内にて任意に弁済したる借主は之を取戻し又は之を元本の弁済に充当することを得す

187

 合意上の利息は法 律上の利息を超ゆることを得但法律を以て特に定めたる合意上の利息の制限を超ゆることを得す

 法律の制限を超え て顕然に利息を定めたるときは之を法律の制限に減却し此制限を超えて為したる弁済は之を元本の弁済に充当し又は之を取戻すことを得

 債権者か実際に貸 付したる元本を超ゆる元本を認めしめ又は其他の方法を以て不正当の利息を隠祕したるときは債務者は其不正当の利息を弁済することを要せす

若し弁済したるとき は之を取戻すことを得

188

 貸主は支払時期の 至りたる利息に付き異議を為さすして元本の全部又は一分を受取りたるときは其利息を受取り又は之を抛棄したりとの推定を受く但反対の証拠あ

るときは此限に在ら す

189

 十个年を超ゆる期 間を以て利息附の貸借を為したるときは借主は如何なる反対の合意あるも十个年後は常に弁済を為す権能を有す

 然れとも年賦金を 以て利息の外尚ほ元本の幾分を漸次に弁済す可きときは其取越弁済を為すことを得す

190

 第186条乃至第189条の規定は消費貸借より生する義務を除く外金銭又は定量物の義務及ひ合意上、法律上の利息に之を適用 す

 

2節 無期年金権の契約

 

191

 貸主は元本の要求 を為すことを自ら禁止し年金のみを受取ることを要約することを得之を無期年金権の設定と謂ふ

 此禁止は明示なる か又は明かに事情より生することを要す

192

 無期年金の債務を 負担する借主は如何なる反対の合意あるも常に其受取りたる元本の弁済を為すことを得

 然れとも借主は十 个年を超えさる或る時期前に弁済を為ささるを約することを得

 右期間は常に之を 更新することを得然れとも亦十个年を超ゆることを得す若れ之を超ゆるときは十个年に短縮す

 弁済は反対の合意 あらさるときは全部たることを要す

 債務者は六个月前 に弁済を為す意思を債権者に予告することを要す但当事者に於て他の期間を定めたるときは此限に在らす

 債務者は自己の定 めたる時期に於て弁済を為ささるときは其損害賠償の責に任す然れとも弁済の強要を受くること無し但更改ありたるときは此限に在らす

193

 債務者は財産編第405条第1号乃至第3号に依りて尋常の債務者 か権利上の期限の利益を失ふ場合又は合式の付遅滞を受けたる後引続き二个年間年金の弁済を

欠きたる場合に於て は元本弁済の強要を受く

 此末の場合に於て 裁判所は財産編第四百六条に従ひ債務者に恩恵上の期限及ひ分割弁済を許与することを得

194

 前2条の規定は不動産譲渡の代価若くは条件として設定し又は無償にて設定したる無期年金権に之を適用す

 右孰れの場合に於 ても弁済は当事者の評定したる元本を以て之を為し又元本の評定なきときは法律上の利息の割合に従ひて計算したる年金を生す可き元本を以て

之を為す

 日用品を以て年金 に充つるときは弁済は特別の合意あるに非されは前十个年間の其平均代価に基き計算したる元本を以て之を為す

 

9章 使用貸借

 

1節 使用貸借の性質

 

195

 使用貸借は当事者 の一方か他の一方の使用の為め之に動産又は不動産を交付し明示又は黙示にて定めたる時期の後他の一方か其借受けたる原物を返還する義

務を負担する契約な り

 此貸借は本来無償 なり

196

 借主は使用の物権 を取得せす単に貸主及ひ其相続人に対して人権を取得す

 借主の権利は其相 続人に移転せす但其相続人か当事者の意思の之に異なることを証するときは此限に在らす又其相続人か他より同種の物の使用を得る為め裁判

所より返還猶予の期 間を受くることを妨けす

 

2節 使用貸借より生し又は其貸借に際して生する義務

 

197

 借主は借用物の性 質又は合意に因りて定まりたる用方に従ひ且貸借期間に非されは其物を使用することを得す

 借主は此他の使用 又は期限後の使用に因りて生する借用物の滅失又は毀損に付ては勿論又其使用に際し意外の事又は不可抗力に因りて生する滅失又は毀損に

付ても其責に任す

198

 借主は自己の物を 用ゐて借用物の滅失又は毀損を免かれしむることを得へきとき又は自己の物と借用物とか同時に危険を受くるに際し自己の物のみを救護したると

きも亦意外の事又は 不可抗力に因りて生する借用物の滅失又は毀損の責に任す

199

 借主は借用物保持 の通常費用を負担し貸主に対して其償還を求むることを得す

200

 借主は合意せし時 期に於て借用物を返還することを要す其時期前と雖も許されたる使用を終りしときは亦同し但第203条第2項の規定を妨けす

 返還の時期を定め す且物の使用か継続す可きものなるときは裁判所は貸主の請求に因りて返還の為め相応なる時期を定む

201

 借主か借用物の第 三者に属することを了知するときと雖も貸主又は其代人に之を返還することを要す但第三者か其返還に付き合式に故障を為したるときは此限に

在らす

 此末の場合の外返 還は貸主又は其代人の住所に於て之を為す

202

 数人連合して同時 又は交互に用ゆる為め一箇の物を借用したるときは各自連帯にて上の義務を負担す

203

 貸主は明示又は黙 示にて借主に許したる期限前に貸付物の返還を要求することを得す

 然れとも其物に付 き急迫にして且予期せさる要用の生したるときは貸主は裁判所に請求して期限前に一時又は永久の返還を為さしむることを得

204

 貸主は借主か借用 物保存の為め支出したる必要且急迫なる費用を之に弁償する責に任す

 又貸主は貸付物の 瑕疵の為めに借主の受けたる損害に付ては第182条第1項の規定を適用す

205

 借主は前条に依り て自己の受く可き賠償を得るまて借用物に付き留置権を行ふことを得

 

 

 

10章 寄託及ひ保管

 

1節 寄託

 

206

 寄託は一人か動産 を交付し他の一人か之を看守し要求次第直ちに原物を返還する契約なり

 寄託は本来無償な り

 寄託には任意のも の有り急迫のもの有り

 

1款 任意寄託

 

207

 任意の寄託は寄託 者か寄託の時日、場所及ひ受寄者を自由に選択することを得る場合に於て成るものなり

208

 寄託は所有者のみ ならす尚ほ物の看守及ひ保存に付き利害の関係ある人又は其代理人之を為すことを得

 又寄託は無能力者 の法律上の代人之を為すことを得

209

 寄託は契約を為す 完全の能力を有する者に非されは之を受くることを得す

 然れとも無能力者 は猶ほ自己の手に存する寄託物の返還又は寄託に因りて得たる利益の返還に付き民事上其責に任す但背信に付ての公訴を妨けす

210

 受寄者は受寄物の 看守及ひ保存に付ては自己の財産に加ふると同一の注意を為すことを要す

 然れとも受寄者か 自を求めて寄託を受け又は単に自己の利益を目的とし要用に従ひ受寄物を使用するの許諾を得て寄託を受けたるときは受寄者は善良なる管理人

の注意を為す責に任 す但此末の場合に於て受寄者か其物を使用したるときは第198条の規定を適用す

211

 受寄物返還の遅滞 に付せられたる受寄者は普通法に従ひ意外の事又は不可抗力に因る滅失の責に任す

212

 寄託者か受寄者に 寄託物の性質を隠祕したるときは受寄者之を知らんと探求することを得す又其性質を受寄者のみに知らしめたる場合に於ても受寄者之を他人に

漏泄することを得す 若し之を漏泄したる為め損害あるときは其賠償の責に任す

 

213

 受寄者は受寄物を 使用し又は其果実を消費することを得す但此か為め寄託者の明示又は黙示の許諾ありたるときは此限に在らす

 此許諾は寄託に使 用貸借の性質を与ふるに足らす

214

 受寄者は其収取し たる果実及ひ産出物と又之を金銭に換へさるを得さりしときは其代金と共に原物を返還することを要す但前条の規定を妨けす

 受寄者か受寄物に 付き或る償金又は或る権利若くは利益を取得したるときは之を寄託者に移転することを要す

 又受寄者か故意に て受寄物を消費し譲渡し又は隠匿したるときは遅滞に付せらるること無くして当然損害賠償の責に任す但背信に付ての公訴を妨けす

215

 受寄者の相続人か 受寄物なることを知らすして其物を消費し又は之を譲渡したるときは其相続人は此に因りて得たる利益の額に満つるまて賠償の責に任す

 右の規定は遺忘又 は錯誤に因り自己の物として受寄物を処分したる受寄者に之を適用す

216

 寄託物の返還は寄 託者又は其法律上若くは合意上の代人に之を為すことを要す

217

 返還に付き場所を 定めさりしときは受寄者か受寄物を移置したるも其現在の場所に於て之を返還す但寄託者を詐害する意思あるときは此限に在らす

218

 寄託者の要求次第 物を返還す可き受寄者の義務は左の場合に於て消滅す

  第1 受寄者か其物の自己に属することを証することを得るとき

  第2 受寄者か次条に従ひて留置権を行ふことを得るとき

  第3 受寄者か払渡差押の合式の告知を受けたるとき

  第4 受寄者か受寄物の盗品なることを覚知し且其所有者を知りたるとき但此場合に於て受寄者は所有者に 其寄託を受けたることを通知し且指定せる相応の期間

に寄託者と立会の上 にて其物を要求す可く若し此期間を過くるも立会はさるときは寄託者に返還を為す可き旨を催告することを要す

219

 寄託者は寄託物の 保存の為め受寄者の支出したる必要の費用と其物の為めに受寄者の受けたる損害とを賠償することを要す

 右賠償の皆済を受 くるまて受寄者は受寄物の上に留置権を行ふことを得

 

2款 急迫寄託及ひ旅店寄託

 

220

 寄託者か火災、洪 水、難船、地震又は暴動の如き不測にして且不可抗の事変に因り已むを得す寄託を為すときは之を急迫の寄託と謂ふ

 急迫の寄託は諸般 の方法に依り又は事情より生する事実の推定に依りて之を証することを得

 此他急迫寄託は任 意寄託の規則に従ふ

221

 旅店及ひ下宿屋の 主人は其止宿せしむる旅人の携帯したる手荷物の受託に付ては之を急迫の受寄者と看做す

 舟車運送人其他水 陸運送の営業人も亦其運送を任せられたる荷物に付ては之を急迫の受寄者と看做す

 然れとも本条の受 寄者は有償合意より生する通常の義務を負担す

 

2節 保管

 

222

 保管とは数人の間 に於て争論の目的たる物を第三者に寄託するを謂ふ

 保管は動産又は不 動産を目的とすることを得

 保管には合意上の もの有り裁判上のもの有り

223

 合意上の保管は其 保管に付ても保管人の選定に付ても当事者の承諾あることを要す

 裁判上の保管人は 当事者か其選定に付き一致せさるときに非されは裁判所は職権を以て之を選定することを得す

 裁判所は当事者の 一人を保管人に選任することを得

224

 合意上と裁判上と を問はす保管人は報酬を受くることを得此場合に於て保管人は善良なる管理人の通常の注意を保管物に加ふる責に任す

225

 裁判上の保管人は 財産編第119条に従ひて保管物を 賃貸することを得然れとも合意上の保管人は当事者の特別の委任を受くるに非されは賃貸することを得す

 裁判上又は合意上 の保管人は其占有を保持し又は之を回収する為め占有訴権を行ふことを得

 保管人の占有は争 訟に於て確定に勝を得たる当事者を利す

226

 保管に付したる物 は勝を得たる当事者に之を返還することを要す

 然れとも保管人は 自己の責任を免かるる為め当事者の許諾又は裁判所の命令を求むることを得

 

227

 右の外合意上及ひ 裁判上の保管は尋常の寄託の規則に従ふ

228

 差押物に於ける裁 判上の保管及ひ債務者か弁済に提供して債権者の受取ることを拒みたる金銭若くは有価物の供託は特別法を以て之を規定す

 

11章 代理

 

1節 代理の性質

 

229

 代理は当事者の一 方か其名を以て其利益の為め或る事を行ふことを他の一方に委任する契約なり

 代理人か委任者の 利益の為めにするも自己の名を以て事を行ふときは其契約は仲買契約なり

 仲買契約は商法を 以て之を規定す

230

 代理は黙示にて之 を委任し及ひ之を受諾することを得

231

 代理は無償なり但 反対の明示又は黙示の合意あるときは此限に在らす

232

 代理には総理のも の有り部理のもの有り

 総理代理は為す可 き行為の限定なき代理にして委任者の資産の管理の行為のみを包含す

 代理か或は管理或 は処分或は義務に関して一箇又は数箇の限定せる行為を目的とするときは其代理は部理なり

233

 凡そ代理は総理な ると部理なるとを問はす其目的たる行為より必然に生す可き事柄を暗に包含す

 然れとも元本を諾 約する委任は其弁済を為す委任を包含せす

 元本を要約する委 任は其弁済を受くる委任を包含せす

 訴訟を為す委任は 仲裁人を選任し請求に承服し訴訟を取下け又は和解を為す委任を包含せす

 和解を為す委任は 仲裁人又は裁判所をして争論を裁決せしむる委任を包含せす

 仲裁人を選任する 委任は和解を為し又は裁判所をして其争論を裁決せしむる委任を包含せす

234

 代理は無能力者に も有効に之を委任することを得然れとも其代理人は委任者に対しては無能力者の制限ある責任のみを負担す

235

 代理人は其管理行 為の全部又は一分に付き他人をして自己に代はらしむることを得但此を明示にて禁止せさるとき又は事件の性質に因りて専ら代理人のみに委任

したりと看做す可か らさるときに限る此場合に於て代理人は自己の管理に於ける如く其復代人の管理の責に任す

 委任者か復代人を 指定したるときは代理人は其指定に従ふこと能はさる場合に於ても他人を選任することを得す代理人か其指定に従ひ選任を為したる場合に於て

は代理人は其復代人 の無能又は不誠実に付き委任者に之を告知することを怠り又は復代人を解任することを怠りたるに非されは其責に任せす

 委任者の禁止した るに拘はらす復代人を選任し又は其許諾せさる人を選任したる場合に於ては代理人は意外の事又は不可抗力に因りて生する損害に付ても其責に

任す但此復代人の選 任を為さされは其損害の生せさる可かりしときに限る

236

 前条第1項及ひ第2項の場合に於て委任者は復代人に対し其管理に関する訴権を直接に行ふことを得又之に対し直接に責任を負担す

 同条第3項の場合に於て委任者は直接訴権と代理人の名を以てする間接訴権との間に選択権を有す然れとも直接 訴権を行ひたるときは其復代人の選任を認諾した

るものと看做す

 

2節 代理人の義務

 

237

 代理の終了せさる 間は代理人は委任の本旨に従ひ且明示なきも自己の了知したる委任者の意思を斟酌して委任事件を成就する責に任す此に違ふときは損害賠償

を負担す

 全部の履行を為す を得さるときは委任者に有益なるに非されは代理人は一分の履行を為す責なく且之を為すことを得す

238

 指定の代価にて物 を狽?るる委任を受けたる代理 人か其指定を超ゆる代価を以てするに非されは之を得る能はさりしときは代理人は其超価額を抛棄して買入の認諾

を委任者に要求する ことを得又委任者は代理人の弁済したる代価を以て物の引渡を要求することを得

 物を売却する委任 を受けたる場合に於て代理人か指定の代価以下にて之を売却したるときは代理人は代価の差額を補足して其売却を認諾せしむることを得

239

 代理人は委任事件 を成就せしむることに付ては善良なる管理人たるの注意を為す責に任す

 然れとも左の場合 に於ては代理人の過失は較や寛大に之を査定す

  第1 代理人か無償にて代理を為すとき

  第2 代理人か自ら求めて代理を為したるに非さるとき

  第3 委任者か代理人の不熟練なることを了知し又は之を推量したるとき

  第4 代理人か管理の或る行為に付き委任者をして其予期せさりし利益を得せしめたるとき

240

 代理人は代理の終 了したるときは証拠書類を添へて其計算を為す責に任す其終了前と雖も委任者の之を求めたるときは亦同し

241

 代理人は委任者の 名を以て又は管理に関し自己の名を以て受取りたる金額若くは有価物を委任者に返還することを要す又委任者か正当に受取ることを得す又は代

理人に受取ることを 託せさりし金額若くは有価物と雖も之を受取りたるときは亦同し然れとも次節に従ひて委任者より受取る可き金額を控除す

 代理人は自己の収 取することを怠り又は自己の過失に因りて滅失せしめたる金額若くは有価物の価額を前数条に依りて負担する損害賠償と共に前項の返還中に附

加す

242

 委任者の許諾を受 けすして其元本を自己の利益に用ゐたる代理人は其使用の日より当然利息を負担す其他損害あるときは賠償の責に任す

 計算残余の金額に 付ては代理人は其遅滞に付せられたる日より利息を負担す

243

 一箇の事件に付き 数人の代理人あるときは唯一の証書を以て之を委任したると各別の証書を以て之を委任したるとを問はす各代理人は自己の過失に付てのみ其責

に任し連帯を要約し たるとき又は過失の連合なるときに非されは其間に連帯を成さす

244

 代理人か委任者の 為め委任者の名を以て第三者と為したる行為の履行に付ては代理人は其第三者に対して責に任せす但代理人か明示にて履行の責に任し又は第

三者に対して己れの 有せさる権限を有するものの如く示したるときは此限に在らす

 

3節 委任者の義務

 

245

 委任者は代理人に 対して左の義務を負担す

  第1 代理人か代理の履行の為め支出したる立替金又は正当の費用の弁償及ひ其支出したる日以来の法律上 の利息の弁償

  第2 合意したる謝金の弁済

  第3 代理人か其管理に因り又は其管理を為すに際し自己の過失に非すして受けたる損害の賠償但予見した る損害にして其全部又は一分に付き特に謝金を諾約

する理由と為りたる ものは此限に在らす

  第4 代理人か其管理に因りて負担したる一身上の義務の解脱又は其賠償

 

246

 代理人は前条に掲 けたる支出を為すことを約せさるときは其責に任せす然れとも委任者より必要なる資金を供することを拒絶し又は遅延せしことの証拠なきに於ては

支出を約せさる為め 代理の履行を遅延することを得す

247

 謝金は代理の全部 履行ありたる後に非されは委任者之を負担せす但一分つつ弁済す可きことを諾約したるときは此限に在らす

 代理人の責に帰せ さる原因に因りて全部の履行に妨碍ありたるときは謝金は其履行の割合に応して委任者之を負担す

248

 委任者か義務を弁 済するに至るまて代理人は代理に依りて所持し且債権者と為れる原因たる物の上に留置権を有す

249

 数人か唯一の証書 又は各別の証書を以て共同事件の為め代理を委任したるときは委任者の各自は連帯して上の義務を負担す但反対の要約あるときは此限に在ら

250

 委任者は代理人か 委任に従ひ委任者の名にて約束せし第三者に対して負担したる義務の責に任す

 委任者は左の場合 に於ては代理人の権限外に為したる事柄に付ても亦其責に任す

  第1 委任者か明示又は黙示にて代理人の行為を認諾したるとき

  第2 委任者か代理人の行為に因りて利益を得たるとき但其利益の限度に従ふ

  第3 第三者か善意にして且代理人に権限ありと信する正当の理由を有したるとき

 

第四節 代理の終了

 

251

 代理の履行又は其 履行の不能及ひ代理に付したる期限の到来又は条件の成就の外尚ほ代理は左の諸件に因りて終了す

  第1 委任者の為したる廃罷

  第2 代理人の為したる抛棄

  第3 委任者又は代理人の死亡、破産、無資力若くは禁治産

  第4 委任者か代理を委任し又は代理人か之を受諾せし原因たる資格の絶止

252

 委任者のみの利益 の為めに委任せし代理の廃罷は謝金を諾約したるときと雖も委任者は何時にても随意に之を為すことを得

253

 廃罷は将来に向ひ てのみ有効なり且其廃罷前に有効に為したる事柄を害せす

254

 数人の委任者ある ときは其中の一人の為したる廃罷は他の人の代理を終了せしめす

255

 代理の廃罷は黙示 たることを得黙示の廃罷は同一の事件に付き新代理人の選任又は委任者の管理の回復其他の事情より生するものなり

256

 代理の抛棄か委任 者に損害を生せしめたるときは代理人は其賠償の責に任す但正当又は已むを得さる原因に基きたるときは此限に在らす

 代理の抛棄も亦黙 示にて之を為すことを得

257

 代理終了の原因は 委任者より出てたると代理人より出てたるとを問はす当事者か其告知を受けたるか又は確実に之を知りたるときに非されは当事者互に之を以て

対抗することを得す

 当事者の一方の死 亡したる場合に於ては其相続人より告知することを要す

258

 委任者か代理人よ り委任状を取戻したるときと雖も懈怠なしに代理の終了を知らすして代理人と約束したる第三者には代理終了の原因を以て対抗することを得す

259

 代理か上に掲けた る原因の一に由りて終了せしときは代理人又は其相続人は委任者又は其相続人か既に生したる利益を自ら処理し又は新代理人をして之を処理

せしむることを得る に至るまて其利益を処理することを要す

 此規定は代理の終 了か代理人の抛棄に因れるときは委任者の廃罷に因れるときよりも一層厳に之を適用す

 

12章 雇傭及ひ仕事請負の契約

 

1節 雇傭契約

 

260

 使用人、番頭、手 代、職工其他の雇傭人は年、月又は日を以て定めたる給料又は賃銀を受けて労務に服することを得

 雇傭は地方の慣習 に因り定まりたる時期に於て又は確定の慣習なきときは何時にても一方より予め解約申入を為すに因りて終了す但其解約申入は不利の時期に於

て之を為さす又悪意 に出てさることを要す

261

 雇傭の期間は使用 人、番頭、手代に付ては五个年職工其他の雇傭人に付ては一个年を超ゆることを得す但習業契約に関する下の規定を妨けす

 此より長き時期を 約したるに於ては当事者の一方の随意にて右の時期に之を短縮す但更新を為す権能を妨けす

262

 雇傭は時期を定め たるときと雖も当事者の一方の義務不履行に因る解除の為め又は一方より出てたる正当にして且已むを得さる原因の為め其定期前に於て終了す

 如何なる場合に於 ても主人の一身に関する雇傭は其死亡の為め当然終了す

263

 雇傭を終了せしむ る正当の原因か主人より出て且地方の慣習に従ひ雇傭の新契約を為すに困難なる季節に生したるときは裁判所は事情に従ひて定むる償金を雇

傭人に付与せしむる ことを得

264

 如何なる場合に於 ても雇傭人の死亡は契約を終了せしむ但其相続人は給料又は賃銀の取越過額を返還す

265

 上の規定は角力、 俳優、音曲師其他の芸人と座元興行者との間に取結ひたる雇傭契約に之を適用す

266

 医師、弁護士及ひ 学芸教師は雇傭人と為らす此等の者は其患者、訴訟人又は生徒に諾約したる世話を与へ又は与へ始めたる世話を継続することに付き法定の義

務なし又患者、訴訟 人又は生徒は此等の者の世話を求めて諾約を得たる後其世話を受くる責に任せす

 然れとも実際世話 を与へたるときは相互の分限と慣習及ひ合意とを酌量して其謝金又は報酬を裁判上にて要求することを得

 此等の者の世話を 受くることを諾約したる後正当の原因なくして之を受くることを拒絶したる者は其拒絶より此等の者に金銭上の損害を生せしめたるときは其賠償の

責に任す

 之に反して世話を 与ふることを諾約したる後正当の原因なくして之を拒絶したる者は因りて加へたる損害を賠償する責に任す

 

2節 習業契約

 

267

 工業人、工匠又は 商人は習業契約を以て習業者に自己の職業上の知識と実験とを伝授し習業者は其人の労務に助力するを約することを得

 未成年者は其父、 後見人其他自己に対して権力を有する人の保佐又は名代に依るに非されは習業契約を取結ふことを得す

268

 合式に保佐を受く る未成年者又は其代人の取結ひたる習業契約は其未成年の時期を超ゆることを得す但習業者か成年に達したる後其契約を更新し又は之を伸長

することを妨けす

269

 習業契約は当事者 相互の義務の性質及ひ広狭を定む

 習業契約の不備は 師匠又は親方の其職業を行ふ地方の慣習に従ひて之を補完することを得

270

 師匠又は親方は習 業者に衣食及ひ職業の器具を与へ且日常の便用を足らしむることを要す但反対の合意なく且地方の慣習の

此に異ならさるとき に限る

 師匠又は親方は習 業者に其習業契約の目的たる職業を学ふことを得せしむる為め必要なる時間を与へ世話を為し及ひ諸般の便利を図ることを要す

 未成年の習業者か 未た算筆を知らさるときは師匠又は親方は何等の反対の合意あるも習業者に算筆修習の為め休憩時間外に於て毎日少なくとも一時間を与ふるこ

とを要す

271

 習業者は其習はん と欲する職業に関し日日の時間及ひ労務を師匠又は親方に供することを要す

272

 習業者か自己又は 其親属の疾病其他不可抗の原因に由りて一个月以上引続き労務を供すること能はさるときは習業者は其成年に達したる後と雖も習業契約の期

限満了後に於て前契 約に同しき相互の条件を以て休業したる時間を補足することを要す

273

 習業契約は左の諸 件に因りて当然終了す

  第1 師匠、親方又は習業者の死亡

  第2 師匠、親方又は習業者の陸海軍の現役

  第3 師匠、親方又は習業者の重罪又は三个月を超ゆる禁錮の処刑

  第4 合意又は法律を以て定めたる期間の満了

274

 左の原因あるとき は解除の利益を得る一方の当事者の請求に因り裁判所は契約の解除を宣告することを得

  第1 相互の義務の不履行但不可抗の原因に由るときも亦同し

  第2 習業者に対する師匠又は親方の苛酷なる取扱

  第3 習業者の平常の不品行

  第4 前条に掲けたる場合の外師匠、親方又は習業者の犯罪

  第5 契約を履行す可き土地外に師匠又は親方の転居

 本条に依りて解除 の宣告を受けたる当事者の一方は自己に過失あるときは他の一方に対して尚ほ其損害を賠償す可きの言渡を受く前条に掲けたる処刑言渡の場

合に於ても亦同し

 

3節 仕事請負契約

 

275

 工技又は労力を以 てする或る仕事を其全部又は一分に付き予定代価にて為すの合意は注文者より主たる材料を供するときは仕事の請負なり若し請負人より主たる

材料と仕事とを供す るときは仕事を為す可き条件附の売買なり

276

 前条に掲けたる二 箇の場合に於て物の全部又は一分に付き既に仕事を為したる後に意外の事又は不可抗力に因りて其物の滅失せしときは材料の滅失は其材料の

属する者之を負担し 請負人は仕事賃を損失す

 当事者の一方か其 所為に因りて滅失を来たしたるか又は引渡若くは受取に付き遅滞に在るときは其一方のみ材料及ひ仕事賃に付き其滅失を負担す但損害あるとき

は其賠償の責に任す

 請負人より材料を 供したる場合に於て一分の滅失又は単一なる毀損か物に其価額の半以上を失はしむるときは之を全部の滅失と同視す又其減価か半以下に在ると

きは財産編第146条、第419条第3項及ひ第420条の規定を適用す

 注文者より材料を 供したるときは注文者は滅失又は毀損の後存在する材料の部分の増価したる限度に従ひて仕事賃を弁済する責に任す

277

 注文者より材料を 供したる場合に於ては仕事完成の後に非されは引渡を実行せさる可きときと雖も一分宛仕事を調査し且之を受取るを合意することを得

 此場合に於て注文 者か既成の仕事を調査して受取りたるとき又は之を調査することの遅滞に在るときは請負人は既成の仕事に付き其危険の責を免かる

 仕事中に注文者よ り前金又は内金を供したるも此を以て既成の仕事を受取りたりと看做さす然れとも物か注文者の明白なる受取又は其付遅滞の以前に滅失したる

ときは注文者は既成 の仕事を超ゆる部分に非されは前金又は内金を取戻すことを得す

278

 注文者か異議を留 めすして工作物を受取りたるも後日其物の使用に不適当なる隠れたる瑕疵を発見するときは注文者は其受取を取消して代価の減殺又は其一分

の返還を請求する権 利を失はす

 此権利に基きたる 訴権は注文者に属する動産又は不動産の上に施したる仕事に付ては全部の工作物を受取りたる後の三个月にて消滅す

 職工より材料を供 したる製作物に付ては第99条の規定を適用す

279

 建物、牆壁其他地 上に於ける大なる工作物を請負にて築造したるときは請負人は築造の瑕疵又は地盤の瑕疵より生したる其工作物の全部若くは一分の滅失又は重

大なる損壊の責に任 す但請負人か他人の土地に築造したると自己の土地に築造したると材料を供したると否とを区別せす

 右責任は左の時期 の間継続す

  第1 牆壁其他土工に付ては其受取後二个年

  第2 木造の建物に付ては三个年

  第3 石又は煉瓦の建物及ひ土蔵に付ては十个年

280

 右の責任に基きた る賠償訴権は左の時期を以て時効に罹る

  第1 物の全部の滅失の場合に於ては其滅失の時より一个年

  第2 物の一分の滅失又は重大の毀損の場合に於ては請負人の責に任す可き期間の満了の時より六个月

281

 経画の変更より代 価の増減を生す可きも書面を以て之を定めさるときは其変更を口実として請負人は原代価の増加を請求し注文者は其減少を請求することを得す

 請負中に包含した る建築と全く別なる建築を為し又は請負中の区分ある建築を廃せしときは此規定を適用せす此場合に於て当事者の間に一致を得さるときは裁判

所原代価の増減を定 む

 請負人は経画又は 其変更か注文者の指図に出てたることを口実として第279条に定めたる責任を免かるることを得す但請負人か書面を以て此責任を免かるることを

得たるときは此限に 在らす

282

 請負人か仕事のみ を供すると材料を併せ供するとを問はす注文者は常に自己の意思のみを以て契約を解除することを得然れとも注文者は請負人の既成の仕事の

賃銀及ひ準備の材料 に受けたる損失其他の損害を賠償し且其契約に因りて得へき正当なる利益の全部を弁済する義務を負担す

 

283

 他人の材料を以て 仕事の金部に供したると一分に供したると又其仕事を実行したると契約を解除したるとを問はす請負人は仕事の為め又は解除の賠償の為め自己

の受く可き金額の皆 済に至るまて其材料を留置することを得但此留置権は動産物のみに之を適用す

284

 注文者か請負人其 者の仕事を主眼として契約を取結ひたるときは其契約は請負人の死亡又は其仕事の不能に因りて之を解除することを得

 右二箇の場合に於 て注文者は自己の期望せし目途に付き利したる仕事又は材料の価額のみを請負人又は其相続人に弁済する責に任す

285

 仕事の一分に任し たる下請負人と請負人との関係に付ては上の規定に従ふ

 請負人か下請負人 に対し負担する金額を弁済せさるときは下請負人は自己の名を以て直接に注文者に対し其注文者の猶ほ請負人に弁済す可き債務の限度に於て

訴を起すことを得

 職工も亦己れを雇 ひたる者か賃銀を弁済せさるときは注文者に対して右と同一の権利を有す

13章 相続

 

総則

 

286条 相続に二種あり家督相続及ひ遺産相続是なり

 

1節 家督相続

 

287

 家督相続とは戸主 の死亡又は隠居に因る相続を謂ふ

1款 家督相続の通則

288

 家督相続を為すは 一家一人に限る

 何人と雖も二家以 上の家督相続を為すことを得す

289

 婚姻又は養子縁組 に因り他家に入りて其家に在る者は実家其他の家の家督相続を為すことを得す

290

 一人にして数家の 家督相続人に指定せられ又は選定せられたる者は其中の一を選択することを得

291

 推定家督相続人は 他家の家督相続人に指定せられ又は選定せられたるも其指定又は選定は無効とす

 

292

 被相続人を死に致 し又は死に致さんとしたる為め刑に処せられたる者は相続より除斥せらる但過失に因るものは此限に在らす

293

 相続除斥の訴権は 被相続人の明示の宥免に因りて消滅す

294

 家督相続人は姓 氏、系統、貴号及ひ一切の財産を相続して戸主と為る

 系譜、世襲財産、 祭具、墓地、商号及ひ商標は家督相続の特権を組成す

 

2款 家督相続人の順位

 

295

 法律に於て家督相 続人と為る可き者の順位を定むること左の如し

  第1 被相続人の家族たる卑属親中親等の最も近き者

  第2 卑属親中同親等の男子と女子と有るときは男子

  第3 男子数人あるときは其先に生まれたる者但嫡出子と庶子又は私生子と有るときは嫡出子

  第4 女子のみ数人あるときは其先に生まれたる者但嫡出子と庶子又は私生子と有るときは嫡出子

 然れとも右の親定 に従ひて家督相続人たる可き者か被相続人に先たちて死亡し又は第297条に掲けたる原因に由りて廃除せられたる場合に於て其者に卑属親ある

ときは其卑属親は法 定の順位に依りて家督相続人と為る

296

 被相続人は正当の 原因あるに非されは法定の推定家督相続人を廃除することを得す

297

 法定の推定家督相 続人を廃除することを得へき正当の原因は左の如し

  第1 失踪の宣言

  第2 民事上禁治産及ひ准禁治産

  第3 重禁錮一年以上の処刑

  第4 家政を執るに堪へさる不治の疾病

  第5 祖父母、父母に対する罪の処刑

  第6 重罪に因れる処刑

298

 推定家督相続人の 廃除は遺言書を以て之を為し又は身分取扱吏に申述して之を為すことを得

 申述に基く家督相 続人の廃除は被相続人之を取消すことを得

 廃除の取消は身分 取扱吏に申述して之を為す

299

 法定の家督相続人 あるときは被相続人は家督相続人を指定することを得す但此規定に違ひたる指定と雖も被相続人の死亡の日に法定の家督相続人あらさるときは

有効とす

300

 家督相続人の指定 は遺言書を以て之を為す可し

301

 法定又は指定の家 督相続人あらさる場合に於て其家に死亡者の父あるときは父、父あらさるときは母は左の順序に従ひ家族中より家督相続人を選定す

  第1 兄弟

  第2 姉妹

  第3 兄弟姉妹の卑属親中親等の最も近き男子若し男子あらす又は抛棄したるときは女子

302

 前条の場合に於て 父母あらさるときは家督相続人選定の権利は親族会に属す但親族会は前条に定めたる選定の順序を変更することを得す

303

 第301条の規定に従ひ選定す可き家督相続人あらさるとき又は皆抛棄したるときは其家に在る尊属親中親等の 最も近き者任意に家督相続を為すことを得

304

 前条の家督相続人 あらさるときは配偶者家督相続を為すことを得

305

 親族会は前数条に 記載したる相続人あらさるとき又は皆抛棄したるときに非されは他人を選定することを得す

 

3款 隠居家督相続の特別規則

 

306

 隠居を為すには左 の条件の具備することを要す

  第1 満六十年以上なること

  第2 任意に出たること

  第3 成年にして且実際家政を執るの能力ある家督相続人か単純の受諾を為したること

  第4 配偶者の承諾したること

307

 隠居者か重病其他 の原因の為めに実際家政を執る能はさるとき又は分家の戸主か本家を承継するの必要あるときは本人の申立に因り区裁判所は年齢の条件を宥

恕することを得

308

 隠居者の配偶者、 親族及ひ検事は左の原因の一に基き隠居届出の日より六十日内に故障を申立つることを得

  第1 第306条第1号乃至第3号の条件に違ひたる事実

  第2 家督相続を為す者か推定家督相続人に非さる事実

 又隠居か任意に出 てさりし場合に於ては隠居者も亦故障を申立つることを得

309

 隠居か第306条第4号の条件に違ひたる事実あるときは隠居者の配偶者に限り故障を申立つることを得

 又隠居者か債権者 を詐害するの意思を以て隠居を為さんとするときは債権者は故障を申立つることを得

 前条の期間は本条 にも亦之を適用す

310

 隠居を為すときは 当事者より其旨を身分取扱吏に届出つ可し

 

311

 隠居家督相続は届 出前の利害関係人に対しては第308条に定めたる期間満 限の日より又故障ありたるときは其故障の棄却確定したる日より死亡に因る相続と同一

の効力を生す但隠居 者の終身を限度とする権利及ひ義務を消滅せしめす

 

2節 遺産相続

 

312

 遺産相続とは家族 の死亡に因る相続を謂ふ

313

 家族の遺産は其家 族と家を同ふする卑属親之を相続し卑属親なきときは配偶者之を相続し配偶者なきときは戸主之を相続す

314

 卑属親か遺産を相 続する場合に於ては第295条の規定を適用す

 

3節 国に属する相続

 

315

 相続人あらさる財 産は当然国に属す

 国は限定の受諾を 以て相続す

316

 国に属す可き相続 財産は其領収を為すに至るまて相続人曠欠の財産を管理する如く之を管理す

 

4節 相続の受諾及ひ抛棄

 

317

 相続人は相続に付 き単純若しくは限定の受諾を為し又は抛棄を為すことを得但法定家督相続人は抛棄を為すことを得す又隠居家督相続人は限定の受諾を為すこと

を得す

318

 隠居家督相続を除 く外相続人は相続財産を調査する為め相続の日より三个月の期間を有す但裁判所は情況に因り更に三个月内の延期を許すことを得

 受諾又は抛棄を決 定する為一个月の期間を有す此期間は調査期間満限の日又は其前に実際の調査を終了したる日より之を算す

319

 相続人は調査又は 決定の期間内相続財産に関する一切の訴訟手続を停止せしむることを得

320

 相続財産に関する 訴訟に要せし費用は法律上の期間内に係るものと裁判所の許したる延期内に係るものとを問はす総て相続財産の負担とす但相続人の所為又は

過失に因りて要せし 費用は此限に在らす

321

 相続財産中に損敗 し易く又は保存するに著しき費用を要する物品あるときは調査又は決定の期間内と雖も区裁判所の許可を得て其物品を競買に付することを得但

日用品は裁判所の許 可を経すして之を処分することを得

 

1款 単純の受諾

 

322

 相続人か被相続人 の財産に関し明示又黙示にて其代表者と為るの意思を顕はすときは単純の受諾とす

323

 左の如き場合に於 ては黙示の受諾ありとす

  第1 相続財産の一箇又は数箇に付き他人の為めに所有権を譲渡し又は其他の物権を設定したるとき但財産 編第119条以下の制限に従ひ たる賃借権の設定は此

限に在らす

  第2 相続人か第318条の期間内に限定受諾又は抛棄を為ささるとき

 右の外尚ほ第327条第2号の場合は単純の受諾を成す

324

 受諾は左の原因の 一あるに非されは之を鎖除することを得す

  第1 身体又は財産に強暴を加へられたるに因りて受諾したるとき

  第2 詐欺の為めに受諾したるとき

  第3 無能力者又は後見人か方式に違ひて受諾したるとき

  第4 受諾の時成立せることを知らさる債務の為め破産又は無資力と為るに至る可きとき

 此鎖除訴権は財産 編第544条以下に規定したる 鎖除訴権の期間及ひ条件に従ふ

 

2款 限定の受諾

 

325

 相続人か相続財産 の限度まてに非されは債務の弁償の責に任せさるときは限定の受諾とす

326

 相続人にして限定 の受諾を為すの意思を有する者は第318条の期間内に調査 したる財産の目録を相続地の区裁判所に差出たし其申述を為し裁判所は別段に備へ

たる帳簿に之を記載 す可し

327

 左の場合に於ては 相続人は限定受諾を為すの権利を失ふ

  第1 単純の受諾を為したるとき

  第2 相続財産を私取し若くは隠匿し又は悪意を以て財産目録中に相続財産の幾分を記載せさりしとき

328

 限定受諾者は其特 有財産に於けると同一の注意を以て相続財産を管理し債権者及ひ受遺者に其計算を為す可し但此計算は債務及ひ遺贈の弁済の為め相続財産

を払尽したる後一个 月内に之を完了することを要す

329

 限定受諾者は動産 と不動産とを問はす総て相続財産の売却を要するときは区裁判所の許可を得て之を競売に付す可し

330

 限定受諾者は適法 に売却したる財産の各箇に付て得たる代価を混同せす其各箇に付て優先権を有する債権者に順次に弁済す可し

331

 相続の負担する債 務又は遺贈の弁済を差押へ又は其弁済に付き異議を述ふる債権者又は受遺者あるときは限定受諾者は裁判を以て定めたる順次及ひ方法に従

ふに非されは其弁済 を為すことを得す

332

 前条の差押又は異 議あらさるときは債権者又は受遺者の要求に従ひて弁済を為す

 弁済の為めに相続 財産を払尽したる後と雖も第328条に規定したる計算 を完了せさる前に要求を為す債権者又は受遺者は左の区別に従ひ既に弁済を得たる債権者

及ひ受遺者に対して 求償権を行ふことを得

  第1 債権者は先つ受遺者に対し次に債権者に対すること

  第2 受遺者は単に受遺者に対すること

333

 相続人か計算の完 了を遅延したる場合に於ては債権者中未た弁済を得さる者より既に弁済を得たる受遺者及ひ債権者に求償することを得へき額を直ちに相続人の

特有財産に付き求償 することを得

334

 相続財産を払尽し 計算を完了したる後に要求を為す債権者は単に弁済を得たる受遺者に対するに非されは求債権を行ふことを得す

335

 前3条の求償権は三个年間之を行ふことを得但此期間は計算の完了前に係るときは初め相続人に要求したる 日又完了後に係るときは其完了の日より之を算す

 

3款 抛棄

 

336

 相続を抛棄せんと する相続人は相続地の区裁判所に其旨を申述し裁判所は別段に備へたる帳簿に之を記載す可し

337

 抛棄したる相続は 他に受諾したる相続人あらさる間は抛棄者更に之を受諾することを得然れとも此受諾は第318条の期間内に非されは之を為すことを得す但相続財

産に付き第三者の有 効に得たる権利を害すること無し

338

 相続を抛棄したる 者は他に受諾したる相続人ありと雖も左の場合に於ては其抛棄を鎖除することを得

  第1 身体又は財産に強暴を加へられたるに因りて抛棄したるとき

  第2 詐欺の為めに抛棄したるとき

  第3 無能力者又は後見人か方式に違ひて抛棄したるとき

 此鎖除訴権は財産 編第544条以下に規定したる 期間及ひ条件に従ふ

339

 債権者を詐害する 意思に出てたる抛棄は財産編第341条以下に定めたる区 別及ひ期間に従ひ債権者自己の利益の為め之を廃罷することを得

340

 適法に受諾し又は 受諾者と推定せられたる者は抛棄を為すことを得す

341

 相続に包含する物 を私取し又は隠匿したる相続人は其相続を抛棄する権利を失ふ

 

4款 相続人の曠欠せる相続財産の処分

 

342

 相続人現出せす相 続人の有無分明ならす又は相続人相続を抛棄したるときは相続人の曠欠せるものと看做す

343

 相続地の区裁判所 は利害関係人又は検事の請求に因りて相続財産の管理人を命す可し

344

 管理人は利害関係 人を召喚して相続財産を調査し其目録を作り財産の形状を検証せしむ可し

 管理人は此手続を 終了したる後相続に属する権利を行使し之を訟求し又其相続に対する訟求に答弁す可し

 金銭は相続財産中 に存するものと其売却より得たるものとを問はす供託所に之を供託す可し

 相続の負担する債 務は区裁判所の許可を得るに非されは之を弁済することを得す

345

 限定受諾者の義務 及ひ責任に関し第328条以下に定めたる規 則は管理人に之を適用す

346

 管理人は計算を完 了して尚ほ相続財産の存するに於ては区裁判所の許可を得て之を競売に付し其得たる金額を供託所に供託す可し

 管理人は其領収証 を区裁判所に差出たし区裁判所は之を保存す可し

347

 相続人現出すると きは其相続人は区裁判所より供託所の領収証及ひ相続人たる身分の証明書を得て之を供託所に提出し供託金額を領収す可し

348

 相続人あらさるこ と確実に至りたるときは国は特別法に従ひ供託金額を領収す可し

 

14章 贈与及ひ遺贈

 

総則

 

349

 贈与とは当事者の 一方か無償にて他の一方に自己の財産を移転する要式の合意を謂ふ

350

 贈与は単純、有期 又は条件附なること有り

 贈与は法律の認め たる原因あるに非されは之を廃罷することを得す

351

 贈与者は贈与物の 妨碍及ひ追奪を担保せす但其贈与以後に係る贈与者の所為より生したる妨碍及ひ追奪は此限に在らす

352

 遺贈とは当事者の 一方か他の一方に無償にて自己の財産を遺言に因りて死亡の時に移転する行為を謂ふ

 遺贈は遺言者随意 に之を廃罷することを得

353

 遺言書中に存する 不能又は不法の条件は之を記せさるものと看做す

 贈与書中に不能又 は不法の条件あるときは其贈与を無効と為す

 

1節 贈与又は遺贈を為し又は収受する能力

 

354

 法律上特に無能力 者と定めたる者を除く外何人に限らす贈与及ひ遺贈を為し又は収受する能力を有す

355

 左に掲くる者は贈 与を為す能力を有せす

  第1 贈与を為す時に於て喪心したる者

  第2 禁治産者

  第3 瘋癲の為め病院又は監置に在る者

  第4 未成年者但夫婦財産契約の為め法律の特に許す場合は例外とす

356

 准禁治産者は財産 譲渡の為め法律の要する方式に従ふに非されは贈与を為すことを得す

357

 左に掲くる者は遺 贈を為す能力を有せす

  第1 遺贈を為す時に於て喪心したる者

  第2 民事上の禁治産者

  第3 瘋癲の為め病院又は監置二在る者

  第4 未成年者但自治産者は此限に在らす

 

2節 贈与

 

1款 贈与の方式

 

358

 贈与は分家の為め にするものと其他の原因の為めにするものとを問はす普通の合意の成立に必要なる条件を具備する外尚ほ公正証書を以てするに非されは成立

せす

 然れとも慣習の贈 物及ひ単一の手渡に成る贈与に付ては此方式を要せす

359

 贈与は贈与者の現 有の財産のみを包含す若し将来の財産を包含したるときは其財産に付ては贈与は無効とす

 然れとも数額の定 まりたる金銭又は定量物の贈与は贈与者の現有すると否とを問はす有効とす

360

 贈与の性質又は諾 約に因りて受贈者か贈与者の債務を弁済する義務を負ひたるときは其義務は贈与の時既に存在したる債務に非されは包含せす

 受贈者か贈与者の 将来の債務を弁済す可きの諾約を為したるときは其諾約は無効とす

361

 贈与者は自己の利 益に於てするに非されは自己に先たちて受贈者の死亡するとき其贈与を解除す可き条件を要約することを得す

 若し贈与者か其相 続人又は第三者の利益に於て此解除条件を要約したるときは其条件は無効とす

362

 前条第1項の規定に従ひて有効に要約したる解除条件の成就は受贈者の相続人に対すると第三者に対するとを問 はす普通の合意に於て要約したる解除条件と同一

の効力を生す

 然れとも受贈者の 婦は解除に拘はらす左の二箇の条件具備するときは贈与財産に付き法律上の抵当権を保有す

  第1 贈与か夫婦財産契約を以て夫の為め為されたるものなるとき

  第2 贈与財産の外なる夫の財産を以て婦の特有財産の返還を担保するに足らさるとき

 

2款 贈与の廃罷

 

363

 贈与は合意を無効 と為す普通の原因の外尚ほ贈与者の要約したる条件の不履行の為め之を廃罷することを得

364

 条件の不履行に基 く贈与の廃罷は贈与者又は其承継人より之を請求することを得

365

 条件の不履行に基 き贈与を廃罷したる場合に於ては受贈者に対すると第三者に対するとを問はす未必条件の成就に因りて合意を解除したるときと同一の効力を生

 

3節 夫婦間の贈与の特例

 

366

 未成年の夫又は婦 は婚姻の許諾を与ふ可き人の許諾及ひ立会を得且夫婦財産契約を以てするに非されは贈与を為すことを得す

367

 夫婦間の贈与は何 等の約款あるに拘はらす婚姻中贈与者随意に之を廃罷することを得

 贈与の廃罷は第三 者に対して効力を有せす但贈与の登記に廃罷の訴状を附記したる後に受贈者の遺産所持者より贈与財産に付き物権を取得したる第三者に対し

ては此限に在らす

 

4節 遺贈

 

1款 遺言の方式

 

368

 遺言は遺言者の自 筆の証書、公正証書又は秘密の方式に依りて之を為すことを得

 然れとも二人以上 の人は一箇の証書を以て遺言を為すことを得す

369

 自筆の遺言書は遺 言者か其全文、日附及ひ氏名を自書して捺印したるに非されは其効を有せす

370

 公正証書に依る遺 言は公証人一人及ひ証人二人の前に於て遺言者か遺言の旨趣を口授し公証人之を筆記し朗読したる後遺言者及ひ証人各其氏名を自書して捺印

したるに非されは其 効を有せす

 然れとも氏名を自 書する能はさる者あるときは其事由を証書に記載するを以て足る

371

 秘密の方式に依る 遺言書は遺言者の自書したると他人の之を書したるとを問はす左の諸件を具備するに非されは其効を有せす

  第1 遺言者か氏名を自書して捺印したること

  第2 遺言書を封して遺言者か之に封印したること

  第3 遺言者か公証人一人及ひ証人二人の前に封書を提出して自己の遺言書たる旨を陳述したること

  第4 公証人か遺言者の陳述と之を聴きたる日附とを封紙に記して遺言者及ひ証人と共に各其氏名を自書し て捺印したること但此場合に於て氏名を自書する能は

さる証人あるときは 公証人其事由を封紙に記するを以て足る

 公証人は遺言者の 死亡の後其相続人の立会の上に非されは開封せさる旨を記したる領収書を遺言者又は其指定したる証人中の一人に授付す可し

372

 秘密の方式に依る 遺言として有効なる為め前条に定めたる条件に欠くるもの有りと雖も其全文、日附及ひ氏名共に遺言者の自書に係るときは自筆の遺言書として有

効とす

373

 受遺者、遺言に立 会ふ公証人の筆生其他普通の無能力者は証人と為ることを得す

 

2款 遺言の特別方式

 

374

 軍人及ひ軍属にし て遠征中に在る者又は内地と雖も交戦中若くは合囲中に在る者は将校一人証人二人の補助を以て遺言書を作ることを得

375

 遠征中、交戦中又 は合囲中に在る軍人及ひ軍属にして疾病又は傷痍の為め病院に在る者は其院の医官及ひ事務官の補助を以て遺言書を作ることを得

376

 伝染病の為め行政 処分を以て交通を遮断したる地方に在る者は其疾病中なると否とを問はす警察官一人及ひ証人一人の補助を以て遺言書を作ることを得

377

 航海中に在る者は 軍艦に在ては将校一人其他の船舶に在ては事務員一人及ひ証人二人の補助を以て遺言書を作ることを得

378

 海上にて遺言書を 作りたるときは其旨を航海日誌に記載す可し

379

 本款の規定に従ひ て作りたる遺言書には遺言者、代書者及ひ立会人各其氏名を自書して捺印す可し

 氏名を自書し又は 捺印する能はさる者あるときは其事由を遺言書に記載するを以て足る

380

 外国に在る日本人 は第369条に定めたる自筆の 方式に依り又は其地に用ゆる公正の方式に従ひて遺言を為すことを得

381

 外国に於て作りた る遺言書は遺言者の日本国内に有する住所の区裁判所の帳簿に之を登録し若し住所の知れさるときは最終居所の区裁判所の帳簿に之を登録し

たる後に非されは日 本国内に在る財産に付き其遺言を執行することを得す

 又其遺言書に日本 国内に在る不動産の処分を包含するときは其不動産所在地の区裁判所に登記を求めたる後に非されは第三者に対抗することを得す

382

 日本に在る外国人 は日本の法律に従ひ又は其本国の法律に従ひて遺言を為すことを得

 

3款 遺贈を為すことを得る財産の部分

 

383

 遺贈を為すことを 得る財産と相続人に貯存す可き財産との部分を定むるには家督相続の特権を組成するものを控除す

384

 法定家督相続人あ るときは被相続人は相続財産の半額まてに非されは他人の為め遺贈を為すことを得す

 家族の遺産を相続 する卑属親あるときも亦同し

385

 用益権の如き其存 立時間の不確実なる権利は相続の時に於ける価額を査定して遺贈を為すことを得る部分を定む

 其権利の価額か遺 贈を為すことを得る部分を超過するときは相続人は或は被相続人の遺贈を履行し或は遺贈を為すことを得る部分の完全なる所有権を与へて其権

利を受戻すことを得

386

 遺贈を為すことを 得る部分を超過する遺贈は之を其部分まてに減殺す

387

 減殺す可き分量は 相続の時に現存する総ての財産の評価額より被相続人の債務額を控除したる剰余額に付き之を算定す

388

 遺贈の幾分を減殺 して貯存す可き財産の分量を組成す可きときは包括の遺贈と特定の遺贈とを問はす其価額の割合を以て総ての遺贈を減殺す可し

389

 総て贈与にして贈 与者の死亡の後執行す可きものは遺贈と其効力を同ふす

 

4款 遺言の効力及ひ執行

 

390

 単純又は有期の遺 贈は遺言者の死亡の時より受遺者の知ると否とを問はす包括の遺贈に付ては其包含する財産及ひ債務を受遺者に移転し特定の遺贈に付ては其

遺贈物の権利を受遺 者に移転す然れとも有期の遺贈は満期に至るまて其執行を止む

 停止又は解除の条 件附に於ける遺贈の効力は合意の事項に関して規定したる如く其条件の成就如何に従ふ

 遺贈の目的物か代 替物なるときは其所有権は財産編第332条の規定に従ひて 移転す

 如何なる場合に於 ても受遺者は遺贈を抛棄することを得

391

 遺言者か不分の権 利を有する物を遺贈したるときは受遺者は遺言者と同一なる権利を取得す

392

 受遺者は遺贈物の 引渡を要求したる時より後に非されは遺贈物の果実を収受する権利を有せす但期限の到来し又は未必条件の成就したることを要す

 然れとも左の三箇 の場合に於ては受遺者は遺言者の死亡、満期又は条件成就の時より要求を待たすして直ちに果実を収受する権利を有す

  第1 遺言者か果実を収受する権利を明示したるとき

  第2 遺贈か養料の性質を有するとき

  第3 相続人か悪意を以て遺言を隠祕したるとき

393

 遺贈物は其遺贈の 単盾疂るときは当然の附従物と共に遺言者の死亡の時に於ける現状にて之を引渡す可し其遺贈の有期又は未必条件附なるときは引渡を請求す

ることを得へき時に 於ける現状にて之を引渡す可し

 相続人か遺贈物に 加へたる改良又は毀損は相続人と受遺者との間相互に賠償を請求する権利を生す

 解除の未必条件を 以て遺贈を為したる場合に於て其条件の成就したるときは受遺者又は其相続人より遺贈物を現状にて返還す可し但人為に因る改良又は毀損に

付き双方の間に於け る相互の賠償を妨けす

394

 遺言者か遺言の後 に取得したる土地又は建物は遺贈の不動産に接著し又は其不動産の利用を改良する為めに供へたるものと雖も其不動産の受遺者を利せす

395

 遺言書は公正証書 を除く外相続地の区裁判所の検認を得たる後に非されは之を執行することを得す

 封印ある遺言書は 区裁判所に於てするに非されは開封することを得す

 前2項の規定に違ふ者は百円以下の過料に処す

396

 遺言の執行及ひ遺 贈物の引渡に関する費用は相続財産の負担とす但貯存財産に負担せしむることを得す

397

 不動産物権の遺贈 は遺言者の死亡の後受遺者か其遺贈を知りたる時より三十日内に之を登記したるに非されは遺言者の死亡の日に遡りて第三者に対抗すること

を得す

 登記の費用は受遺 者の負担とす

398

 遺言者は合意又は 遺言を以て遺贈の執行を一人又は数人に委託することを得

 遺言執行者は代理 人の普通義務に服す

 

5款 遺言の廃罷及ひ失効

 

399

 遺言は遺言者随意 に之を廃罷することを得廃罷は明示又は黙示を以て之を為すことを得

400

 遺言者か遺言の方 式に従ひ遺言の全部又は一分を廃罷する意思を証書に記載したるときは其廃罷は明示のものとす

401

 後の遺言を以て前 の遺言に包含する特定物を処分したるときは其物に付ては前の遺言を黙示にて廃罷したるものとす

 遺言者か生存中遺 言に包含する特定物を有償又は無償にて処分したるときも亦同し

402

 廃罷に帰したる遺 言は前条の処分の無効と為るときと雖も有効に復せす

403

 遺言は受遺者の条 件不履行の為め又は遺言者を死に致したる原因の為め相続人より廃龍を請求することを得

404

 遺言は方式上完全 のものと雖も左の場合に於ては其効を失ふ

  第1 受遺者か遺言者より先に死亡したるとき

  第2 停止条件附の遺言に付き其条件の成就前に受遺者の死亡したるとき

405

 廃罷又は失効に帰 したる遺言の部分に付ては曾て遺言あらさりしものと看做す但遺言者か明示を以て其部分を利得す可き者を指定したるときは此限に在らす

 

5節 包括の贈与又は遺贈に基く不分財産の分割

 

406

 包括の贈与又は遺 贈を為したるに因り贈与者又は相続人と受贈者又は受遺者との間に不分財産を生したるときは下の規定に従ひ之を分割す受贈者又は受遺者数

人あるときも亦同し

 

1款 分割

 

407

 不分財産の所有者 の各自は其財産の分割を要求することを得但財産編第39条の規定に従ひて分割せさることを約したるときは此限に在らす

408

 分割は明示を以て 之を為すことを要す財産を区別して収益する事実は分割とせす

409

 不分財産の分割は 所有者各自の合意を以て自由に之を為すことを得

 然れとも左の場合 に於ては裁判を以てするに非されは其分割を為すことを得す

  第1 所有者中に未成年者、禁治産者又は瘋癲者ありて其後見人又は仮管理人あらさるとき

  第2 所有者中に不在者ありて有効に分割を承諾する権限を有する合意上の代理人あらさるとき

  第3 所有者中に合意上の分割を承諾せさる者あるとき

410

 裁判上の分割を要 するときは相続地の区裁判所は相続人、債権者又は検事の請求に因り封印を為し及ひ目録を作らしむ可し

411

 裁判上の分割を要 せさるときと雖も債権者は区裁判所の許可を得て封印及ひ目録調製を請求することを得但執行力ある証書を有するときは此許可を要せす

 封印の除去に付て は総ての債権者異議を述ふることを得

412

 所有者の各自は不 分財産の現物にて其部分の引渡を要求することを得但債権者其引渡を差押へたるとき又は所有者の多数を以て其財産の負担する債務及ひ費用

を予め弁済する為め 売却を必要と決したるときは此限に在らす

413

 未成年者、禁治産 者、瘋癲者又は不在者の為め定めたる規則に違へる分割は其者の利益に於てのみ仮定のものとす

414

 分割の際利益の相 反する無能力者又は不在者の数人あるときは其各自の為め臨時保佐人又は管理人を指定す可し

415

 分割の結了したる ときは各所有者は其領収したる物の証書を保有す

 所有者の総体又は 数人に分割したる一箇の物の証書は其最大の部分を領収したる者之を保有す

 最大の部分を領収 したる者なきときは各所有者の協議を以て其保有者を定む若し議協はさるときは裁判所之を指定す

 何れの場合に於て も証書の保有者は他の所有者の求めに応して之を便用せしむ可し

416

 所有者は各自に受 くる部分の割合を以て債務を分担す

 

2款 分割の効力及ひ担保

 

417

 分割の効力に付て は第155条の規定を適用す

418

 各所有者は分割前 の原因に基く分割物の妨碍及ひ追奪に付き互に担保の責に任す但別段の合意を以て担保を免除したるときは此限に在らす

419

 債権に付ては分割 の当時に於ける債務者の資力の限度まてに非されは各所有者担保の責に任せす

 

3款 分割の鎖除

 

420

 分割は財産編第304条以下に定めたる区別に従ひ不成立又は無効たる外尚ほ所有者の一人か其領収したる部分に付き四分一 以上の欠損を被ふりたるときは其欠

損の為め之を鎖除す ることを得

 欠損の査定は分割 の時に於ける物の価格に従ひて之を為す可し

 421

 分割鎖除の訴権は 財産編第544条以下に定めたる時 効及ひ認諾に因りて消滅す

 

15章 夫婦財産契約

 

1節 総則

 

422

 夫婦財産契約は婚 姻の儀式前に之を為し及ひ公証人をして其証書を作らしむるに非されは成立せす

 婚姻の儀式後は契約を変更することを得す

423

 婚姻を為すことを 得る未成年者は婚姻の許諾を与ふ可き尊属親又は後見人の立会にて財産契約を為すことを得

424

 財産契約を為さす して婚姻を為したるときは財産の関係は法定の制に従ふ

425

 日本に於て財産契 約を為さすして婚姻を為したる外国人は夫たる者の本国に行はるる普通の制に従ひたるものと看做す

 

2節 法定の制

 

426

 婦又は入夫か婚姻 の儀式の時に於て現に所有し又は将来に所有す可き特有財産より婚姻中に生する果実及ひ自己の労力に因りて婚姻中に得たる所得は婚姻中

の費用分担の為めに 之を配偶者に供出したるものと看做す

427

 夫又は戸主たる婦 か配偶者の特有財産に付て有する権利は用益者の権利に同し又配偶者の特有財産に関して収益を為す夫又は戸主たる婦は用益者の負担する

修繕其他収益を以て 弁済す可き義務を負ふ

428

 夫は婦の特有財産 入夫は戸主たる婦の財産を管理す

 429

 夫又は入夫は婦又 は戸主たる婦の承諾を得るに非されは婦の特有財産又は戸主たる婦の財産を譲渡し又は之を担保に供することを得す但人事編第229条及ひ第

275条の場合は此限に在らす

430

 入夫は戸主たる婦 の承諾を得るに非されは婚姻中の所得を譲渡し又は之を担保に供することを得す但其特有財産より生する果実及ひ自己の労力に因りて得たる所

得は此限に在らす

431

 夫か婦の特有財産 に付き入夫か戸主たる婦の財産に付き其承諾を得すして為す賃貸借に関しては財産編第119条以下の規定を適用す

432

 管理の失当に因り 夫又は入夫か婦の特有財産又は戸主たる婦の財産を危険に置くときは婦又は戸主たる婦は自ら其財産を管理せんと請求することを得

433

 婦又は入夫か婚姻 の儀式の時に於て負へる債務及ひ婚姻中に生する債務に付ては債権者は婦又は入夫の特有財産に対して権利を行ふことを得

434

 婦の名を以て生せ しめたる債務に付ては債権者は其債務か家事管理の為めに生したることを証するときに限り夫に対して其弁済を請求することを得

 入夫の名を以て生 せしめたる債務に付ては債権者は其債務の財産管理の為めに生したることを証するときに限り戸主たる婦に対して其弁済を請求することを得

435

 婦又は入夫の特有 財産たることを証せさる財産は総て夫又は戸主たる婦に属するものと看做す

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